帝王と自虐系トレーナー   作:平々凡々侍

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俺達はガキで…何一つ
知らなかったんだよ

ありがたいことにこんな作品を待ってくれている人達がいるなんて知らずにいれば……俺は…

こんな半端な
エタり野郎にならずにすんだのに…

もう俺には…何が正しいことなのかわからん…

ただ…俺がすべきことは
自分のした行いや
選択した結果に対し

作者として
最後まで責任を果たすことだ

※投稿遅くなってすみません(土下座



走って奔って見つけ出して

 

 オジサンとボクが出会ってから大体数週間。

 

 きっとボクはオジサンの気持ちを分かった気でいたんだと思う。

 

『ボクと一緒にレース見に行こうよっ!』

 

 だから、ボクはそんなことを言っちゃったんだ。本当はまだまだ、オジサンのことを分かっていないくせに。

 

 オジサンがシンボリルドルフさんのトレーナーをどんな思いで辞めたのか。真っ暗な海に向かってどんな思いで歩いていたのか。初めて会った時ボクのことをどんな思いで見てたのか。灯台の上からどんな思いで落ちたのか。ボクにトレーナーになってほしいって言われてどんな思いで断ったのか。風邪を引いたボクを置いて行かずにどんな思いで傍にいてくれたのか。一度は断ったボクのお願いにどんな思いで臨時だって言ってくれたのか。テレビでシンボリルドルフさんのあのインタビューを聞いてどんな思いで泣きそうな顔になっていたのか。それからそれから………分かってないことなんて数えきれないほどあった。

 

 悲しそう。苦しそう。なんだかんだすっごく優しい。

 ボクがオジサンのことについて分かっていることなんてそれくらい。だってオジサンは一々説明なんてしないから。それにボクだって心のどこかでオジサンの心にもう一歩深く踏み込みたい、詳しく話を聞いてみたいと思っていたけど……それをしたら今のボクとオジサンの関係が全部ダメになっちゃう気がして。またオジサンが初めて会った時みたいにふらっと自分の命を投げ出しちゃうんじゃないかって。そうなるのが怖くてその「一歩」がずっと踏み出せなかった。ずっと足踏みしていた。

 

 ボクは思い込んでた。

 オジサンはもう大丈夫だって、勝手に。

 

「お前のせいだ」

 

 あの日、薄っすらと微笑んだオジサンにそう告げられた時になって、ボクは今更そんなことに気付いたんだ。

 

 お前のせいだ。

 その責めるような言葉とは裏腹にオジサンの声はボクが風邪を引いた時に掛けてくれた声みたいにどこまでも優しくて。

 

『お前のおかげだ』

 

 そう言っているような気がしてならなくて。そう思うと途端にオジサンの浮かべた表情が、見ていて不安になった。

 

「っ、お、おじ……」

 

 だからかな。ボクの声が震えて上手く出なかったのは。

 思わず一歩踏み出してオジサンに近付いて、すぐ近くにいる筈なのにまるで遠くにいるように見えて……手を伸ばした。

 

 でも、ボクが伸ばした手はオジサンに届かなかった。

 

「! オジサン……うわっ!?」

 

 届くより先にオジサンはボクに背を向けて走り出していた。ボクはすぐにその後を追いかけようとして、ボクの足は上手く動かなくて転んだ。捻挫をしていたから……きっとそれが一番の理由で、だけど転んだ理由はそれだけじゃない。

 

 ボクはオジサンの言葉に、顔に、声に、初めて会った時のことを、初めて会った日に目の前で起きたことを思い出して、不安で怖くなって、足にうまく力が入らなかったんだ。

 

 そんな風にボクが怖がって足踏みしてる間にもオジサンの背中は遠くなって、遂には人混みの中に紛れて見えなくなった。

 

(こ、怖がってる場合じゃない! 痛がってる場合じゃない! 動け! 動けボクの足!)

 

 微かに震える自分の太ももを叩いて起き上がったボクは自分に言い聞かせ、オジサンの消えた人混みの中に飛び込んだ。もうオジサンに会えなくなる、何故だか無性にそんな気がしてならなくて。

 

 それからボクはオジサンを探した。道にいた人に「金髪でサングラスをした男の人見ませんでしたか?」「あ、もしかしたら黒髪でサングラスも外してるかもしれないんだけど…」なんて聞いて回って、また走って走って走りまくった。最初は捻挫の痛みに上手く足が動かなかったけど段々と痛みなんて気にならなくなっていた。だけど一向にオジサンは見つからない。オジサンの外見的特徴はあくまでありふれたものだし、オジサンの行き先に関して何の手掛かりもなしなんだからそれは当たり前といえば当たり前だったけど。

