魔王倒して元の世界に戻ろうと思ったら、歪な男女比の世界に転移してしまった件   作:羽根消しゴム

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転移

シャンデリアや、艶光りしている装飾品。

 

それらが至るところに散りばめられた部屋で、俺は玉座に座る女と対峙する。

 

 

「・・・よく来たな、勇者。勇ましき者の名を冠するだけはあるようだ。」

 

 

暗く、深淵を覗き込むような紫の瞳をした、威風堂々を体現した面持ちの女。

 

並みの者ならば見ただけで卒倒しそうな魔力を体に纏っているが、その口だけは妖艶に歪んでいた。

 

 

「努力だけはしたんでね・・・俺には戻る場所があるんだ。ここで死ぬわけにはいかないさ。」

 

 

勇者───神の選定により選ばれた、神託者とも呼ばれる称号を持つ者の事を指す言葉だが、実際には違う。

 

強制的にこの世界に召喚され、争いをしたことすらない俺を無理矢理魔物と戦わせやがった。

 

神なんて見たこともないし、神託なんてものも勿論受け取ってない。

 

だがアイツら(あの国)は、神託と称して俺に洗脳を施したり、力を上げる代わりに考える能力が下がってしまう薬を施した。

 

 

───召喚したのはそっちなのに、この仕打ちは流石にあり得ないだろ。

 

 

そんな言葉も時が経つうちに言えなくなってしまった。

 

召喚される前まで、こんな国が現実にあってたまるか!と思っていたが、本当にあるとは思っても見なかった。

 

だが、それも今日で終わりだ。

 

コイツを───この魔王さえ倒せば、全てが終わる。

 

どんな傷でも治すと言われるエリクサーも万全に備えて準備をしている。

 

倒すのは今しかない。

 

 

「ふふ、その生に囚われている目・・・なかなかに甘美だ。だが可笑しいな・・・我はお前達人間に何かしたか?」

 

「・・・いいや何も。ただお前達魔族が支配している土地を、あの国が欲しがってるからな。」

 

 

本当にコイツらは何もしていない。

 

そう、なにもだ。

 

 

だがそれでも俺はコイツを倒さないといけない。

 

元の世界に戻るために。

 

 

「希望の証とも言われる勇者が・・・まさか我々魔族に絶望を振り撒くとはな・・・まぁ、それは人間側の話ではあるが───ところで勇者。」

 

「なにか?」

 

巨大な宝石が埋め込まれた剣を携え、いつでも抜剣出来る程度に耳を傾ける。

 

「私も魔族の王として、ここで負けるわけにはいかないのだ。それ故───我と取引をしないか?」

 

「・・・と、取引?」

 

「あぁ、そうだ。どうせあの国の事だから、魔王を倒せば元の世界に戻す・・・とでも宣っているのかもしれないが、信じない方がいいぞ」

 

 

───ってなんだ、そんな事か。

 

途中、つい真剣に耳を傾けていた自分に腹がたってしまう。

ただの取引という名の罠じゃねぇか。

 

何を言うつもりなのか知らないが、そんな罠に自ら嵌まる程、俺はまだ狂っていない。

 

「そんなこと俺だって分かっているさ。ずっとずっとあの国の犬として生きていた俺だからこそ分かる。あの国の連中は俺との約束を守る気はない・・・ってことくらいわな。」

 

「ほう?失敬した。ただあの国の連中に踊らされる哀れな人間だと思っていたようだが、見くびっていたようだ。」

 

何処か飄々とした態度の魔王を尻目に、決着を付けるべく俺は剣を抜いた。

 

そう、あの国が約束を守ってくれなければ、俺はこのままでは元の世界に戻れないだろう。

 

だが、一つだけ方法がある。

 

魔物と戦った際に、偶然俺の放った戦略級魔術の影響で、ほんの少しだけ空間が歪んだのが確認できたのだ。だから閃いた。

これ以上の膨大な魔力を使って、元の世界とこの世界を隔てる壁をぶち壊せば・・・?

 

もしかしたら元の世界に戻れるかもしれない、と。

 

勿論、膨大というのは比喩ではない。

文字通り、生き物では扱えない程の魔力がないといけないのだ───それこそ魔王レベルのを。

 

だが、それでも元の世界に戻れるか半々という程度だ。

 

何せ隔てる壁をぶち壊すなんて、誰もやった事がないからな。

 

 

しかし───俺に残された可能性はこれしかないのだ。

 

賭けるしかないだろう。

 

 

「・・・成る程、我の魔力を使って・・・か。」

 

「ちっ、心を読むとは・・・なかなかプライバシーがない魔王みたいだなッ!」

 

 

その言葉を宣言として、玉座に座る魔王に踏み込む。

 

少々汚いかもしれないが、仕方がない。

 

魔王のような化け物相手には、俺程度では勝負にすらならないだろう。

 

だから奇襲のような形で───一気に畳み掛けるッ!

