ありがとう 読者・評価者のみんな
本当に…
……本当に……
「ありがとう」…
それしか言う言葉がみつからない…
※少し台詞修正しました。
とびきりの茶番を見せられていた。
『ーーダメだ、こんなトレーニングメニューじゃ……! 彼女は他のウマ娘と比べて格段にレベルが高い。今まで俺が担当してきたウマ娘達のトレーニングより…もっとレベルの高い、尚且つ効率の良いものを考えないと……』
「……………」
そこには男がいた。
白のワイシャツにパリッとした黒いスーツを着用し、真剣な表情でカタカタとパソコンのキーボードを打ちながらトレーニングメニューを入力し…削除。再び入力し…また削除。それを何度も繰り返していた。
『先輩、最近ちょっと根詰め過ぎじゃないですか? 昨日も夜遅くまで残ってましたし…今日は早めに帰ってーー』
『ーーいやダメだ。彼女のトレーナーとして、俺が彼女に苦労をかける訳にはいかない。それに新しいトレーニングメニューの作成にもう何日もかけてしまっている……これだけは何としてでも今日中に完成させたいんだ』
仕事をする男を「先輩」と呼び慕うもう一人の男。
後輩のサブトレーナーは男の体を気遣って帰るよう提言する。しかし、言われた男の方は首を横に振り仕事をする手を止めない。
男には明らかな疲れが見えたが、その目には
『……はぁー。ホント仕方のない先輩ですねぇ…わかりました。今日は俺も一緒に残ります! だから明日"皇帝"に最高のトレーニングメニューをお披露目してやりましょう』
『……ふっ、ありがとう。俺は本当に出来のいい後輩を持った』
『バカなこと言ってないでやりますよ先輩………そりゃこっちの台詞ですよ』
男はそんな光を持ったまま、
「…………
ーー場面が切り替わる。
『ーーダメだ…馬鹿かお前は? こんなレーススケジュールじゃ彼女への負担が大き過ぎる……試合へのモチベーションも落ちてしまう』
そこにはまた、あの男がいた。
最初に見た時に比べて少し乱れた髪やスーツが目立つが、男はまた別の仕事……レーススケジュールを組んでいた。よく見れば部屋も先ほどと比べて僅かに散らかっている。
先程と違い側に後輩の男はいない。
それもその筈だ。男は後輩には「早めに帰る」と伝えていた。
この頃から、この無能は他者に頼らなくなった……いやそれ自体はいい変化に違いない。何せ自分の身の程を理解し始めた訳なのだから。
しかし、まだその目には微かな光があった。辛うじて残った希望に縋り、もっと努力すれば自分は彼女の力になれると信じようとしていた。
『彼女の適正に合い、彼女の希望を取り入れ、彼女に最適なスケジュールを組まなければ……』
苦しそうにしながら、それでも男は無駄な努力を続ける……俺にはこれ以上見ていられなかった。そして、
「……
また場面が切り替わりーー雰囲気は一変する。
「………ここは………」
気付けば俺は狭い足場に立っており、辺りは火の海に包まれていた。まるで地獄の様な場所だが…状況を確認するために俺は周囲を見渡し
またもや、その男を見つけた。
「ぐ……ッ、何でだ……?」
男は狭い足場で膝を崩し、頭を抱え、苦しそうに喘いでいた。
あまりに滑稽でお似合いな姿に俺は侮蔑の目を送る。
「彼女は勝った……勝ったんだ! 俺の担当するウマ娘が…ルドルフが勝ったんだぞ? それもここまで無敗で二冠まで達成したッ! 三冠まであと一つ! 最高じゃないか…! ……なのに、何で、こんなにも苦しいんだ?!」
男は叫んでいた。
男は嘆いていた。
男は泣いていた。
あぁ、その全てが酷く恨めしく憎らしい。
お前なんてさっさと■んでしまえばいい。
そう本気で、心の底から思える。
「………何で苦しいか、教えてやろうか?」
俺は足場に倒れて涙を流す男に歩み寄り、
「! うぐッ……!?」
片手で男の肩を掴みこちらを向かせ、両手でその胸倉を掴んで力づくで立たせーーその耳元で
「お前がそんな苦痛を感じるのは」
「ッ」
「お前が彼女にとって不要な存在だからだ」
そして、俺は男の胸倉から手を離し
「■ね」
一切の躊躇いなく男を火の海へと蹴落とした。
火の海へと落ちた男は焼かれながら、必死に手を伸ばして踠く。その目には尚も光が揺れている……俺はそんな男にトドメをさした。
「ーー安心しろ。お前が居ようが居なかろうが……これからも彼女は……"皇帝"は勝ち続ける」
目が開き、最初に目に映ったのは見覚えのない天井だった。
「………っ………?」
(……はぁ……夢か)
心底残念に思いながら俺は体に感じる鈍痛に顔を歪める。頭の下には枕がある、体には布団が掛かっていた。どうやら俺はベッドの上に寝かされていたらしい。
(ここは……?)
