あと、ちゃんと香織ちゃんとも青春してることを伝えたかった。
ちょっとリアリティに欠ける展開かもしれませんが、ご都合主義ということでひとつ。
うららかな春の日差しが、中学校の制服を纏った私に降り注ぐ。
ふと上を見上げると、最近開花時期がめっきり短くなった気がする桜の木の葉の間から強い光が差し込んで、思わず腕で顔を庇う。
「リツカちゃん?どうかした?」
「いや、なんでもないよ、香織ちゃん。なんとなく空を見上げたくなっただけ」
「そっかぁ」
「そうなのだよー」
春ってなんだか気持ちがふわふわするよねぇ。
今、私たちは中学二年生になりました。毎日がハッピーです!イェイ!
一年の時はみんな一緒のクラスで喜んだんだけど、二年になったら私と香織ちゃんだけ別クラスになっちゃったんだよねぇ。
香織ちゃんとは小学一年生の時に雫ちゃんからの紹介で知り合って以来の仲だ。
これまでも同じクラスになったことはしょっちゅうあるけど、二人だけっていうのは無かった。
同じクラスになってからは登下校や休日に二人で遊びに行ったりすることが今までよりも格段に増えて、さらに距離が縮まったと思う。
「ね、香織ちゃん。今度暇があったらさー、映画見に行かない? メロドラなんだけど」
「いいよー。雫ちゃん達も誘う?」
「それがさ、もう誘ったんだけどね。『甘酸っぱすぎてムリ』って言われちゃったんだよね」
「あはは……それはまたらしいね……」
香織ちゃんが困ったように苦笑する。うむ、美少女じゃ。
香織ちゃんは包容力が私とは段違いのレベルなのでつい甘えてしまう。
真面目で優しく、穏やかな彼女と過ごす時間は落ち着いていて、私の日々の癒しになっている。
そんな風にいつも通りだらだらと取り留めもないことを話していると、教室まではあっという間だ。
「じゃ、また休み時間ね」
「うん」
あまりホームルームまで時間が無かったので、香織ちゃんとは教室に入ってそのまま分かれ、自分の席に向かう。
「や、おはよう、清水くん」
「……ん」
気怠げにこちらを見上げ、会釈で挨拶を済ませた彼は清水幸利くん。私にとっては今年の第一お隣さんということになる。
ただなー、この子とはまだあんまし仲良くなれてないんだよなぁ。
なんというかこう、壁を感じると言いますか、拒絶されてる感じがする。
無意識に彼に何かしてしまったのだろうか?そんなことは無いはずだけど。
まぁ、そういうこともあるでしょう!
万人から好かれる性格してるとは思ってないし、私のノリみたいのが苦手な人がいるのも知ってる。
彼が触れられたくないなら、無理に触れようとするのは彼のためにもやめておいた方がいいだろう。
「ハイ!じゃあホームルームを始めます。日直の人は号令を」
そうこう考えているうちに、どうやら時間らしい。
今日の日直は私。一日の始めに相応しい挨拶をしようじゃあないか!
「起立! 礼! おはようございます!!」
いや挨拶普通スギィとか言ってはいけない!なんでもない普通がやっぱり一番だよね。
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「いやぁ面白かったね、映画。甘々で砂糖吐きそうだったけど」
「そうだね。でもラスト10分はハラハラしてすごい緊張しちゃった」
映画を観に行った帰り道。
私と香織ちゃんはそれぞれが抱いた映画についての感想を話しながら街を歩いていた。
「無難にハッピーエンドを迎えたのが私的には高評価かな。
バッドエンドも味があっていいけど、やっぱり最後は報われてほしいと思うからね」
「リツカちゃんはハッピーエンド大好きだもんね」
「一流のバッドエンドより三流のハッピーエンドを求めるのが私の流儀なんでね」
さっき見た映画は、その点実に私好みだったと言えよう。
ストーリーはヒット作と比べると尖った個性のようなものはあまり感じなかった。多少捻ってはいたが、今時の映画でそれは珍しくもない。展開の波も良く言えば基本に忠実、悪く言えば特徴の無い流れだったように思う。
総じて無難と言っていい映画であり、少し時間が経てば一般の人たちには直ぐに存在を忘れ去られてしまうような、そんなありふれた映画。
だが私は気に入った。結末がハッピーエンドだったから。
苦労のは末に結ばれる、ありきたりな物語だとしても、なんだか嬉しい気持ちになるのだ。
多くの世界を切除してきた身としては、余計に感慨深くなってしまうのかもね。
香織ちゃんが言葉を続ける。
「あーあ、私も恋したいなぁ。
雫ちゃんや恵里ちゃんには好きな人がいるのに、私だけいないのもちょっと複雑な気分だし」
「あはは。まぁそのうち香織ちゃんも素敵な人と出会いをすると思うよ。私が保障する」
「本当に? 本当にそんな人、私にできるのかなぁ……」
少しだけ不安そうな表情をする香織ちゃん。
どうやら親友たちが心に決めた想い人がいる現状に、置いて行かれたような気持ちになっているらしい。
「できるさ。香織ちゃんは良い子だから」
「そうかなぁ」
「そうさ。運命は懸命に生きる人にはいつか微笑んでくれるものさ。
日々を平和に暮らすために頑張っている香織ちゃんを、無碍にはしないはずだよ」
……もちろん、報われない人たちがいるのも事実だ。今までさんざんそういう人たちを見てきたし。
ただ、彼女の場合は大丈夫だろう。根拠は無いが、なぜか確信は得ていた。
勘でしかないが、私の勘は良く当たる。なんたって神様の勘なので。まぁ、縁結びの神様じゃないんだけど!
