魔王倒して元の世界に戻ろうと思ったら、歪な男女比の世界に転移してしまった件 作:羽根消しゴム
先日、超能力戦闘訓練学校にて激震が走った。
何とこのむさ苦しい学校に男性がやってくるという噂が広まったのだ。
それは、只でさえ性欲という性欲を持て余す女子高生にとってまさに青天の霹靂であり、男っ気のない彼女達が彼氏を作る最初で最後のチャンスだった。
その中でも───その噂の男性が入ってくる予定である二年六組は他クラスからすれば、
余りの悔しさに血涙を流すものもいたらしい。
「い、生きててよかった・・・」
「私今日は寝れなくてさ・・・ははは」
「煩悩退散煩悩退散煩悩退散」
そして明くる朝、いよいよ編入生がやって来る日となった。
男子がやってくるというあまりの興奮に、各々が興奮を晴らそうと必死である。
そして、ガラガラガラ、とドアを開ける音が教室中に響き───出てきたのは、この煩悩にまみれたクラスの担任をしている教師、結月 唯だった。
あからさまに気を落とす女性陣。
しかしそんな事すらも気付かず、意気揚々と教室へと足を踏み入れた結月 唯は一声を放つ。
「ぃよーしお前ら席に・・・つ、ついてるな。コホン、よろしい!ではお待ちかねの編入生のご紹介と行こうか。あ、お前らの事だから新たに編入してくる生徒が知らない訳がないと思うが・・・初めて知ったという者はいるか?」
「「いいえ、知ってます」」
「お、おおぅ・・・じゃ、じゃあ入ってきて貰おう。おーい水無月、入ってきていいぞー」
普段は見せないあり得ない程の一体感に軽く引いてしまう担任の結月 唯だが、そこは訓練学校の教師としてなんとか堪えた。
そしてそれが決壊しないうちに、ドアの向こうに居るであろう人物に呼び掛ける。
────シン、と教室から一切の音が消え去った。
比喩ではない。
音がするのは、コツコツと教室へと入ろうとする人物の足音のみ。
皆、瞬きをするのも惜しいとばかり目を見開き、入ってくるのを今か今かと待っている。
そして───見えた。
入ってきたのはイケメンな男性───ではなく、可愛らしい
教室から別の意味で音が消え去る。
しかしその原因である人物は特に気にすることもなく、スタスタと教卓の前まで歩くと、魂の抜けた女子高生達の方を向いて自己紹介を始めた。
「どうも、結月先生からご紹介に預かりました水無月鏡花と申します。これから皆さんのマネージャーとして、サポートしていきたいと思いますので、宜しくお願いいたします」
拍手はゼロ。
それはそうだ、皆あまりのショックで意識がない。
大袈裟?いいや違う。
寧ろ控え目な方だ。
過激になれば、泣き叫ぶ者だっているだろう。
「おいおい・・・誰か拍手くらいしてやれ」
反応もゼロ。
鏡花は涙目である。
誰も一言すら発しない空間。だが、そんな沈黙を破る声が何処かからあがる。
「男の・・・匂い?」
一番前の席にいる宮川 凛は、思わずといった声色で言葉を溢す。
日常会話では聞き取れないような、そんな大きさの声。
しかし、虚といっても過言ではない空間の中ではその声は良く響く。
え?という顔をした女子達は、よくよく匂いを嗅ぎ直す。
成る程確かに、男の匂いがぷんぷんする。
「貴方・・・も、もしかして・・・お、男?」
「・・・あー、いやその・・・か、彼氏のだと思います、はい」
事も無げにさらりと言う編入生。
その返答に、現役女子高生達の間がピシリ、と空間に亀裂が入る。
比喩ではない。本当に歪んでしまっている。
(この女に彼氏がいるだとぉ?)と、あるものは激昂し、(お、女の魅力でまけた・・・だと!?)と、あるものは嫉妬する。
その場は虚無の空間から一転、今度は怒りと嫉妬に呻く魔獣達のカオスな空間と化した。
───
──
─
(ヤバい、返答ミスったかもしれない)
男性保護委員会から、出来るだけ俺が男だとバレないようにして欲しいという要望通り、比較的あり得そうな誤魔化しを言ってみたのだがご覧の有り様。
般若の面を浮かべる女子高生達に、え?そこまで?と内心で冷や汗を掻きつつ、動揺を悟られないようにポーカーフェイスでなんとか誤魔化す。
今さらはい違いますでは済まされない・・・この有り様じゃ友達も出来そうにないな。
あぁ、さよなら俺の輝かしい高校生活。と、涙を浮かべながら結月先生から指定された席に座る。
うわぁなんだろう、凄く気まずい。
「あー・・・なんだ。水無月は優秀なマネージャーとして編入して来たんだ。だからまぁ、今すぐにでもこのクラスの全員の超能力、身体能力等を覚えて帰って貰いたい。てな訳だ、訓練場に行くぞ。いいな?水無月」
「え?あ、はい」
おいおい、どういうことだってばよ!?
