※4月12日早朝に一部の文章が重複していたことが判明したため、修正しました。
蜘蛛男を倒した後、一夏と藤兵衛は束の移動式ラボへと連れてこられた。当初は、隠れていた廃ホテルで合流するはずだったのだが藤兵衛がショッカーに目を付けられたこともあり場所を変えたのだ。
「驚いたな、指名手配されてからどこに隠れていたのかと思ったらこんな秘密基地を作っていたなんてな。」
藤兵衛は、感心しながらラボの中へ入っていく。
「俺は、ショッカーのアジトのことを思い出すからあまり居心地よくないな。」
「まあ、贅沢言わないでよ、これでも拡張してあるんだからさ。」
四人は、ラボのリビングに来る。束は二人を大型のソファーに座らせ、テーブルを挟んで自身も座った。
「クーちゃん、コーヒー四人分お願いね。」
「畏まりました。」
束に言われると女性は、そのままキッチンの方へと歩いて行く。その後姿を見送ると束は、一夏たちの方へと向き直った。
「さて・・・どこから話せばいいのかな。」
少し悩む束に藤兵衛は、早速とばかりに質問を投げる。
「束、まず教えてくれないか。何故、みんなの前から姿を消したんだ?俺もだが箒たちも心配していたんじゃないか?」
藤兵衛の問いに対し、束は少し表情を歪ませる。
「私がみんなの目の前から失踪したわけは・・・・・」
「やっぱり、ショッカーが絡んでいるのか?」
「うん。詳しく言うとショッカーが私に絡んできたのはずっと昔。ISの開発中の時だったよ。基礎理論を完成させるには至ったんだけど肝心の資金調達に困ってね。学生だからお父さん、お母さんたちには頼むわけにはいかない。クラウドファンディングをしようにもそんな未知数の代物に資金援助をしてくれるスポンサーもいない。もう、四苦八苦で諦めるしかないかなって考えていた時、唯一ショッカーだけが資金援助をしてくれるって話が来たんだよ。」
「・・・」
「最初は、悪い冗談かと思ったけど私は、『夢を叶えるチャンスはもうこれしかない』と考えて悩んだ末、申し入れを受けることにしたんだ。でも、向こうからも条件を付けられたんだ。」
「条件?」
「一つは、ショッカーのメンバーになり、ISの基礎データを定期的にショッカーに提出すること。もう一つは、テストパイロットにちーちゃんを選ぶこと。」
「まさか!?」
「そう。ショッカーは、ISのデータと共にちーちゃん身体能力のデータを欲しがっていたんだよ。何しろ向こうには幼少期のデータしかなかったからね。それにISは、タガが外れれば現代の兵器を圧倒的に凌駕する超兵器のパワード・スーツになる!覚えているでしょ?『白騎士事件』。あの事件は、私は性能を評価してもらうだけだったんだけどショッカーにマッチポンプとしていいように利用されていたんだよ!」
束は、普段とは違う自虐気味な態度で吐き捨てるように話を続ける。
「私は、自分の夢を兵器利用されたと知って怒りを隠せなかったよ。だから、テスト終了後にプログラムを一部書き換えたんだ。一定の適性がある女性のみしか扱えないって仕様にね。ショッカーは最初まだ未完成だからという理由で誤魔化せたけど、ISを公表した以上全てをもみ消すことはできなかった。それでできてしまったのが私が自殺する前までの世界情勢。」
「それで8年前、千冬姉が失踪したのを機に自らも自殺を演じてISをすべて消したのか。」
「コアの製造は私しか知らなかったからね。だから、コアさえ失ってしまえば開発競争自体がなくなる。混乱はあったけどね。」
束は、力が抜けたようにぐったりする。よほど溜め込んでいたのか顔色は落ち着いている。話を聞いて藤兵衛は腕を組みながら真剣な顔をする。
「・・・・そんなことがあったのか。まさか、あの事件にそのショッカーが絡んでいたとはな。しかし、お前が世間で死んだことになっても奴ら、箒ちゃんや柳韻くんまで狙ってくるんじゃないか?」
その言葉に一夏は、高校の時から箒に会えなかったことを思い出す。
「そうだ!箒とは高校一年以降一度も姿を見ていない!」
自分はつい一週間前につかまって改造された。もしや彼女も・・・・・
「束さん、箒は?箒たちの居場所は!?」
「グズグズしているとあいつら、俺みたいに攫いに来るかも知れんぞ!?早く助けに行かねば・・・・・」
一夏と藤兵衛は、急かす。
「・・・・あのね、そのことなんだけど。」
ドーン
束が言いかけた直後、ラボに凄まじい衝撃が襲った。
「な、なんだぁ!?」
突然の揺れに藤兵衛は、驚きを隠せずにいるが束は顔色を変えてキッチンへ行った女性を呼び戻す。
「クーちゃん!」
「はい、精神安定剤と睡眠薬の配合を済ませておきました。」
