魔王倒して元の世界に戻ろうと思ったら、歪な男女比の世界に転移してしまった件 作:羽根消しゴム
「あ、あぁ、あなた。も、もしかして……男?いえ男よね?この芳しい香りは男よね?男以外あり得ないわよねッ!?私、逝っきまーす!」
黒髪ロングで幻想的な雰囲気を漂わせる美少女が、そのふざけた幻想をぶち壊すとばかりに此方ににじり寄ってくる……ってあれ、どうゆう状況コレ?
脳のキャパシティを越えた情報量に硬直していると、女の手が俺のパンツに……パンツ?何でズボン履いてないんだ?
と思ったのも束の間、一気に下ろされ───場面が切り替わった。
「はぁはぁ……とても……とても……イイ。私は……こう……思う」
今度は透明感のある白髪の可愛らしい少女がいた。だが、俺はもう騙されない。
俺は思った。
コイツも絶対変態だ、と。
案の定、誘蛾灯に引き寄せられる虫のように近付いてくると、急にくんかくんかと匂いを嗅ぎ始めた。
俺は思った。
世も末だな、と。
───
──
─
「なんだか凄い悪夢を見ていた気がする」
具体的には、滅茶苦茶可愛い女性からパンツをひん剥かれそうになったり、複数の女性に追いかけ回される夢だ。
………ってあれ?そう言えば俺、元の世界に戻れたのだろうか?というか、どこから何処までが夢なんだ?
魔王を倒して元の世界に戻るところからか?
いや、そもそも異世界から召還されていた事じたい、夢だったという線もある。
精神的には流石に夢オチは勘弁して欲しいので、試しに適当に思い付いた魔法の詠唱をしてみる。
「
唱えてから数秒後、気が付くと、掌には勢い良く燃え盛る炎が鎮座していた。
まだ夢を見ているのかと、頬をつねったり、目を擦ったりもしてみたが、目の前の炎は依然燃えているままだ。
「は、発動した……だと?」
おいおい待て待て。つまり、魔王を倒して異世界から帰還したところまでは夢じゃないって事……だよな?
俺が血反吐吐きながら死に物狂いで生き抜いたあの世界は、只の幻想じゃなかったってことだよな?
その思考回路に至った瞬間、俺の脳内が歓喜に埋め尽くされる。
「よ”っしゃあ”ぁぁッ!!!」
異世界で手に入れたスキルに技術、魔法に魔術。その全てが元の世界で活用出来るというワクワクと、上手く使いこなせばモテモテも間違いな……ひ、人助けにも活用出来るな。うん。
決して神聖な魔法を使って悪用しようなどと考えてはいないのだ。
いないったらいない。
そんなくだらない事を考えながら喜びに浸る。
「………あのぉ、怪我は大丈夫でしょうか?」
「うぴゃっ!?」
──が、突然真横から聞こえてきた囁き声に俺は思わず乙女のような叫び声を上げてしまった。
な、ナンダコイツゥ!?おっそろしく可愛いナース!?いや、そこじゃねぇっ!
と驚くのも無理はない。何故なら今さきほど“
馬鹿な……恐ろしく薄い気配……俺ですら見逃してしまうだとぅ!?
「お、驚かせてすみません!わ、私今日初めて男性と会話するもので……その、接し方がわからないというか……何というかぁ」
頬を朱く染めながら、もじもじと下を向いて話すナースさん。はい、ご馳走さまです。
って待てよ?今さっきこのナースさん男性と初めて会話する……って言ってたよな?
