あなたは、私にとってのヒーローそのものでした。
子供の頃、ウマ娘という理由でよく同じクラスの男の子たちに揶揄されてました。当時、学校でウマ娘は私だけでしたから珍しかったのか、特徴的な耳と尻尾をからかわれる日々を過ごしていました。
そんな、泣いてばかりの幼少期に出会ったのが、彼こと今の担当のトレーナーでした。
きっかけは、私が住んでいた邸の近くに引っ越してきた、ウマ娘のトレーナーだった彼の父親がおばあ様に、家族揃って挨拶に来た時です。
あの時は、おばあ様の付き添いとして出迎えたのですが、恥ずかしかったので、おばあ様の後ろに隠れてしまいました。
彼の両親は、そんな私にも丁寧に挨拶をしてくれましたが、彼は違いました。
「お前、弱そうだな」
隠れる私と同じぐらいの背丈の彼は、いきなりそう言うと鼻で笑いました。ですが、直ぐ母親にげんこつを食らって、とても痛そうに頭を抱えていました。
彼の母親は彼の頭を強引に下げて、挨拶と謝罪を済ませます。
私も、隠れるのを止め深く頭を下げました。緊張して声は出ませんでしたが、ご両親は優しい笑顔をこちらに向けてくれました。でも彼はそっぽを向いたまま、こちらを見ないで母親に手を引かれて帰っていきました。
初めて会った彼の第一印象は、クラスの男の子たちと一緒で私にイジワルをする一人だと思いました。
次の日、いつも遊んでいる公園で砂遊びをしていると、クラスの男の子たち数人がからかってきました。
やめてと言っても彼らは、耳や尻尾を変と言い、引っ張ってきたりして、私はしゃがみ込んで泣きだしてしまいました。
「やめろー!」
そんな時に彼が叫びながら現れました。私は、自分の目を疑いました。なぜなら、昨日鼻で笑っていた彼が私の所へ助けに来たのですから。
「俺の、親父の知り合いに何してくれてんだぁ?ぶっ飛ばすぞ!」
「何だおまえ?こいつの知り合いだな。やれるもんならやってみやがれ!」
いじめていた男の子が答えると、私を其方退けにして数人を相手に殴り合いの喧嘩を始めてしまいました。
数分経つと、男の子数人は負けを認めたのか、泣きながら走って帰っていきました。傷だらけになりながらも彼は、笑いながら逃げる彼らを眺めていました。
「へ、負け犬共が。俺の勝ちだ」
そう言うと、私のほうへ駆け寄り、ポケットからハンカチを差し出してきました。私は意味が分からず彼の顔を見上げてしまいました。
「これで涙拭けよ。親父が言ってたんだけど、泣いてる女の子がいたら優しくしてあげなさいってな。だからこれ使えよ泣き虫。」
彼にそう言われると私は、ハンカチを貰うと何故か涙が止まらなくなってしまったのです。
再び泣き出した私を見て、動揺しながらも手を引いて家まで送ってくれました。
あの頃の私は、なぜまた泣き出してしまったのかわからりませんでしたが今ならわかります。同じ位の歳の子に、ウマ娘とか関係なく一人の女の子として扱ってもらって嬉しかったんだと思います。
それから、私たちはよく遊ぶようになりました。
公園の砂場や遊具で遊ぶときも。
小さな駄菓子屋に行きお菓子を買うときも。
探検と言って近くの山を登って遭難しかけたりしたときも。
山でイノシシと戦い私を庇って腕に大怪我を負いながら撃退したときも。
どこに行くにも一緒でした。そして、私たちはある目標を立てました。
その目標とは、私がウマ娘として走り、彼が専属のトレーナーになること。
彼は、父親と同じトレーナーを目指すと言い、私はお家の事情でウマ娘になってレースに出なければならなかったので自然と思いつきました。
「俺はどんなウマ娘だろうと勝たせられる最強のトレーナーになってやるぜ。それが泣き虫のウマ娘だろうとな」
彼は、少しイジワルに言うと私も「最強のウマ娘になる!」と返し、彼は笑っていました。
私は、頬を膨らませて怒りましたが、彼はおなかを抑えながら笑い続けていました。そして、そんな彼の無邪気に笑う姿が大好きだったのです。
でも、その笑顔もある日以来見られなくなってしまいました。
彼の父親が自殺したその日から。
次はトレーナーのお話です