芝適正も長距離適正もGなのに…つまり!
芝2500mの有馬記念で
ハルウララを優勝させるのは無理だ!
「無理」だと?
この
無理だとか無駄だとか
いった言葉は聞きあきたし
おれたちには関係ねぇ
芝適正と長距離適正がGといったな…
そいつはちょうどいいぜ
今までの育成のおかげで
星3因子を作ったり
厳選したりする方法は
練習済みだぜ
↑ハルウララ有馬記念優勝を目指すトレーナー達
トレセン学園 練習場。
空が茜色に染まり始めた頃。
「ーーはぁ、はぁ……!」
私は走っていた。
ただただ走っていた。
(っ、まだまだッ…!)
足に鈍痛が走る。
足が急激に重くなる。
「ぐッ……っ…!」
心臓が喧しく鳴る。
動悸がする。
「あああッ……!!」
だが、そんなこと構うものか。
只管に足を動かす。走り続ける。
足を止めたい。そう思うほどに苦しい。でも、
(……私は……私はっ…!!)
気を紛らわす一番の方法が私にとってはコレだった……無論、平常の私ならこんな馬鹿な真似は絶対にしない。
今日の分のトレーニングを既にこなし終えている。私が今行なっているコレは明らかに過剰なトレーニングだ。
「ハァ、この程度ッ……っ!」
しかし、私は更に足に力を込め前に踏み出し、
「ッ、うぐ……!」
次の瞬間、勢いよく芝の上に転倒した。
「ーールドルフさんっ!?」
「っ……サブトレーナー君……」
私は痛みを堪え、何とか立ち上がろうとして"元"サブトレーナーの青年に見つかった。彼には悟られないよう、こっそり行なっていたのだが……
「一体何時から…何で走ってたんですか!? 今日の分のトレーニングもう終わってるんですよっ!」
「…ッ……すま、ない……」
すぐに駆け寄って来た彼は倒れる私に肩を貸してくれ、そんな中…私は限界を迎え
「! ルドルフさん! しっかりしてください!」
『ルドルフ、大丈夫か?』
(! トレーナー、君っ……)
意識を手放す直前、かつての彼の声が聞こえた。
「……ん……ッ」
次に目覚めた時、私は保健室のベッドに寝かされており……目覚めた途端、足の痛みに思わず顔を歪めてしまう。
「あっ、目が覚めましたか? ルドルフさん」
「あぁ……すまない、サブトレー……いや、トレーナー君。手間をとらせた」
私が起きたのに気付き、ベッドの近くに置かれた丸椅子に座っていたサブトレーナー君……否、今は私のトレーナーである青年が小さく笑う。
「無理にトレーナー呼びしないでいいですよ。俺もまだ実感湧いてないですし……あと、すまないって思うなら以降は無断であんな事はしないでください」
「……善処する」
「…そこは嘘でも『約束する』とか言って欲しかったなぁ…」
サブトレーナー君は私の返答を聞いて苦笑。
そして、私達の間に沈黙が流れる。
トレーナー君がトレーナーを辞め、トレセン学園を去ってから三日。私は現在、彼の後輩であるサブトレーナー君と共にトレーニングに励んでいた。
「……それで、どうしてあんな無茶したんですか? "皇帝"のあなたらしくもない」
「…………」
サブトレーナー君は沈黙を破り、そう聞いてきた。
「……言いたくない、というのは駄目だろうか?」
「保健室の先生だったら、今は職員室に行ってていませんけど…」
「誰にも、言いたくないんだ……」
私の言葉を聞いたサブトレーナー君はぽかんと口を開き、呆気にとられたような顔をする。
「…意外ですね。ルドルフさんがそんなこと言うなんて」
「……失望したかい?」
「いや別に。ただ俺の認識が間違ってた…それだけの話でしょ」
……サブトレーナー君はトレーナー君と比べて、どこか「軽い」という印象を覚える人物だった。無論良い意味で。彼の後輩であり、補佐を務めていただけありサブトレーナー君は実に優秀だった。
「また、言いたくなった時にでも教えて下さい」
「……そう言って貰えると助かるよ」
無理に踏み込んで来るような真似はしない。彼と同じく、ウマ娘の考えを尊重する……きっと彼もまた素晴らしいトレーナーなのだろう。
それでも、私の胸にあるこの気持ちは消えない。またトレーナー君と共に……なんて叶うはずもない気持ちだ。
「…………」
「……スー……」
その後も気不味い沈黙が続き…サブトレーナー君は耐え切れず息を吸う。トレーナー君が居た時にはこうしてサブトレーナー君と二人きりになることなど全くなかった為、何を言えばいいか私には分からない。きっとそれはサブトレーナー君も同じだろう。
