起きたら金髪碧眼の美少女聖女だったので、似たような奴らと共同生活始めました   作:緑茶わいん

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聖女、席替えに参加する

「どうですか、瑠璃さん。初めての通学路は?」

「そうですね……。なんというか、女子校に潜入した気分です」

 

 入学式翌日の朝。

 初めてとなる登校中、瑠璃はどこかそわそわしていた。転校初日と思えば許容範囲内ではあるものの、顔立ちが整っているのもあって少し目立っている。まあ、一緒にいるのが金髪、銀髪、紅髪の時点で誤差かもしれないが。

 瑠璃の緊張の仕方は俺とは少し違うようで、自分の格好が気になるというよりは周りの環境が物珍しいといった感じだ。

 そんな少女の呟きを朱華が拾って「わかる」と頷く。

 

「あの手の作品って独特の味があるわよね。主人公の立ち絵を表示しても文句が出ないところとか」

「そうですね。正直、少し憧れるとこはありました」

「……女子校に通う手段が女装っていうあたりが瑠璃ちゃんだよねー」

「そうですね。元から美形じゃないとできないでしょうし」

 

 仮にイケメンだったとしても身長や筋肉の問題もある。

 

「シルビアさんは初めての登校日、どうでしたか?」

「あー、うん。逆に異世界過ぎて落ち着いてたかな。郷に入っては郷に従えって言うし」

「なるほど」

 

 男ばかりと女ばかり。異なる性がいないという意味では一緒だが、その実情はまるきり違う。逆にまるきり違った方が良い時もあるとはなかなか深い話だ。

 と。

 

「おはよー、アリス」

「あ。おはようございます、小桃さん」

 

 学校の近くまでさしかかったところで、新しく友人となったスタイルの良いクラスメート──鴨間(おうま)小桃(こもも)が声をかけてきた。屈託なく笑顔を浮かべる彼女にこちらも微笑みを返す。

 すると、少女の人懐っこさは朱華たちの方にも向けられて、

 

「他の人達は、友達?」

「はい。私、シェアハウスで暮らしてるんです。だから友達でもあり、家族でもある……ような感じです」

「へー。そうなんだ。なんか楽しそうかも」

 

 それから小桃は朱華たちにも挨拶を始めた。

 

「鴨間小桃です。良かったらお友達になってくれると嬉しいです」

「……会っていきなり友達とか大胆ね」

 

 接近された朱華は複雑そうな表情で目を細める。何か警戒しているのだろうか。遠方から来たらしいし、単に友達がたくさん欲しいだけだと思うのだが。

 シルビアは特に何の屈託もないようで「鴨間さんかー。スタイルいいんだねー」と口にして「えっと、先輩ですよね? 先輩の方が綺麗だと思います」と返されている。

 

「アリスちゃん、アリスちゃん。この子すごくいい子じゃない?」

「シルビアさんって美人に勧誘されたら簡単に騙されそうですよね……?」

「アリスちゃんに言われるのはちょっとショックなんだけど!?」

「あんたたちねえ……」

 

 俺たちのやり取りを聞いた朱華が苦笑を浮かべ、小桃がくすくすと笑う。

 そんな中、瑠璃は少女の姿をじっと見つめていて、

 

「瑠璃さん?」

「っ。は、はい。なんでしょう、アリス先輩?」

「瑠璃ちゃんっていうんだ? アリスちゃんの後輩なら、私とも仲良くしてくれる?」

「……はい。お友達になるのは構いません」

 

 どこか硬い表情のままだったものの、瑠璃も小桃が指をさしだすと指切りを交わした。さらに朱華とシルビアも同じように。

 

「一人ずつ指切りって……なに、なんかの儀式なわけ?」

「そうそう。黒魔術のね……って、そんなわけないよ。ただの気分っていうか、おまじない?」

 

 それはそうだろう。普通の人間に黒魔術なんて使えるわけがない。普通じゃない状態に変身してから一年弱、現代人の異能者には会ったことがない。

 

「というか、みんな、あんまり話してると遅刻するよ?」

「あ、本当です……!」

「っていうか、だいたい小桃(あんた)のせいよね……?」

「あははー。そういう話もあるかも?」

 

 残り僅かな通学路を、俺たちは小走りでクリアした。

 

 

 

 