女性から動物用と思われる巨大な注射器を受け取ると束は、急いでリビングを出て下の階へと走っていく。一夏と藤兵衛もその後に続く。
「束さん、今の衝撃は!?」
「まさか、あの連中もうここを嗅ぎつけたのか!?」
「違う!でも、早く大人しくさせないと!」
三人は、下の階にある倉庫と思われる扉の前に辿り着く。壁も既に一部が歪んでおり、中で何かが暴れているのは間違いないようだった。
「この部屋は・・・・」
「ここからは私一人で行く。いっくんと伯父さんは、ここで待ってて。」
束はそう言うと扉のロックを解除して中へと入って行く。中からは何か人間ではない生物のような奇声が聞こえてくる。その声に一夏と藤兵衛は、不安を感じる。
「一体、この部屋には何がいるというんだ・・・・」
中では何かが暴れているような音が響いてくる。一夏は、思わず部屋に入ろうとするがそこへ女性が声をかけてきた。
「お二人とも、コーヒーが入りました。」
「し、しかし・・・・」
「束様なら心配いりません。早くしないと冷めてしまうので。」
心配しても仕方ないと考えたのか藤兵衛は女性からティーカップを受け取り、コーヒーを口にする。
「ブッ!?」
「おやっさん!?」
ところが藤兵衛は、すぐに含んだコーヒーを吹き出してせき込んでしまった。
「お、お嬢さん!こ、これのどこがコーヒーと言うんだ!?」
「ただ、煎ったコーヒー豆を挽いてお湯を注いだだけですが。」
「豆を煎っているどころが焦げておるよ!これじゃあ、コーヒーじゃなくて苦湯だ!エグみが半端ない!!」
藤兵衛の苦情に対して女性は、困ったような顔をする。どの道、束が部屋から出て来るまで待つしかないため、一夏は女性に助け船を出すことにした。
「おやっさん、文句言ったってしょうがないよ。この際だから俺が新しく淹れるから勘弁してあげよう。」
「いやいや、こんないい歳した女の子がコーヒー一杯うまく淹れられないようじゃ将来が心配だ。俺が本当のコーヒーの淹れ方を教えてやる!」
二人は女性を引き連れてリビングへと戻った。
リビングのキッチンに行くなり、藤兵衛は豆の煎り方から挽き方まで女性に丁寧に伝授する。女性は元々手先が器用だったのか彼の教えである程度ポイントを掴むとすぐに行動に移し、先ほどとは違って香ばしいコーヒーを淹れることができた。
「ほら、うまくできただろう?本当のコーヒーってやつはこういう風に淹れるんだ。」
三人は、改めてソファーに座ると早速入ったばかりのコーヒーを口にする。
「これは・・・・・」
女性は、自分が淹れたコーヒーと信じられないのか普段は開かぬ目を見開いて驚く。一夏と藤兵衛も納得の出来のようだ。
「流石おやっさんが指導しただけのことはあるな。アミーゴで飲んでいるものとあまり変わらない。」
「豆がよかったからな。だが、淹れ方を熟知しておかんとうまいコーヒーは作れん。束の奴、小さいとき店によく来てくれていたのに何でコーヒーの味がわからんのかなぁ・・・・」
藤兵衛は、そう言いながら腕を組んでいると女性は、少し申し訳なさそうな顔をする。
「申し訳ございません。私自身、束様に拾われるまで料理なんて一度もやったことがありませんから。」
「別にお嬢さんが謝ることじゃないよ。」
「でも、束様のことはそんなに責めないでください。」
「束さんのこと、随分慕っているんですね。えっと・・・・・」
一夏は、女性の名前を言おうとしたが知らなかったため、言葉が途切れる。女性は今更ながら自己紹介をした。
「クロエ。クロエ・クロニクルと申します。」
「クロエさんか。そう言えば、クロエさんはどこの国出身なんですか?名前からして日本人じゃないようですが。」
「私に出身地はありません。私も貴方のようにショッカーに作られた存在ですから。」
「ショッカーに?」
クロエの言葉に、一夏と藤兵衛は呆然とする。目の色からにして普通の人間でないことは察していたがまさか彼女までショッカーの息がかかっていたとは思いにもよらなかった。
「一夏と同じショッカーに作られた存在?」
「正確には『プロジェクト・モザイカ』から派生された『遺伝子強化体計画』のプロトタイプ素体です。ですから、使われている遺伝子とナノマシンが異なります。ドイツで行われていたものは私から取れたデータを基に進められていたんです。」
「じゃあ、その目も・・・・」
「『ヴォーダン・オージェ』、またの名を『オーディンの瞳』と呼ばれる疑似ハイパーセンサーの試作品です。それ故にドイツで採用された正規品と比べて性能が劣りますが。」
「・・・・すまんな。失礼なことを聞いて。」
藤兵衛は、プライバシーにかかわることだと考え彼女に謝罪する。