俺は続ける冷静に状況を把握しようとして、顔を上げ、
「ーーすぅ……すぅ……すぅ……」
「………子供?」
ーー俺に掛けられた布団。その上に覆いかぶさる様にして規則正しい寝息を立てている子供……いや、トウカイテイオーの姿を見た。
(そうだ、俺は海に落ちて逝こうとした)
そして、トウカイテイオーの存在のお陰ですぐに自分が何をしようとしたのかを思い出す。同時に幾つかの疑問が生まれる。
(何で死に損なった?)
まさか、このクソガキに助けられた?
俺は確かに海に落ちれた筈だが……あの状況からどうやって? というかトウカイテイオーは俺が灯台を見つける前に家に帰っていってなかったか……?
(ここは何処だ?)
俺が寝かされていたこの部屋には本棚やソファ、タンスにクローゼット……ぱっと見て生活感が感じられる物が置いてある。見るからに病院ではない。
そんな思考をしていた時、コンコンコンというノックの音が三度部屋に響き、
「…………」
「ーーあっ、起きられましたか?」
エプロンを着た女性が部屋のドアを開け、ちょこんと顔を出してこちらを見ていた。
「……あなたは?」
「私はテイオーの母の──と申します」
「……どうも」
俺の様子を伺いながら部屋に入ってきた女性はトウカイテイオーの母親だと名乗る。とするとトウカイテイオーとその母がいるここは、
「ここは私たちの
「……どうして病院ではなく自宅に?」
「それはここら辺は近くに病院がなくて……一番近くの病院に行くにも車で二時間ちょっとかかるんですよね」
トウカイテイオーの実家、ということか。
病院でなく自宅に運ばれてきた理由にそこそこ納得しつつ…俺は一度だけすぐ近くで寝息を立てるトウカイテイオーへと視線を下ろし思った。
どうしてお前は、俺を助けようと何かしたんだ?と。
「あなたは体調の方は大丈夫ですか? どこかが痛いとか、あったりしますか? あとご自身の名前などは……」
「体調の方も記憶の方も大丈夫です……心配をかけて、申し訳ありません」
「いえいえ、気にしないでください。思ったより元気そうでホッとしました」
その後、彼女は水の入ったコップを俺に手渡し、この状況に至るまでの経緯を一部ではあるが語ってくれた。
「この子、あなたをここに連れてきてからずっとあなたの側から離れようとしないで……どうしてかって理由を聞いたら『絶対死なせないって決めたからっ!』の一点張りで」
「……………」
「……できたら、娘が起きたら一言だけでいいので『ありがとう』って言ってあげて下さい。きっとそれだけでこの子はすっごく喜ぶと思いますから」
「……あの、ちょっと待ーー」
俺の制止の言葉が聞こえていなかったのか、或いは聞こえていたが敢えて無視したのか……彼女はさっさと部屋を後にしてしまう。
対応が予想以上にあっさりで俺は瞬きを数度繰り返し、暫く困惑していた。娘が連れ帰ってきた不審な男……トウカイテイオーの母である彼女にとって今の俺の存在はそんな物の筈だ。何故、もっと色々と俺に聞いてきたりしないのか? というかよく見知らぬ男は家に上げたものだ。娘が連れてきたから仕方なく上げたのだろうか?
(正気じゃない………なんて思うのはブーメランか?)
そもそも、自分でいうのも何だが…こんな不審人物と娘を二人きりで部屋に残すとは彼女はもしや常識が抜けているのか? 又は規格外れの聖人なのか?