 この日は高等部、中等部の始業式ということもあって、一年生も普通の授業はなしだった。

 LHR(ロングホームルーム)という形で選択科目や部活勧誘期間、高等部から新たに加わる科目などの説明が行われる。俺としても興味があったところなのでしっかりと聞いておく。

 余った時間は生徒側からの強い要望もあって席替えが実施された。吉野先生が「私も経験あるからわかる」と、あらかじめ作ってあったくじを取り出すと教室には歓声が響いた。くじの引き直しはもちろんできなかったが、他の子とのトレードは自由。

 いつものことながら、この辺りも男子と女子では気合いの入り方が違う。みんな仲の良い相手や話したい相手と近くになろうと交渉合戦が勃発。まあ、男子も好みの女子に近づこうと暗躍する奴とかはいたが。

 

「アリスちゃん、私の番号と交換してくれない?」

「はい、いいですよ」

 

 俺としては鈴香や芽愛、縫子が別のクラスになってしまったので、そこまで躍起になる必要がない。中学時代同じクラスだった生徒はそれなりにいるので誰かは近くに来るだろうし。強いて言えば小桃と近い席だと嬉しいかもしれない、という程度。

 なので快くトレードに応じれば、渡された番号は教室の真ん中あたりのものだった。遠い席の少ないここは割と勝ち組席な気がするのだが。

 

「あれ、アリスもトレードしたんだ?」

「小桃さん、隣ですか?」

 

 向こうもトレードしたらしい小桃と顔を見合わせる。どういうことだ、何かの陰謀か? と思えば他のクラスメートから「話したいって子が多かったから真ん中に来てもらったの」との説明。なるほど、自分ではなく相手を動かすという方法もあるのかと感心した。

 小桃はといえば、わざとらしく俺の方をちらちら見ながら毛先を軽く弄んで、

 

「……アリスが気に入らないって言うなら、みんなに言って変えてもらうけど?」

「そんなわけないじゃないですか。小桃さんと隣の席で嬉しいです」

 

 きゃー、と上がる歓声。「緋桜さんに報告した方がいいんじゃない?」とかいう声も聞こえる。いや、鈴香の耳に入るとからかわれそうなので勘弁して欲しい。

 

「みなさん、そろそろ確定しますよ」

 

 ある程度トレードが進んだところで吉野先生が宣言すると、みんなは「はーい」と元気に返事をした。

 なお、更に残った時間で先生への質問コーナーが始まったことを付け加えておく。

 

「アリスは選択科目ってなんにするの?」

 

 授業が終わると、小桃から何気なく尋ねられた。この後は在校生による合同部活説明会があるそうなので、大半の生徒が居残りモードである。説明会が始まるまでの時間潰しとしてこういう雑談はちょうどいい。

 

「そうですね……。正直、少し迷ってます。家庭科は取りたいと思うんですが」

 

 選択科目は二つの科目を選び、それぞれ週一で学ぶというものだった。中には時間割に既に含まれている科目の発展形というか、もっと学びたい人向けという科目もある。家庭科や英語、情報処理なんかがそうだ。後は茶道とか華道といった特殊な教養を学ぶものなど。

 俺が今現在、興味がある事柄としては料理(ノワール、芽愛の影響)、裁縫(縫子の影響)がまず上がる。となると家庭科がベスト。ただし、金髪が伊達じゃないことを示すために英会話の勉強をするというのも悪くはないし、これから配信を行っていくなら情報処理も学んでおいて損はなさそうだ。

 配信の役に立つというなら美術を選択して絵を上手くするというのもアリだし、音楽で歌や楽器を学んでおく手もある。茶道とか華道とかはそこまで食指が動かないものの、鈴香たちの誰かは経験がありそうな気がする。聞いてみたら意外と面白そう、ということもありえる。

 

「小桃さんはどれにするんですか?」

「私は楽なのか楽しいのがいいかなーって。家庭科は苦手だから音楽と体育あたり?」

「あ、そっか、体育もあるんですね。身体を動かすのもいいかも……」

「あはは。アリスは枠がいくつあっても足りなさそう」

「はい、せめてあと二つくらいは欲しいです」

 

 すると小桃は目を細めて、

 

「じゃあ、どれかは部活に回したら? そうすれば三枠あるようなものじゃない?」

「そうするとどれを部活に回すかがまた悩ましいんですよね……」

 

 というか部活をしている暇があるのか。配信している先達の動画を見ていると一回に結構な尺を取るので、頻繁に配信するようだとかなり大変だ。その辺りペース配分も考えないといけない。