「……サブトレーナー君」
「…はい?」
「一つ、聞いてもいいか?」
次に沈黙を破ったのは私自身だった。サブトレーナー君は頷き「どうぞ」と手を出して話すよう促す。
「ありがとう……その、サブトレーナー君は……どうしてトレセン学園に来たんだい?」
本当に聞きたいのはそんなことじゃない。
どうしてトレーナー君の頼みを聞き入れたのか、本当はそう聞いて、責めたかった。
でも、彼を追い詰め苦しめていた私がそんなことを…サブトレーナー君を責めるような事を言う資格などあろう筈がない。
「…あー…まぁ、大した理由じゃないんですけど…」
「サブトレーナー君がよければ……教えて欲しい」
「……ちょっと、長くなりますけど……」
「構わない」
サブトレーナー君は最初言うのを躊躇ったが…私を見て一息ついてぽつぽつと話してくれた。
「……俺、元々はトレセン学園に来るつもりはなかったんです」
「トレセン学園に来る前、別に中央機構のトレーナー何て目指してなくて……普通にちょっとトレーナー業に興味があって、勉強してただけで……」
「そんな時、急に『お前俺の後継者にならんか?』って自称トレーナーの不審者に声掛けられて……ぁ、これは先輩とは別人すけどね?」
「その自称トレーナー…なんでもウマ娘界じゃ、割と有名な
「ある記事を見て、先輩の存在を知ったんです」
そう語るサブトレーナー君は私が見た時のない明るい表情をしていた。
「記事?」
「はい。まぁ結構前の記事で……先輩が担当した初めてのウマ娘が二冠バになった時に出た記念号なんすけど。先輩の返答がやたら尖ってて…」
サブトレーナー君は私の質問に答え、語りを再開する。
「ハッキリ言って……痺れました」
「それまでは興味があるだけで、大してトレーナー業の勉強に身が入んなくて……本気になれてなかったんですけど…先輩のロングインタビューが載ったページを見て『こんな凄い人が居るんだ』って思いました」
「担当するウマ娘の事を第一に考えて、ウマ娘の
サブトレーナー君はそう言うと何かを思い出して笑い声を漏らす。それを見て私は首を傾げ、それに気付いた彼がこう教えてくれた。
「その記事の冒頭、先輩についての紹介部分に『若き天才、トレーナー界のホープ』って書かれてあって、インタビューの最初の質問でも『若き天才、トレーナー界のホープと評価されていますがどう思いますか?』って聞かれてたんですけど……先輩なんて答えたと思います?」
「ふむ……無難な所なら『光栄です』かな?」
私のその答えを聞き、サブトレーナー君は軽く吹き出した。……どうやら違うらしい。彼は笑いながら「す、すいません」と謝って答えを明かす。
「その時の先輩、こう答えたんです」
「『はっきり言って見る目がないと思いますね。若き天才、トレーナー界のホープ……偶々担当したウマ娘が二冠バになった。そんな私よりもその称号に相応しい人物は他にいるでしょう。何なら私が推薦しましょうか?』って」
それとこれは文章だから言い切れないんですけど、先輩多分これ半ギレで言ってると思うんですよねぇ……とサブトレーナー君は言う。
私は素直に驚いた。トレーナー君がそんな事を言うなんて…全くイメージできなかったからだ。
「その返答の所為で、それから先輩全っ然記事で取り上げられなくなって……多分上の人から嫌われちゃったんでしょうね。……まぁ先輩はそんなの気にせずに実績バンバンあげてたんですけど」
「俺、本気で人に憧れたのは先輩が初めてだったんです。誰かの為に全力で頑張れて、それで傲るわけでもなくて、周りにどう思われようが関係ないって言わんばかりに……実績で全部黙らせる。……憧れない訳なくないですか?」
「……そんなことがあって、スカウトしてくれてた名門の方は申し訳ないけど蹴って、俺は先輩の居るトレセン学園を目指すようになりました」
「そんで運良く試験に合格できて、なんか気が付いたら先輩の担当するウマ娘……ルドルフさんのサブトレーナーになってて。今に至るって感じですかね」
以上、長い長い自分語りでした。
そう言ってサブトレーナー君は話を締めた。サブトレーナー君にそんなストーリーがあったなんて……いや、きっと私が知らないだけで皆それぞれのストーリーを持っているのだろう。そう、私が知らないだけで彼にもきっと……
