まあ、そこがいいんですけどね
正直、ゴルシなら憑依合体とかできても不思議じゃない気がする
合宿二日目、順調に合宿での練習の日々を過ごしている私たちは今、学園が借りた近くの山に来ています。
時刻はもちろん夜です。
練習が終わり、お風呂にも入って寝ようと思っていた矢先に外に集まれとは、一体何なのでしょうか。向かう間、他の人たちに聞きますが、皆さん知らないそうです。彼に断られてたことを、忘れるようにひたすら走りこむ日々を送っているので、早く疲れをとるために就寝したいのですが。
「では、皆さんには今から肝試しをやっていただきます。」
緑色の服に身を包んだたづなさんがメガホンを持って言います。
そう言えば、初日にテイオーが言っていましたわね。すっかり忘れていました。
合宿に参加していたたづなさんは、集合していた私たちに説明をします。
「四人一組を作って頂いて、この山を道なりに進んでいくと、とある祠があるんですが、そこに用意したカードを持ってきてもらいます」
そう言うとたづなさんは手に【根性】と書かれたカードを持って私たちに見せます。
「あと、道中には、皆さんを脅かすためにトレーナーさんたちに森の中に潜んでもらいます。楽しみにしていてくださいー」
なるほど。では、トレーナーである彼も脅かす側なのでしょうね。ああ、今回も一緒に回れないのですね。もし、一緒に回れれば、自然に恐怖で彼の腕に組んだり、抱き着いたりできましたのに。
今の私は運がありません。
合宿が始まってからこれと言って彼との進展はありませんでした。
ライスさんでしたら、自分のせいと言って落ち込んでいたに違いありません。
説明が終わると、皆さんもざわざわと組を作り始めます。私は、誰と組みましょう。
悩んでいると、ゴールドシップとテイオーが声を掛けてくださいました。彼女たちの誘いを受け、残りの一人を探します。
そして近くにいたネイチャさんを誘うと承諾して一緒に組んでくださいました。
皆さんと軽く話をしていると、たづなさんと女性のトレーナーさんと話す私の担当トレーナーである彼を見かけました。
今日も、彼は海の家を手伝っていましたが、たづなさん達と何か話をして、終わると私たちのほうに向かってきます。
不思議に思っていると、たづなさんが説明します。どうしたのでしょう。
「マックイーンさんのトレーナーさんは、お昼にたくさん海の家の仕事を手伝って頂いたので、今夜は脅かす役ではなく脅かされる側で、今回は担当のマックイーンさんのチームと一緒に回って楽しんでもらいまーす」
な、なんですって…。
ということは、彼と一緒に回れるのですか。
では、さっき思いついた事が現実で出来るのですか…。
な、何という幸運なのでしょうか。
説明が、終わると周りの人達が騒ぎ出します。
「えー。ずるーい」
「そうだ。そうだ」
「彼氏と一緒なんてずるーい」
周りの方々は何を言っているのでしょうか。
そう、仕方がないのです。
彼は、お昼にお店の手伝いを十分しているので、夜ぐらいはお仕事がなくてもいいんです。
なので、担当である私がいるこのチームと一緒に回るのは当然ですわ。
全然ずるくありません。
あと、最後に言ってた人、もっと言っていただいていいんですよ。
各班が順番に祠に向かい、ようやく私たちの番が回ってきました。
「では、皆さん楽しんで下さい」
たづなさんに指示され、祠を目指して舗装された山道を歩きます。
道中は、懐中電灯を持った彼を先頭に私たちがすぐ後ろをついていくように道を進みます。
出発して、道中脅かしてくると思っていたのですが、そんなことはなくあっさりと祠に着いてしまいました。そこに置いてあったカードを持って来た道を戻ります。
正直、ガッカリしました。
脅かされれば、怖がるふりをして、抱きつけましたのに。残念です。
あったとすれば、祠の直ぐ近くの木の後ろに女の人らしき人影を見たぐらいでしょうか。
まあ、脅かす役の誰かでしょう。
普通の服装で出てこられても、私は怖くはありません。
ゾンビやら妖怪などの見た目が派手なものを予想していたのですが。
そうすれば、怖がって堂々と彼の腕に抱き付けますので。
逆にほぼ何も無いのは不気味に感じました。
すると、ゴールドシップが歩きながら揚揚と話します。
「てか、幽霊なんているわけないのになんでこんなことやるんだろうな。いるんだったら、シャーマンキング目指すんだけどなぁ。阿弥陀丸いねぇかな」
「まあ、いいじゃん。僕のトレーナーも脅かしてくるのかな?楽しみだね。もう、帰りだけど」
「あ、あたしは全然怖くなんてないから。だ、大丈夫だし」
「ネイチャさんは、誰に言っているのですか…」
体を小刻みに震わせるネイチャさんは大丈夫でしょうか。顔色も悪く見えます。
すると、前を歩く彼の足が止まります。
どうしたのでしょう?
