ジュエルを貯めたり
ガチャを回したり
育成にたづなさんを連れていくのも安心するためだ
レースを見たり ライブを見たり
するのも安心するためだ
サークルのために役立つだとか
フレンドのためにだとか
全て自分を安心させるためだ
安心を求める事こそトレーナーの目的だ
※プレイ理由は人それぞれです。
気付けば俺は火の海の中、狭い足場に立っていた。
(またここか)
地獄の様な景色にすぐにこれが現実でないと悟り、周囲を見渡し、
「なぁ、お前は本当に死にたいのか?」
あの男を見つけた。
男は光の残る目で俺を見据え問うてくる。下らない、言うまでもない、不快な質問だ。
「…………」
だから俺は答えない。答えることなく男へと歩み寄る。
「本当は死にたくないんじゃないのか?」
「………」
一歩距離が縮まる。
「ルドルフにまだ未練があるんじゃないのか?」
「……」
更に一歩距離が縮まる。
「黙ってないで、何とか言ーー」
そして、俺は男に手を伸ばし、
「黙ってろッ」
その首を迷わず掴み、強く締める。
「あッ…がッ……」
「お前は俺だろ? なら一々、邪魔するような真似してんじゃねーよ」
首を絞めたまま、俺は男を前に押し崖っぷちに立たせ言う。
「お前が邪魔したら、まるで俺が迷ってるみたいだろ」
それを聞いた男は自分の首を絞める俺の手を両手で掴み、苦しげに口を開く。
「ッ…ぐっ、そうだ…! お前は迷ってるッ…! ルドルフの行く末にまだ…うッ、未練がある筈だ……!!」
「…………」
「勝手に、諦めるなッ…! お前は! 俺はッ! まだ彼女の力にーー」
男は必死にそんな戯言をほざく。
「ハッ、お前はいいよなぁ……」
気付けば口が勝手に動いて、ドス黒い感情を吐き出す。
「そんな風にありもしない希望に縋りついて、まだ自分が彼女の役に立てるだなんて幻想を抱けて」
「俺なんか……そんな幻想、とっくに消え失せた」
男の首から手を離し、一切の躊躇いなく突き飛ばす。
「もう喋るな」
火の海に真っ逆さまに落ちていく男から視線を外し、俺は目を閉じた。
俺はもう止まらない。もう、止まれない。
──────────────────────
「……っ、ぁあ……?」
目を覚ましてすぐ。カーテンの隙間から差し込む光に俺は思わず目を細めた。
「…………何やってんだ。俺は」
体を起こし、思わずそんな言葉を漏らす。本来ならあの日…俺は死んでいた筈なのだが。今ものうのうと生きてしまっている……何故かこの家の居候になって。
それもこれも全部あのクソガキのせいだ……いや、あのクソガキと出会ってしまった俺のせいか?
(……はぁ、起きるか)
相変わらずの憂鬱な気分で俺はベッドから出ようと体を動かし、首を傾げた。
「……?」
何故か右腕が重かった。灯台から落ちた時の傷は昨日よりもマシになっている筈なのに……というか何で右腕………ん?
(布団の中、何か膨らんでないか?)
今気付いたがよく見れば俺に掛かっていた布団が膨らんでいる。まるで何かが入ってるかの様に…それも丁度俺の右腕がある位置。
率直に言って、この時点で嫌な予感がした。
だが、いつまでも躊躇っていたって仕方ない。俺がいち早くベッドから出るためにはこの体にかかった重みの原因を突き止める必要があるのだから。
「ふんっ」
そして、俺は勢いよく布団をめくり
「ーーすぅ…すぅ……えへへ、もう食べられないよぉ〜……すぅ」
(よし、見なかったことにしよう)
間を置かずに布団を元に戻した。今、一瞬だけ俺の腕にしがみ付いて猫みたいに丸まって気持ち良さそうに寝ている少女の姿が見えたんだが…まぁ気のせいだろう。
………なんて現実逃避しても駄目、か。
(いや、何で居るんだ……?)
