後日。
大学の休みを利用して俺は、次に出場するオートレースに備えて特訓をしていた。
高校の時までは、剣道をしていたのだが彼女の姿を見なくなったことを機に身を引いたのだ。
彼女というのは俺の幼馴染の篠ノ之箒という子で束さんの妹に当たる。彼女とは小学生の時からの付き合いで実家が剣道の道場だったことから暴力的な側面があってあまり馬が合わなかったが、小2の時たまたまいじめられていたところを助けて以降は仲は改善され、千冬姉と束さんの関係もあってお互い意気投合していった。
小4の時、一家そろって引っ越したことをきっかけに別れたが中学では練習試合や大会で時々顔合わせをしていた。俺も彼女に負けないつもりで鍛錬は続けていたつもりだったが彼女の実力はそれ以上に上がっていたのを知ったときは仰天したものだった。全国大会で個人杯でそれぞれ優勝した時は、敵校同士でありながら思わずハイタッチをしてしまったのは今でも鮮明に覚えている。おやっさんも会場に応援に来てくれたけど喜んでくれてたなぁ。
ちなみにだがおやっさんは、唯一重要人物保護プログラムの対象にされなかった篠ノ家の親族だ。簡単に言うと箒のお母さんは、おやっさんの妹で柳韻さんとは義理の兄弟の関係だ。新婚当時は、結構揉めていたらしいが最終的にはお互いの意見を尊重し、引っ越すまでは家族ぐるみでの付き合いも多かった。俺と千冬姉が世話になったのもこれのおかげだったのかもしれないな。
だから、白騎士事件を境に政府の重要人物保護プログラムで篠ノ之家がバラバラにされたときに一番心配していたのはおやっさんだった。大会が終わって二人で会いに行ったときは『お母さん、そっくりになってきたな~!!』って号泣しながら彼女を抱き寄せていた。箒も久しぶりの叔父の再会に喜んでいたっけな。
ところが高校に入ってからどういうわけか箒の姿を見ることはなくなってしまった。
最初の年は体調を崩したのかと心配していたが結局高校三年間で会うことは一度もなく、俺たちは何かあったのではないかと心配していたが束さんの自殺後の混乱がまだ収まっていなかったこともあり、篠ノ之一家の安否を確認することはできなかった。
唯一の再会の場が消えたことで俺は剣道から身を引くことを決めた。彼女も中学での優勝を機に新しい道を探しているのかもしれない。だから、俺も過去に縛られずに別の道を開こうと決め、元レーサーだったおやっさんから見込まれたこともあってレーサーとして活動をすることにした。見込まれていたこともあってバイクに乗り始めて1年も経たないうちに実力は身に付き始め、まだグランプリ優勝まで入っていないが小規模の大会は何度か首位近くまで行っている。
いつかは絶対に優勝するつもりだ。
「どうですか、おやっさん。」
既に何度か周回を走り終えた一夏は、ストップウォッチとにらめっこをしている藤兵衛に声をかける。
「うむ・・・前の大会の時と比べたらだいぶ早くなっているがグランプリ優勝まではまだまだだな。この程度のタイム、一流のレーサーなら普通に叩き出せる。」
「ハッハハハッ、おやっさんに言われるんじゃ、まだまだだな。」
一夏は、苦笑しながら言う。
「それにしても五反田の奴遅いな・・・・・あっ、来た。」
それからすぐ遅れてもう一台のバイクが戻ってきた。乗っている男はすでにバテており、ヘルメットを外すと赤みがかった長髪が露わになる。
「はあ・・・・・酔った・・・・」
「もう何やってんの、このバカ兄貴!」
藤兵衛の後ろで待機している女性は、呆れた顔をしながら伸びている男に肩を貸して近くに敷いているブルーシートまで連れていく。流石にこの様子に一夏もバイクを降りて駆けつける。
「どうだ弾?初めてのレースの練習は。」
「ウプッ・・・・・一夏、お前・・・よくこんなの乗り回せていたな。」
弾は、蘭から受け取った冷えタオルを額に乗せて一夏の顔を見ながら言う。
「一夏さんお疲れ様。」
蘭は、続いてスポーツドリンクとタオルを手渡す。この二人は、中学時代からの一夏の知り合いで実家は食堂である。二人は一夏の誘いで店の休業日を利用してこの活動に参加しているのだが弾は免許を取ったばかりということもあって不慣れだった。本人曰く『俺は原付きで十分』。
