ありふれた元マスターでクラス最弱   作:抹茶れもん

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おそろしく難産でしたわ。でも一応展開決まったのでこのまま突っ切ることにしますよ。


第13節 弱音

 

「さ、どうぞ入ってちょうだいな南雲くん。全力でおもてなししちゃうから!」

 

「いや、別にそこまで気合い入れなくても大丈夫だよ……」

 

 若干困り気味の南雲くん。ちょうど話したいこともあったから、素晴らしいグッドタイミングだ。

 私のテンションも上がるというもの! 本人は女子の家に上がることが少ないのか、ガチガチに緊張してるようだけど。

 

 今は家に私たち二人っきりだしね。お母さんはパートで留守だし、お父さんはもちろんまだ仕事中だ。

 緊張するのも無理はないだろう。

 

 しかし、私とて意地があるのだ。カルデアで鍛えた私の女子力、今こそ目にモノ見せる時!

 

「なーに言ってんのさ! お客さんにくつろいで貰わなきゃ私が怒られちゃうよ」

 

「誰にさ」

 

 女将かな。

 

「まぁまぁ、そういうワケでさ。コーヒーか紅茶、どれにする? 私けっこう淹れるの上手いんだよ」

 

「じゃあ、コーヒーで」

 

「おっ、即答だね〜。好きなの? コーヒー」

 

「いやぁ好きっていうか、よく飲むっていうか。

 うちの家族の仕事手伝ってると大体深夜までもつれ込んじゃうから、その影響で。

 今ではそいつが相棒みたいなもんだよ」

 

「へぇ〜、ご両親はどんなお仕事されてるの?」

 

 自然な流れで話を引き出していく。できれば彼の趣味、嗜好が知りたい。大体の予想はついているけど。

 それによって少し作戦に変更を加える必要があるかもだし。

 

「父はゲームクリエイター。母は少女漫画家をやってるよ」

 

「マジ!? ほぇ〜それは流石に予想外だったわ。なるほどねぇ。そのお手伝いをしてるから、サブカル好きなんだね」

 

 これは普通に予想外。ただ嬉しい誤算だ。予想も当たってたし、悪くない流れ。

 

「うん……え、ちょっと待って。なんで僕がそっち方面の趣味があるって知ってるの?」

 

「この前初めて会った時、本屋の帰りだったでしょ。

 土下座の際に放り投げてたけど、袋持ってたし、チラッと覗いたらマンガとラノベが入ってたからね」

 

「す、すごいなぁ。よく見てるんだね。まるで探偵みたいだよ」

 

「あはは、本職の方には及ばないけどねぇ……」

 

 コーヒーの準備をしながら話を進める。ほぼルーティーンとなっているので、雑談しながらでも余裕で作業を進めていく。

 

「それにしても、その年で親の仕事手伝ってるって相当だね。えらいと思うよ。私はまだ甘えちゃうからなぁ」

 

「はは、そうかな。でも、win-winだから全然問題無いんだ。

 むしろ真っ当に甘えてられる藤丸さんの方が僕にとっては羨ましいよ。最近めっきり戦力として使われ始めてるから、段々厳しい指摘が増えてるんだ」

 

 はぁー、とため息を吐く南雲くんの話を聞きながら、濾し袋の中のコーヒー粉に慎重にお湯を注いでいく。

 

「どこの業界にもそういうのあるからねぇ、私もいくらかそういう経験あるけど、意外に心にくるものがあるよね。がんばってるんだからいいじゃん、ちょっとくらいって」

 

「そう! 頑張って仕上げたやつの出来を酷評されるのは堪えるんだよ! 自信とか誇りとか持って作業したから余計にね!

 ……でもそれで技術が伸びてるのが分かるから複雑なんだよなぁ」

 

「めっちゃ分かるわそれ。けどそうやって続けられるなら大丈夫だよ。これからもお仕事がんばってね、っと」

 

 よし! 完成! 我ながら完璧な出来ですな〜。ありがとう岩窟王!

 

「どうぞ〜、熱いからゆっくり飲んでね」

 

「ありがとう………………

 えっ、美味っ!」

 

「あはは、お気に召したようで何よりだよ。自信はあったけど、ちょっぴり心配だったんだ」

 

「いや、本当に美味しいよこれ! こんなコーヒー生まれて初めて飲んだかも……」

 

「ま、それなりにこだわりがありますからね!」

 

 ネルドリップはその日ごとに味が微妙に違ったりするのがまた深いんだよね〜。サイフォン使うと安定するけど、やっぱ私はこれが一番好きだな。まだ彼並みとはいかないけれど。

 

 二人してゆっくりとコーヒーの味と匂いを楽しむ。その間、私たちの間には沈黙が満ちていた。

 気まずい、刺すような沈黙ではなく、静謐な優しさに満ちた沈黙だった。

 

 ……こうしていると、かつてのカルデアを思い出す。それもまだ、ドクターがいた頃を。

 あぁ、あのときも———

 

「藤丸さん?」

 

「っと、ごめんごめん! ボーっとしてた!」

 

 あ、あぶねー。ちょっとしんみりしすぎた。今は集中、集中!

