魔王倒して元の世界に戻ろうと思ったら、歪な男女比の世界に転移してしまった件 作:羽根消しゴム
「はぁ、疲れたぁ」
低反発のベッドに飛び込み、今日の疲れを癒す。本当に色々あって疲れた。
言いたいことは色々ある。
「癒しがぁ・・・癒しが足りぬぅ」
───そう、癒し。
日々女性達の性的な眼差しから怯える俺には、荒んだ心を穏やかにしてくれる癒しが必要なのだ。
元の世界でいうなら、我が愛しき妹だろうか。あぁ、早く帰りたい。
俺の妹───紅葉は優しい子だ。あの世界に召喚された時は、ちょうど紅葉と喧嘩していた時だった。それで仲直りをしようと、紅葉のお気に入りのアイスを買ってコンビニから出た時に魔方陣が俺の周りを包み、召喚。
お陰で紅葉は、仲直り出来ずにいなくなった俺の事を考えて気を病んでいるだろう・・・多分。
「んで、あの糞にまみれた国での癒しは───聖女様くらいか・・・」
恐らく、俺の今まで見てきた優しい人ランキングトップ3には入るだろう清楚で清らかな女性。超がつく美人で、初めて見た時は思わず見惚れてしまった程だ。
・・・聖女様の爪を煎じてこの世界の女性に飲ませたら、少しは清楚さを身につけるだろうか・・・いや、さすがに聖女様でもこれは厳しいかもしれない。
思えば元の世界を抜きにして考えたとき、まともだと感じた女性は、聖女と魔王の二人くらいしかいない。
魔王はああ見えて部下には優しかったし、民の声を聞き届けるいい王だって事は魔王討伐の下調べの際に、これでもかと出てきた情報だ。
というか、異世界に行って会ったまとも女性が聖女様と魔王って・・・世も末だな。
「・・・魔王の奴、元気にしてっかな」
自分の部下が俺に殺されたと思って自分も死のうとしていた奴だからな・・・心残りなのは、部下が無事だと知った時の反応を直接見てみたかった。
しかしもう会うことはないだろうから、知る機会もないだろう。
誠に残念だ。
「しかしそうか、俺も明日から学校かぁ・・・」
数日前まで死と隣り合わせの戦場に居たとは思えない程平和・・・まぁ貞操の危機は犇々と感じるが、それでもあの世界よりはマシだ。
兎も角だ・・・今日はもう取り敢えず寝るとしようか。
そう考え、ベッドの近くにあるランプを消した。
────☆とある女子高生side
「はぁっ!」
「まだまだぁ!せいっ!」
両手にもつ日本刀から、クラスメートが振るう戦槌の衝撃が広がる。
本来ならば相手の動きを予測して立ち回るべきなのだろうが、その肝心の相手はスカートのため、次の足の動きが分からない。
そのため、視線と手の動きで何とか次の動きを予測し、その場所にクナイをたたき込む事で何とか攻撃を防いでいる状況だ。
───現在は戦闘訓練中。勿論訓練なので刃は潰してあり、ボクは日本刀、相手の女の子は持つのも大変そうな戦槌を使用している。
正直、日本刀と戦槌の相性は悪い。戦槌の柄の部分は、先についている槌を折れないように支えられる程堅牢だ。つまり、柄の部分で防御されれば、刃を潰された刀では太刀打ち出来ない。
一応、攻撃する際は隙だらけではあるが、細腕から放たれる戦槌の破壊力は図り知れないため、容易に踏み込めないのだ。
しかしそれは相手にも当てはまる。つまり、本格的な攻撃をせずに打ち合う事で、空いた隙を見つけあっているのが今の状況だ。
言ってしまえば膠着状態。
「・・・埒があかないわね」
「本当にね」
素直に相手の女の子の呟きに同意する。この人とは会ったばかりの初対面で、訓練場で戦槌を振るっていたので試合をボクの方からお願いしたのだ。
恐らくボクと同年代だと思うが、にしても化け物だと思う。
戦槌を軽々振るい、隙があってもそれを楽々とカバーできるフィジカルと、刀の動きを予測する観察眼。
ボクなんかじゃ足元にも及ばない。
食らい付けているのは一重に、相手の女の子が全力じゃないからだ。
「今年の一年生は豊作ね・・・だからこそ惜しいのだけれど」
「──?それってどういう意味?」
楽しそうに顔を歪ませて笑う彼女。だが、依然として戦槌はしっかりと握られていて、隙というものを感じさせない佇まいだ。
「ううん、気にしないでいいのよ・・・そうねぇ、今年の一年は本当に出来がいいから、私も少し本気出しちゃおうかしら」
「ほ、本気って・・・」
今のボクの姿はまさに満身創痍。体に傷はないけど、相手の女の子が振るう戦槌によって、肉体的、精神的な疲労がたまっている。
───あぁ困ったなぁ、勝てない。
一瞬その考えに至りつき、思わず力のなくなった手で刀を握り、気を引き締める。
諦めては駄目だ。
「・・・受け止めてみせよう」
「へぇ?言うじゃない。いいわ、見せてあげる」
ボクの宣言に相手の女の子は片眉をあげ、挑戦的な笑みを浮かべた。
ボクの目標はチクビになること。そのためには、こんなところで倒れてしまっては駄目だろう。
「私の超能力はね・・・衝撃を操る事が出来るのよ。大きさの大小や、範囲の指定なんてお手の物だわ。だから、その能力を駆使すると───」
・・・来るッ!