 

 オジサンを探してレース場を飛び出して、それなりの距離を走ったボクは途中にあった川沿いの道で一度足を止める。

 

「はぁ、はぁー……うん、ちょっと考えよう」

 

 無闇に探してもオジサンは見つかりっこない。一旦落ち着けボク。そう暫く走ったボクは肩で息を息をしながら自分に言い聞かせるように言って、ザーッと流れる川を見つめ音を聞きながら落ち着いて考えてみた。オジサンとボクはレース場まで電車に数十分乗って、そこからまた数十分歩いて来た。それと行きと帰り用の電車賃が入った財布はボクが持ってるからオジサンは電車には乗ってないはずで。ならウマ娘じゃないオジサンならそこまで遠くには行ってないはず……?とボクは考えてすぐにいやいやと首を横に振った。

 

(オジサンってば、ちゃんと動けるし……)

 

 ダンスゲームでの華麗な動きを思い出し、オジサンの運動神経ならかなりの速さで走っていけるんじゃ……?と思ってしまった。

 

「うぅ……全然わかんないよぉ〜!」

 

 考えた結果、やっぱりオジサンの行き先はその手がかりすら思い当たらなくてボクは思わず頭を抱えて叫んだ。どうしようどうしよう!?このままじゃオジサンが死んじゃうかもしれないのに……!別れ際のオジサンのどこかに消えてしまいそうな、見ていて不安になる笑みが頭に浮かんでボクは焦った。

 

「………あ」

 

 そこでボクは閃いた。というか思い出した。

 

「そうだスマホだ! オジサン持ってたじゃん!」

 

 朝レース場に向かう前にオジサンは確かパパがオジサンの為に置いていったスペアのスマホを持っていたことを。そのスマホでレースの入場券を予約してレース場に入る前にも受付で見せてたから間違いなく持ち歩いてるはずだということを。それでスマホには確か位置共有っていうのがあってこれを使えばオジサンの居場所も………

 

(こんなこと思いつくなんて、ボクってばやっぱり天才かも!)

 

 そう思ってボクは自分の天才っぷりにニヤニヤしながら早速オジサンの現在位置を調べようと思い、ポケットの中にある財布とは別の重みに今更気付いた。

 

「…………」

 

 取り出してみるとそこにあったのは紛れもなくパパのスペアのスマホ。それを目にしてボクはまた思い出した。オジサンが受付を終えてからすぐにボクにスマホを渡して来た時のことを。

 

 ………っていうかそもそもボク防犯用にってキッズケータイは持ってるけどまだスマホ買ってもらってないじゃん!

 

「うわぁー!? ど、どうしよぉー!?」

 

 ボクはもうすっかりお手上げ状態だった。

 

 そして、そんな時、

 

「ーー君、大丈夫かい? とても困ってる様子だが」

 

 なんて声を掛けられて、その声に顔を上げたボクは思いもよらない人の顔を見て目を見開いた。

 

「! し、し、シンボリルドルフさんっ!?」

 

 そこにはボクの憧れのウマ娘が立っていた。

 

 ───────────────────────

 

「如何にも私はシンボリルドルフだが………」

 

 シンボリルドルフさんは驚いて固まるボクの顔を少し見つめてから、

 

「君はトウカイテイオーだね? 久しぶりだな」

 

 ボクの頭にポンと手を置いて名前を呼んでくれた。その姿は前にレース後で見た勝負服と違って制服姿。でも服装が違くてもやっぱりシンボリルドルフさんはカッコよくてボクはちょっと見惚れちゃった。

 

「! ぼ、ボクのこと覚えててくれたの? で、ですか?」

「あぁ、勿論覚えているとも。日本ダービーの時に会いにきてくれただろう?」

 

 憧れの人が自分のことを覚えていてくれた。その事が嬉しくてボクは思わず嬉しくなって友達口調になっちゃったけどすぐに敬語に直した。だけどオジサンのことを思い出してその嬉しさはすぐに薄れていった。

 

「それで先程は随分と困っていた様子だったが……何かあったのか? 私で力になれることなら喜んで手を貸そう」

 

「! ほ、本当!? な、ならーー」

 

 シンボリルドルフさんからの提案にボクはすぐにオジサンのことを伝えて一緒に探すのを手伝って貰おうと思った。シンボリルドルフさんなら元トレーナーだったオジサンの特徴だって分かってるだろうし、ボクが知らないようなオジサンが行きそうな場所なんかも知ってるかもしれないから。

 

『皆、心配をかけてすまない。だが見ての通りだ。私は今までも…そしてこれからも"皇帝"として、絶対の走りをもって勝ち続ける。心配は完全に無用だ。これからも応援のほど宜しく頼む』