情報が少なすぎる為、当然ながら答えは出ない。
「ーー……ん、ぅん……?」
そんな事を考えている最中、ベッドの上で眠るトウカイテイオーがもぞもぞと動いてぼんやりした声を出す。どうやら起きたらしい。
「……起きたか」
「ぅう〜……あ……ぉ、オジサン……?」
「……はぁ」
目覚めて第一声、変わらず聞き捨てならない一言を発するクソガキに俺は一つため息を吐いてから
「おじさんじゃない。お兄さんだ」
「ーーオジサンのバカっ! アホっ! それからっ……あー、えっと……その……ば、バカアホー!!」
(語彙力が死んでやがる……)
目覚めて早々、涙ぐむトウカイテイオーは罵詈雑言……というにもかなり弱い暴言を俺に飛ばしてくる。「バカ」「アホ」って…まぁ小学六年生と考えれば普通と言えるかもしれない。
でも、彼女の言う通りだ。
俺はバカでアホなんだろう。
だから、あんな行動にも出た。
「悪い事しないって……オジサン、言ってたじゃんっ」
「…………」
しかし、俺はあの行動を
「……お前にとっては悪い事だったのかもな。だけど、俺にとっては悪い事じゃなかったんだよ」
ーー間違ってるとは思っていない。
ましてや"悪い事"などと思わない。思う訳がない。
「何それ……い、意味わかんないっ! 何でオジサンがあんなこと……死のうとしたのか、ボクにはわかんないけど…自殺って、悪いことでしょ? それぐらいボクにだってわかるもん!」
「……そうかもな。いや、それが常識なんだろう。…でも、今言っただろ? 俺はそうは思わなかった。だからあの行動をとった。それだけの事だ」
俺の言葉はきっとトウカイテイオーからすればこれっぽっちも理解できないものだったに違いない。そりゃそうだ。お前だけじゃない…他の誰だって俺のこのイカれた思いは理解できない。
それもそのはずだ。
何せ、俺自身だって理解できていないのだから。
「オジサンはなんで、自殺なんて…しようとしたの?」
溜まった涙を乱暴に服の袖で拭い、震えたままの声でトウカイテイオーは次に俺へ理由を尋ねてきた。
「…………」
これ以上答えてやる筋合いはない。
トウカイテイオーの質問を聞き、俺は不意にそう思った。
「聞いてどうする?」
「どうにかして、オジサンを助けたい」
「……呆れた人情だな」
質問を質問で返す俺にトウカイテイオーは真っ直ぐこちらを見て言った。力強いその言葉に俺は感心する。ずっとクソガキと思っていたがその考えは訂正しないといけないかもしれない。
少し考えてから……どうせ言っても言わなくても変わらない、という結論に至り、
「………ある日、今まで一緒に頑張ってきた相手と共にいることに苦痛を感じるようになり、俺はその苦痛に耐え切れず終わろうとした」
「ーーーーーー」
「そんな、下らない理由だ」
長々と語る程の価値もない。
俺はトウカイテイオーに簡潔に語った。
嘘はついていない。ただ語る必要のない部分は語らなかっただけのことだ。
それを聞いた彼女は俯いて何かを考えた後、こんな事を口にした。
「その相手って……シンボリルドルフさん?」
「ッ? お前、なんで……」
まさかその名前が彼女の口から出るとは思いもよらず、俺は思わず目を見開く。そんな俺を前にトウカイテイオーはぽつぽつと喋り始める。
「……ボク、知ってたんだ。オジサンがシンボリルドルフさんのトレーナーしてる人だって」
「……なるほどな。合点がいった」
あの時、初対面の俺にやたらしつこく絡んできた理由はそれか。
「ボクはシンボリルドルフさんに憧れて、シンボリルドルフさんみたいな強くて、速くて、カッコいいウマ娘になりたくて……だからっ、シンボリルドルフさんの凄い所はたくさん知ってるつもりで……」
トウカイテイオーは「えっと」「その」と悩みながらも確かに言葉を紡ぐ。
(ルドルフに憧れて……?)
そんな中、彼女の言葉を聞いた俺は謎の既視感?の正体をやっと掴んだ。
『ボクは、シンボリルドルフさんみたいな、強くてカッコいいウマ娘になりますっ!!』
(そうか、この子供はあの時の……)
トウカイテイオー。
彼女はルドルフが二冠を達成した時、インタビューしにきた記者たちが集まる会場に入ってきてルドルフに「強くてカッコいいウマ娘になる!」と宣言したあの子供だったようだ。俺もあの場でそんな彼女の姿を見ていた。
どうやら世の中は思った以上に狭いらしい。
「ーーだから、余計にわかんないんだよッ……」
「………」
「オジサンは、シンボリルドルフさんに不満でもあったの!? あんなに強くて、速くて、カッコいいウマ娘に……シンボリルドルフさんに悪いところなんてある訳ないじゃん!」
"皇帝"シンボリルドルフに憧れるトウカイテイオーは俺の話を聞いて、そう大声で捲し立てる。俺の簡潔な語りを聞き、どうやら彼女は俺がルドルフのせいで「苦痛」を感じている……そう解釈したようだった。
顔を真っ赤にし、また涙ぐむトウカイテイオーを見つめながら俺はゆっくりと頷き
「ーー………あぁ、その通りだ。お前の言ってることは全て正しい」
「……ふぇ……?」
トウカイテイオーの意見を肯定する。
まさか認められるとは思っていなかったのか、彼女は呆気にとられた様子でぽかんと口を開けていた。
「彼女は、ルドルフはこれっぽっちも悪くない。悪いのは全て……無能だった俺自身だ」
ルドルフが悪い?
