『開示ッ! 彼と特に関わりの深い君達には、警察による──君の捜索によって判明した情報を…嘘偽りなく教えよう』
最悪な悪報を伝えられたあの日、続けて理事長は私達にトレーナー君の捜索で得られた情報を明かした。
1.彼の携帯電話は海中で見つかった。
2.携帯電話が見つかった近くにある灯台の頂上にて、彼のものらしきカバンが見つかった。中には財布と黒のスーツとズボンにトレーナーバッジが入っており、財布の中には彼の身分証明書などが入っていた。
3.彼が訪れたであろう灯台の頂上、手摺りが設置された崖際……その一部分には不自然にも少量の砂が落ちていた。
『……今判明している情報は以上で全てだ……っ』
その言葉を最後に理事長は私達に背を向け、口を噤んだ。
『………先輩………』
『……トレーナー君……』
私とサブトレーナー君は明かされた情報にただただ愕然と立ち尽くすことしかできず……考えたくもないのに、私の頭は嫌に現実味のある想像を始める。
灯台の頂上、放置された私物、崖際にあった形跡。
これだけあからさまな情報。導き出される答えは明白だ。
彼は、トレーナー君は灯台から………
(っ、違う、違う違う違う!!)
私は咄嗟に頭を振り最悪な想像を放棄した。
(そんなこと、ある筈がないッ)
これ以上考えればきっと駄目になる。
悟った私は咄嗟に自分にそう言い聞かせ、心を無理矢理落ち着かせた。
胸が、張り裂けそうだった。
「……ここ…は……?」
青空の下、どこまでも続く大草原。
目を開くとそこには緑の景色が広がっていた。
(また、夢か)
自分がただ一人ぽつんと立っている状況。ここまでの記憶が一切ない事実。それらについて瞬時に考えた私はこれを夢だと断定する……最近では夢を見るのにも随分と慣れてしまったものだ。
だが、この夢には今までの夢とは異なる違和感が一つあった。
(今まで見てきた夢は、トレーナー君との思い出ばかりだったのだが……)
ぐるりと周囲を見渡してみても、この景色に思い当たる節は何もない。
この景色は私にとって本当に知らない…夢でしかなかった。
「……トレーナー君……」
思い出の中であっても、トレーナー君と会えることは私にとって確かな「喜び」だった。……同時に「悲しみ」でもあった。
(私は……私はっ……ッ)
今こうしている間にもトレーナー君に会いたいという気持ちが高まっていくのを感じる……その時だった。
『……………ルドルフ』
突然、背後から誰かの気配がした。
私が振り返ると……
「ぁ……ぁあ………!」
そこに「君」は居た。
「っ、トレーナー君……! 君なのか……?」
どうしてここに? 落ち着けこれは夢だ。
その姿を見た瞬間、私の頭の中では色々な感情が溢れ、全てない混ぜになる。
「トレーナー君っ!!」
感極まった私は彼に駆け寄り、そのままの勢いで抱きつこうとし
『これで、おしまいだ』
抱きつこうとした瞬間、彼はまるで最初からそこに居なかったかの様に消え……気付けば私の遥か後方に立ちーー背を向けて歩き出していた。
青く澄み渡っていた空は途端に曇り暗い空へと変化する。
「ま、待ってくれ! トレーナー君…!」
離れていくトレーナー君の背。
それは私が最後に見た彼の姿……三冠を達成したあの日、ただ呆然と見ていることしかできなかったあの背と重なって見えた。私は慌てて彼へと駆け出した。
(なん、だ……これはッ……!!)
しかし、彼を追いかけようとした途端。
突如として、脚がまるで足枷でも付けられたかの如く重くなり…思い通りに前に出なくなる。
その間にもトレーナー君の背は遠くなっていき、暗雲から雨が降り出す。
「ッ、嫌だ……行かないでくれ、トレーナー君ッ…!」
私はそんな彼へと必死に手を伸ばし、叫んだ。
雨の勢いは急激に増し、土砂降りとなりまともに目が開けていられなくなる。だけど、それでも私は彼を見る。彼に手を伸ばす。
「私を、独りにしないでくれっ……!」
君がいないと、私は駄目なんだ。
「私には……!」
ーー君が「必要」なんだ!
