帝王と自虐系トレーナー   作:平々凡々侍

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この登りゆく朝日よりも
明るい輝きで『道』を
照らしている

そして作者がこれから
『向かうべき…正しい道』をもッ!


お待たせしました、投稿遅れて大変申し訳ありません!
久々ですがまたよろしくお願いします。



観て見て逃げ出して

 

 明確な日にちまでは思い出せない。

 だが、いつだったか、こんなことを聞かれたことがある。

 

『――先輩って、なんでトレーナーになったんですか?』

 

 聞いてきたのは後輩のサブトレーナーだった。

 

『どうした急に』

 

 えらく唐突な質問にキーボードを操作していた手を止め、俺はソファに座る後輩の方を訝しげに見遣った。

 

『あーえっと、前々から聞こうとは思ってたんですけど…聞けてなかったなぁと思いまして………ホント急にすみませんっ!』

 

『いや、謝らなくていい。別に怒ってないからな』

 

 後輩自身も唐突な事を言った自覚はあったらしく、ソファから立ち上がってすぐに頭を下げる。そんな後輩に対して「頭を上げてくれ」とさっさと伝えた俺は疑問を呈す。

 

『ただ、何故そんなことを聞こうと? 大した話でもない』

 

 自分でいうのも何だが、話題としては何の面白味(ドラマ)もないだろうに。

 

『何でってそりゃ……気になるからに決まってるじゃないですか! 先輩について載ってる雑誌とか見ても、書かれてるのは信条とか実績についてばっかりでトレーナーになった理由とか一切載ってないですし!』

 

『それはそうだろう。俺がトレーナーになった理由なんて誰も興味はないからな』

 

 仮に俺がトレーナーになった理由などが記事に掲載されるとして、それは一体誰得なんだ?という話だ。ページの無駄遣いもいいとこだ。俺は苦笑しながらキーボードの操作を再開する。

 

『は、はい! 俺興味あります! 先輩が……憧れの人がどういった理由でトレーナーになりたいって思ったのか』

 

 続けられた後輩の言葉に、少しの間、俺は固まった。

 憧れの人?誰が?俺が?お前の?

 いかんせん初めて言われた言葉だったから、いかんせん予期していない言葉だったから。

 

『……冗談言ってる暇があるなら手を動かせ。明日までに纏めておかないといけない書類なんだろう? それ』

 

 そんなことを他人に言われたのは初めてで…俺は咄嗟に後輩が座るソファの前に置かれたテーブル、その上にある書類の山に手を向ける。

 

 

『す、すいません……でも、憧れの人が「先輩」ってのは冗談じゃないですから!』

 

『………変な奴だよ、お前は』

 

 そんな後輩の思いを聞いて、俺はどう思ったんだったか。あの時はよくわからなかった。……いや。

 

 今となっても、よくわからないままだ

 

 ───────────────────────

 

「それじゃあ───君、一日だけだがテイオーのこと宜しく頼むよ!」

 

「…………はっ?」

 

 そんなことをトウカイテイオーの父親に言われたのはゲームセンターでダンスゲームをさせられた翌日、よく晴れた日曜日のことだった。何でも今日は二人の結婚記念日で夫婦水入らずで旅行に行くということらしい。しかも日帰りじゃなく泊まり掛けで。信じられなかった。何考えてるんだこの人と本気で思った。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい! おかしくないですか? 何で俺に頼むんですか?」

 

 トウカイテイオ一の実家で「居候」兼「臨時トレーナー」としてお世話になって僅か数週間。謂わば不審者同然の俺に(一日も)何故自分の娘を預けようとしているのか意味不明だった。いやまぁ確かに昨日はゲームセンターに一日中連れ回されてはいたが……だからってこんな不審者を信頼するのは常識的に考えて間違っている。

 

「ここは娘さんも旅行に一緒に連れて行って俺を追い出すとか、娘さんを一日親戚の家に預けて俺を追い出すとか、使用人などでも雇って娘さんのお世話を任せて俺を追い出すとか――」

 

「「――行ってきまーす」」

 

 だが、俺の意見も虚しくお人好しが過ぎるトウカイテイオーのご両親は家を出て行く。聞こえていない筈はないので完全なるスルー。聞く耳持たずである。

 

「いってらっしゃ〜い! お土産忘れないでねー!」

 

「………はあ」

 

 そんな両親をトウカイテイオーは外に出て手を振りながら見送り、俺は呆然とその場に立ち尽くし大きな溜息を吐く。ありえない。なんだってこんなことに……頭を抱えたい気持ちを抑えて吐いた溜息は自分が思っていた以上に重かった。

 

「それじゃあオジサン!」

 

 何が「それじゃあ」なんだ……?