そんな訳はない。
あるはずがない。
彼女は紛れもない"皇帝"なのだから。
「正直、死に損なったのは残念極まりないが……お前の命懸けの行動に俺は敬意と感謝を表する。無能な俺を助けてくれて、どうもありがとう」
未だに呆気にとられているトウカイテイオーを前に、俺は彼女の母に言われたことを思い出し感謝を告げ、
「ーー……それじゃあな」
ーーベッドから立ち上がろうと体を動かす。
右足の痛みが酷く、左手も上手く動かないが……自力で動けないほどではない。
俺はベッドから下り、若干右足を引き摺りながら足早?に部屋のドアへと向かう。
「……え、ちょ、オジサン! 何してるの!?」
「? ……何って、出ていくだけだが」
「だ、ダメダメダメ!」
だが、何故かそんな俺を見たトウカイテイオーは焦った様子で動き出し、俺の行く手でバッと両手を広げ立ち塞がる。
「オジサン、海に落ちてから今日まで丸一日寝たっきりだったんだよ!? まだ体だって痛いだろうし……!」
焦る理由が全く不明だがとりあえず彼女の質問に答えると、トウカイテイオーは全力でストップをかけてくる。
「どうせ俺なんか……いつ死のうが、誰も困らない。多少痛かろうが体が動かせるんなら問題ない。そこを退け」
「………またそうやって、死ぬつもりなんでしょ?」
「…………」
愚問だ。答えるまでもない。
「退け」
「やだ」
「退けッ」
「や、やだッ!」
俺はトウカイテイオーへと退くよう言うが彼女は頑として俺を通すつもりないらしい。何故だ? 何故そこまで俺に死んで欲しくないんだ?
あぁ、そうか。
俺が今もルドルフのトレーナーだと思ってるからか。
「……安心しろ。俺はもうシンボリルドルフのトレーナーじゃない。だから、俺が死んでも彼女に迷惑はかからない」
よし、これで道を開けて通してくれr
「……なんでそこでシンボリルドルフさんが出てくるのさ! 確かに最初に声を掛けたのも、何をしてるか気になって後をつけたのも、オジサンがシンボリルドルフさんのトレーナーだったからだよ?」
「でも、今ボクがオジサンを死なせたくないと思ってることに……シンボリルドルフさんは関係ないっ! 全部ボクがそうしたいって思ってしてることなのっ!」
……余計に道のガードが強固になった気がする。
それに自分の意思で俺を死なせたくないだと? 何だそれは? 俺たちが話したのは昨日が初めて。尚且つ会話は数分のみ。彼女がここまでする理由が……俺には理解し難かった。
「………どうしても、通す気はないらしいな?」
「そ、そうだよっ! だ、だからそんな怖い顔したって…む、無駄なんだからねぇー! うぅ……!」
俺が睨みながら改めて聞けば、トウカイテイオーは俺の睨みを受け目に涙を溜めながらも動こうとせずーーもっと大きく手を広げる。
怖いのか体は小刻みにブルブルと震えていた。
怖いのなら道を開ければ楽になれるだろうに……
(どうする? 強行するか?)
なんて考えてもみるがそれはあまりにも無茶だ。
小学六年生とはいえ相手はウマ娘。パワーじゃ普通の人間に勝ち目はない上、スピードじゃ勝ち目は限りなくゼロに近い。仮にもウマ娘たちのトレーナーをやっていたのだからその程度理解していた。
ここは……
「はぁ……分かった。
「! ほ、ホントっ!? やったやったー! これで一安心………ん? 今は?」
「……あ」
それから大体二、三時間後。
「あの、ちょっと待っーー」
「ーーそれじゃあ! 元トレーナーさんが
「「かんぱ〜い!!」」
「パパもママもありがとっ!」
俺はこの状況がさっぱり理解できず、一言漏らした。
「なんでさ」
自虐系トレーナー「何をされたのかわからなかった…頭がどうにかなりそうだった…(ポルナレフ状態)」
最後まで読んでいただきありがとうございます!
感想や批評などありましたら遠慮なくお願いします。励みになります!
キャラ紹介
・トウカイテイオーの両親
自虐系トレーナー(オリ主)同様名前は出ない最早オリキャラ。
とりあえずの設定としては「娘が連れてきたぱっと見不審人物の男(意識不明)」を善意で家に上げた上、目が覚めるまでベッドに寝かせ、丸一日手厚く介抱した挙句、更には行く宛がないならウチで居候する?って提案するぐらいの聖人両親。
詐欺とかに合わないか純粋に心配になるレベル。