帝王と自虐系トレーナー   作:平々凡々侍

10 / 22
ひとつだけ言っておこう
君は欲しいキャラを当てると言ったが………
君よりも9年も長く生きてるから教えてやろう……
欲しいキャラを当てるってのは
そんなむずかしい事じゃあないんだ…………
引き続けばいつかは必ず当たるしな……

もっとも『むずかしい事』は!
いいかい!
もっとも『むずかしい事』は!

『欲しいキャラを当てた後もずっとそのキャラを推し続ける事』さ!
ぼくは欲しいキャラを当てこれからも推し続ける!!



ボクは止まらない

 

『……どうせ俺なんか……』

 

 ボクにはオジサンの事がわからない。

 最初に会った時から今まで……たったの数日だけど、ボクはオジサンと話してみた。オジサンを知ろうとした。だけど、

 

『……お前にとっては悪い事だったのかもな。だけど、俺にとっては悪い事じゃなかったんだよ』

 

 話せば話すほど。 知ろうとすればするほど。

 オジサンの事がボクにはもっとわからなくなる。ぬかるみにはまったみたいに「わかりたい」と思うほど「わからない」が増えていく……ムシャクシャしたし、モヤモヤした。

 

 でも、ボクはオジサンを知りたい。

 

『別に、お前のトレーニングに対する意欲とかチャレンジ精神が駄目だって言ってる訳じゃあない。ただこのトレーニングは今のお前にはまだ時期尚早って……それだけの話だ』

 

 

『………本当、遠慮がないなお前』

 

 

『あぁ、俺にはもう……パーフェクトもハーモニーもないんだよ』

 

 

『……ありがとな、お前のおかげで迷いは完全に消えた』

 

 オジサンを知って、オジサンを助けたい。

 

 その思いはオジサンと話せば話すほどボクの中で強く大きくなった。

 

 

 

 

「……ん……ぁ」

 

 目を開けたボクの目に最初に映ったのは見慣れた天井……ボクの部屋の天井で、ボクは自室のベッドで寝ていた。

 

 頭が冷たくて気持ちいいと思ったらおでこには濡れタオルがのっていて、首には冷えピタがついていた。

 

 体はびっくりするほど怠くて重くて熱くて、体を起こすのも辛い。

 

「っ、ぉ…じ…」

 

 だけど、部屋にオジサンの姿がなかったからボクは無理にでも体を起こそうとした。オジサンを一人にしちゃダメだ。一人にしたら…一人にしたら……

 

(死んじゃうよ……!)

 

 オジサンがどこに行ったかはわからない。でも、だからって放って置けない。早く探さないとっ! 何とか体を起こしてベッドから出ようとしたボクは

 

「ーーあぁ、起きたか」

 

 部屋のドアが開いて、そこから聞こえた声に思わず動きを止める。

 

「………何やってんだ、お前」

 

 そこには今、ボクが探そうとしていた人がーーオジサンが居た。

 

「お、おじっ……! ごほごほっ……!!」

 

 オジサンが居てくれた事にホッとしちゃったのかな……体から力が抜けて、ベッドに倒れたボクは勢いよく咳き込んだ。

 

「! 大丈夫か? あぁ、無理して体を起こすな。寝たままでいい」

 

 その方が楽だろ、と素早くボクのベッドに寄ってきたオジサンは今までと変わらない表情をしてたけど声はどこか今までよりも柔らかく聞こえた。

 

「覚えてるか? お前、少し前に玄関で倒れたんだ」

 

「……覚えてるよ」

 

「体の調子はどうだ?」

 

「だるい、おもい、あつい」

 

 部屋に入ってきたオジサンは水の入ったコップと体温計、風邪薬の袋が載ったトレーをテーブルに置いてボクに聞いてきた。

 

「熱、自分で測れそうか?」

 

「う、うん」

 

 オジサンは置いたトレーの上から体温計を取って、ボクの返事を聞いて手渡してくる。

 

(すっごいテキパキしてるっ…!)