「要は慣れだよ。俺も最初に運転した時は怖かったからな。」
「怖いで済むもんかよ・・・あぁ、頭痛えぇ。」
「やれやれ、これじゃあまだしばらくチームは組めんな~。」
寝込んでいる弾を見ながら藤兵衛は、ため息をつく。
「じゃあ~私も乗ろうかな?」
「いかんいかん。蘭ちゃんにもしものことがあったら蓮さんに申し訳が立たんよ。」
「ケチ~!!」
「ハッハハハハ、それじゃあ、おやっさん。俺は、もうひとっ走りしてきます。今度は10秒ぐらい短縮して見せますよ。」
一夏はタオルとボトルを彼女に渡すとバイクに乗り、再びコースを走り始めた。
「うぅ・・・・」
それと同時に弾は起き上がり、森の方へとフラフラ歩いてくる。
「ん?お兄、どこ行くの?」
「・・・吐いてくる。ウプッ。」
「えぇ!?ちょっと・・・・離れたところでしてきてよね。」
蘭は、表情を引きつりながら森の中へ入っていく兄を見送る。
発進してコースの半分を過ぎた頃、一夏は周囲の変化に気が付く。
先ほどから自分より少し後方で走っていたオートバイの集団が自分を取り囲もうとしていたのだ。
「なんだ、こいつ等?」
違和感を感じながらもマシンの速度を上げて振り切ろうとする。しかし、しばらく進んでいくと今度は前方にバイクに乗った女性集団が待ち構えていた。
「危ない!?」
向かってきた集団を一夏は、寸でのところでジャンプして回避する。振り返ると集団は先ほどと打って変わって方向転換して何処かへ走り去っていく。
「どういうことなんだ?明らかに俺を狙っていた。・・・・よぉし、後を追って正体を突き止めてやる。」
そう決めると彼は、集団の後を追っていく。集団はしばらく走り続けるとコースから外れ、凸凹の整備されていない道へと移って行った。一夏も彼らの後を追って道に入ろうとするが入った瞬間、白い粘着性のある無数の糸が彼の視界を遮った。
「うわあぁ!?」
急な出来事に彼はマシンごと転倒してしまう。糸は瞬く間に体の自由を奪い、身動きが取れなくなった。
『フフフッ』
『ハハハハハッ・・・』
近くから女性の不気味な笑い声が聞こえてくる。
「誰だぁ!?」
一夏は、抵抗しながら声のした方を見る。そこには黒いレオタードに顔にペイントを施した女性が数人ほどこちらに近づいてきていた。だが、驚いたのはそこではない。
女の顔だ。
髪型はそれぞれ異なっているものの顔は全く同じでそれも自分がよく知っている顔だった。
数年前生き別れた姉と瓜二つの顔。
「千冬姉・・・・・」
そこで一夏の意識は途絶えた。
「う、うぅ・・・・・」
意識を失っていた一夏は、うっすらと目を開ける。
そこには白衣を着た男たちが自分のことをじっと見ている。よく見ると手術台に寝かされているようで体を動かそうとすると手足に鎖が付けられて拘束されていることがわかる。
「なんなんだ、アンタたちは・・・俺を自由にしろ!」
するとどこからともなく不気味な声が聞こえてきた。
『フッ、フッフッハッハッハッハハハ・・・・・織斑一夏。ようこそ我がショッカーへ。いや、お帰りというべきかな?』
「何、ショッカー?お帰りとはどういうことだ!?」
突然の言葉に一夏は、困惑する。声の主はそんな彼に対してさらに話を続ける。
『君は、我々ショッカーの“所有物”なのだ。』
「所有物?ふざけるな、俺は人間だ!」
『フッハハハハ、人間だと?ならば、貴様に親はいるのか?』
「二人は俺と姉を捨てた!」
『それも織斑千冬から言われたことであろう。本当の真相はわかるまい。』
「うっ。」
思わず否定した一夏だったが声の主の言葉に表情を顰める。すると自分のことを見ていた白衣の男の一人が口を開く。
「ショッカーの計画した『改造人間適正素体量産プロジェクト』。通称『プロジェクト・モザイカ』で織斑千冬と共に作り出されたサンプルがお前の正体だ。我々ショッカーの科学力にかかれば人間を作ることなど造作もない。」
「人間を作るだと?そんな話信じられるか!!」
「ならば、これを見るがいい。」
白衣の男は、そういうと目の前に一人の女性を連れてくる。
「ち、千冬姉!?」
その女性の顔は行方不明の千冬と瓜二つだった。一夏は思わず声を荒げる。
