帝王と自虐系トレーナー   作:平々凡々侍

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激しい「喜び」はいらない…
そのかわり深い「絶望」もない………
「植物の心」のような人生を…
そんな「平穏な生活」こそわたしの目標だったのに………

『ウマ娘プリティーダービー』
プレイする者を喜ばせ、わたしの財布を破壊する「能力」があるッ……!


ボクとオジサンの出会い!

 "皇帝"シンボリルドルフを初めて見た日の事をボクは今も鮮明に覚えている。

 

シンボリルドルフ! 今ゴールイン!

 

シンボリルドルフ、無敗で二冠を制しました!

 

 観客席に向けてあの人ーーシンボリルドルフさんは右手の指を二つ、ピースする様に立てて天に掲げた。その「二冠を制した」というパフォーマンスにレース場全体が更に沸いて大きく揺れた。その時の音はホントにスゴくて……あまりの音にボクが思わず耳を塞いじゃうくらい大きかった。

 

 それから、レース場に集まった人の注目がぜぇーーんぶ、シンボリルドルフさんに集まって。シンボリルドルフさんだけ(・・)を見てた。

 

 それだけシンボリルドルフさんの走りは強くて、速くて、何より最高にカッコよかったんだ!

 

『すっごいや……あれが、シンボリルドルフ……!』

 

 ーーだからボクは憧れた。

 あんな風にたくさんの人に注目されて、みんなに「カッコいいー!」って言われるぐらいに強くて、速くて、凄い走りができるようになりたいって。

 

 それでボクはシンボリルドルフさんにこう言ったんだ!

 

ボクは、シンボリルドルフさんみたいな、強くてカッコいいウマ娘になりますっ!!

 

 次の日からボクはシンボリルドルフさんが出る試合は毎回欠かさず観に行くようになって、テレビとか本とかを見て読んで、走り方について自分なりに勉強するようになった。ボクは小学生だから、シンボリルドルフさんみたいになるにはまだ時間がかかるかもしれないけど……。

 

 少しでも早くシンボリルドルフさんみたいにカッコよくなりたくて、自分でトレーニングなんかも考えて始めたりしたんだ! ……走るペース配分とか、トレーニングで走る距離はどれぐらいがいいのかとかはボクもまだよくわかってないんだけど……。

 

 

 

菊花賞を制したのは"皇帝"シンボリルドルフ!!!

 

 

見事三冠達成! 無敗の三冠達成だ!

 

 

今ここに最強のウマ娘が誕生しました!!!

 

 あれからまた少し経って、遂にシンボリルドルフさんが三冠をとった! それも「無敗」の三冠! ずっと1着で、誰にも一度も負けなかったんだ! すごいでしょ!

 

 ーーボクはその日の帰りはもうウッキウキだった。

 

 

 

 

 

 

 そして、シンボリルドルフさんの三冠達成の翌日の事。興奮がまだ全然冷めなくて、夜にパパとママに内緒でランニングしていたある日……

 

「どうせ俺なんか……」

 

 ボクは砂浜で、ネガティブな事を言ってるオジサンに出会ったんだ。

 

 最初は声を掛ける気なんてなかった。

 だけど、どうしてかボクにはその後ろ姿がすっごく小さくて、目を離すと消えちゃいそうな……そんな風に見えちゃって、

 

「ねぇねぇオジサン、こんなところで何してるの? 秋の…それも夜の浜辺にそんな薄着でいたら風邪引いちゃうよー?」

 

 ーー気付いたら声を掛けていた。

 

「……おじさんじゃない。お兄さんだ」

 

 少しの間を置いて振り返ったオジサンは不機嫌そうな顔でそう言った。

 

(あれっ? この人って……)

 

 こっちを振り返ったオジサンの顔……ボクには見覚えがあった。

 どこで見たのか思い出そうとして、すぐにわかった。

 

 シンボリルドルフさんの試合や雑誌を見ていて時々、目にしたことがある顔……

 

(一瞬わかんなかったけど……このオジサン! シンボリルドルフさんのトレーナーだぁ!)