 両親が乗った車が見えなくなり、玄関に戻ってきたトウカイテイオーはやけに高いテンションで俺を見上げた。やたらとキラキラしたその目は見てるだけで咄嗟に耳を塞ぎたくなるぐらいに嫌な予感を感じさせる。

 

(このクソガキ、一体何を言うつもりだ……?)

 

 俺は身構えながらクソガキテイオーが次に言うであろうめちゃくちゃな台詞を予想する。昨日の続きでゲームセンターでのダンスゲームに付き合わされる?仮にそんなこと言い出したら「捻挫しただろお前」で封殺できる。トレーニングしたいと言い出しても「捻挫してんだろ寝てろ」で封殺できる。大体は「捻挫してるだろ」で何とかなるだろう。

 

(何を言ってこようと問題ない……筈だ)

 

 と思ってはいるのだが、いつも以上に上機嫌な目の前のトウカイテイオーを見ていると無性に不安を煽られて仕方なかった。問題ない、なんて安易に確信を持つことなどできなかった。

 

「オジサン! 今日はさ!」

 

「……なんだ」

 

 そして、トウカイテイオーが遂に口にした言葉は。

 

 

「ボクと一緒にレース見に行こうよっ!」

 

 

「………は、えっ………?」

 

 

 ――俺の予想を軽く越えていった。

 あまりの衝撃に「捻挫してるだろ」という封殺ワードは頭の中から消えていた。

 

 

 電車に揺られること数十分。

 そこから更に歩いて数十分。

 

「着いたぁ〜!」

 

 俺たちは東京レース場にやってきていた。勿論俺は不本意ながら、だ。断ろうにも既にトウカイテイオーは入場券をネット予約していた。何故か俺の分まで。ちなみにトウカイテイオーは現在小学六年生。15歳未満なので当然ながら入場料は無料だ。

 

 ……何?スマホはどうしたって?それなんだがネット予約自体トウカイテイオーの父親がスマホのスペアを使って行ったらしく、二人が旅行に出た後にリビングのテーブルを見遣るといつからあったのかそこにはスマホが置かれていた。しかもそのスマホには付箋がつけられており「テイオーとのレース観戦楽しんできてね!」と無駄に丁寧な字で(俺にとって)理解不能な事が書かれていた。

 

(おかしいな、俺は一言もそんな話聞いてないんだが?)

 

 今日ここで開催されるのは東京スポーツ杯ジュニアステークス。11月後半のジュニア級・芝・1800m(マイル)の重賞レース。

 G1・G2と比べて格は落ちるG3のレースだが、G1・G2のレースに出場するための足掛かりとしてこのレースに担当バを出場させるトレーナーは多い。だから、見てる側として退屈はしないだろう。

 

 しかも、G3のレースなら最近は身分証の確認も行われないために身分証明書を持たない俺でも入場できる。これがG1のような大きいレースだった場合は中々そうはいかないのだが。

 

 またG1・G2のレースの場合、学園に居た頃の知り合いと遭遇する可能性が極めて高いため、今日観に来たのがG3のレースで良かったと俺は心底思っていた。まぁG3だろうがレース場に来た時点で知り合いと遭遇する可能性は高いが。

 

 ……頼むから何事もなく終わってほしい。

 

「もぉ〜オジサン! いつまでも暗い顔してないで行こうよー! レース観てたらきっとすぐに楽しくなるよ♪」

 

(ふざけろっ! んな訳あるか……!)

 

 人の気も知らずにトウカイテイオーは俺の手を引き、ルンルンと上機嫌に鼻歌まで歌い出す始末。そんな俺とトウカイテイオーの気分は全くの真逆に違いなかった。

 

 ちなみに今の俺は昨日と同じくサングラスに金髪のカツラをつけている……これなら知り合いと遭遇してもぱっと見はわからないと思う。あと喋った瞬間にバレる可能性がある点は注意しておかねばならない。

 

(というか、なんでこいつはこんなに元気なんだ?)

