最低でも蜘蛛男の回までは書く予定です。
・・・・暗闇の中、俺は走り続けていた。
「ハアハア・・・・・」
どのくらい走っているのだろう?
「千冬姉・・・千冬姉!!」
俺は叫びながら姿のない姉の姿を探し続ける。
しばらくすると薄っすらと明るい場所が現れ、彼女の後姿が見えた。
「千冬姉!!」
俺は、手を伸ばして触れようとする。だが、手は届くことなく、彼女は俺のことを振り向くことなく去っていく。
「待ってくれ・・・・うわっ!?」
必死に追いかけようとしたのも束の間、俺は転んでしまう。顔を挙げて前を見ると彼女の姿は遥か遠くへ行っていた。
「待ってくれ・・・千冬姉!」
俺は、疲れた体に鞭を打って再び駆け出す。でも、その距離は縮まることなく俺の周囲がまた暗闇に飲まれていった。
「待って・・・・・・・待ってくれ・・・・・」
姿を完全に見失い、俺は膝をつく。
頑張るから。
恥知らずと言われないように努力するから。
行かないで。
見捨てないで。
捨てないで。
俺を・・・・・一人にしないで。
「千冬姉・・・・・千冬姉ぇぇええええええ!!!!」
「・・・夏・・・・一夏」
「う、うぅ・・・・・」
「おい、一夏!もう、朝だぞ!早くせんと大学に遅刻するぞ!」
「はっ。」
一夏は、男の声で目を覚ます。目の前にはフライパンを持った中年の男性が経っている。
「おやっさん・・・・」
「また、千冬ちゃんの夢を見ていたのか?」
「えぇ・・・」
一夏は、頭を押さえながら答える。その言葉を聞くとおやっさんと呼ばれた男は感慨深い表情をする。
「あれからもう8年ぐらいか。誘拐されたお前を助けるために会場を出たっきり、行方不明・・・・どこへ行ってしまったんだろうな。千冬ちゃん。」
「・・・・そうですね。」
「おっと、俺としたことが朝からこんな暗い話をしてしまうとは。もう、歳なのかもしれんな。」
おやっさんは、気まずそうに一夏に謝罪する。
「いえ、いいんですよ。それより、朝飯にしましょう。」
「お、おう!そうだな。」
二人はそう言うと下のリビングへと降りて行った。
俺は、織斑一夏。
とある大学に通っている学生だ。
スポーツ・学業共に優秀。最近はよくオートレースに出場している。周りから秀才と称されているが俺はそんな風に考えてはいない。何故なら、俺は自分よりも凄い人を知っているからだ。
もう8年ぐらい前になるが俺には、かつてたった一人の肉親である姉がいた。
名前は「織斑千冬」。
周囲から優秀と称され、俺が「恥晒し」「お荷物」「劣等品」と言われてしまうほどで少年期はこれのおかげで辛い日々を送っていた。でも、千冬姉はそんな周囲のことは気にせず俺のことをとても大事にしてくれていた。
だが、8年前彼女は突如俺の目の前から姿を消してしまった。いや、正確には俺のせいといった方が正しいのかもしれない。
あの日、俺はISの世界大会「モンド・グロッソ」の決勝戦の会場に行くはずだった。千冬姉は日本代表として出場し、何より名誉ある最強の称号「ブリュンヒルデ」のV2達成がかかっていたからだ。
しかし、会場に向かう途中で俺は謎の集団に拉致されてしまった。集団が何者だったのかは今となっては調べようがないが、目的は千冬姉の試合放棄でそのために俺を人質にとったらしい。
俺は倉庫で人質として監禁されることになったが、決勝戦が始まる時間に差し掛かった頃、男たちは銃を構えて俺の所へと戻ってきた。
「坊主、お前は運のない奴だったな。お前の姉貴、俺たちの要求を無視して試合に出やがった。」
「そんな!?」
「んな訳だから悪いが死んでもらうぜ。恨むんなら姉貴を恨むんだな。」
男たちは、そう言うと一斉に俺に向けて銃を発砲した。俺はもうだめだとばかりに目を瞑るがキンキンと金属が跳ね返るような音が鳴る。
「?」
痛みも感じなかったことから不審に思い目を開けてみると、そこには全身をISとは微妙に違うパワードスーツを纏った女が立っていた。
「・・・蜘蛛?」
金属音の正体は彼女の背中から展開している複数のかぎ爪のようなクローで銃弾は、足元に落ちていた。目の前に得体の知れない相手が出てきたことに男たちは困惑する。俺にはその姿がまるで蜘蛛のように見えた。
「な、なんだてめえ・・・・ぐわっ!?」
男たちが答える前に女が先に攻撃を仕掛けた。背中から延びるクローはいとも容易く一人をただの肉塊へと変えてしまった。その光景に俺も唖然とする。
「な、何しやがんだ!?」
「消えろ。」
聞き覚えのある声と同時にもう一人が切り裂かれる。男たちは恐怖のあまりに外に出ようとするが女はまるで蜘蛛のように飛び上がり、男たちの退路に先回りする。
「ひ、ひいい!!」
「た、助けてくれ!!」
男たちは悲鳴を上げるが女は容赦なく、クローでその体を突き刺していく。辺りは瞬く間に血の海へと変わっていき、俺は体を震わせながらそれを眺めていた。
次は俺がこうなるのか?