俺が聞いていた事が間違えていなければ、ナースという職業に就いている人間が、男性と初めて話す、なんて言うわけがない。
嘘の可能性も疑っているが、初対面の俺にこんな何のメリットもないような嘘をつく必要性も感じられない。
もしかして比喩か……?いや、それなら接し方が分からないという部分が繋がらない。
寧ろこんなに綺麗な女性なら男達を手玉にとって居そうである。
「あ、あはは。心配しなくても大丈夫ですよ。特に怪我はないですし……ただ、何故自分が病院に居るのか理解できずに少し戸惑ってしまいまして」
「そ、そうでした……説明し忘れてしまいました……。え、えっとですね?男性警護官の
「あっ、それ以上は大丈夫です、はい」
………知ってた。薄々分かってた。
流石に断定するのは早すぎるかなって思ってたから、敢えて言わなかったけど。
男性警護官の
助けて男性警護官さん、あのド変態が犯人です。
「ほ、ほんとですか?」
「えぇ、もう本当に大丈夫ですお腹いっぱいですありがとうございました」
早口で捲し立てる俺に、余計に心配そうな表情で俺を覗き込むナースさん。あぁ、俺今きっと死んでから3億年くらいたった魚の目してんだろうな。いや、3億年経ったら目なんてもう無くなってるか、ははは。
空はあんなに蒼いのになぁ……ははは。
───
──
─
俺が賢者に転職している内に、気が付いたら主治医らしき綺麗な仕事できる系の女性がいた。だがそれだけではない。あろうことか、その持ち前のけしからんおっぱいを上下左右に揺らし、まるで魚を釣りあげようとするルアーの如く、俺の目を侵食してきたのだ。
どんな精神支配にも屈しない自負がある俺が、こんなになってしまうとは……こ、この世界の精神支配はなんて強力なのだろうかッ?
これは俺も全力で対抗する必要があるな。
え?何で対抗するって?ナニだよ。
「良かったです、安心しましたよ。どうやら健康に異常はないようですね」
良かったです、揺れてますよ。どうやら健康すぎて元気になってしまったようですね。まぁ、何処とは言わないが。
……おっといけない。危うく目の前のおっぱいにおっぱいがおっぱいするところだった。
……あれ?ま、まぁいいか。
「もう退院しても大丈夫だと思います。………ま、まぁ、貴重な男性が我が病院から居なくなるのは大変寂し……い、いえ、私情でしたね。忘れてください……」
俺は身体中からフェロモンを垂れ流しているのだろうか?なぜか今さっき会ったばかりの主治医さんが、もじもじとしながら上目遣いでこちらを見つめてくるのだが……いや、確かに男女比は歪っぽいが、ここまでの反応になるか?
というか、揺れる胸に臨戦態勢をキープしていた俺の性剣エクスカリバーが、その鋭く尖った切っ先を主治医さんに向けてしまっているから、出来ればそんな表情しないでいただきたい。
「いえ、そう言って下さるのは素直に嬉しいので、気にしないで下さい」
「……えっ?そ、それって……?」
呼んだ?とばかりに起立しているエクスカリバーを宥めつつ、笑顔でそう返答したのだが……やばい、まずったかもしれない。
先程の可愛らしい表情を浮かべていた主治医が、魔王に匹敵する程の圧倒的なオーラを放った。その口元は残酷に嗤い、今すぐにでも性的に補食されそうである。
考えてみれば、ここは男女比が歪な世界。男がいるだけで女性はこんな反応を示してしまうのだから、イケメンで天才で運動神経抜群な俺(白目)が微笑み掛けたら、それはもう大惨事だ。
大事な事なのでもう一度言おう。大惨事である。
「い、いえ、こんな私に献身的にしてくれたのに、寂しいとまで言ってくれる事が嬉しくてですね………」
必死に弁明をはかる。いや、別に性的に喰われる事はやぶさかではないのだ。
だ、だがな?やはり物事には順序という大切なプロセスがあって………。
「……そ、そうなんですね、失礼しました。しかし、男性である貴方に献身的に尽くす事は当然ですので、そこまで嬉しく思われてしまうと嬉しい……というか、照れて……しまいますね」
纏っていた覇者の風格が霧散し、元の可愛らしい乙女モードになる。仕事できる系の主治医さんのはにかんだ表情は、今先程捕食者の眼差しをしていた人物とは、到底結び付かない。
(あぁ、俺は一体どう生き延びればいいのだろう)
勝てる勝てないの問題ではない。本能が恐怖しているのだ。そして恐らくこの世界は、こんな女性達が何十億と存在している筈だ。
其処らを歩いている女性が変態性と王者の覇気を纏っている事は、病院に来る前に確認済みである。
まぁつまり何が言いたいかと言うと───おいおい、死んだわ俺。