魔王倒して元の世界に戻ろうと思ったら、歪な男女比の世界に転移してしまった件 作:羽根消しゴム
───魔王side
「……なぜ、私は生きているんだ?」
ぼう、とシャンデリアが軽く明滅している玉座の傍らで、私は己の生に疑問を抱く。
確か私は勇者と戦い、そして───破れたはずだ。
となるとここは地獄ということになるが、どうやらそうでもないらしい。
吹き抜けた壁からは生温い風が頬を刺激し、私が生きているという証明をしてくれている。
体の傷は見たところ完治していた。腹にグングニルとやらの一撃を受けて穴が空いていたはずの穴は、ものの見事に素肌を露出するだけの穴にしかなっていない。
そこに戦闘を行った形跡は何一つ残されては居ないのだ。
だがしかし、練ることが出来ないほど消費された魔力だけが、その戦闘を思い出させる。
「どうやら勇者は転移に成功したらしいな」
膨大な魔力で空間に穴を空ける、なんて莫迦なこと。本来なら私も出来ないと嘲笑していただろう。
だがヤツはそれを成し遂げた。
惜しむらくは、このあと私にどうやって生きろというのだろうか?
部下たちの生命は既にないのに、再び生きる価値がこの世界にあるのだろうか?───否だ。
「ふむ、エリクサーか何かで私の事を蘇生した勇者には悪いが……再び死ぬとしよう。この世界にもう、私の生きる価値はない」
もう何も悔いはない。
そう思い至り自分自身で死のうと、ヤツと戦う時にも使わなかった魔剣で首を落とそうとした───その時だ。
ひらり、と宙から白い紙が舞い降りてきた。
ふと気になり、その紙に手を伸ばす。
そこには勇者の字だろう、少し形が崩れた執筆で───『お前を倒したのは俺だ。だから、自殺なんてするなよ?もちろん、弱肉強食なら俺の言葉に従ってくれるよな?』───と書かれていた。
やられた。私も勇者も弱肉強食なのだ、と死にかけながら説いたのは覚えているが……なるほど、つまり私は上手く1本取られたわけだ。
自殺するな、そう手紙に書かれていては死ねないのを分かって、あの勇者は私に手紙を書いたのだな。
「随分と、性格の悪い勇者もいたものだ」
ふっ、と自嘲気味に笑いを零す。
書かれた手紙の内容は以上だろうか?と、何気なく裏を捲ると、案の定その続きが書かれていた。
『追記、お前の部下達は丁寧に睡眠魔法で地下の応接間に寝かせてるぞ』
「ふっ、くくっ……アイツめ。最後にとんでもないサプライズを残していきよって……」
手紙のないように従って残された微弱な魔力を振り絞れば、確かに微かだが地下に馴染み深い魔力があるのを感じる。
なるほど、なるほど。
私はあの勇者にはどうやら敵わないらしい。
そして決めた。
「長年婿は探していなかったが───決めた、私が嫁入りしよう。勇者“ミナヅキ キョウカ“に」
まぁ今はひとまず、眠らされている部下達を起こさねばいけないが。
「そなたが私に自殺するなと言ったのだ。ならば私はキョウカに着いていく」
そう言ったら、あの無表情な勇者の顔はどのように歪むのだろうか?
───あぁ、楽しみだ。
───trueside
「今から全学年合同武闘大会を始める!みな、誠心誠意取り組むように!私からは以上だ!」
そんな学園長の宣言とともに、開始のファンファーレが鳴り響く。流石は日本国内屈指の共学高であると言えよう。
───さて、本題に戻るとしよう。
現在の俺の状況を説明すると、朝起きて、学校行って、気付いたら何故か武闘大会の開始の宣言が始まっていた、辺りだろうか。
ふむ、つまり
「どゆこと?」
まったく分からん。わけわからん。
ただみんなそれぞれ各自の戦闘服を持ってるのか、めちゃくちゃピッタリフィットしていて、非常にエロチズムを感じる。
ありがとう、と思わず拝んでしまった俺は変態だろうきっと。
暫く拝んでいると。俺が困ってると思って助けようとしてくれたのか、クラスメイトの1人が声をかけてきた。
「あぁ、水無月さんは転校してきたばっかで、年に2回ある武闘大会のこと知らないんだっけ?」
「ぶ、武闘大会?」
なにその物騒な大会。実は名前に反して、競うのは胸のデカさだったりしないだろうか?
ないな、うん。絶対無い。
「えとほら、大人数で戦って最後に残った人達で勝ち残りのトーナメントをするってやつ……あれ、もしかして知らない?」
……なるほど、向こうの世界でいうコロッセオみたいなもんか。
「って、え!?そんな入学していきなり?」
「うん。ほら昨日の測定だって、明日の武闘大会に出れるかの事前調査みたいなもんだよ?んで合格してたら強制参加」
「え、じゃ僕は?」
「水無月さんも多分……強制じゃない?」
なんじゃそれ……。
目の前で話してくれているクラスメートの“
つまり今度こそ男子の意地を見せて俺tueeeしろってことだろう。
「フッ。つまり僕の出番のようだな」