あと、しょんぼりする会長。最高!
誤字、脱字修正報告ありがとうございます。
季節は雨が空気をじめじめとさせるこの頃。
私は、いつものように彼がいるトレーナー室へ向かいます。
ですが、足取りはいつもりよ少し重いように感じます。
自分でも、理由は分かっているのですが、今回とある大きなレースに参加したのですが、結果は惜しくも2着で終わってしまいました。彼にこのことを報告すると、攻められる訳でもなく特に何も言われませんでした。
私は逆に不振に思いました。なぜなら、絶対勝利の彼に私は負けをもたらしてしまったのですから何も言われないのが逆に辛かった。
そんなこともあったと思い返しながら歩いているとトレーナー室に入ろうとする彼がいましたので声をかけようとします。
「トレーナーさ・・・!!」
その時私が見たのは、彼と一緒に室内へ入ろうとする他のウマ娘姿です。
私はあっけに取られて呆然としていると彼らは、私が向かうはずだった場所へと入っていきます。
私は何も聞かされていません。
ですが、彼と部屋に入ったウマ娘を私は知っていました。いえ。正確には、この学園にいて知らない人はいないと思われるほど彼女は存在感を放っていました。しかし、なぜ彼女のような実力者が彼に会うのでしょうか。
「会長さんどうして……」
そう、彼女はこのトレセン学園の生徒会長を務め、同時に数々のレースの勝利を我が物としてきたシンボリルドルフさん。私は、余り話したことはありませんが、学友のテイオーがよく彼女のことを私に話してくれました。ですが、考えれば考えるほどわかりません。なぜ、会長が彼と一緒にいるのでしょうか?いったなぜ……!!
私はとある可能性を考えてしまいました。彼が彼女といる理由。それは、勧誘。もしこれが真実であるなら何を示しているのか。
答えは、簡単です。
「まさか……。今回のレースで負けてしまった私は、見限られたのでは」
まさか。こんなことになるなんて。確かにそう考えれば全てが納得がいきます。負けてしまった私に彼が何も言わないこと。練習も特に大変にならないのも。むしろ最近少し練習量が落ちた気もします。
私の考えが正しければこんなことに……。
「すまない、マックイーン。もう負けてしまった君にはもう何も教えられない。だがら、牛を馬に乗り換えるように、君よりも勝てるシンボリルドルフに乗り換えさせてもらう。悪く思わないでくれ」
「君のトレーナーとは、粉骨砕身、切磋琢磨して勝利を彼に齎すから安心して私に任せてくれ。では、さよならだ」
「待ってください。トレーナーさん。私はもう負けません。練習もさらに過酷なものにして頂いて構いません。私が出来ることでしたら何でもやります。ですから私を捨てないでください。トレーナーさんっ!いや!いやああああああああああああ」
な、なんというでしょう。考えただけでもなんて恐ろしいことでしょうか。危うくめまいがして倒れてしまうところでした。血の気が引くと言うのはまさに今のことなのでしょう。
ですが、まだ決まったわけではありません。想像だけで物事を決めてしまうなど愚策も愚策。しっかり真実を知ってから考えましょう。まだ、慌てるような時間ではありませんわ。
私は、こんなことやってはいけないと知りながら、トレーナー室のドアに頭にある耳を押し当て、話の盗み聞きを試みます。うまくいけば彼と会長が何を話しているかわかります。
私は、今はある男と話をしようとしている。その男は、メジロマックイーンを担当に持つウマ娘のトレーナーだ。この男が、今度は何を企んでいるのか、調べに来た。
「久しぶりだね、貴方と話すのは。いつ以来かな」
「前の担当していたウマ娘の要件でお話したのが最初で最後です」
私が話していると、彼が入れたコーヒーを渡してくる。顔をよく見てみると前よりも少し痩せた印象を感じる。正直彼は、私がなぜここに来たのかわかっているだろうか。
「あの時は、私も事情が事情で少し高圧的な態度になってしまったからね。すまなかった」
「いえ。あの件は自分の力不足が招いた種です。自分に非があったのであなたが謝る必要はありません」
彼は淡々と言うと、私は出されたコーヒーを一口飲み、視線を彼へと戻す。一瞬で、周りの空気がピリつくのが自分でもわかった。
「そうか。では早速本題に入るが、マックイーンをどうするつもりだ。彼女も走れない寸前にまでするつもりかい?」
「いえ。そんなことは。彼女のトレーニングメニューはいつも細心の注意を払って……」
「私は、君を信頼していない。いや、できない。学園の生徒をまた傷つけられるかもしれないと思っているからね」
私は、腕を組みため息をつく。やはり私が思っていた通りの展開になってしまった。彼が勝利を欲しているのは前に話した時に聞いた。だが、その目的のため我が生徒に危険な練習メニューをさせ、一歩間違えれば、走れない体にされていたのかもしれない。彼は、なぜそこまでして勝ちにこだわる。
「そんなに君はレースに勝ちたいのかい?」
「……はい。勝たなければ意味がないので」