冷静に考えてみるが理由が微塵も分からない。一体何があったらクソガキが自分の布団の中で寝ているなんていう理解不能な状態が出来上がる? ……咄嗟に自分が何かとんでもない過ちを犯したのではないか?と考えてしまったがそんな記憶はないし、頼むからそれだけは本当に違っていて欲しい。そう切に願う。
仮に間違いじゃなかったとしたら、
(……今すぐ死ぬか、ここで)
出来るだけ他人に迷惑をかけずに死のうと心掛けていたが……やむを得ない。一秒でも早くに逝こう。
「………おい、トウカイテイオー。起きろ」
それもこれもまずはクソガキ本人から話を聞いてからにしよう、と思い俺はバッと布団をめくり彼女の体を軽く揺すった。
「……ん…ぅう……? ……ぁ、オジサンだぁ……へへ、おはよ〜」
「……あぁ、おはよう。あと何度も言わせるな。おじさんじゃないお兄さんだ」
寝惚けた声を出した彼女は俺の顔を見て、何故だか嬉しそうに笑う。
「……あと、起きて早々に悪いがこの状況について説明してくれ」
そんな彼女に挨拶しつつ、俺は彼女に説明を求めた。
結果、より困惑する羽目になった。
トウカイテイオーが起きた事でベッドから無事出れた俺は部屋を出て、割と長い廊下を歩き、階段を下りていた。
「だ〜か〜ら〜! オジサン一人にしちゃうと死んじゃ……ば、バカなことしちゃいそうだったから、一緒にいてあげたんだよー!」
後ろからはクソガキが俺の理解できない説明をしながらテクテクついてきている。……何度聞いても納得できない説明だ。
「……一人にしたら死ぬって、俺はお前の中じゃウサギか何かなのか?」
まぁウサギが孤独死するっていう話はデマらしいが…俺がそう言えば、
「えぇー? オジサンがウサギな訳ないじゃん! かわいくないし、暗いし、服ボロボロだし、暗いし!」
……なんで暗いしって二回言った?
「それにオジサンがウサギなんてウサギに失礼だよ!」
「………お前は俺に失礼だなぁ?」
クソガキの台詞の一つ一つが癪に触り、正直キレたくなったが何とか抑え……一階のリビングに着く。
リビングに着いて直ぐに彼女は俺の前に出て、
「パパ! ママ! おっはよ〜!」
朝から元気の良い活発な挨拶をする。
「おぉ、おはようテイオー。今日も元気だな。──君もおはよう」
「………おはよう、ございます」
「あっ、二人とも起きた? ご飯もう少しで出来るから座って待っててね〜」
リビングには既に椅子に座っていたトウカイテイオーの父親が新聞を読んでおり、母親は台所で朝食の準備をしていた。
別段珍しくない、ありふれた光景がそこには広がっていて、
(……場違いだな)
そう思わずにはいられなかった。
その後、テーブルに朝食が並べられ「いただきます」と手を合わせて皆食べ始める。俺も同じように手を合わせはしたが……昨日と同じように進んで食事を食べようとはしなかった。
「オジサン、早く食べないと冷めちゃうよー?」
「……食うか?」
「え、いいの? じゃあーー」
「テイオーやめなさい。昨日もそうやって彼の分のご飯、丸々食べてたじゃないか」
「──君も、もしかしたらお口には合わないかもしれないけど…遠慮せず食べてね!」
「………はい」
朝食中にそんな会話をしながら、俺はジャムが塗られた食パンを食べる。テイオーの母親からは遠慮せずにと言われたが……それは如何せん無理な話だ。
「カッコいいなぁ〜……!」
そんな中、トウカイテイオーはテレビに映るトゥインクル・シリーズに出走するウマ娘達の走りを見て目をキラキラと輝かせ、
『シンボリルドルフさん、今回は5バ身差の見事な圧勝でしたね! おめでとうございます!』
『ありがとうございます。これも日頃のトレーニングと皆の応援のおかげです』
「! 見て見てオジサン、シンボリルドルフさんだよ!」
「ッ………言われなくてもわかる」
テレビに"皇帝"の姿が映るのを見てより一層目を輝かせる。
そこに映ったシンボリルドルフの姿は俺がトレーナーを辞めてから何も変わっていない……まぁ、ほんの数日しか経っていないのだから当然といえば当然なのだが。
内容は今回出走したレースの勝利者インタビュー……5バ身差の圧勝、か。
「……──君」
「………大丈夫です。お心遣い、ありがとうございます」
トウカイテイオーの父親はテレビにシンボリルドルフが映るのを目にし、俺へと心配そうに声を掛けてくる。それに対して俺は微笑みを返す。
今更シンボリルドルフの姿を見ても何も変わらない。別に俺は彼女に対して悪感情など微塵も抱いていない。だから、大丈夫だ。
『つい数日前には──トレーナーの急な引退もあり、試合に悪影響が出るのではと心配の声がありましたが…そんな声を黙らせる絶対の走りでしたね!』
『……えぇ、そうですね。今回もいつもと変わらない走りができたと思います』
「わぁ〜……!」
その皇帝に相応しい威風堂々な態度、言動にトウカイテイオーは朝食の事などすっかり忘れ完全に目を奪われていた。
『それでは最後に、応援している皆さんに一言お願いします』
俺はただ変わらぬ彼女の姿を見て、そのインタビューに耳を澄ませ、
『皆、心配をかけてすまない。だが見ての通りだ。私は今までも…そしてこれからも"皇帝"として、絶対の走りをもって勝ち続ける。心配は完全に無用だ。これからも応援のほど宜しく頼む』
ーー彼女のその言葉を確と聞いた。
「………………ハハ」
無意識に俺の口からはか細い笑い声が零れていた。
(何だ? お前は、一体何を期待していた?)