 

 そこに居たオジサンはシンボリルドルフさんのトレーナーだった。

 

 雑誌とかにシンボリルドルフさんと一緒に写っていた時はパリッとしたスーツを着てて、すっごくマジメそうな人って感じだったのに……今ボクの目の前にいるオジサンは白いTシャツ一枚の上にボロボロの黒いコートを羽織って、下も黒いズボン。目も暗くて何だか濁ってるみたいに見える。

 

 これがこの人のプライベートの姿なのかな?なんて思いもしたけど、流石に服装も雰囲気も別人過ぎるよね。

 

「ふ〜ん。それでオジサンはここで何してるの?」

 

 何があったのかは知らないけど、とりあえず話してみよっかな?とボクはオジサンに問いかけた。だけど、

 

「…………」

 

「オジサ〜〜ン? 聞こえてる? もしもーし?」

 

「………………」

 

 えっ、も、もしかしてこれって無視ぃ?!

 オジサンはボクにこれっぽっちも反応を見せず、それどころか目の前に回り込んでも目すら合わせようとしない。謂わゆるガン無視ってヤツだよねコレ!?

 

(むむむ……! そっちがその気ならこっちだって、意地でも無視できないようなこと言ってやるぅー!)

 

 一時はオジサンの予想外の行動(無視)にびっくりしたボクだけど、すぐに切り替えてオジサンの周りを回りながらーーオジサンが言われたら嫌だろうなぁと思う言葉を口にする。

 

 

「オジサン! オジサーン! オジーサン!」

 

「オジサン! オジサン! オジサン! オジサン! オジサン! オジサンサン!」

 

 巧くステップを踏みながら、歌を歌うみたいにリズムをとりながら「オジサン」と連呼するボク。オジサンの顔を見れば最初は無表情だったけど、だんだん頭がピキピキッてし出して怒り出してるのが分かって、

 

「………はぁ、しつこいなお前」

 

 やっとオジサンは返事をした…ボクの勝ちってことだね!

 

「あっ! やっと返事した〜! ブーブー、ボクを待たせるなんてオジサン何様なのさ」

 

「その台詞そっくりそのまま返すぞ。お前は何様だ?」

 

「ボク? ボクはトウカイテイオー! 近々、無敵の三冠ウマ娘になるテイオー様だー!」

 

 その後、ボクはオジサンに自己紹介して、オジサンと少し喋ったんだ。オジサンは今の暗い?見た目からは想像できないぐらい…思っていたよりも普通にボクと話してくれた。

 

 ……その目には光がなくて、ずっと暗かったけど……

 

「というか、こんな時間まで子供が一人でランニングなんかするんじゃない。最低でも二人以上、保護者同伴でしろ。分かったな? 分かったならさっさと帰れ」

 

「なぁクソガキテイオー。今は19時だぞ? もう外は冷え切って暗いし……さっさと家に帰った方がいいんじゃないか? きっと親御さんも心配してるだろう」

 

 オジサンはボクとの会話の短い間に、二度にわたってボクに帰るように言ってきた。その言葉の端々に何というか優しさのようなものが見え隠れしていて、見た目は何だか怖いけど「あ、この人いい人だ」って思った……でもそれだけじゃなくて、オジサンの声は優しいと同時に何だか怒ってる?ようにも聞こえた。

 

「優しい」って感じるのに「怒ってる」風にも感じるなんて、何だかおかしいよね?

 

「それよりオジサン。さっきからボクに帰れ帰れ言ってるけど…何でそんなにボクに帰って欲しいの? ……あ、分かった! さてはオジサン何か悪い事しようとしてるんでしょー!」

 

 ボクはこう考えた。

 オジサンがボクに帰れ帰れって言うのはきっと、ボクにここに居られると何か困る事があるんだって!

 

(ふふふ、やっぱりボクって天才だぁ!)

 

 ボクはボクの考えを信じて疑わず、オジサンの言葉を待った。

 

「悪い事なんてする気はない。ただ大人として、子供であるお前の心配をしてやってるだけだ。……分かったらさっさと帰れ。風邪引くぞ」

 

「最初にも言ったけど、オジサンもそんな薄着じゃ風邪引くよー?」

 

「……引く前に帰る」

 

 オジサンはそれだけ言うと「しっしっ」とボクを払うみたいに手を振って歩いて行く。

 

「……そっ、わかった! じゃあボクは帰るけど、オジサンも夜遅くまで遊んじゃダメだよ〜?」

 

「……お前が言うな」

 

「ボクを遊んでたんじゃなくてトレーニングしてたのー!」

 

 ボクはそんなオジサンの背中に手を振ってから、パパッと砂浜から歩道にまで出てーー帰るみたいに(・・・・)走って、

 

(ふっふっふ……なぁんて、ボクがこのまま帰るわけないじゃん! オジサンが何するのかは知らないけど、すっごい怪しいし、ボクが突き止めてやるー!)