 

 今までだったら少し黙ったり、喋るまでに間があったりしたのに…今のオジサンはハキハキと喋っていた。その変化にボクはちょっと驚きながら受け取った体温計を脇に当てて熱を測る。

 

「オジサン、体温計の場所とか薬の場所…よくわかったね」

 

 熱を測る間、枕から頭を少し上げてボクは聞いた。

 

 本当は他にもっと聞きたい事があったけど……玄関でのやり取りの事もあって、何だか気不味くて。

 

「お前の母親に電話して教えてもらったんだ。少し探すのに手間取ったが……風邪薬はこれであってるか?」

 

「うん、それであってるよ」

 

「ならいい」

 

 オジサンは割と平然とボクに話しかけてくるけど……気不味かったりしないのかな?なんて思いながらボクはピピッと鳴った体温計を取って、熱が何度か見た。

 

「何度だった?」

 

「ん」

 

「……38.6度。高熱だな」

 

 その体温計をボクから受け取ったオジサンは何度か見て少し暗い顔をした後に体温計をトレーに置く。

 

「だ、大丈夫だよっ。ボクってば強いから、こんな風邪ぐらいへっちゃらへっちゃら…! ごほっ、ごほっ」

 

「…無理するな。平気なフリしてもバレバレだ」

 

 ボクはそんなオジサンに心配をかけたくなくて、ベッドから体を起こして平気だって伝えようとしたけど…また咳き込んじゃって。オジサンは少し呆れながらトレーの上から水の入ったコップと風邪薬の袋を取った。

 

「薬、飲めそうか?」

 

「…飲めるよ」

 

 ボクは既に開けられた風邪薬の袋を手に取って、中に入った粉薬を口に入れて次にオジサンから貰った水の入ったコップでそれを流し込んだ。

 

 薬の味はあんまり好きじゃないんだけど、そんな事が気にならないぐらいにボクの体は疲れてるみたいだった。水を飲んだボクは思わず大きな息をつく。

 

「……はぁ〜……」

 

「よし、あとはゆっくり寝てしっかり休んでくれ。……あと、お前の母親に連絡したらすぐに帰るって言ってたから安心しろ」

 

 そんなボクの様子を見届け、オジサンはそう言うと空になった風邪薬の袋とコップを受け取ってトレーの上に戻す。

 

「………あと、悪かったな。お前が風邪を引いたのは十中八九俺のせいだ」

 

 そして、トレーを持って部屋を出て行こうとして

 

(っ、オジサンのせいなんかじゃ……)

 

「おじ、さん……!」

 

 咄嗟にボクは声を出していた。

 

 ママが帰ってきたらオジサンはどうするつもりなんだろう。そんな事はボクでも簡単に分かった。きっとオジサンは今度こそ家を出て行って………

 

「……なんだ?」

 

「ダメだよ……いっちゃヤダよ」

 

 今のボクにはオジサンを止められる力がない。今のボクにできるのは声を掛けることだけ。

 

 熱で苦しいけど、ボクは何とか声を絞り出す。でも口から零れたのは自分でもビックリするぐらいに小さくて心細い声だった。

 

「………………」

 

「………………」

 

 それから、部屋には長い長い沈黙が落ちる。

 

 ボクは怖くて怖くて仕方がなくて、オジサンの顔が見れなくて……ベッドの中で泣きそうになりながらオジサンの返事を待つ。

 

 

「………はぁ」

 

 

テイオー(・・・・)、食欲あるか?

 

 

 そして、オジサンは部屋のドアに手を掛けながらそう言った。

 

「………へ………?」

 

 気付いたら、自然とボクの口からはそんな声が漏れてて

 

「だから、食欲あるかって」

 

「ぁ、うん。あ、あるよっ!」

 

「わかった。寝て待ってろ」

 

 オジサンはボクの返事を聞いてさっさと部屋を出て行く。

 

「え、い、今………!」

 

(ボクのこと……は、はじめて「テイオー」って呼んでくれたぁ?!)