自分が居なくなって彼女が負けること?
彼女が自分を求めてくれること?
……本当にとんだ屑野郎だよお前。
(よかっただろ? これではっきりした)
俺の考えは正しかった。俺は無能だった。彼女は有能だった。だから俺は彼女に相応しくなかった。だから俺は彼女には不必要だった。だから俺じゃなくてもよかった。
あぁ、もっと早くにそう気付けていたら……
(これでよかったんだ)
彼女の言葉のお陰で、俺は俺自身の行動に絶対の自信を持てた。
(……ありがとう、ルドルフ)
「………オジサン、ダイジョーブ?」
「…………何がだ」
気付けば、隣の椅子に座っていたクソガキが俺の顔を覗き込んでいた。その目は何故か不安そうに揺れている。俺が不思議に思い首を傾げると、
「今、オジサン……泣きそうな顔してるよ?」
トウカイテイオーは馬鹿なことを口にする。
「は………泣きそう? 俺が?」
泣きそう? そんな訳あるか。泣く理由なんざ何処にもない。逆に今の俺の気分は大笑いしたいほどに晴れやかだ。
「……ごめん。オジサン。ボクのせいだよね…? ボクがシンボリルドルフさんのーー」
「ーーいや……謝らないでいい。むしろ感謝したいぐらいだ」
え?と間の抜けた声を上げるクソガキに、
「……ありがとな、お前のおかげで迷いは完全に消えた」
ーー俺は初めて頭を下げて感謝した。
その時、トウカイテイオーがどんな顔をしていたか俺にはわからなかった。
──────────────────────
それからトウカイテイオーの父親は仕事へ、トウカイテイオーの母親は朝早くから買い物へ、トウカイテイオーは学校
『──君、君の事情は詳しくは知らないが……ここに居たいなら、好きなだけここに居てくれて構わない。妻も娘も賛成してくれているしな』
トウカイテイオーの父親は仕事に行く前、そう俺に言った。
『──君、今日のお昼何か食べたいものとかある? あったら教えて。腕によりをかけて作るから!』
トウカイテイオーの母親は買い物へ行く前、そう俺に言った。
何で。どうして。
誰も彼もこんな不審者に優しいのか、俺には全く理解できない。
「………」
俺は洗面所に行き、灯台から落ちていた時に着ていた物…その一式が畳んで置いてあるカゴを見つける。洗濯され、しっかりと乾いているのを確認して俺は手早く着替えた。
「ありがとうございました」
そして、無人のリビングでそれだけ言い残し玄関へと向かい、
「………………」
「………………」
玄関で仁王立ちしているトウカイテイオーと目が合った。
「…………」
俺はそんな中、玄関まで歩き……じーっとこちらを見てくるクソガキの視線を無視して少ししゃがんで靴を履く。
「ねぇオジサン。何しに行くの?」
そして、靴を履き終え立ち上がるとクソガキがずいっと一歩、俺へと近付いて見上げながら聞いてくる。
俺は出来る限り即答した。
「……散歩だ」
「ウソだー。ホントは?」
だが、トウカイテイオーは俺の言葉を信じることなく再び聞いてきた。顔は笑っているが目は真剣そのものだ。それと怒りなのか何なのか…その声は僅かに震えている。
(面倒だな………ん?)