マネージャーとして編入って、俺が男であるという事実を隠すためのカモフラージュじゃないの!?
え、マジでマネージャーとしてやっていくのか・・・。
俺がマネージャーとして女子高生達を支援・・・ふーん、えっちじゃん。
と、軽く現実逃避しながら考える。
俺本当に無事に帰れるかな・・・。
───
──
─
「ハァッ!!!」
「ちっ、そう来るか・・・!」
聞き慣れた剣と剣の擦れ合う甲高い音と、鈍く重い打撃音。
しかし普段とは違い、肉や骨がひしゃげる音は聞こえないし、後悔に苦悶の声をあげる者もいない。
・・・あぁ、駄目だ。
たったこれだけなのに吐き気がしてしまう。
勇者として戦っているときに散々聞いた声、音。それが耳からこびりついて離れない。
自分が戦っている時は問題ないんだけどな。
「そろそろ降参したらどう?」
「はっ、あんたに負けるくらいなら自死を選ぶね」
「オラオラオラァ!避けられるんなら避けてみろよぉ!」
「くそっ、いちいちうざったいのよ!」
・・・あれ?
「お、思っていたよりも」
「練度が高い・・・か?」
「・・・はい」
結月先生に同調しうなずく。
具体例をあげるなら、魔王直属の近衛のような素早さと力強さ。
そして何より───
「───“烈火”ッ!」
「甘いんだよ!───“氷柱”」
超能力という、魔力を必要としない超自然的な現象。
つまり、魔力が切れる心配がなく発動できるという点。
・・・何それチートか?
近衛のような身体能力の高さと練度、そして魔力切れの心配のない超能力。
・・・やっぱチートじゃねぇか。
これ、俺この娘達と戦って勝てるだろうか・・・?
(うん、考えるのはよそう)
考えるのを放棄して、結月先生から貰ったプリント(クラス全員の女子の名前が書いてある親切設計)に、各々の特徴と超能力、身体能力の内容を明記していく。
ここまでは何の問題もない。
いや、なかった、が妥当だろうか。
つくつぐ運命の神とやらは俺のことが嫌いらしい。
「───ん?・・・ッ!?ね、ねぇあれってさ・・・」
「なんだよっ・・・て、え?あの人って」
さっきまでイキイキと剣をふるって・・・なんかえっちだな。
・・・コホン、夢中で剣や拳を振るっていた女子高生達が、一斉に戦闘をやめて此方───俺の後ろを向く。
なんだろう?と俺も疑問に思い、つられて後ろを振り向くが───
「あ、貴女は・・・」
俺が知る限り、最低最悪の変態。
勇者の俺を変態性だけで圧倒し、病院送りにした女性。
ここまで言えばわかるだろう。
そう───「西宮 蓮花様だぁ!!」
「すげぇ綺麗な人だなぁ・・・」
「えぇ、いつ見てもお美しいわ」
「最近では、もう実戦で活躍しているらしいよ」
「へぇ・・・めっちゃ凄いじゃん」
・・・え?
この変態そんなに凄い人なの?
た、確かに綺麗だし?
見た目は俺のストライクゾーンど真ん中だけど?
・・・でもそれでも限度はある。
「ほらほら、こっち向いてる暇あるなら訓練やって」
笑顔を携えながら、冗談混じりにそう告げる
たまけだなぁ・・・。
「あ、で君が新しい編入生?よろし・・・く・・・?あ、あれ?何処かであった気がする・・・しかも男の臭い?あれ?」
「全部気のせいですよ。寝起きなんですね」
「へ?そ、そうかな?・・・って、私寝惚けてないよ?私への当たり強くないかな?」
「全部気のせいですよ。寝起きなんですね」
「んもぉー!!!」
あれ、なんだろう。
結構楽しい。
初対面ではあんなにインパクトの強かった西宮さんだけど、普通に話せば優しい先輩って感じだ。
俺が男とバレたら詰むけど。
「む、な、何笑ってるのさ!もう・・・コホン。か、歓迎するよ。宜しくね!水無月
「えぇ、此方こそ」