起きたら金髪碧眼の美少女聖女だったので、似たような奴らと共同生活始めました   作:緑茶わいん

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聖女、予行練習する

「キャロルちゃん可愛いよね。何歳?どこ住み? っていうか、RAINやってる?」

「それ絶対違うやつですよね!?」

 

 四月最初の土曜日。

 自由な時間を利用して配信の練習を始めた俺だったが、サポートについてくれた朱華が変なことを言いだしたせいでのっけから躓いた。

 すっかり住み慣れた自室には俺と朱華、それから見学兼アドバイザー役の瑠璃がいる。

 ノワールも見学したい雰囲気を出していたものの、家事が滞るからと断念。シルビアは研究との兼ね合いがあるので「実際の配信を楽しみにしてるよー」とのこと。教授は「正直、吾輩にはよくわからん」と自室で詰将棋をやっている。

 

 そんな中、スマホのカメラを構えた朱華は「何よ」と唇を尖らせて、

 

「相手役がいるだけむしろ優しいのよ? あんた、本番はカメラに向かって一人で喋り続けるんだから」

「それはそうですけど、質問の内容に問題があります。ですよね、瑠璃さん?」

「はい、そうですね。さっきの台詞ではまるで軟派男のようです」

 

 そもそも朱華は俺の年齢も住所も知っているだろうに……って、そういう問題でもないが。

 すると、暖かくなってきたせいかまたラフな格好の多くなってきた紅髪の少女は肩を竦めて、

 

「可愛い女の子の配信見る奴なんて大部分が男なんだから、変な質問来るのはむしろ当たり前じゃない。ねえ瑠璃?」

「……確かに。アリス先輩が不用意に答えてしまわないよう、対策は必要かもしれません」

「瑠璃さんはどっちの味方なんですか……!?」

 

 さすがにそこまで不注意ではない、と思いたい。

 俺だって現代っ子。剣道ばっかりしてネット関係には疎かったとはいえ、リテラシーくらいはちゃんと学んでいる。リアルの年齢とか住所を答えないくらい朝飯前だ。

 と。

 

「はい、じゃあアリス。こっち向いて」

「はい?」

 

 反射的に振り返った俺をカメラが捉え、朱華が「はいアウト」と宣言。

 

「なんで『アリス』で反応してんのよ」

「配信見てる人たちはアリスって呼びませんよね……?」

「カメラの前では気を抜くなって言ってんのよ。心構えの問題」

「……むぅ」

 

 じゃあお前やってみろよ、と言いたくなるのをぐっと堪え、朱華の言うことももっともだと自戒する俺。

 スパチャの類は当面使用しない予定とはいえ、人前に出る以上はプロ意識が必要。心構えをしっかりしておくのは確かに有効だ。

 ここで瑠璃がこほん、と咳払いして、

 

「一度設定をおさらいしてみましょう。アリス先輩、お名前や年齢などをどうぞ」

「はい。私はキャロル。キャロル・スターライト。十五歳で、地母神様にお仕えしております」

「OKです。……ある程度素で答えられるので便利な設定ですね」

 

 アバターとしての名前には千歌(ちか)さんとの配信で使った「キャロル」を流用することにした。どうせ関連は隠しきれないのだからきっぱりした方がいいだろう判断。その上で次回の顔出し配信ではウィッグ使ったりしてアバターのキャロルに容姿を寄せるなど、アリシア・ブライトネスの容姿から視聴者の意識を遠ざける予定だ。

 設定としてはファンタジー世界の聖職者。

 地母神に仕えていることなどはまるきりアリシアの境遇通りであり、覚えるのがかなり楽である。ファンタジーなら成人年齢も異なるため『十五歳』と言っても問題はない。むしろ下手に二十歳とか言っても声の若さでバレそうだし、設定的にも無理が出かねない。

 

「じゃあキャロル。好きな食べ物は?」

「そうですね、甘い物全般が好きです。ついつい食べ過ぎてしまうので、おやつはできるだけ我慢していますけど……」

「キャロルさん、得意料理はなんですか?」

「料理はお手伝いでするくらいなので、メインで良く作る料理というのはあまり……。お菓子ですが、バレンタインに頑張って練習したチョコレートなら少し自信があります」

 