 

 クソガキテイオー、テイオー様、トウカイテイオー。オジサンに呼ばれた名前を思い出しながらボクはビックリした。そのせいかオジサンは寝て待ってろって言ったけど……全然寝れなかった。

 

 何でかわからないけど、すっごく嬉しかったなぁ……。

 

 

 ──────────────────────

 

「! わぁ〜…何これっ……?」

 

「知らんのか。まぁ大したもんじゃないが…勝手に台所使わせてもらって作った」

 

 リンゴのすりおろしだ、とオジサンは持ってきた器をボクに手渡す。ボクって滅多に風邪なんか引かないから…あんまりこういうのを食べる機会がなくって「リンゴのすりおろし」を見るのもこれが初めてだった。器にのったそれは綺麗な黄色で、上からはハチミツがかけられている。

 

「ぇ、こ、これっ…オジサンが作ったの? ボクのために?」

 

「……逆にこの状況でお前以外の誰の為に作るんだ? あと、作ったって言ってもそんな大したもんじゃない。偶々リンゴがあったからそれをすりおろして、ハチミツをかけただけだ」

 

 そう言って器に続けて木のスプーンを渡してきて「自分で食べれそうか?」とオジサンは聞いてくる。ボクはそれに「う、うん」と頷く。あんまりにもオジサンが優しくてボクは若干戸惑う。

 

 でも、嬉しかった。ホントのホントに嬉しかった。

 

「い、いただきます………んっ」

 

 その後にボクはスプーンでリンゴのすりおろしを掬って、ゆっくり口に運び

 

「! 〜〜〜っ! おいしい…!」

 

「……そうか」

 

 ボクは震えるぐらい感動しちゃった。

 初めて食べたリンゴのすりおろしは…すっごく食べ易くて、ママの手料理みたいに温かくて、優しい味だった。

 

「はむはむっ…! んっ…ごほごほっ」

 

「……一気に食い過ぎだ。急いで食わないでも誰も取らない。……だから、ゆっくり食べな」

 

 美味しくて、慌てて食べるボクにオジサンは優しく微笑んだ。

 

「! ………う、うんっ」

 

 優しく笑うオジサンを見るのはそれが初めてで…ボクは暫く俯いたまパクパクとリンゴのすりおろしを食べた。ホントのホントに美味しくて十分もしない内に全部食べ終えて、

 

「ごちそうさまっ、すっっごく美味しかったよ!」

 

「……お粗末様」

 

 手を合わせるボクを見たオジサンはボクが置いた器を取って、部屋を後にしようとする。

 

「ねぇねぇ、オジサン」

 

 そんなオジサンにボクは声を掛けた。気不味い気持ちを何とか放って、勇気を振り絞って。

 

「なんで、ボクを助けてくれたの…? なんで、一人で行っちゃわなかったの…?」

 

 オジサンならボクの事なんか気にせず一人で行っちゃう。そう思っていたから、こうやってオジサンが看病してくれるなんて思ってもいなかった。

 

「……俺は無能な愚か者だ」

 

「…………」

 

「……だが、多少の常識は持ってるつもりだ。子供が病気で倒れたのに、それを無視して自分の望みのままに行動する程…バカじゃない」

 

「ふふ、優しいんだ〜」

 

「話聞いてたか? 優しいんじゃない。常識に基づいた行動をしただけだ」

 

 ボクの「優しい」って言葉にオジサンは若干食い気味に反論して、小さくため息を吐く。

 

「さっさと寝ろ。そんだけ元気に喋れるなら、明日には元気になる」

 

「……ボクが寝れるまで、ここにいてくれてもいいよ?」

 

「…謎の上から目線やめろ」

 

「ごめん。ちょっとでいいから……一緒にいて、お願いっ」

 

「……はぁ」

 

 それからオジサンは何も言わずにボクが寝られるまで、ベッドの傍に座っていてくれて

 

「………ねぇ、オジサン」

 

「………なんだ」

 

「ボク、オジサンにお願いがあるんだ…聞いてくれる?」

 

「……試しに言ってみろ」

 

 ボクはオジサンにお願いした。

 

 

 

ボクのトレーナーになってくれない…?