「いや。幽霊はいるぞ。実際見たことあるからな」
「「「「え?」」」」
彼の発言に、私たちの言葉が重なります。
足も止まり自然と私達は、彼の話に聞き入ります。
光を前に照らして、彼は後ろを振り向きません。不思議に思ったのか、ゴールドシップが質問します。
「どういう意味だよそれ?」
「いや、言った通り見たことあると言ったんだが。幽霊を。」
「こ、こんなところでそんなじょ、冗談言うのやめてよー。あと、いつみたのさ?」
「あれは、俺がまだ子供だった頃、一人で近くの夜の山にハイキングに行ったんだが……」
「ねぇ。ちょっと待って!ここで怪談話しないでよ!嫌がらせにも程があるわよ!」
「いいじゃん。ネイチャも怖がってないで聞こうよ。僕続き気になるし」
足が震えているネイチャさんを宥め、テイオーが続きを話すようトレーナーさんに促します。
「話し続けるぞ。その時に血のように真っ赤なドレスを着た女の人が崖の近くにいるのを見たんだよ。おかしいだろ。ドレスで山上るんだからな。それで、ちょっと目を離したら、女の人はいなくなっていたんだ。その時は、飛び降りたんだと思って、直ぐに崖の下を見たんだが、石と草ばかりで人が落ちた形跡なんてなかったんだ。後で調べたんだが、昔没落した金持ちのお嬢様がそこで身投げをしたらしいことがわかってな。お前、覚えてるか?」
話が終わり振り向くと、彼は私に視線を向けます。急にこちらを真っ直ぐに見てくる彼にキュンとしてしまいますが……いや、確かそんな話を昔彼が……。はッ!。
段々と、忘れかけていた記憶がはっきりと脳裏に現れます。た、確かあれは……。
「あ、あなた、あれは嘘ではなかったのですか!あれは、おば様が嘘だと言って……」
冷静でいられず、いつもとは違う言い方をしてしまいます。
「大人は、信じてくれなかったが、あれは本当だ」
「え?じゃあ、本当に幽霊だったの?」
私を含め、トレーナー以外の皆さんの血の気が引いているのが顔を見ればわかりました。ネイチャさんは目に涙を浮かべ、怯えた表情をしています。正直ゴールドシップが青ざめるのは意外でした。彼女には、恐れるものなど何もないと思っていましたので。
「ああ、じゃないと説明できないからな。あと、ここでも出るらしい。さっきの祠に祭られている、レースで勝てず無念にこの世を去ったウマ娘の霊が。丁度あそこにいるじゃないか」
「え、あそこって……」
彼が指をさす場所を見てみると、祠のある方の道から、謎の茶色い顔が長細い生物の頭で体は赤い勝負服に身を包んだウマ娘らしき何かがこちらへ走って来ていた。
私は、恐怖で彼の左腕にしがみつきます。
「「「で、でたああああああああああああああああああ」」」
他の皆さんは全速力で山を下りていきます。いつも走るレースより速く感じるのは気のせいでしょうか。
いや、それよりも今は……。
どんどんこちらに近づいてきます。
ど、どうしましょう。最悪、戦うしかないのでしょうか。
か、彼を守らなければ……。
謎のウマ娘は、走る速度を下げ、私達の前で止まりした。
そう思っていても、彼の前に出れず、恐怖からか目を瞑り抱き着く腕に力が入ってしまい、彼の腕に私の体が密着してしまいます。
数秒間、謎の生物が私達を見ると、自分の頭に手を当て、まるで被り物を取るように頭を外しました。
どうやら、被り物で中から女性の顔が出てきました。彼女の顔は見覚えがありました。
肝試しが始まる前に話していた、女性トレーナーさんです。確か名前は、桐生院さんでしたと記憶しています。
「すみません。やり過ぎちゃいましたか?」
「いえ。良くできていました。ありがとうございます」
「なら良かったです。相当怖がってましたね。それにしても、お二人は本当に仲がいいんですね」
そう言うと、桐生院さんは私達を見ます。慌てて、彼の腕を離します。名残惜しいですが、仕方ありません。
「まあ、それなりにです。今回は協力して頂いてありがとうございます。おかげで、ゴールドシップに一泡吹かせることが出来ました」
「あんまり、やり過ぎないようしたんですが。彼女たちのトラウマになっていないことを願うばかりですよ」
話を聞いてやっと全体図が分かりました。そういうことですのね。
最近、やたらとゴールドシップが彼にちょっかいを出していたので、そのささやかな復讐といったところでしょうか。
桐生院さんは、まだ山に残り脅かし役を続けるそうなので私達は戻るため、山道を下ります。
その間は彼と二人っきりですが、さっきので疲れてしまったのか上手く話せず、おぼつかない足取りで山道を歩いていると何かに足を取られ転びそうになります。
すると、彼が支えてくれたおかげで、私の体は地面に倒れずに済みました。
そして、何も言わず私の手を取って歩き出します。
少しびっくりしましたが、彼なりに気を使ってくれたのだと思います。
彼に手を引かれ、歩きます。
私は、あることを考えます。
先ほど、一瞬だけですがトレーナーとしてではなく、昔の彼に言うように話してしまいました。
今彼にとってこの気遣いは、担当ウマ娘としてなのか、それとも幼馴染のマックイーンとしてなのかは、私にはわかりません。
ですが、昔と変わらないものがあるとするなら。
私にもただ一つ分かることがあるとするなら。
彼の手は、とても暖かい……。
おまけ
「桐生院さん。祠の近くにいた脅かし役の方、誰か知っていますか。学園では見たことない人だったんですが」
「いえ。祠の近くには誰もいなかったはずですよ。どうしたんです。マックイーンさん?」
「え?では、あの方は一体……」
まあ、幽霊はいますから…