「何故だ、何故だ千冬姉!?何故、そこに・・・・」
しかし、女は無反応だった。
「無駄だ。この女はお前の姉と同じ遺伝子で作り出されただけの存在。織斑千冬としての記憶はない。」
「そんな・・・・」
『驚いたか、織斑一夏。お前は、我が組織の先兵となるべく生み出された人造人間なのだ。』
「・・・・嘘だ。嘘だ、そんなこと!!」
一夏は、激怒しながら言う。
「お前たちが、お前たちが千冬姉を殺し、クローンを作りだして俺をそう思わせようとしているんだろ!!千冬姉は、もう何年も帰ってきていない!お前たちが・・・・貴様たちが!!」
その瞬間、彼の体に電撃が走った。
「うわああああああああ!!!」
「これが真実だ。本来、改造人間とは言えど体にエネルギーが送られていない段階でこの5万ボルトの電圧を受ければたちまち黒焦げとなる。だが、お前はその電圧にも耐えた。それは、事前にお前の体に流れている微細のナノマシンが破損個所を瞬時に修復しているからだ。だから、火傷一つ残らない。このナノマシンを持つものはプロジェクト・モザイカで生み出された素体のみ。お前は、生まれながらにして人間ではないのだ。」
「人間・・・・・ではない?」
淡々と説明する白衣の男に対し、一夏はぐったりとしながら答える。
昔から傷の治りが早いことに疑問を感じていた。しかし、姉も同様に治りが早かったことからそこまで気にしていなかった。
しかし、物心ついた時から両親が不在だったこと。それを明かそうとしない姉のことを考えてみると自分に真実を隠そうとしていたことがわかる。
それに今自分の体を見てその改造人間にされてしまったことが嫌というほど伝わってくる。
『我々ショッカーはやがて全世界に改造人間を送り込み、すべての国を掌握する。そして、その改造人間たちを操るのがこの私なのだ。』
「だが、お前の改造手術は完璧ではない。苦痛を感じるのはまだ脳改造を施していないからだ。脳改造が済み、指令のままに動くようになれば君は完璧なるショッカーの改造人間の一員になれる!」
痛みに耐えながらも一夏は、白衣の男たちをにらみつける。
「例え死んでもお前たちの言いなりになるものか!ショッカーに作られた存在だとしても・・・・俺は、織斑一夏という人間だ!!屈するものか!!」
「誰しもが初めはそう思う!そして、やがてショッカーの一員になれたことに感謝するようになる!」
白衣の男は、そう叫ぶと一夏の方へと向き直る。
「これより、織斑一夏の脳改造手術を行う。」
他の白衣の男たちも一夏の周りを取り囲む。一夏は、どうにかここから抜け出そうと手足に力を籠め始める。
ところが麻酔の注射針を刺そうとした直後、部屋の電子機器が突如ショートを起こし、部屋全体が停電となった。
「何事だ!?」
警報が鳴る中、白衣の男たちは状況を確認しようと急ぐ。そこへ部屋に赤黒のタイツの戦闘員が入ってきた。
「発電室が謎の女に破壊されました!」
「直ちに探すのだ!」
白衣の男たちは、戦闘員と共に部屋から出て行く。一夏はこの隙を突いて脱出できないか手足を思いっきり引っ張ってみた。
バキンッ
すると手錠を繋げていた鎖は呆気なく千切れてしまった。続いて手錠を掴んで引っ張ってみると粉々に砕ける。
「この力は一体・・・・・」
ウィーン
「ん?」
扉が開く音が聞こえたため、一夏は警戒して出入口の方を見ると謎の音楽が流れてきた。
エバラノエバラノエバラノエバラノエバラノエバラノ~
そこには、ウサミミのカチューシャに胸元が開いたデザインのエプロンドレスといった独特の格好をした女性が立っていた。
「ご・ま・だ・れ~!!」
「・・・・・・・・」
自分の目の前に現れた女性に対し、一夏は無言になる。
「・・・・・あれ?面白くなかった?」
女性は、少し残念そうな顔をして言う。一夏は、目を疑いながら彼女を見ていた。
「・・・・・束さん?束さんなのか?」
「うん、そうだよ。久しぶりだね、いっくん。」
束は、ニコっとしながら答えた。紛れもなく本物だ。しかし、彼女はもうこの世にいないはずの人間だ。
「どういうことなんだ?束さんはあの時自殺したはずじゃ・・・・・」
「なんて答えればいいかな~~~これには色々事情があって~~~~」