 ファンタジー世界にチョコレートやバレンタインがあるのか、とか、そういうのは深く考えないというか設定しないことにした。現代っぽい話題が一切できないとなると面倒臭すぎるので、異世界からこの世界に単身布教にやってきた苦労人とかそんな感じの設定だ。

 なのでパンケーキやドーナツを食べても問題ないし、肉じゃがを作った話をしてもいい。アバターを使うのだから視聴者も「ああ、聖職者っていうのは設定なんだな」と自然に思ってくれる。まさか聖職者設定の方が本当だとは思うまい。

 

「よしよし、その調子。まずはカメラの前で喋るのに慣れときなさい」

「そうですね。機材が届いたら本番環境でテストしましょう」

 

 そして、その機材は日曜日に届いた。

 

「こんにちは。機材のお届けとセッティングに参りました」

 

 やってきたのは作業着の兄ちゃん──ではなく、スーツ姿の椎名だ。出迎えた俺とノワールに笑顔を向けると「運ぶのを手伝ってもらえますか」と言ってくる。その傍らにはサイズの違う箱が二つ積み重なっていた。結構重そうに見えるのだが、

 

「これ、一人で持って来たんですか?」

「まさか。玄関まで同僚に運んでもらいました」

 

 大きい箱を椎名とノワールが二人で、小さい方の箱を俺が部屋まで運んだ。

 椎名が持ってきてくれた機材はいわゆるWebカメラと、それから配信の操作自体を行うためのノートパソコン、その他周辺機器だった。

 費用は俺の自腹。どれも最新のハイスペックモデルなので安くはない。とはいえ必要経費は差し引いた実費のみの支払いだし、企業向け価格で購入したものを提供してもらっているのでむしろ得をしているくらいだ。

 既に基本的なセッティングは終えているらしいそれらをてきぱきと箱から出しつつ、椎名は呑気な声で尋ねてくる。

 

「アリスちゃんって電子機器(こういうの)疎い方?」

「いえ、インターネットとかメモ帳使うくらいなら普通にできます」

「そっか。なら大丈夫かな。専用のソフトもできるだけ簡単なUIにしたし」

 

 スペックだけならデスクトップの方がいいんだけど嵩張るし持ち運びできないから、などと言いつつ設置を終え、マシンを起動する椎名。

 デスクトップに表示されたアイコンの一つがクリックされて、

 

「ちゃんと認識するかな? ……うん、大丈夫そう」

 

 マシン上部に設置されたWebカメラを通して俺たちの姿が画面に映る。若干恥ずかしい。というか生身が映っているが……と思ったら、三クリック程度の簡単操作で表示がアバターに切り替わった。

 綺麗な銀髪。頭の横に西洋風の意匠を取り入れた兎の面を着け、やや和風にアレンジされた聖職者衣装を纏う少女の姿。

 顔立ちには俺の面影があるものの、フル装備の俺と比べると別作品のキャラにしか見えない程度には違う。それがキャロル・スターライトだ。

 

「他に人が映ってるとうまく動きをトレースしないから気を付けてね」

 

 言いつつマシンの前からどく椎名。すると、それまで瞬きをするだけだったキャロル(アバター)が生きているように動き始める。驚きに目を丸くする表情はなかなかにリアルだ。こういうのの動きってあらかじめインプットされた数パターンくらいだと思っていたんだが、驚きの表情だけでも数パターンはありそうだ。

 

「ハイテクですね……!?」

「一山いくらのレベルじゃシュヴァルツが納得しませんでしたからね」

 

 シュヴァルツの我が儘のせいでソフトが洗練されたらしい。さすが未来のロボット。こういうところでは妥協しない。

 

「配信するにはどうしたらいいんですか?」

「えっと、そこをそうして、あーやって……」

 

 椎名に指示してもらいつつ一通りの手順を教わる。簡易的なマニュアルまで作って来てくれていたので、わからなくなったらそれを見れば大体大丈夫だろう。

 

「ありがとうございます、椎名さん。助かりました」

「気にしないでください。……それにしても、さすがアリスちゃんの部屋。生で配信しても大丈夫そうな可愛さ」

「あ、あんまり見ないでください」

 