 

 

 声は小さくて、震えてたかもしれない。だけど、ボクはオジサンの目を見てハッキリそう口にした。

 

(……断られちゃうだろうなぁ……)

 

 結果はボクにだって分かる。分かり切ってる。それでも言いたかったんだ。ボクの気持ちをオジサンに……伝えたかったんだ。だから、

 

 

……臨時だ

 

 

 

「……………え」

 

 オジサンの返事がボクには一瞬理解できなくて、目を見開いてぽかんと口を開けたまま十秒ぐらい経ってから……

 

「えっ、えっ、えええええ!?」

 

 ボクは叫んだ。

 嬉しい気持ちと分かんない気持ち…それ以外にも色々な気持ちがぐちゃぐちゃに混ざって自分でもよく分かんなかったけど。

 

「うるさっ」

 

「そ、それじゃあオジサン……ぼ、ボクのトレーナーになってくれるってことぉ!?」

 

「違う。臨時って言ったろ……」

 

 軽く耳を塞ぎながらオジサンは嫌そうな顔をしてボクを見る。その目には今まではなかった光があるように見えた。

 

「……確認だが。お前、ルドルフに憧れてるって事はトレセン学園に入るつもりなんだろ?」

 

「もっちろん! ボクはトレセン学園に入って、シンボリルドルフさんみたいな無敵の三冠ウマ娘になるんだから!」

 

「だったら期間はそこまで。お前がトレセン学園に入学するまで。つまり2、3ヶ月……………ぁ」

 

 そして、オジサンがボクの言葉を聞いて説明を始めた時……オジサンは突然喋るのを止めると首を捻って、

 

「………駄目だ。忘れろ」

 

「へ?」

 

「今言ったことは全部忘れろ。戯言だ。俺はお前の臨時トレーナーにはならない」

 

 椅子から立ち上がったオジサンはそれだけ言うと足早に部屋を出て行く。去り際に見えたその目にはついさっきまであった筈の光はなかった。

 

「オジサン、ボク絶対に忘れないからねー! 風邪治したら、トレーニングとか教えてもらうから! 絶対のぜぇーったい!」

 

 そんなオジサンの後ろ姿にボクはそう叫んだ。

 

「よぉーし、早く風邪なんか治しちゃうぞ〜! ……へ、ヘックション!」

 

 

 

 

 

 

 

「……俺は……」

 

 トウカイテイオーの部屋を後にし廊下を歩き、階段を下り、リビングに入り……器とスプーンを流し台で洗いながら俺は考える。

 

(お前は一体何を考えてるんだ?)

 

 なんであんなふざけた台詞を吐いた?

 なんであんなふざけた言葉が漏れた?

 わからない。気が付いたら口が勝手に動いていた。

 

(まさか、未練があるのか?)

 

(……違う)

 

 心中から湧き出る自身への疑問、思いを俺は首を振って否定する。未練なんて俺にはない。ある訳がない。そんなものは……とっくのとうに捨てたんだ。

 

 だから、これは気の迷いだ。それ以外の何でもない。

 

(まさか、まだ希望に縋っているのか?)

 

(……違う……違うっ!!)

 

 俺が希望を抱いてる?俺が希望に縋っている?ふざけろ!そんな訳あるかッ!そもそも希望に縋る余地などない。それはルドルフ本人が今日俺に教えてくれただろうがッ!

 

 俺は感情の激流のままに拳を握り締め、壁に叩きつけようとし

 

「ぅ、ぐ……俺は……」

 

 直前で如何にか止める。歯を、食い縛る。

 

「違う……違うんだっ」

 

 手からは血が流れていた。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます!
感想や批評などありましたら遠慮なくお願いします。励みになります!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。