「ルドルフさん、どうします?」
「……何の話かな」
俺の言葉にルドルフさんは白を切る。
「次のレース…出ますか?」
「無論、出るさ」
「……そうですか」
即答するルドルフさんを暫し見つめた俺は視線を外し、
「それじゃ、俺はまだ片付けなきゃいけない仕事があるんでこの辺りで……保健室の先生が戻って来るまでちゃんと待っててくださいよ?」
「…わかっているさ。私も子供じゃない」
「はは、これは失礼」
「……あまり、根を詰めすぎるなよ」
「…わかってますよ」
椅子から立ち上がって足早に退室した。
「………先輩」
退室した俺は暗い廊下を歩きながら、取り出したスマホを操作する。
連絡先を開き思わず先輩の電話番号をタップし電話を掛ける……が、それが無意味なことなのはとっくのとうに知っている。
『先輩と連絡がとれない?』
『はい──さんが居なくなってから、多くの人が連絡をとろうと試みてるんですが……』
先輩が居なくなった二日後にたづなさんにそう教えてもらった。
俺が電話しても、先輩には繋がらなかった。
「………先輩、あんたマジで最低だよ」
吐き捨てるように口から言葉が漏れる。文句の一つや二つ言わないとやってられなかった。
『お前は優秀だからな。きっと俺よりも"皇帝"に相応しいトレーナーになれるさ』
突然先輩から呼び出されたと思ったら、そんなこと言われて……気が付けば俺はあのシンボリルドルフのトレーナーになっていた。
「今の俺が、あんたを超えられる訳ないだろッ」
ふざけんな。俺が優秀だ?あんたより彼女に相応しいトレーナーになれるだ?ンな訳あるか!
あぁ…でもあんたはきっと本気でそう思ってたんだろうな。それが余計に腹が立つ……無責任だろ……だけど、
『……ふっ、ありがとう。俺は本当に出来のいい後輩を持った』
「ーー俺は"出来のいい後輩"らしいからなぁ……最低な先輩の期待にだって、応えてやりますよ」
あの人に任された。
あの人に託された。
だったらその思いに応えない訳にはいかない。その思いを裏切る訳にはいかない。
先輩、俺はルドルフのトレーナーになったあんたの姿を見て…最初は記事で見たのと同じ自信に満ち溢れたあんたの姿に憧れてた。だけど、担当ウマ娘の為にクソ真面目に…無理して仕事を続けるあんたの姿を見て……いつの間にかそっちの方に強く憧れてたんだ。
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『シンボリルドルフさん、今回は5バ身差の見事な圧勝でしたね! おめでとうございます!』
「ありがとうございます。これも日頃のトレーニングと皆の応援のおかげです」
"皇帝"シンボリルドルフの勝利者インタビュー。
三冠をとった後もシンボリルドルフは変わらず、その絶対の走りで勝利を掴む。
『つい数日前には──トレーナーの急な引退もあり、試合に悪影響が出るのではと心配の声がありましたが…そんな声を黙らせる絶対の走りでしたね!』
「……えぇ、そうですね。今回もいつもと変わらない走りができたと思います」
シンボリルドルフはインタビューに淀みなく、至って平常な様子…に見える風に答える。
『それでは最後に、応援している皆さんに一言お願いします』
「……そうだな……」
「皆、心配をかけてすまない。だが見ての通りだ。私は今までも…そしてこれからも"皇帝"として、絶対の走りをもって勝ち続ける。心配は完全に無用だ。これからも応援のほど宜しく頼む」
最後にそう答えてインタビューは終わった。
カイチョー「これでトレーナー君も安心してくれるだろう!(善意)」
自虐野郎「どうせ俺なんか……」
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キャラ紹介
・後輩サブトレーナー
自虐系トレーナーの後輩。多分名前は出ない。
彼の引退に伴いシンボリルドルフのトレーナーになった。謂わば本作の苦労人枠。
自虐系トレーナー曰く「俺より優秀」。
実際かなり優秀だが、その理由が「すぐ近くに憧れであり、トレーナーの鑑みたいな先輩がいたから」という事を自虐野郎は知る由もない。
ウマ娘界屈指の名門の専属トレーナーからのスカウトを蹴り、調子に乗ってた頃の自虐野郎に憧れてトレセン学園を目指し合格した……という割と濃い設定がある。