 

「……いや、ちょっと、気になってさ」

 

「何かな?」

 

「……無理してない? 藤丸さん」

 

「……」

 

 ピシリッと動きが固まる。

 

「さっきから、無理にテンション上げてる気がする。前会った時は自然な感じだったけど、今日は自然な感じに『しよう』って意気込んでる気が……する。

 ま、間違ってたら、その、ごめん! ただ、なんとなくってだけだし……」

 

「……驚いたなぁ。まったく、その通りだよ。

 鋭いね、南雲くん。まるで探偵みたいだ」

 

 本当にビックリした。まさか、気付かれるとは。彼が機微に鋭いのか、はたまた私の精神的消耗が想像より激しかったのか。

 ……まぁ、おそらく両方、かな。

 

「やっぱり、急にお邪魔したのが———」

 

「あ、それは大丈夫。本当に何も気にしてないから。むしろラッキーに思ってるよ。

 これはその……ちょっと学校でね。いろいろあって、それが理由」

 

 ただ、それで必要以上に気張ってしまったのは反省しなくては。

 こっちから連れ込んでるおいて気を遣わせるなんて、馬鹿なことをしてしまった。

 

「そ、そっか。いや安心したよ。改めて、ハンカチありがとう。助かったよ」

 

「そりゃよかった。どういたしまして」

 

「……」

 

「……」

 

 くっ……! さっきのいい感じの沈黙を返せー! めっちゃ気まずいじゃんこれぇ!

 

 ええい、こうなったらさっさと話進めてやろうじゃ……

 

「よかったら、何があったのか聞かせてくれないかな。

 僕には話を聞くぐらいしか出来ないけど、それだけでも気が楽になると思うし」

 

「———」

 

 

『お疲れさま、リツカちゃん。

 えっ、話がある? はは、じゃあボクでよければ。これでもカウンセラーだからね。

 心のケアは、ボクの仕事だ』

 

 

 ……はぁー、やっぱ思い出しちゃうなぁ。

 未練がましいっていうか。そんなに愛が重い方じゃないと思うんですけど、私。

 

 南雲くんと「あの人」が重なるのは、どことなく雰囲気が似てるからだろうか?

 二人とも自分の仕事に熱心で、ヘタレなところもあるけど一本筋の通った信念と誇りがあって、それでいて他者を尊重する優しさに溢れた、底抜けのお人好し。

 

 いかんいかん、こういう考えは目の前の彼に対して不誠実だ。

 彼は「あの人」とは全くの別人。比較したり投影したりしてはいけない。

 目を逸らすな。彼は南雲ハジメだ。ちゃんと真っ向から見て接しなければ。

 

 ただ、ちょっぴり甘えさせて。今だけは。

 

「……通ってる学校でさ、いじめを見つけちゃったんだよねぇ。

 そんでさ、実は最初、見逃そうとしたんだよ。あっでも、決して面倒だと思ったりしたからじゃないよ。

 なんていうかこう、怖かったんだよね」

 

「そりゃ、誰でも怖いと思うよ。いじめの現場に突っ込むなんて。

 飛び火したら怖いし、下手したらもっと悪化させちゃうかもだし」

 

「いや、私が怖かったのはそれじゃないんだ。

 ちょっと、小学生時のトラウマが顔出してきてね」

 

「トラウマ……?」

 

 意外そうだなぁ。そんなに図太く見えるかね、私。実際図太いけど。

 

「小四の時、友達のいじめを止めたんだ。

 仕方なかったとはいえ、いじめをしていた女の子たちには屈辱的な方法でね」

 

 あの時、雫ちゃんに転校してもらうのがもっとも穏便に済む方法だった。

 だが私はそうしなかった。雫ちゃんが泣き寝入りするみたいで嫌だったし、根本的な解決にならないから。

 だから最初、私は相手の方を転校させようとした。しかし、それもまた難しかった。

 

「日本の法律ってのは理不尽でね、いじめの加害者を転校させることができないんだ。

 被害者側が下せる処分は基本罰金のみ。そっからは厳重注意で無罪放免さ。

 一番重い処分で停学か退学のどっちか。それも、学校の教師陣が改善の見込みなしと判断するレベルじゃないと下されない」

 

「……」

 

「だから私は、私が知る限りもっとも私たちに都合の良い判断を下すだろう先生に立ち会ってもらって、その子のいじめの現場を見せた。

 ついでに私は被害者に変装して、連名で訴えられるようにした。もちろん、映像、音声証拠も完全版を用意したさ。

 ありとあらゆる要素を使って彼女を精神的に追い込んだ。非があるのはそちらだと誰が見ても分かるように、徹底的に実行した。

 結果として、その女の子たちは停学処分になったよ」

 

 南雲くんは黙って私の話を聞いている。まだ本題を話していないことが分かっているのだろう。

 