そう思うと同時に誘拐犯たちを一掃した女は、俺の方を見る。顔は仮面のせいで口元しか見えておらず、その下がどうなっているのかはわからないが俺には獲物に飢えた獣のように見えた。彼女は俺の方へとゆっくりと近づいてくる。
「あ、あぁ・・・・」
俺は、声にならない声で唸るがどうにもならない。目の前で死んでいる奴らのように俺もこの女によって殺されるんだ。こんなことなら応援に来るんじゃなかった。前回の時のようにアミーゴに行って立花さんと一緒にテレビで見ればよかったと強く後悔した。空港で見送ってくれた友人たちのことを想いながら俺は別れの言葉を呟く。
「ごめん、みんな。俺、もうダメみたいだ・・・・・」
女のクローが俺の目の前に来る。
どうしてなんだ、千冬姉?
どうして助けに来てくれないんだ?
俺よりも名誉の方が大事だったのか?
『私の家族はお前だけだ』という言葉は嘘だったのか?
最後の最後に俺は、千冬姉の恨み言を考えた。
シュッ
「えっ?」
ところが女は俺の体を突き刺すことなく、拘束していたロープを切ってくれた。解放された俺は、そのまま地面に尻もちをつく。
何故助けたんだと思いながら呆然としていると女は、俺のことを優しく撫でて小さな声で言った。
「もう大丈夫だ。」
やはり聞き覚えのある声だった。俺は思わず名前を言おうとするがその瞬間、凄まじい眠気に襲われてそのまま意識を失ってしまった。
その後、俺は無事に千冬姉に協力してくれたドイツ軍の手で保護され、日本に帰国することができた。しかし、当の千冬姉本人が行方不明になったことを知らされる。
どうやら、俺が誘拐されたことを表彰式直後に知ったらしく、報告を渋っていた女性スタッフを殴り飛ばして会場を出て行ったそうだ。ところが俺を捜索中に突然反応が途絶えてしまい、見つかることはなかった。
俺は天涯孤独の身となった。
当初、友人である弾たち五反田一家が身元を引き取ろうと考えくれたが名乗りを上げてくれたのは小さい頃から姉弟で世話になっていた立花藤兵衛ことおやっさんだった。
「私も独り身だから別に一人子供が来たところで大して変わりはしませんよ。それにあの姉弟は私にとって自分の子供みたいなもんだったんです。だから、一夏君は責任を持って引き取ります。」
元々交流があったことで人柄を知っていたこともあり、その言葉に納得したのか蓮さんと厳さんはそれ以上何も言わなかった。俺はおやっさんに引き取られ、現在の住居である喫茶店「アミーゴ」に住むことになった。
ちなみにISの時代が終わりを迎えたのはそれから数か月後のことだ。
突如、全世界のチャンネルをハッキングして中継を流してきたんだ。朝のニュースを見ていた俺たちは、突如画面が彼女の真面目な顔に変わったとき、飲んでいたコーヒーを吹き出してしまった。
『全世界の皆様、どうも。ISの開発者であり、現在存在しているISコアを生み出した科学者「篠ノ之束」です。突然で申し訳ありませんが私は、本日を以て全てのISを使用不能にすることをここに宣言します。』
その喋り方は俺が知っている束さんと何かが違かった。彼女曰く、本来自分が想定していたISの運用と大きく異なる軍事兵器への転用(尤も女性限定であまり実用的とは言えないが)、それに伴う女尊男卑傾向となった社会へ愛想を尽かしたと言い、自分が自殺すると同時にすべてのISコアが自爆するというのだ。
冗談ではないかと俺は思っていたが彼女は本当に自分のこめかみを銃で撃ち抜いてしまった。彼女なりの配慮としてモザイクは掛けてあったが全世界、それも丁度誰もが見ている時間帯で大々的にテレビ放送されたことでそこら中が大パニックになった。
彼女の宣言通り、その日のうちに世界各地に散らばっていたISは搭乗者を強制的に解除して自爆。更に自分の夢を汚された恨みなのか各政府の極秘情報を大公開し、各国政府に対してデモ活動が勃発した。何よりドイツの遺伝子強化体計画なんかは非人道的だと大問題となり、危うく終末戦争が起こるのではないかと数年間不穏なムードが続いたが幸いなことにISの登場のおかげで軍縮が進んでいたため、大事には至らなかった。