 大した物は置いていないし、可愛いと言うなら瑠璃の部屋の方がよっぽどである。マニア受けするという意味では朱華の部屋もなかなか良い感じかもしれないし。

 

「まあまあ。アリスちゃんはもっと自信持っていいと思いますよ。それで、ソフトのテスターとしても活躍してください」

「このソフト、他にも売る気なんですか?」

「それはもちろん、いいデータが取れたらコンシューマー向けに調整して販売することも検討しています。利益も大切ですからね」

 

 俺がソフトを使うことで椎名たちにも利益があるということだ。なら、少しでも活用してお互いに上手くいけばいいと思う。

 

「それで? いつ頃本番なんです?」

「えっと、まずはしっかり練習してからですね……」

 

 実際のアバターを見てわくわくしてきたところはあるが、まずは足場を固めておかないと不安すぎる。いったん始めてしまったらそうそう仕切り直しはきかないわけだし。そう考えると芸能人とか、かなり大変な商売である。

 

 ソフトの動作やアバターの出来に問題はなさそうなので、もし後日不具合が見つかれば連絡する、ということで椎名はお役御免となった。

 せっかくだからと一緒に昼食をとってから帰っていった彼女はなかなかにご満悦の様子だった。ノワールと会って話せただけでも楽しいのだろう。自分で作るより遥かに食事が美味しいとも言っていたし、今日仕事をする代わりに丸一日休みが貰えたとも言っていた。

 

「IT関係って激務なんでしょうね……」

 

 そう言うと、聞いていた朱華が苦笑した。

 

「まあね。でも、オリジナルのあんたよりマシなんじゃない?」

「神殿をブラック企業みたいに言わないでください」

「いやブラックでしょ。下っ端なんか毎朝早起きして掃除とお祈りして、食べるものは質素で、突然駆け込んでくる奴らを助けないといけないのよ?」

「……ま、まあでも、宮沢賢治の詩よりはマシだと思います」

 

 アリシアのところは地母神なので他の神々よりはマシなはずである。豊穣を尊ぶ教義上、ある物を美味しくいただくことも、品種改良を行って品質や量を良くすることも否定されていない。愛の女神も兼ねているので恋愛禁止とかそういう戒律もない。

 ……と、いったことをオリジナルが知識として送ってきた。

 こんなノリで実情を知れるというか思い出せるのなら非常に便利だ。配信の時にもあまり困らないかもしれないと、思わぬ収穫にほっこりする俺。

 そんな俺をよそに朱華は嫌そうな顔をして、

 

「確かにあれはやばいけど、最後らへんのあんたもなかなかにあれじゃない」

「……ああ、まあ、そうですね」

 

 ゲームにおける最後。クライマックスにおいては主人公パーティと魔王との戦いが繰り広げられる。主人公の職業によって展開は多少変わるものの、どの職業を選んだ場合でも、主人公が苦労したことでギリギリ魔王討伐に成功する、という結果は同じだ。

 他人事にできない俺は遠い目になって思いを振り払う。

 

「それを思えば今の私は良い暮らしができていますね」

「そうね。……配信で話すんなら、あんたが辛い辛い言ってるだけより、楽しそうにしてた方が受けるでしょうし」

 

 終始曇っている被虐待系配信者とかも需要はないわけではないだろうが、とこぼす朱華に俺は「こいつは何を言っているんだ」とジト目を送った。そんな子がいたら可哀想で見ていられない。……ん? だからこそスパチャが飛び交うのか? だとするとなかなかに闇が深そうな配信アイドルである。

 

「私は聖職者ですからね。むしろ、困っている人を助ける方向で行きたいです」

「それね。せっかくだから内容にも取り入れなさいよ。告解室とか相談部屋とか」

 

 理想の神殿をお絵かきしてみるとか、神聖っぽいイメージのある歌を「歌ってみた」するとか、ファンタジーっぽい身の上ばかりを垂れ流してみるとか。

 ゲームで遊んだりマンガやアニメ、ラノベの感想を言ったり、最近作った料理の写真を公開したりといった普通の配信内容の他を考えながら、並行して練習を重ねていく。新しい日課の増えた休日はなかなかに忙しく、俺は充実した週末を過ごした。




機器とかソフトの仕様は変なところがあるかもしれませんが、大目に見ていただけたら幸いです。
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