「……そっか。そうだよね。うん! まだまだこれから!
ありがとう、リツカちゃん。ちょっと勇気が湧いてきたよ」
「おっ、いいねいいね、その調子だよ。
笑う門には福来る。香織ちゃんには笑顔が一番似合うんだから、じゃんじゃん笑って福を集めちゃおうぜ!」
「うん……!」
どうやら元気が出たみたい。よかったよかった。
さてじゃあ小腹も減ったしスタバで一服でも……
「オイ、テメェ! 何してくれてんだよこのガキィ!」
「う、、うわあぁぁぁん!」
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい! うちの孫が……!」
「ハァ!? ごめんで済むと思ってんのかこのクソババア!
見ろよコレ! めっちゃ汚れちまったじゃねぇか! 弁償してくれんだよなァ!?
とりあえずクリーニング代出せやコラ!」
「ヒッ……! すみません、すみません! 今出しますから……!」
むぅ。どうやら何かトラブルがあったようだ。
気になって人混みの中からチラリと現場を見て状況を把握する。
騒動の中心にいるのは五歳くらいの少年と、その祖母らしき女性。そして怒鳴り散らしている不良グループ。その内の一人のズボンには少年の持っていたと思われるたこ焼きがべっとりと付着していた。
つまり大筋の流れは、少年が不良の服を汚し、それに怒った不良が少年の祖母に弁償を要求していると。
ふむ、これは私が口を出すことじゃないな。
不良の言動はかなり横暴でもうちょいなんとかならんのかとは思うけど、要求自体は正当なものだと思うし、余計なことは……
「アァ!? たったこんだけかよ!ふざけてんのかテメェ!」
「えっでも三千円もあれば、クリーニングは……」
「舐めてんのかクソババア! 慰謝料だよ慰謝料! 気に入ってたんだよコレ! 誠意見せろや、アアン!?」
「すっ、すいませ……」
「あぁったく時間の無駄だっつーの! いいからそのサイフこっち寄越せ!」
「あっ、待っ……!」
あ、でもこれはやりすぎだ。カツアゲだし、止めないと。
しっかし道混んでる……! これ間に合うかな……!?
「リ、リツカちゃん」
「うん、分かってる。今助けに……」
「すいませんッでしたァァァッッ!!!」
『うおぅ!?』
思わず不良とハモってしまった。それぐらい不意打ちの大声量だったのだ。
「本当ッにすいません! 許してください! 許してください! なんでもしますんでもう本当に許してくださいお願いしまぁッす!!」
「な、何なんだコイツいきなり!?」
悔しいが激しく同意である。いきなり私たちと同い年くらいの男の子が飛び出してきたと思ったら渾身の土下座をしながら猛烈な声量と怒涛の謝罪が浴びせかけられたのだ。困惑しなければ嘘である。
というか見事な土下座だなあの人。土下座で世界狙えるんじゃないか? 某不夜キャスさんに匹敵する土下座スキルだぞ……! アレは土下座:Aはあるね。私は詳しいんだ。
しかし、ふざけているようで実際ベストな解決方なんじゃないかな? アレ。
公衆の面前での土下座はする方もされる方も結構堪えるものだ。土下座は脅迫だとどこぞのえらい人も言っていた気がする。
……ここは彼に任せるべきか? 今私が飛び出したら彼が決死の思いで作った不良に不利な空気を崩してしまうかもしれない。しかし……
「チッ……! ふざけやがって! 何いつまでも土下座しやがってんだよオイ、そこだけよキモイんだよお前!」
「ハイ、すいません!」
「いや、だからどけっつってんだろうが!」
不良が持っていたシェイクを腹いせに土下座している男子にぶち撒け、その頭を踏みつけにする。
しかし、その男子は動じることなく土下座を続ける。
「ハイ! 本当に! すみませんでしたァァッ!!」
……ものすごい精神力だ。普通、見ず知らずの他人のためにあそこまで身を投げ出すことはできない。
助けに行かなきゃいけないはずなのに、私はその場に釘付けになっていた。それだけの圧が、絶対にこの場は譲らないという硬く強い意志が、ここまで鮮明に伝わってきたからだ。
そして圧倒されたのは私だけではない。不良たちも同じだ。
「ッ……! クソッ! もういい! 時間の無駄だ! お前ら行くぞ!」
「おっ、おう……!」
たまらず退散していく不良たち。彼らの目には鬱陶しさに加え、少しの畏怖が宿っていたように私には見えた。
……ははっ! すごいな、彼! 自分以外は誰一人傷つけずにこの場を解決するなんて!