 

 レース行こうと言い出してきた時のニコニコ顔もムカついたし「一人で行けよ」と言った俺の胸に飛びついてきて「一緒に行ってくれないと一生離さないもんねー!」とかほざいてきたのもムカついた。要するに俺はここに来るまでそれはもう苛ついていた。

 

「オジサンとレース♪ 一緒にレース♪」

 

 ……だが、ここまで喜ぶ様を見せつけられると一周回って苛つくのが馬鹿馬鹿しくなってきて、俺は溜息を吐くしかなくなる。我ながらコイツの純粋な姿に弱いなと思わざるをえない。

 

「捻挫してるんだ。あんまりはしゃぐなよ」

 

「わかってるよー! あいたたた…!」

 

「…………」

 

 わかってない。全然わかってない。

 上機嫌なまま俺の前を歩いていたトウカイテイオーはスキップをし出した直後、両手で右足を押さえその場に屈んだ。それを見た俺は溜息を堪えて彼女に駆け寄った。

 

(まさか、またレースを観に来る羽目になるなんてな……こいつと居ると何でこうも厄介事が回ってくる?)

 

 トウカイテイオーを背に担ぎ、レース場の入口を見上げてふと思う。

 

(そんなこと考えたって、仕方のないことか)

 

 無駄な思考を止めると同時にレース場を見たせいか胸中に湧いてきた懐かしさに似た?思いもさっさと捨て去り、俺は入口に向かって歩き出した。

 

 ──────────────────────

 

晴れわたる空のもと行われる、東京スポーツ杯ジュニアステークス。13人のウマ娘たちが挑みます

 

 それから何の問題もなく受付を通過し、レース場に着いた俺たちは席に着く。

 

「オジサンオジサン、もうすぐはじまるよ!」

 

「……あぁ、そうだな」

 

 何故か当たり前のようにトウカイテイオーが右隣に座ってこちらの手を握ってることに関しては色々と疑問が残るがこうする事によって周囲から「親戚同士」と認識され、不自然に思われないとも考えられる。

 

(なら、ここは黙って呑み込んでもいいか……)

 

 トウカイテイオーにぎゅっと握られた右手から視線を外し、参加する13人のウマ娘の紹介を聞きながらレース場に注目する。

 

(……まぁ、そりゃいるだろうが……割といるな)

 

 ウマ娘の紹介を軽く聞き流していると、トレセン学園にいた頃に面識のある者の名前が耳に入ってきて「自分は本当にレース場に来てしまったんだな」と再認識する。

 

(あの子たちは……ちゃんと自分の力になってくれる、支えになってくれるトレーナーに出会えたんだな)

 

 それならよかった。本当によかった。

 何様だと思われるだろうが俺は見知ったウマ娘たちがレースに出場していることを、トレーナーに出会えた事実を知って安心感を抱いて。

 

各ウマ娘、ゲートに入り態勢整いました

 

(みんな、頑張っているんだな……ん?)

 

 そして、不意に冷静になった。

 

(なんで俺レース場になんか来てんだ?)

 

 それは勿論、俺がトウカイテイオーの話を聞いて混乱してそのまま流されたからである。

 

スタートです

 

 なんてこちらの心情はお構いなしにレースは始まり、無情にもゲートの開く音が響き渡った。

 

 

 

「ねぇねぇオジサン。オジサン的にはこのレース、誰が1着になると思う?」

 

 レース開始から少し経ってからトウカイテイオーはそんなことを聞いてきた。俺はレース展開を注視しながら「そうだな」と数秒考えてから予想を口にする。

 

「8番の彼女だな」

 

「8番? 8番って今ビリのあのちっこい人?」

 

 トウカイテイオーの言葉にあぁと頷くとすぐに「なんでー?だってあの人ビリだよビリ!それにちっこいし!」なんて騒いできた。ビリってまだレース始まったばかりだろうがと思う。

 

「確かに今はビリだが、レースはまだ序盤も序盤だ。こっから逆転する可能性も道筋もいくらでもある。それと勝敗に体型は関係しない。勝敗に関係するのは個々人の才能と努力と少しの運だけだ」

 

「そうなのー? じゃあさ、なんであの人が勝つと思うの? 理由教えてよ、り・ゆ・う」

 

「理由? 理由は……」

 

 理由を求められて、一瞬目を閉じてかつてトレセン学園で見た彼女の――8番の走りを追憶してから俺は言った。

 

「俺の記憶が正しければ彼女の脚質は追い込み向き。確かに彼女の体型は周りと比べて華奢ではあるが、その末脚、一瞬のキレには目を見張るものがある。それと単純にポテンシャルと根性の高さを考えれば順当にいけば彼女が勝つだろう」