 

 すぐ近くにあった木の陰に隠れて、ちょっこっと顔を出す。オジサンは暫し何かを見て足を止め……再び歩き出した。

 

 カバンも財布もその場に置いてあるのに、一度たりとも振り返る事なく。

 

「オジサン、ボクのこと子供扱いしておいてぇ……忘れ物してる自分だって子供じゃん!」

 

 全くしょうがないなぁ、と呟きながらボクは砂浜に放置された財布をカバンの中に入れて背負う。砂浜だと隠れられる場所がないから、また歩道の方に移動して…木の陰からまた別の木の陰に移動してオジサンについていく。

 

 オジサンを見失わない距離で、オジサンにバレない距離でついていくのは中々難しかったけど途中からボクは楽しくなってきていた。

 

(……オジサン、どこに向かってるんだろ?)

 

 歩き出したオジサンは本当に一度たりとも振り返らず、ズンズンと前だけを進んでいき……オジサンはある所で足を止める。

 

「ここって……」

 

(灯台ってやつ、かな?)

 

 そこにあったのはパッと見て「古い」と感じられる建物…寂れた灯台だった。オジサンは少し灯台を見上げてから、中へと入っていく。

 

「うっ……うぅ……く、暗いよぉ〜……」

 

 ボクはオジサンが入って行ってから、暫くの間足踏みしていたけど…強い好奇心に従って踏み出した。

 

(べ、別にぃ〜? こ、怖くなんてないけどねぇ!?)

 

 心の中で誰に対してのものなのか、言い訳をしつつボクは再びオジサンを追う。灯台の中は狭くて、暗くて、ゴミも沢山落ちてたけどオジサンはそれを気にする素振りすら見せず階段を上っていく。ボクも足音を立てないよう…慎重に階段を上る。

 

 でも、歩道からオジサンについていく時とはまたちょっと違くて…隠れられる場所がほぼなくて、距離感が上手く分からなくなって……

 

「…………っ!」

 

(あっ!)

 

 オジサンは足を止め、後ろを振り返った。

 ボクは咄嗟に階段を数段下りて、陰でしゃがみ、

 

「ーーにゃ、にゃあ〜〜」

 

 咄嗟に猫の鳴き声を真似て、言った。

 

(お、お願いっ! バレないでぇー…!)

 

 神様に祈る気持ちでボクは目を閉じてオジサンにバレない事を願う。……内心ちょっぴり「なんでボク隠れてるんだろ…?」とか思いもしたけど、本気で願った。

 

「………何だ、ただの猫か」

 

(………わあああっ! やったあああーー!!)

 

 そんなボクの願いが神様に届いたのか…オジサンはボクの猫の鳴き真似にバッチリ騙されてくれて、再び階段を上っていく。ボクは心の中で喜びのあまり叫んじゃった。

 

 そして、

 

 

「ーーーーーー」

 

 とうとうオジサンは灯台のテッペンに到着し、そこから見える景色を見渡す……でももう外は真っ暗で景色なんてなーんにも見えない。オジサンはこんなのを見に来たのかな? 変なの〜。

 

 そんな事を思いながらボクが陰から顔だけを出して見ていると、オジサンは何故か手摺りを跨いだ。

 

(……えっ、な、何してるのオジサンっ!?)

 

 その行動の意味がボクには最初理解できなくて、真っ暗で景色がよく見えないからもっと近くで見たかったのかな?とか、スリルを味わいたかったのかな?なんて考えた。

 

 でも、その考えは全部間違っていたって……次にとったオジサンの行動を見てボクは漸く理解した。

 

「……どうせ俺なんか……」

 

 真っ暗な空を見上げ、真っ暗な海を見下ろし、最後にそう零したオジサンは消えた

 

 否ーー海へと向かって真っ逆さまに落ちていった。

 

 

 

 

 

「………………ぇ」

 

 何が起きたのか一瞬本当にわからなかった。

 落ちた?オジサンが?なんで?