当然、俺の誘拐事件について日本政府が握り潰した事実も明るみになった。どうやらその要求を握りつぶした女性職員が女性権利団体所属で報復として日本ばかりか各国の支部が一斉に爆発したとか。
まあ、そんなこんなであっという間に月日が流れ、俺はいつの間にはあの時の千冬姉以上に歳をとり、一人の大人になろうとしていた。未だに彼女がどこにいるのかはわかっていない。世間では束さん同様に死んだと噂されている。
・・・・・でも、あの時助けてくれた蜘蛛女が千冬姉だったのではないかと考えてしまうんだ。
確かに状況からしてそんなことはあり得ないというのはわかっている。けど、俺はそう感じているのだ。
そして、今もどこかで生きているんだと。
大学での講義を終え、サークル活動が終わると俺はバイクでアミーゴに帰る。
「ただいま、おやっさん。」
「おう、帰って来たか。」
丁度、客がみんな帰ったこともあり、おやっさんは愛用のパイプでタバコを吸いながら新聞を読んでいた。いつもなら夜はスナックを経営するのだが今日は休業だ。
「夕飯、テーブルに置いておいたぞ。」
「ありがとうございます。明日、大学が休みなんで今日は地下室に籠ります。」
「研究のやりすぎで夜更かしするんじゃないぞ?」
おやっさんの忠告を受けた後、俺は簡単に夕飯を済ませ、アミーゴの地下室へと入る。
そこには多くの機材が置かれており、机や本棚には大量の書類が入っていた。
「さて、今日も始めるか。」
俺は、PCを起動させるとプログラムの構築を始める。
俺は、かつての束さんの夢を引き継ごうとしている。
『宇宙へ行く』
そのために俺は失われたISをもう一度作ろうとしていた。
きっかけは数年前、久しぶりに篠ノ之神社を訪れた時のことだ。参拝をしたときに俺はうろ覚えながらかつて千冬姉と束さんがよく二人で籠っていた蔵のことを思い出し、管理人である雪子さんに頼んで見せてもらったのだ。中に入ること自体は初めてだがその中で俺は神社には不釣り合いの大型の金庫を発見し、中を開けてみると処分し忘れていたのかISに関する資料の一部が保管されていた。
俺は彼女に頼んで資料を譲ってもらい、一からISの制作を開始することにした。資料とはいっても飽くまで研究の第一段階といったもので細かいところは記されていない。だから、重要部分は自分で試行錯誤を繰り返さなければならず、実際プログラムの構築もまだ20パーセントにも満たない。
「これなら・・・・いや、これだとPICが正常に機能しないな。」
俺は、頭を押さえながらも作業を進めていく。もしかしたら彼女は胸をときめかせながらこの作業をしていたのかもしれない。
ISはかつて新世代の超兵器として注目されていた。
だが、俺はそんなことはさせない。
兵器としてではなく、「宇宙開発のためのマルチフォーム・スーツ」。それも「女」だけでなく、「男」も使えるものとして復活させたい。
それに・・・・この研究をしているとこの場にいない千冬姉たちとの繋がりを感じることができる。俺はそう思いながら手を進める。
「絶対に宇宙へ行こうな、束さん。・・・・そして、千冬姉。」
俺は、誰もいない地下室で独り言を言いながら作業を進めるのであった。
『首領、次の改造手術適合素体の候補が決まりました。』
『報告せよ。』
『名前は“オリムラ イチカ”。某大学に所属する学生でスポーツ万能、成績も優秀・・・・・』
『ん?待て。今、何と言った?』
『はっ、“オリムラ イチカ”と呼びました。』
『・・・・そうか。あの素体、やはり生きていたか。フッ、ハハハハ・・・・よろしい。では、予定通り蜘蛛男たちに作戦を行うよう指令を出せ!』
『了解しました。』
『“オリムラ”か。20年前、緑川が逃がした素体がこんな形で見つかるとはな。』
『お帰り、“我がショッカーの申し子”よ。』
旧1号編、結構好きなんだよな。