 

 まぁ理由はこんなところか、とトウカイテイオーは目を丸くしていた。思ったより理由が長くて驚いたのか、話が理解できずに驚いているのかは正直判別がつかない。もしかしたらどっちもかもしれない。

 

「へぇー………なんかよくわかんないけど、あの人が見かけによらずすっごく強いんだってのはわかった!!」

 

 人に理由聞いておいてよくわかんないってなんだお前。これだからクソガキはよぉ……と思いながら俺は軽くため息をついた。

 

「まぁ、それだけ理解できれば十分だ」

 

 長々と話したが詰まる所、俺が言いたいのは「あの8番のウマ娘は強い」ということだ。それが伝わったのだからよしとしよう。

 

「……え? っていうかちょっと待って! 今オジサンなんて言ったの!?」

 

「あ? ………何の話だ?」

 

 話が終わったので再びレース展開に注目しているとまた右隣から喧しい声が聞こえてきた。次は肩まで揺らされたので嫌でもそちらを見る。

 

「オジサン今、なんかあの8番の人のこと知ってるみたいに話してたじゃん! あの人と知り合いなの?」

 

「……まぁ知り合いというかなんというか……」

 

 偶然トレセン学園にいた時にちょっと走りを見て、何故かアドバイスを求められたからちょっとアドバイスして、何故か食事する場所が数回被ったから一緒に昼飯を食べていただけ(会話はほぼゼロ)の仲である。しかも昼飯といっても食べていたのはエネルギー飲料にカロリーバーだ。

 

「それ早く言ってよー! よーし! 頑張れぇ8番の人ぉーー!!」

 

 それは聞くとトウカイテイオーはやけにテンションを上げ、応援に入れる熱を更に上げる。どうした急に(困惑)。

 

「おまっ、変に目立つからやめろって! ……はぁ」

 

 言っても聞かないとは理解しつつ俺はトウカイテイオーに呼び掛け、諦めて8番のウマ娘の走りに目を向け、

 

「………頑張れよ、───────」

 

 小さな声ではあるが8番のウマ娘へと細やかなエールを送った。

 

 

 それからのレース展開は8番のウマ娘が残り1000m辺りから脅威的な追い上げを見せ、2番手とその他と大差をつけて1着に輝いた。トウカイテイオーはその結果に大興奮してめちゃくちゃに肩を揺らしてきた。正直鬱陶しかった。俺はまぁ……8番のウマ娘の勝利が見られて普通に嬉しかった。

 

「オジサンよかったねー! 8番の人が勝ってくれてさ!」

 

「お前、喜びすぎだろ……少しは落ち着けよ」

 

 レース終了から数十分。席を立ち出入口へと向かう途中、興奮冷めやらぬといった様子でトウカイテイオーは騒ぎに騒いでいた。というか自分のことのように喜んでいた。

 

「だってオジサンの知り合いのウマ娘が勝ったんだよー? しかもオジサンの予想通りさ! オジサンこそもっと喜びなよ!」

 

 いや喜んでるわ十分。

 トウカイテイオーの言葉にそう思いながら歩いていると、隣にいたトウカイテイオーが「あっ! ボクおトイレー!」なんて思い出したように叫んで駆けていく。女の子ならもっとお淑やかに言えよ、とツッコミながら「まぁクソガキらしいか」とも思いつつ俺はその場でトウカイテイオーを待つことにした。

 

 ――足に何かが絡まったのは、そんな時だった。

 

「? なんだこれ?」

 

 風に吹かれて飛んできたのだろう。足に何かが当たったような感触を覚え、視線を落とせば右足に紙切れのようなものが絡まっていた。試合の観戦後ともなればゴミが散乱するのはレースだけに限ったことではないがポイ捨ては感心しないな……と思いながら俺は紙切れを手に取った。

 

 そして、ゴミ箱へと持っていく前に何の気無しにその紙切れを開き中を見ていた。どうやら紙切れは号外のチラシのようで日付を見ると数週間前、11月前半のレース結果についてでかでかと書かれていた。

 

皇帝、連勝ならず

 

「……………あ?」

 

 一瞬、いや、数秒、その言葉の意味するところが俺には理解ができなかった。

 

 だが、数秒後には嫌でも理解が追いつき、チラシの内容に目が走り俺は知った。シンボリルドルフがジャパンカップにて3着になったこと。連勝記録がストップしたこと。シンボリルドルフが不調なこと。そして。