だが、彼も譲らない。いや、譲れないのだろう。しかし、『勝たなければ意味がない』とはな。今の彼なら勝つためだったら、マックイーンに危険な練習量をさせるのかもしれない。そんなことは、生徒会長として見過ごすことは出来ない。まあ、個人的な理由もあるのだが、今はどうやって彼からマックイーンを遠ざけるかだ。
そうだ、いいことを思いついた。君がその気なら、こちらにも考えがある。
「君の勝ちにこだわるのはわかった。では、こうしないか?」
私は、手を叩き、思いついたかのように彼に提案する。
「私が君の担当ウマ娘になろうじゃないか。これでも私はこの学園の中ではトップクラスの実力を自負している。これでどうだろうか」
「その代わり。私が担当になったら、彼女を解放してもらおう。そうだな、これは交換条件だ」
「彼女の代わりに私が君に勝利を齎す。君は勝利を手にする。彼女は解放される。みんな幸せだ。どうかね」
しゃべり終えると、出されたコーヒーに手をかける。湯気が立つコーヒーを少しずつ飲んで喉を潤す。そして、飲み終わると、私は紙コップを置いて話し出す。
「私は、正直君が怖い。あの現場にいた私は蹲る彼女に駆け寄り、処置をする君を見ていたからね」
私は、自分で体を抱くようにして、私が彼に恐怖していたことを話す。自然とあのことを思い出してか耳を後ろへ伏せてしまう。恐怖よりも段々と彼への怒りが湧いてくる。
「あれはまるで壊れた物を直すかのようだった。慌てず、動じずに、的確に処置をする君の姿は。倒れる彼女に対して何も感じていなかったんだ。心配も、焦りも、恐怖も何もなかったんだ」
「あれは、狂気といってもいい。だから、私は平気で今の担当であるマックイーンにも同じことをすると思っている。彼女は、テイオーの大事な友達なんだ。テイオーを悲しませることを見過ごすわけにはいかない」
そう、彼女はテイオーの大切な友達なのだ。彼女に何かあればテイオーは絶対に悲しむだろう。そんなことは、私がさせない。次で、化けの皮を剥がしてやろう。
「それとも君は彼女に何か特別な感情を抱いているのかい。君が何か思っているのであれば、私は身を引こう。どうだい?君の考えを聞かせてくれ」
これで、彼女に何かしら思っているのであれば、今回はこれでお終いだ。前みたいな事は、起こりにくいだろう。だが、彼女に何も思わず、道具として見ているなら私は……。
「……あなたではダメなんだ。完成しているあなたと共に勝っても意味がないんです。なので、彼女でなければ意味がないんです。
「彼女以外ではダメなんです。彼女じゃなければ俺は……」
俯きながら、彼はそう言う。どうやら彼は、彼女に対して何か特別な感情を持っていそうだ。どんな感情までかはわからない。顔を見た感じでは、どうやら本心で言ったようだな。まあ、前よりは少しはマシになったか。
「……分かった。彼女に対して君は何か思っているのならそれでいい。もう一度だけ君を信じよう。ただし……」
私は、もう一度彼に釘を刺す。真剣に彼の顔を見ながら言う。
「彼女が同じような結果になってしまったときは、私は君を許さない。覚えておくといい」
「ご配慮感謝します」
よし。今ので暗い話はこれで終わりだ。しかし……。
思った以上に彼は笑わないな。
そうだ。
私の今思いついたとっておきで、彼を笑わせてあげよう。
「君は、もう少し笑ったらどうだ。折角のいい顔が台無しだ。それこそ、担当の彼女に愛想を尽かされるぞ」
「では、私が君を笑わせてあげよう」
「……いえ。無理に気を使わないでも」
彼の顔がどんどん険しくなっていく。別に、遠慮などしなくてもいいのに。
「遠慮するな。ではいくぞ」
咳をして、とっておきのギャグを言う。今の時期にあったとっておきだ。きっと彼は大爆笑するに違いない。
「ゴホン。雨が降っても君には「傘は貸さない」からな」
「……すいません。笑えませんでした」
「謝らないでくれ。それが一番つらい」
「……すいません」
「だから謝らないでくれ……」
私は、まだまだのようだ。
傑作だと思ったのだが……。
「すまない。君のトレーナーにちょっかいを出してしまった」
扉を出てすぐに、今来たばかりのようにしていたのですが、どうやら気づかれていたようです。
「気づいていたのですか。私は気にしていませんのでお構いなく」
「そうか。だがよかったな。トレーナーは君にぞっこんだぞ。だが、困ったことがあったらすぐ私に声をかけてくれ。力になろう」
テイオーから、会長の話を聞かされていましたが、話通りの生徒思いのとても優しい方でした。
ですが、私は、その必要はないと彼女に伝えます。
「はい。お心遣い感謝します。ですが、その心配はありませんわ」
「理由を聞いても?」
「彼はきっとそんなことはしません。きっと」
私は、微笑みながらそう言うと、彼女は驚いたのか少し目を見開く。
「……そうか。君もまた同じなのだね。聞くのは野暮だろう」
そう言うと、会長さんはどこかへ行ってしまいました。
そして私は、彼が待つトレーナー室へと入ります。
彼の期待に応えるため。
彼の想いに答えるため。
「トレーナーさん、今日の練習メニューは何ですか?」
今日はっきりしたことで私の走る理由は十分なのですから……。
次回、未定!