どうやってこの状況を切り抜けるか、真面目に考え出した俺はある点に気付き首を傾げた。
「……お前、学校は?」
「……ナ、ナンノコト」
こちらの素朴な疑問に対し、クソガキは勢いよく目を逸らし片言で喋る。……さては学校サボりやがったなこいつ? おいこっち見ろや。
「はぁ………今からでも遅くない。お前はさっさと学校行け」
「っ、ヤダっ! ボクが居なくなったら、オジサン外行くでしょ?」
俺は善意から学校へ行くよう促すがクソガキは首を左右にブンブン振り、頑なに玄関から退こうとしない。
「誤解するな。ただの散歩だ」
「オジサン。今自分がどんな顔してるか知ってる? そんな暗い顔で散歩とか…信じられる訳ないじゃん!」
「……世の中探せば、暗い顔して散歩するヤツだって幾らでもいる」
だからそこを退け、俺はそう言ってクソガキを見下ろした。
「う、うぅ……そ、そんな怖い顔したってぇ……!」
クソガキは俺のその視線にビビりはするが、やはり以前……昨日の部屋での一件と同様に意地でも退く気はないらしい。
(……仕方ない)
「……退かないなら、退かすだけだ」
手を大きく広げ玄関を塞ぐクソガキ。俺はそんな彼女に手を伸ばし、
「! え、ちょ、わっ!」
「それじゃあな。世話になった」
その両脇に手を入れ、軽く持ち上げ、後ろに下ろし、素早く玄関のドアノブを掴んだ。この行動にかかった時間は僅か三秒。我ながら無駄の無い動きだった。
「………ぁ」
トウカイテイオーは以上の一瞬の出来事に暫く目をぱちくりさせ、軽いショックで固まっていた。しかし、俺がドアを開け外に出て行こうとした直前、
「だ、ダメっ! 行っちゃダメ!」
後ろから腰に細い手が回り、結構な力で俺をその場に押し留める。
「……離せ」
「ヤダっ! オジサンがバカなこと止めるまで、絶対のぜ〜〜ったいに離さない!!」
後ろから抱きついてきたクソガキに俺は玄関のドアノブに手を掛けたまま言う。
邪魔するな、ありがた迷惑だ、もうやめろ。そんな気持ちが込もった俺の言葉には確かな苛立ちがあった。
「ッ、いい加減にしろよ」
「っ………」
後ろから抱きつかれている形のため姿は見えないが、俺の声に反応し僅かに回っている手が緩む。……前にも思った。怖いならさっさと離せばいい。何だ、何がお前をそこまでさせる?
「……昨日も言ったろ。お前にとっては悪い事でも、俺にとっては悪い事じゃない。むしろ良い事なんだ。だから……離せ」
「ぁ……うッ……や、ヤダぁ……」
嗜めるような口調で、俺は後ろにいるクソガキへと再度告げる。それに対して後ろから返ってきたクソガキの声は……
「今度こそ、じゃあな」
だから、俺はすぐに抱きついていたクソガキの手を両手で退かし前に出た。同時に外に駆け出そうとし………
背後からどさりという物音がした。
「ーーーー」
本来ならそんな物音…俺は気にもしなかっただろう。しかし、何故かその時の俺は思わず後ろを振り返っていて、
「………は………?」
ーー目に映った光景が一瞬理解できなかった。
「……おい、トウカイテイオー……?」
そこにはうつ伏せの状態で倒れたトウカイテイオーの姿があった。
「ぅ……ぁ………」
「ッ、おい! しっかりしろ!」
俺は咄嗟に駆け寄って彼女の体を支える。トウカイテイオーは顔を赤くし、苦しそうに喘いでいた。
(……熱い……!)
悪い予感がして、彼女の額に手を当てれば驚くほどに高熱だった。
何故彼女がこんなにも熱を持っているのか……心当たりがあった。
「俺を、助けた時か」
本当のことは知らない。しかし、彼女の母親の話が本当なら……トウカイテイオーは海に落ちた俺を助けるために俺と同じく海に入った事になる。あんな寒い夜中の海に……それもこんな子供が。なら風邪を引くのも当然だ。
(……俺のせいか…ッ)
俺は歯軋りした。お前は一体どこまで無能何だ?そう思わずにはいられなかった。
「っ、なんて思ってる場合かッ」
だが、俺はすぐに思考を切り替える。今は自虐してる場合じゃない。優先すべきことが目の前にある。
俺は彼女の体をそっと持ち上げ、玄関に靴を脱ぎ捨て、彼女に負担がかからないようゆっくり前を歩き出した。
「ッ……ぅぅ……おじ…さ……」
「……無理に喋るな。今は黙って休んでろ」
それから俺はトウカイテイオーの母親が買い物から帰ってくる間、ベッドに寝かせたりできることをやる。
無論。できることをやったからすぐに外に出て死ぬ……なんて事はしない。母親が帰ってくるまで彼女の看病をする事に決めた。
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