反射的に刀を眼前で構え、攻撃に備える。
「───こうなるのよ」
彼女がいつの間にか戦槌を振り下ろし───瞬間、受け止めた刀、いや体全体にズシンと衝撃が迸る。
「ッ!?ガ、ガハッ!?・・・な、なぜ・・・くっ・・・」
肺にあった空気が全て押し出されるような感覚と、訓練場にめり込むボクの足元。あまりの衝撃にボクの足元が埋まっているせいで、受け流そうにも受け流せない。
まさに槌に叩き付けられる釘のように、ボクは衝撃に耐えるしかなかった。
「どう?私の開発した───“破城槌”って技なんだけど、凄い衝撃でしょ?」
彼女が何か喋っているが、気にする余裕はない。ボクの周りが衝撃の範囲なのか、そのせいで次第に呼吸が儘ならなくなった。
頭に酸素がいかないのだ。
まさに何も考えられない、そういう状況だった。
「ぐっ・・・あっ・・・」
やがて視界が暗転して───
──
─
自宅にて☆
「んあぁ!!!敗けたぁ!!!」
「お、落ち着いて和葉・・・ね?」
「落ち着けるわけないよお姉ちゃん!」
敗けた。
完膚なきまでに敗けた。
聞くところによると、ボクが試合をして貰った女性は、チクビ入りを果たした三年生の先輩との事らしい。
正直、とても納得した。
逆にあの強さでチクビ入りしてなかったら絶望していたところだ。つまり、ボクの目指す場所は、あの女性を倒せるまでに強くなること。
先が見えるぶん、もっともっと頑張れば良いって事がわかった。
「・・・でもやっぱり悔しいぃぃ!!」
「もう!落ち着こうよ」
ドン!と、一緒に食卓に座っていた姉がぷんぷんと立ち上がる。
さ、流石に五月蝿くし過ぎたかな?
そう思い、姉の顔を恐る恐る見るが・・・その心配は杞憂だった。
姉の顔は・・・何というか、頬を朱くして息も荒い。ぶっちゃけ同じ女としてめちゃくちゃ気持ち悪い。
何発情してんだこの姉は。
───そう言えば、姉は最近良くおめかしをするようになった。それにこの前、初めて男性の世話をすることになる!と喜んでいた気がする。
確かに“ナース”という仕事に就いている姉だが、男性との出逢いは多くない。
だからその時は、男性とあえて良かったね!と嫉妬混じりに皮肉を言ってやったが・・・も、もしかして。
「お、お姉ちゃん?監禁とかしてないよね?」
「んな!?し、失礼だよもう!」
今度は顔を真っ赤にして否定している。
考えてみれば、流石にヘタレでむっつりな姉がそんな事出来るわけなかった。
ボクとしたことが酷い勘違いをしたものだ。
「まぁ、ガンバ?」
「むぅ!良いですぅ!お姉ちゃんはあの“水無月”さんと幸せに添い遂げるんですぅ!」
「・・・へぇ?水無月さんって言うんだ?」
「あっ・・・すぅーーー」
ニヤニヤ。
自分でも気持ち悪い顔をしてると分かってるけど、こればかりはしょうがない。
「精々当たって砕けようね!おねーちゃんっ!」
「うっ、花が咲きそうな笑顔で言われても・・・」
しれっと名前出していますが、とある女子高生sideの女子高生の名前は和葉。
“船橋” 和葉です。