 結局、簡単には決まらないので希望提出期限まで目いっぱい悩む、ということで落ち着いた。

 

 

 

 

「さて、諸君。恒例の無茶振りが政府から来た」

 

 夕食の席で教授が厳かに宣言すると、メンバー全員が「あー……」という顔になった。新人である瑠璃もオロチの一件で辛さをよく理解したらしい。

 

「教授。今度はどこでどのような化け物を退治するのですか?」

 

 なんかよく知らないところでヤバイ化け物と戦う前提だった。そして、その想定は正しかった。

 

「うむ。本州の北端に近い辺りだな」

「いや、ちょっと教授、さすがに遠いよー?」

「仕方なかろう。近場は我らが定期的に邪気払いするせいで平和なのだ。無論、他地方の邪気が多少は流れてきているだろうが、やはり直接行って祓ってやらねばな」

 

 確かに、俺たちが一箇所に集まっている以上、他の地方は手つかずなのだ。

 新メンバーがどんどん増えて支部でも作れれば話は別だが、そうなるまで待っているわけにもいかない。

 

「それに、あちらは割と深刻らしくてな……」

「何よ。そんなにやばいの?」

「ああ。具体的にはマグロが不漁だったり、漁船が転覆して死者が出たりしているらしい」

「全国のお寿司屋さんがピンチではありませんか……!」

 

 台所を預かるノワールとしては魚のピンチは見過ごせないらしい。さすがに家でマグロはそうそう出ないが、あの味わいは他には代えられないものがある。

 しかし、

 

「海……。今度はクラーケンですか、それともテンタクルスですか」

「あー。水中に逃げられたらさすがにポーションも効かないんだよねー……」

「重油撒くわけにもいかないし、あたし、またしても役立たずじゃない」

「銃弾で海を汚すのも忍びないです。それに、足場の問題は大きいかと」

 

 俺の魔法は通じるだろうが、ゲームじゃあるまいし死ぬまで顔を出し続けるほど敵も馬鹿じゃない。潜られたら詰みである。

 

「……あの、皆さん。さすがにお断りしませんか?」

「異議なし」

「ということで教授、後はよろしく」

「ま、まあ待て。何も海上での戦いとは言っておらん」

 

 なんだ、違うのか。

 ほっとする俺たちを見て「吾輩は言われたのだがな」と遠い目になる教授。やっぱり一回くらい断ってもいいんじゃないだろうか……?

 こほん、という咳払いがあって、

 

「要はその地域の状況が良くなればいいのだ。適当に大きい公園あたりで戦えば良かろう」

「それでいいのなら、オロチと戦う必要もなかったのでは?」

「効率の問題だ。でかいのを倒した方がでかい効果がある。それに、人気のない場所の方が戦いやすいからな」

 

 人の来ない場所には相応の理由がある。墓地だったり廃寺だったり、昼間しか使われない学校だったり。そういう場所には邪気が集まりやすい。

 

「……ま、公園でいいならまだマシよね」

「巨大モグラですとか地竜、あるいは巨大兵器が出てこないとも限りませんが」

「そうなったら今度こそヒット&アウェイを繰り返すしかあるまい」

 

 さすがに前回のギリギリぶりが堪えているのか、教授もかなり慎重だ。

 もちろん俺にも異存はないが、

 

「でも、泊りがけだとスケジュールが厳しいですよ……?」

「いっそ三月中に言ってくれればよかったのにねー」

「お主らが進学の準備で忙しい時に言われても断ったに決まっておろう。……まあ、準備期間を設ける意味でも連休に実行するのがベストだろうな」

 

 連休というと……ゴールデンウイークか。

 

「さっき挙げた事例は一例に過ぎん。最近の自然災害も溜まった邪気の影響かもしれんのだ。だとすると、これまでにない規模の戦いを覚悟するべきだ」

「準備は入念に、ということですね」

 

 消耗品を必要とするメンバーは複数回に渡って戦えるように準備が必要になる。宿泊場所にあらかじめ荷物を送る等の対策がいるだろう。俺も、今の装備と同じクオリティの物は無理にしても、衣装や聖印の予備を用意しておくべきかもしれない。

 数日間の連戦を前提とした遠征。

 ラスボスでも出てくるんじゃないかという流れに、俺は形容しがたい寒気を覚えた。

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