束が頭を抱えていると部屋の電気が復旧してしまった。
「あっ、やば。とりあえず、今はここから脱出しよう。」
「しかし、どうやって。」
一夏が脱出口がどこなのかわからないと言おうとした直後、束は部屋の天井に指を指した。
「あの天井を突き破れば、基地の出入口に出られるよ。見張りもクーちゃんがやっつけてくれているからすぐに逃げられる。」
「無茶を言わないでくれ。第一、この高さじゃ天井に届くことさえ不可能だ。」
「いっくん、今の君の体は人間とは比べ物にならないパゥワ~があるんだよ。現にその手足に付いていた鎖も簡単に引きちぎることができたでしょ?」
束に言われて一夏は、再び近くに落ちている鎖の残骸を見る。確かに常人では不可能なことだ。それを今の自分はできている。
「・・・・わかりました。やってみましょう。」
一夏は、束の体を掴むと思いっきり天井に向かってジャンプする。すると足は床から離れ、二人の体は天井を簡単に突き破っていった。
天井の上は日の光が差しており、周囲には警備していたであろう黒タイツの戦闘員たちが倒れていた。基地の出口には一夏のバイクが置かれている。
「さっ、今のうちに!」
束に言われるまま、一夏はバイクに乗りこみ、エンジンをかける。
今は一刻も早くここから離れる。一夏はそう決めると基地からマシンを走らせた。
『織斑一夏が逃げたぞ!』
『侵入者は誰だ!?』
『篠ノ之束です!間違いありません!!』
『あの女、やはり死んでいなかったか!?』
『裏切者二人を捕らえろ!出来なければ抹殺せよ!!』
『特に篠ノ之束は生きて帰すな!あの恩知らずを何があっても始末するのだ!!』
しばらくバイクを走らせると周囲の霧が濃くなってきていることに気付く。
「束さん、視界が悪くなってきた。」
「やっぱり待ち伏せか・・・・仕方ない。いっくん。」
後部に乗っている束は崖の方に指をさす。
「あの崖から飛び降りて。」
崖の下は海面で落ちればひとたまりもない。
「何を言っているんだ!?落ちたら二人揃ってお陀仏だ。」
「いいから私を信じて。そうしなきゃ、逃げ切れないよ。」
「・・・・信じろ?千冬姉からも箒からも逃げたのにか?」
一夏は、表情を険しくしながら言う。
「アンタはいつだってそうだ。自分で作ったISを世間に出してから無責任に世間から暗まし、家族をバラバラにし、箒からは家族の温もりを、俺からたった一人の家族である千冬姉を奪った。そんな奴をどうやって信じろというんだ?」
「・・・・ごめん。取り返しのつかないことをしていたのは認めるよ。ショッカーを欺くためにはあれぐらいのことをしなくちゃいけなかったんだ。お父さんもお母さんも箒ちゃんも、強いショックを受けていたと思っているよ。ちーちゃんのことも。」
背後で顔を見ることはできなかったが彼女が表情を暗くしているのは何となく感じられた。
「けど、今は信じてほしい。ショッカーが存在している以上私にもいっくんにも安息の日は訪れないんだよ。それだけじゃない。いっくんのお友達や藤兵衛伯父さんも危ないんだ。」
「束さん・・・・」
一夏は束の言葉に対して返事をしようとした直後、白い蜘蛛の糸が自分に向かって飛んできた。
「くっ、またか!?」
一夏は、視界を遮られながらもハンドルは放さんとばかりにしがみつく。ところが霧で見えなかったことも災いして目の前に蜘蛛の巣の形状をしたネットがあったことに気が付かなかった。
「しまった!」
一夏はブレーキをかけようとするもネットに引っかかり、反動で押し返され、二人揃って崖に真っ逆さまに落ちてしまった。
「「わああああああああ!!!」」
二人は、そのまま海面へと消えていった。崖の上では追跡を行っていた戦闘員と蜘蛛男たちが沈んだ二人のことを確認する。
「・・・・・ウゥウ。この高さから落ちればいくら奴らとは言え、助かるまい。」
「しかし、万が一のこともあります。」
死んだと判断する蜘蛛男に対し、サブリーダー格である赤戦闘員が意見を述べる。
「ウゥ・・・なら、基地に戻ってウツボ男に探させればいい。海なら奴のテリトリーだからな。」
そう言うと彼らは、基地へと引き返すのであった。
ライダー早く出したい。