もっと早くに君にそう言えていれば……
君は今も私の隣にいてくれたのだろうか?
────────────────────
「ーー…さん………さん……」
夢から覚めて直ぐ、誰かの声が耳に聞こえた。
「ーールドルフさん、大丈夫ですか?」
「………サブトレーナー君」
目を開けるとサブトレーナー君は心配そうに私の顔を覗き込んでおり、私はミーティング室の机の上で突っ伏していた。どうやらいつの間にか眠ってしまっていたようだ。
少々、生徒会の業務に根を詰め過ぎたらしい。仮にも生徒会長ともあろうものが………何とも情けない話だ。
「魘されてたみたいですけど……」
「……大丈夫、何でもないさ」
私はサブトレーナー君にそう言い自らの頬に軽く手を当てる。
頬には涙が伝っていた。
「すまない、私のせいでミーティングが遅れてしまっただろう……早く始めよう」
「別に構いませんよ。遅れたといっても二、三分程度ですし」
サブトレーナ君は少し悲しげな顔をした後、ミーティング室にあるホワイトボードに歩み寄り「それじゃあ…」と話を始める。
「ーーいよいよ明日、ジャパンカップ本番ですが……調子の方はどうですか?」
「…問題ないさ。今まで同様に勝ち、私の実力を皆に証明しよう」
サブトレーナー君の質問に私は何とか即答する。
「本当に?」
そんな私の言葉を聞いたサブトレーナー君は再度質問してきて、
「君の目から見て、今の私はどう見える?」
「絶不調、とはいかないまでも不調に見えますね」
はっきりとサブトレーナー君は自分から見た私の調子を明かす。
「『不調ならば、今回のレースに出走すべきじゃない』君はそう考えているのかな?」
「……その通り。俺は今回の出走、取り消すべきだと考えてます。今のルドルフさんの調子じゃ、何時もの走りはできないでしょう」
「……あぁ、君の言っている事は正論だろうな」
サブトレーナー君の言う通りだ。
今の私には「絶対」の走りはできないだろう。"皇帝"として皆の上に立つ者として、相応しい力を示すことなんて到底無理な話かもしれない。
「しかし、私はまだ止まる訳にはいかない」
「三冠を手にした今、多くの者が私の実力を本物だと認めた」
「だが、まだ足りない」
「皇帝として、皆の頂点に立つには……更なる結果が必要なんだ」
ーー何よりトレーナー君の為にも、とは口にはしない。
「だから、今回のレース……どうか走らせて欲しい。この通りだ」
『世界のウマ娘が栄光を求め、この東京レース場に集いました!』
実況の声が響く中、私はゆっくりとゲートに入った。
『各ウマ娘、ゲートイン完了』
『ジャパンカップ、今スタートしました!!』
あの時見た夢のように脚が重く、苦しかったのを今も鮮明に覚えている。
それ以外のことは何故だか、あまりよく覚えていない。
『ルドルフ! 上がってくる! ここから前に出れるか!』
視界がぐらりと歪んでいた。
脚が思い通りに動かなかった。
「ハァッ…ハァッ…!」
ただただ重たい脚を前へ、前へと進めた。
『君の走りをもっと見たい』
声が聞こえた。
『俺は君の語った愚かで甘く、遠い夢……その実現の手助けをしたい。そして、願わくば夢が実現した先……そこに広がる
君の声だけが、聞こえた。
『─────! 粘る!』
『─────1着でゴール! 堂々と逃げ切った!!』
『2着は─────! 3着はシンボリルドルフ!』
そして、気付けばレースは終わっていて
「………………ぁ」
君の声は、聞こえなくなっていた。
その日は彼と共に築いた私の無敗記録が止まり、同時に私の中で何かが明確に折れた日となった。
一方その頃
テイオー「オジサン、ゲーセン行こ!」
自虐野郎「嫌だ。契約外だ」
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