 

 でもそう口にしようとした途端、前にテレビで見たシンボリルドルフさんのインタビューでの台詞と、

 

『………………ハハ』

 

 それを聞いたオジサンの泣きそうな顔がボクの頭に妙にくっきりと浮かんで、気付いたらボクの口は動いていた。

 

「あの、シンボリルドルフさん」

 

「? なんだい?」

 

「シンボリルドルフさんは、その………」

 

 ボクはシンボリルドルフさんにオジサンのことを聞こうとした。オジサンがいなくなって平気なのかとか。オジサンに戻って来て欲しくないのかとか。なんでオジサンを傷つけるようなことを言ったのか。聞きたいことはたくさんあったから。

 

「そ、その……っ……!」

 

 だけど、ボクの口からそれらの言葉は出そうで出なかった。どうしてかはボク自身わかってた。

 

「? どうかしたかい?」

 

「っ、ご、ごめんなさいっ! ボク今急いでて……失礼します! こ、これからもレース頑張ってください!」

 

 もしもオジサンがいなくなっても平気だとシンボリルドルフさんが言ったら。

 もしもオジサンに戻って来て欲しくないとシンボリルドルフさんが言ったら。

 もしもオジサンが嫌いだからわざと傷つけるようなことを言ったのだとシンボリルドルフさんが言ったら。

 

 ボクはきっと、シンボリルドルフさんが嫌いになる。それがボクは怖かったんだ。だからボクは失礼だとは分かっていたけど声を上げてバッとお辞儀してから逃げるようにシンボリルドルフさんに背を向けて再び駆け出した。後ろから声が聞こえたけどボクはもう振り返らなかった。今のボクには憧れの人と話すことよりもオジサンと会ってやらなくちゃならない大事なことがたくさんあるんだ!

 

 シンボリルドルフさんよりもそのトレーナーだった人……オジサンが大事だなんて、オジサンに会う前のボクが聞いたら絶対信じないだろうなって思う。きっと「シンボリルドルフさんじゃなくて、そのトレーナーが大事ってウマ娘じゃなくてトレーナーのファンなパパじゃあるまいしー……変なのぉ〜!」とか言っちゃう気がする。

 

 でも、この気持ちは嘘じゃない。絶対に。

 

『……おじさんじゃない。お兄さんだ』

 

 初めてオジサンと会った時を思い出してボクは思った。オジサンに会いたい。オジサンと話したい。オジサンのことをもっと知りたい。

 

『……どうせ俺なんか……』

 

 初めてオジサンと会った時、真っ暗な海に真っ逆さまに落ちていく前に見えたオジサンの寂しそうな後ろ姿と零した声がボクの頭を過った。そうだ、ボクは……ボクは……

 

(オジサンを助けたい! オジサンの力になりたい!)

 

 それがボクのホントの気持ちなんだ。

 

 ───────────────────────

 

「っ、オジサン……! オジサン……!!」

 

 走る。走る。走る。走る。走る。

 オジサンのことだけを思ってひたすら走る。どこに向かえばいいかも分からないまま走る。今までここまで全力で走り続けたことなんてないってぐらいの距離を駆け抜けて、ズキズキと足から感じる痛みも気にせず走り続ける。気付いたらボクはあの(・・)場所に着いていて。空はすっかりオレンジ色に染まっていた。

 

 気付いたらボクはある場所に辿り着いてた。前に来たのはたったの数週間前だったけど、何故だか前に来たのがとっても昔のことのように思える場所。そう。あの灯台の前だ。オジサンがここに来ているなんて確証はこれっぽっちもない。ただこうしてここに来てみると不思議と「ここしかない」と思えた。

 

 ボクは前にはなかった黄色のテープを潜って灯台の中に入った。中はパッと見ると前来た時と何も変わってないようだけどよく見ると前来た時には転がっていた空き缶などのゴミが明らかに減っていた。そんなちょっとした変化に内心首を傾げつつ、ボクは急いで階段を駆け上がって。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……オジ、サンっ」

 

 息を切らしながらも一生懸命声を上げた。

 

「ーー……テイオー、か」

 

 ボクの声を聞いた夕焼けに照らされた海を見つめていた人ーーオジサンはゆっくりとボクの方を肩越しに振り返る。その顔は夕焼けを見てる筈なのに初めて会った時みたいに暗い。

 

「……何しに来たんだ?」

 

 どこかバツが悪そうで、その声がボクには何だか震えているように聞こえて、

 

「何って、迎えに来たに決まってるじゃん!」

 

 ボクは思わず声を上げて思った。

 

 きっと、ここが正念場だって。

 





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