「……すごい」
ふと隣を見ると、香織ちゃんが乱入した彼を見つめていた。
その目はとてもキラキラしていて。憧れを見つめているようで。まるで、理想の王子様を見つめるようで。
「はっはぁ〜ん?」
「えっ。な、何……?」
思わず、女の子にはあるまじき下品な声が盛れてしまった。いやいや、だって、ねぇ?
「しょ〜うじきに言ってみ? ……一目惚れした? 彼に」
「ふぁっ!?」
香織ちゃんの顔が冗談のように真っ赤に染まる。こんな反応は今まで見たことが無かった。つまり、そういうことなのだろう。
「いやっ、べつにっ、そう、いう、こと、ではっっ!」
「いやいや、別に構わんのよ? いいじゃない一目惚れ。ロマンだよね、分かるとも!」
「だっ、だから違っ……」
「そんなに照れなさんなよぉ、カオリサンっ! ようやく心の雪解けよ? 初恋よ? 運命よ? 逃したら一生後悔するよ? これを逃して乙女は語れん! いざ、突撃といきましょー!」
「だからそういうつもりじゃっ! お願い待ってぇ! まだ心の準備がぁ〜!」
何言ってんのさ、彼もう行っちゃうよ! 私も個人的に彼と話したいことあるし、一石二鳥じゃないですかぁ〜。
「やっほー! 君、さっきはすごかったね!思わず感動しちゃったよ〜!」
「あ、あわ、あわわわわ……!」
「え、えっと……どちら様?」
「その前に、まずはハンカチをどうぞ! 濡れたままじゃ風邪ひくよ?」
「あ、ありがとうございます……?」
かわいい反応する男の子じゃないか! 穏やかそうだし、これは香織ちゃんとお似合いなのでは……?
「私、藤丸リツカっていうんだ。ただの普通の中学二年生だよ。こっちは友達の白崎香織ちゃん。君の名前は?」
「ちょ、ちょっとリツカちゃん!?」
「え、えーっと……南雲ハジメです」
「そっかそっか、南雲くんか。いい名前だね!」
「そうですかね……?」
いきなりのことに困惑しているらしき南雲くん。
「じゃあ、私たちはこのへんで。いつまでも構ってもらうのも悪いしね。君も早く着替えたいだろうし」
「えっ、あっうん。えぇ……?」
彼にとってはいきなり声を掛けてきた女が名前を聞いてハンカチ渡して帰ろうとしているこの状況。さぞや彼には私がうさんくさい奴に見えてるんだろうなぁ。
「ただね、そうすると私が君に貸したハンカチが私の元に戻らなくなる。
それは私のお気に入りでね、できれば手放したくないから、私の連絡先だけ君に伝えておくよ、ここにメモってあるから、洗濯して返してくれると嬉しいな!」
「いや、それなら別に」
「じゃあ、また今度ね〜!」
「あっ、ちょっ!」
というワケで布石は打った。これでお人好しの彼は必ず私にコンタクトを取るだろう。香織ちゃんとの仲はそこから進展させるとしようかねぇ。
「香織ちゃん、今のうちに印象付けときなよ。初恋の失恋は本当にキツいよ。気張って行きなよ、恋する乙女!」
「! ありがと」
そうして、私はこっそり香織ちゃんに耳打ちする。このままじゃ私の印象ばっかり強くなって本末転倒だから、会話を通して印象付けてもらう。
これは彼女がやるからこそ意味がある。いや、そうでなければ意味が無い。がんばってくれよ、ここで運命が決まってくるぞ。
不思議そのにこちらを見てくる南雲くんに対して、香織ちゃんが意を決したように彼を見つめ返して言う。
「え、えっと! し、白崎香織ですっ! あなたとす、少しでも話したくて声をっ……掛けたのは私じゃないけど、その! もっとお話したいって、思ったのは事実です。
だからっ、機会があったら、ま、またっ! 一緒にお話ししてくれませんかっ!?」
「……」
沈黙が場を支配する。知らず、私たち二人は生唾を飲み込む。
そして、彼はゆっくりと、かけられた言葉を咀嚼して答えた。
「そうだね、じゃあ、また今度。誘ってくれると嬉しいかな」
そう言って、彼は少し苦笑気味に微笑んだ。優しげで温和な、彼の人柄を表すような、素敵な笑みだった。
「……! うん、うん! ありがとう!」
「そいじゃあまたね。風邪引かないよう、お大事に!」
「うん、また会おう」
これが、私たちの運命を大きく変えることになる、南雲ハジメという男の子との初邂逅あった。
筆者は恋愛経験とか皆無のクソ陰キャなので、描写に不手際がないか心配です。ですが、良い出会いに出来たとは思っています。