 

 

「ふふっ、たった二年でこれ程・・・か。勇者、お主剣の才はあるようだな?」

 

「・・・は、ははっ・・・嘘だろ?俺の剣を・・・ゆ、指で白羽取りなんて・・・。」

 

 

───が、俺の剣は魔王には届かなかった。

 

それも思い切り力を籠めた剣を指先だけで止めてしまわれる程度には、俺と魔王には隔絶した力の差があった。

 

反射的に思考する。

 

やはりこれではどう足掻いても勝てない・・・と。

 

魔王達の部下を一人で倒していった事があるが、それでもこんなに力の差は感じなかった。

 

脳裏に浮かぶ絶望の二文字。

剣を引き抜こうにも、ピクリとも動かない。

 

パッと見では妖艶な女にしか見えないが、俺では逆立ちしても勝てないことをひしひしと感じた。

 

 

「・・・もういっそ殺してくれ。」

 

「おや?もう諦めてしまったのか?全く情けない・・・それでもあの国の勇者か?」

 

「うるせぇ・・・俺はあの国のために俺は努力したんじゃない・・・元の世界に戻るために努力したんだ。」

 

 

生憎だが、俺はこの世界の一般人の半分程度しか魔力量を持っていなかった。

 

今でこそ、合法非合法問わず魔力の底上げを行ったのが功を奏し、一般人の十倍程度の魔力を持つに至っているが、勇者としてはこれでも少ない方らしい。

 

まぁ、勇者としては少ない・・・ということは、俺が召喚される前にも勇者(犠牲者)がいたということになるが、どうなんだろうな?

 

そいつらは元の世界に戻れたんだろうか?

 

まぁ、今はそんなことを考えても仕方がない・・・か。

 

 

「ふふふ、安心しろ。そう簡単に終わらせるつもりはない・・・そうだ、お主に力を授けるのも有りかもしれないな。それでお主があの国に復讐していく様を見るのも面白そうだ。」

 

「勘弁してほしいな、それは。俺は復讐モノは苦手なんだ・・・ついでに胸くそ悪いシーンもな。」

 

「我の部下を倒した者がそれを言うか・・・我からすれば、部下が次々と床に伏していく様はなかなかに胸くそが悪かったがな?」

 

安心しろ、お前の部下は死んでいない。

その言葉をグッと堪え、魔王を倒す切り札を取り出す。

 

 

「・・・なぁ魔王。俺はな、圧倒的な力の差があっても、勝てる方法はあると思うんだ。」

 

「ほーう?たかが人間が面白い事を言うな?それでは我にも教えて貰おうか───この状況でどうやって勝とうと言うのだ?」

 

 

簡単だ───。

 

「騙し討ちに決まってんだろッ!」

 

 

そう告げる俺の右手には、神々しいオーラを放つ、魔を祓う白麗の槍が握られている。

 

俺が常日頃から魔力を注ぎ続けた、聖白銀(ミスリル)製の槍だ。

 

名を“断ち穿つ純白の聖槍”(グングニル)と呼ぶ。

 

魔族にとって天敵である聖属性をふんだんに付与しているこの槍は、魔族からすれば、触れるだけで体が崩壊する悪夢の鎌と化すだろう。

 

正直、コイツ(魔王)が剣を受け止めてくれて助かった。

 

俺を人間と舐めきって、余裕の態度を崩させないようにこの必殺技を放つのはかなりの難易度だとは思っていたが、安心した。

 

「いくら魔王でも、この距離からじゃあ避けられないよなぁッ!?」

 

「・・・ふ、ふふ、驚いた。この剣は我を騙すためのブラフだったのか・・・それにそうだな。この距離では避けきれない。魔力障壁でも防げなさそうだ・・・ふふふ、参ったな。」

 

 

そう口先では言いつつも、妖艶な笑みを崩さない。

 

まだ何かあるのか?