 

 これらの結果の全てが、姿を消したトレーナーの後を継いだサブトレーナーの実力不足が原因だとマスコミが世間に報道していることを。

 

 瞬間、俺の中で自己に対しての嫌悪がみるみると肥大化していく。

 

(――なんでだ)

 

 考える。

 

(――なんでだ、なんでだ)

 

 考えに考える。

 

(――なんでだ、なんでだ、なんでだ――)

 

 考えに考えて、考えが巡りに巡る。

 

 そもそも何故シンボリルドルフが負けたという事実を俺は知らなかったのか。それは俺がトレセン学園を去って以降レースに興味も関心も持っていなかったから。だが俺はトウカイテイオーの実家で居候になっていた。レースが好きで無敵の三冠ウマ娘を目指す少女のもとで。しかもトウカイテイオーはシンボリルドルフの大ファンだ。そんな彼女の下にいてこの事実を知らずにいられるなんてことありえるのだろうか? いいや普通に考えてありえない。嫌でも耳に入ってくるはずだ。そう思う根拠として俺はトウカイテイオー宅でシンボリルドルフの勝利者インタビューを確かに聞いている。

 

『……ごめん。オジサン。ボクのせいだよね…? ボクがシンボリルドルフさんの――』

 

(…………まさか)

 

 そして、あの時のトウカイテイオーとその両親の反応を思い出す。あの反応を考えるにきっとトウカイテイオーと両親はシンボリルドルフのインタビューを聞いてショックを受けた俺の姿に申し訳なさか何かを感じたのだろう。ならば俺の前ではシンボリルドルフに関するニュース、何ならウマ娘のレースに関する話題なども出さないように配慮してもおかしくはない。今になって思い出してみるとあのインタビュー以降、シンボリルドルフに関する話題は一切耳にしていなかったように思える。

 

 つまり、あの一件からトウカイテイオーとその両親は俺に気を遣って少なくとも俺の前ではレースに関するニュースなどを見ないようにしていたと考えられる。

 

(なんで、なんで、俺は生きてるんだ……?)

 

 それから考えは再びチラシに書かれた内容へ、後輩のサブトレーナーに対する非難の文字へと移り、今まで鳴りを顰めていた自己嫌悪を加速させる。

 

 俺が無責任にも後輩へとトレーナーの座を譲った結果がこれ。後輩に対する非難の数々だ。俺のせいだ。俺のせいに決まっている。もしトレーナーが俺のままであれば、俺が受けていたであろう非難の数々を後輩のあいつが受けている。……いやもしかすれば、

 

(もしも、俺がルドルフのトレーナーのままなら、ルドルフが負けることも――)

 

 とそこまで考えて、自分がとんでもなくバ鹿げたことを考えていることに気付くと同時にあのインタビューがフラッシュバックする。

 

皆、心配をかけてすまない。だが見ての通りだ。私は今までも…そしてこれからも"皇帝"として、絶対の走りをもって勝ち続ける。心配は完全に無用だ。これからも応援のほど宜しく頼む

 

(何を、俺はバ鹿なことをッ………)

 

 俺がいれば彼女は勝てた。違う。そんな訳はない。それはお前の酷い思い上がりだ。そんなことはありえない。それはあのインタビューではっきりしたことだ。今更何を考えているんだ俺は。

 

(………なんで、俺は死んでないんだ?)

 

 急速に冷えてきた頭で考える。俺はなんで死んでいないのか。考えた。俺は確かに死のうとしたはずだ。考えた。死のうとして邪魔が入ったんだ。考えた。誰が邪魔してきたんだ?

 

 考えて、分かった。

 

「――オジサンお待たせ〜!」

 

 後ろから声がして、振り返るとそこにはトウカイテイオーが立っていた。そうだ、俺が生きているのは。

 

「? オジサン、どうかしたの?」

 

 こちらの顔を伺ってトウカイテイオーは不思議そうにこてんと首を傾げて聞いてくる。そうだ、俺が死んでいないのは。

 

 

お前のおかげ(せい)

 

 

 気付いた時には俺はそんな台詞を吐いていて、気付いた時には俺はその場から逃げ出すように走り出していた。

 

 どこに向かうかなんて、そんなことは決まりきっていた。

 





落ちてたチラシ「曇りが晴れる未来が見えなくて読者は不安よな。曇らせ展開、動きます」
カイチョー「おいバ鹿やめろ」

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