 それから突然の事態に混乱するボクの正気が戻ったのは、下から聞こえたバシャンという大きな水飛沫の音が聞こえてからのことで、

 

「! オジサンっっ……!」

 

 気が付いたらボクはカバンをその場に放り捨てて、オジサンを追って海に飛び込んでいた。濡れるからヤダ、寒いからヤダ、高いからヤダ、そんなことを考えてる余裕はなかった。

 

(っ、このぐらいへっちゃらへっちゃら!)

 

 海に飛び込んだ瞬間、ウマ娘のボクでも多少の衝撃があったけど……このぐらいどうってことない。

 

「オジサーーンっ!!」

 

 叫んで呼んだけど、返事はない。

 慌ててボクは海に潜って、オジサンを探した。探して、探して、探して……どんどん下に沈んでいくオジサンを見つけた。ボクはすぐにオジサンの所に潜って行って、その腕を離さないようにしっかりと掴んだ。

 

 

 

 

 

「ねぇ! ねぇ!! オジサン! 起きてっ!!」

 

「…………………」

 

 ボクはウマ娘だからオジサンを背負って泳ぎ、陸に引き上げることぐらい難なくできた。だけど、ボクが何度呼びかけても横たえたオジサンはうんともすんとも言わない。最初にあった時のガン無視とは訳が違う…本当の無反応だった。

 

(どうしよう…! こ、このままじゃーー)

 

 ーーオジサンが死んじゃう。

 救急車を呼ぼう、と思ってもボクはまだ携帯なんて持ってないし、オジサンの服のポケットなんかを探っても携帯はどこにもない。それにここの近くには病院なんてない。

 

 そんな風にオジサンを助ける術を模索していたボクは………ふと思った。

 

「……あれ、ボク、なんでこんなに必死になってるんだろ……?」

 

 どうしてボクはオジサンを必死に助けようとしてるんだろ?って。

 

(人が目の前で死ぬのが嫌だから?)

 

 人が死ぬのなんて見たくないのは勿論だけど……ううん、きっと違う。

 

(オジサンが、シンボリルドルフさんのトレーナーだから?)

 

 ………うん、それも(・・・)あるかもしれない。オジサンのことが気になって、ここまでついてきた理由の一つとしてそれは間違ってないと思う。シンボリルドルフさんのトレーナーじゃなかったらボクはここまでオジサンに興味は持たなかった。

 

 でも、きっと違うんだ。

 

『悪い事なんてする気はない。ただ大人として、子供であるお前の心配をしてやってるだけだ。……分かったらさっさと帰れ。風邪引くぞ』

 

 "悪い事"なんてする気はない。

 確かにオジサンはそう言った。

 なのに今オジサンは……自殺、しようとしたんだと思う。

 それが許せないって思った。それに「シンボリルドルフさんのトレーナーなのに何やってるのさ!」という気持ちも勿論あった。

 

 だけど何より「いい人」が死ぬのがボクはイヤだったんだと思う。

 

(オジサンが……何でこんなことしたのかなんて、ボクにはわかんない! さっぱりわかんないよ! だけど!)

 

 ほんの数分の会話だったけど、オジサンが「いい人」なんだって事はわかるんだっ! だから死なせたくない! だから助けたい! この行動はそんな単純な話なんだ。

 

 

オジサンは死にたかったのかもしれないけど、ボクが絶対に! 死なせてなんてやるもんかっ……!!

 

 

 ボクはその強い決意を胸に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識のないオジサンに口を合わせ、息を送った。

 




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キャラ紹介
・トウカイテイオー
本作のたぶん相棒枠?
自虐系トレーナーとは真逆ともいえる、明朗快活な自信家ウマ娘。
シンボリルドルフに憧れて色々調べる中でシンボリルドルフのトレーナーとしてちょくちょく同じ雑誌に写っているオリ主の事を知っている。オリ主本人に会うまでは「シンボリルドルフさんだけ写してよ、オジサン邪魔!」とテイオーは思ってました。

ちなみにテイオーがいなかった場合、自虐系トレーナーはそのまま逝って物語がそもそも始まらないので本作のMVPはテイオーで間違いない!
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