「そして停学期間があけて一ヵ月後、リーダー格の女の子が自殺した。

 遺書には『藤丸リツカに殺された』と、書いてあったそうだよ」

 

「ッ……!」

 

 息を呑む音。さすがの彼も驚いたらしい。分かるよ。私も最初に聞いた時、同じリアクションをしただろうからね。

 

「ニュースではデリケートな話だからあんまし取り上げられてないけど、噂は瞬く間に校内中に広がったよ。『藤丸リツカが人を殺した』ってね」

 

「でもっ、それはっ……!」

 

「私のせいじゃないって言ってくれるんでしょ。ありがとう、でも心遣いだけでいい。この件の後、友達に嫌ってほど慰められたからね。十分なのさ。

 それにもう終わったことだしね。結局は大した事態にもならなかったし」

 

 私がすぐに対応したから、この事件は一週間かそこらでほぼ立ち消えた。

 ……彼女の死による爪痕は、たった一週間しか残らなかった。

 

「あの時の私には、あの選択こそが最善に思えたんだ。だから、何度でも私は同じことをするんだろうね。そういう生き方をするって、小さい頃から決めてるから。

 でも、私があの女の子を傷付けてしまったことは覆しようもない事実だから、たとえみんなが私のことを悪くないと言おうが、私は私自身をずっと責め続ける。

 私だって、後悔したりするんだよ。間違いだったと思うことなんて、いっぱいあるんだ。」

 

 異聞帯の攻略時も似たような気分だったように思う。その時期は本当に苦しかった。仲間や友達がいなければ、私はその責任に潰されていただろう。

 

「……だから、藤丸さんはいじめを見た時に足が竦んだんだね。自分が助けに入ることで、傷付けてしまう人を見るのが怖かったから」

 

「そうだね。でも、本当の悩みはそれじゃないんだ」

 

「えっ?」

 

 そう、そのトラウマが悩みの種なのではない。なぜならそれは前の世界ですでに乗り越えて、折り合いをつけたものだから。

 あくまで一因であって、根本ではない。

 

「結局私はそのいじめに突っ込んで、その場は収まったんだけどね。いじめられてた子の地雷を踏んじゃって、怒鳴られた」

 

「……!」

 

「頼んでもないのに助けようとするなって、人の気持ちも分からないなら救おうとするなって。

 彼は、助けられたくなかったんだね。自分の弱いところを見られたくなかったんだ。当然の心理だよ、私だってそう思う。

 そんな状態の男の子に、さっきしたみたいな話をしようとしたんだけど、途中までしか話せなかった」

 

 南雲くんは悲痛そうに顔を歪める。本当に優しい人なんだなぁ。

 

「私が彼に伝えたくて、伝わらなかったことは、私もあなたと同じだよってことなんだ。

 私も一歩踏み出すのに勇気が必要で、精一杯振り絞らなきゃそれが出せなくて。いつも心の中で怯えてる。

 でも、支えてくれる人がいるから、立ち上がれる。殻を破れる。人は一人じゃ前に進めない。一緒に進んでくれる人がいるからがんばれる。

 私でよければ、君にとってのそういう存在になりたいって。そして君も、そうしないと前に進めない私を、どうか良き友人として支えて欲しいって。

 君を連れ出してくれる人は、けっこう近くにいるんだよってことを、伝えたかった」

 

 そこまで言って、私は一度、コーヒーで口を湿らせる。熱々だったそれは、もうすっかり冷め切っていた。

 

「でもさ、彼にとってのそういう存在は、きっと私じゃなかったんだ。私が分かっていなかったのはそこなんだよ。

 自惚れてたんだ。

 私ならきっと大丈夫だって、根拠もないのに深く思考することなく思い込んでた。

 馬鹿だよ。大馬鹿野郎だよ。全く、これでどの面下げて支える存在になる、なんて抜かすんだか。

 もう私に彼を助けることはできない。その資格が私にはないし、彼を傷付けてしまうだけだろうから」

 

 私は残りのコーヒーをぐいっと飲み干す。苦いなぁ。

 だけど、だからこそ、力が沸いてくる。

 

「そこで、君に折り入って頼みがある」

 

「僕に?」

 

 困惑顔を見せる南雲くん。唐突な話題の変換に戸惑っている。

 

 ……これもまた、一種の甘えだろう。だけど、私にはもうこれしか方法が思い浮かばない。

 

 余計なお世話だってことは分かってる。

 

 彼をもっと深く傷付けてしまうかもしれないと分かっている。

 

 でも!

 

 諦めたくないんだ! これで終わりにしたくないんだ!

 

 孤独と絶望の終わり(バッドエンド)はいらないんだよ。

 

 不恰好でもいい。私が望むのはただ一つ。

 

 

「君に……彼、清水幸利くんを、救ってほしいんだ」

 

 

 愛と希望の始まり(ハッピーエンド)だけなんだ。

 

 

 




話進んでないのは許してください。
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