「いいえ、これでも束様に拾われて心は救われましたので気にしておりません。」
「ちなみに貴方は何故、ショッカーではなく束さんの所へ?」
「改造人間素体として不適合だったからです。そのため、以降は薬品実験用のモルモットとして生かされていました。そこへショッカーのメンバーになった束様と出会い、助手として拾ってくれたんです。」
「そうか・・・つまり、君にとって束は命の恩人なんだな。」
「恩人・・・というよりは『お母さん』と言った方が近いかもしれませんね。実際、束様も私のこと娘のように接してくれますし。」
「お母さん・・・・・あの子のことをそんな風に見るなんて意外だな。」
クロエの言葉に藤兵衛は、目を丸くする。すると階段を上ってくる音が聞こえてきた。
「いやいやお待たせ~。」
「やっと戻って来たか・・・・た、束!?」
藤兵衛は、リビングに来た束の姿を見て愕然とする。全身血だらけで頭のカチューシャのウサミミは片方が折れ、エプロンドレスはズダズダに引き裂かれ、腹部の方には何か貫かれた跡のようなものが残っていた。
「ど、どうしたんだその傷は!?」
「ん?あぁ、これね。別に大したことないよ。」
「大したことあるだろ!?そんな血だらけになって・・・・・・」
「大丈夫、大丈夫。クーちゃん、悪いけど着替え持ってきて。」
「畏まりました。」
束の指示を聞くとクロエはリビングを後にする。束は、そんな格好なのにもかかわらずお構いなしにソファーに腰を掛ける。
「あ~~~しんどかったな~。これでしばらくは大丈夫だと思うけど。」
「・・・・・」
「大丈夫じゃないだろう!!そんな怪我で・・・・」
「おやっさん、どうやらそんな心配しなくてもいいようだ。」
「えっ?」
藤兵衛は、一夏のその言葉に最初何を言っているのか理解できなかったが改めて束の体を見るとあることが分かった。
服がズダズダで血だらけだというのに体の傷が一つもないのだ。
「これは・・・・どういうことなんだ?」
「束さん、アンタ自分の体に何か改造を施したんだろう。」
「なっ!?」
「考えてみてくれおやっさん。あの時の自殺映像、偽物に見えたか?」
彼に言われて藤兵衛は、思い出したくもないあの自殺映像を振り返ってみる。確かにあれは合成やCGではなく、本当に頭部を銃弾が貫いていた。いくら、影武者を用意したとしても幼い頃から見てきた姪を見間違えるわけがない。
「あの映像で確かに束さんは、自分の頭を撃ち抜いた。だが、改造人間なら例え人間では致命傷な傷でもかすり傷程度で済む。だから、こんなに血だらけになっても平気でいられるんだ。」
「流石、いっくん。そこまで見抜くなんて伊達に私が残した資料からISを作ろうとするだけのことはあるね!」
束は、正解とばかりに拍手を送る。
「その通り、今の私の体は普通の人間じゃない。」
「そ、それじゃあ・・・お前も改造人間なのか?」
「うんうん。正確には違う。私の体にはいっくんやちーちゃんの体にあるナノマシンの改良型が流れているんだ。」
「でも、確か計画の主導をしていた緑川博士は殺されたんだろう?クロエさんを作った遺伝子強化体計画も使っているものは違うし。」
「確かに緑川博士は殺されたよ。でも、こんな超ハイスペックなナノマシン諦めるショッカーだと思う?」
束の問いに対して一夏は首を横に振る。
「私がISの開発を進める傍ら、ショッカーはナノマシンの複製を頼んだんだ。モザイカ計画のナノマシンは、本体から摘出されると機密保持のため、機能が停止してしまう。だから、そのブラックボックスを解析する必要があったんだ。」
「それでお前はその解析に成功したってわけか。」
「まあね。でも、ショッカーに渡すわけにはいかなかった。改造人間なんかに使われたら奴ら、本当に不死身のモンスターを作ることになっちゃうからね。だから、失敗したということで未完成の改造用ナノマシンだけ渡したんだ。それが後悔することになるなんて・・・・」
束は、悲しい表情を浮かべる。一夏は、先ほど言いかけた言葉を思い出す。
「・・・・・・もしかして、そのナノマシンと箒たちが何か関係あるのか?」
「・・・・・うん。」
一夏の言葉に束は、小さく頷く。その様子を見て藤兵衛も悪寒を感じる。
「この際、隠してもしょうがないから全部話すね。」
彼女の言葉に二人は息をのむ。
「さっき、下の階の部屋で何か唸り声を出していたでしょ?」
「あぁ。」
「・・・・・あれ、箒ちゃんなの。」
その言葉に二人は、何を言っているのかわからなかった。
束から明かされる篠ノ之一家の消息。
自分でなくなることを恐れる者。
ナノマシンの恐怖とは?
次回の仮面ライダーは「悪魔のショッカー 中編」をお送りします。