そう考えつつも、今さらグングニルを止めるわけにもいかない。

 

 

「グン、グニルゥッ!」

 

 

勢いを付けて、放つ。

 

音を置き去りにするような早さで、目の前の魔王に向かって射出される槍。

 

俺が次に見えたのは、槍が魔王を貫通したところだった。

 

「───なんで、なんで避けなかったんだ?」

 

「・・・ぐふっ・・・ふ、ふふ、簡単な事だ。わ・・・我は元よりお主にか、勝つ・・・かはっ!?・・・つ、つもりはなかったから・・・なぁ・・・。」

 

 

コイツなら、どんな速度で放った槍でも簡単に避けてしまいそう・・・いや、実際避けることは可能だったのだろう。

 

何せ放った俺ですら視認できなかった速度の槍を、一瞬だけだが受け止めようとしたのが見えた・・・そして結局止めなかったのも。

 

「既に・・・我の部下はお前によって・・・倒さ・・・れている・・・。な、ならもう・・・私には魔王という地位に・・・拘る必要がなくなった・・・のだ・・・。」

 

 

息も絶え絶えといった様子で、俺の目を見据えて語る魔王。コイツは部下の事をかなり大事にしているのは知っていた。

 

コイツを倒すために事前に下調べした際に、部下達の事を家族の様に扱っていたのは記憶に新しい。

 

だがそれでも、俺はコイツを倒さないといけない。

 

コイツとは悪い意味で俺は背負うものが違うが、それでも俺にだって家族がいる。

 

友達もいる。

 

だから倒す。

 

だから───だから俺は間違っていない・・・筈だ。

 

 

「・・・すまない。」

 

「ふ、ふふ・・・良いのだ・・・よ。この世界は・・・弱肉強食・・・。我もお主も・・・ただ、それだけのこと。」

 

 

つい口から飛び出た言葉に対して、魔王はそう溢す。

俺が殺すのは、モンスターを除いて魔王が初めてだ。

 

だから、こんな悲しげな表情を見てしまい、俺の心が揺らぐのを感じた。

 

「・・・あぁ、そうだ勇者よ。」

 

「・・・なんだ。」

 

「おめでとう、お主の勝利だ。」

 

 

ガタン。

 

そんな音ともに、魔王が玉座から堕ちる。

既にグングニルは消滅していた。

 

 

「・・・俺が欲しいのは魔力だけだ。後は生き返らせる。」

 

 

魔王を倒すとはいったが、死なせるとは言っていない。

 

そのために、俺は大金をはたいてエリクサーを買ったのだ。

 

一先ず、魔王の魔力を操り、俺の魔力と融合させていく。

 

言葉で説明するのは簡単だが、膨大な魔力の奔流を操る精神力と技量は並大抵じゃない。

 

軽く三十分はかかってしまった。

 

「はぁはぁ・・・あ、後は向こうの世界とこの世界の壁をぶち壊すだけだな・・・。」

 

膨大な魔力を使い、空間に干渉する。

失敗するわけにはいかない。

 

途中、脳の血管がブチブチと破れていく感覚がして、回復魔法と併用しながら操っていく。

だがそれでも、回復しきれずに鼻から血が垂れてくるのを必死に拭い、体を酷使して空間の壁を壊し続けた。

 

「・・・あ、開いた・・・のか?」

 

───壊し続けて十五分後・・・朦朧とし始める意識と格闘していると、遂に空間に僅かな歪みが確認できた。

 

だが、空間に干渉したせいか、頭が尋常じゃなく痛いし、鼻血も未だに収まらない。しかし、その痛みが一瞬分からなくなる程に、脳内を達成感が支配していた。

 

「かえ・・・れる?これで俺はようやく・・・帰れるのか?」

 

実行しておいてなんだが、未だに信じられない。

 

これで、あの苦痛(拷問)とはおさらばなのか?

 

これで、家族と会えるのか?

 

これで、友達と会えるのか?

 

これで、日常に戻れるのか?

 

 

「は・・ははっ!やった・・・俺はやったんだ・・・ついに・・・ついに俺はッ!」

 

滝の様に溢れてくる涙をこれまた拭い、人間が一人分通れる程の大きさになった空間の歪みに突き進む。

 

勿論、魔王に向かってエリクサーを振りかけておくのも忘れずに、だ。

 

魔王はその強さ故に、あの攻撃でも死んではいないが、瀕死だった。

けど、これで目を覚ますことだろう。

 

その時は、あの国に復讐するなり何なりして欲しい。

しかし───それにしてもコイツ、部下達が生きていたらどんな反応をするんだろうな?

 

少し見てみたい気もするが、止めておくか。

 

・・・と、そんな事を呑気に考えつつも、俺はまた一歩空間の歪みへと進む。

 

 

もう、戦いなんてこりごりだ。

 

───そんな気持ちを抱いて、俺は暗闇へと消えた。

 

 

まさか転移した先が、現代日本ではないという事を知らないまま。

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