ありふれた元マスターでクラス最弱   作:抹茶れもん

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めちゃくちゃお待たせして本当に申し訳ない。
マジで会話と構成が思いつかなくて、中途半端なものをお出ししたくなくて書いては消しを繰り返していたら半年経ってしまいました……。
けどあんまりお待たせするのも私の心が耐えられないので、頑張って取り敢えず途中までなんとか形にはなったので投稿させてもらいました。
色々と至らぬ作者ではありますが、どうかこの物語が完結するまで見守っていただけると嬉しいです。


第14節 友情

「それじゃあ、今日から新しくこのクラスの一員となる転校生を紹介するぞ。

 清水幸利君だ」

 

「……清水幸利です。よろしくお願いします」

 

 パラパラと拍手が起こる。あまり歓迎されていない雰囲気だ。気持ちは分かるが。

 誰だって転入生には期待する。もし俺がイケメンや美少女だったなら、さぞ盛り上がったことだろう。

 だが生憎(あいにく)俺はそばかすの目立つだけの地味で暗そうな男だ。期待外れも甚だしいというもの。

 

 今日も本当は部屋に篭っていたかった。最近ハマってしまい、買い溜めたラノベが部屋に山積みになっているのだから。

 

 ライトノベルはいい。低俗だとバカにされることも多いが、ラノベには理想が詰まっている。

 煩わしい人間関係も、ままならない現実も、手に入らない可愛い彼女も、ラノベの中の主人公なら簡単に手に入れられるんだ。

 辛い現実に荒んだ心を癒やしてくれる痛快な魅力がそこにはあった。

 

 あの日藤丸の前から逃げ出した後、俺はそうやって自分の心を慰めていた。

 今思い返しても最低な行為をした。助けられたくせして、恩知らずにも罵倒して、相手の言葉も聞かずに逃げた。

 

 俺が駆け出す寸前、あいつは何か言おうとしていたっけ。

 最後まであいつの言葉を聞いておけばよかった。そうすれば、こうしてふと未練たらしく思い返すことも無かったろうに。

 

「じゃあ、そこの一番後ろ。南雲の隣が君の席だ」

 

「……はい」

 

 担任の教師に指定されたのは窓側の一番後ろの席。

 隣の席にいるのは平凡が形を取ったような顔の男子で、こちらをまじまじと見つめていた。

 

 俺はその視線を無視して自分の席に着き、持ってきたラノベを取り出す。今やラノベ中毒と言っても過言でない状態で、これを読んでいないと落ち着かない。

 俺に話しかけようする奴は誰もいないようだし、一時間目が始まるまでにとりあえず切りの良い所まで読み進めてしまおうか。

 

 しかし、ここまで関わるなオーラを出しておきながら、隣からの視線は一向に俺に向けられたままだ。

 

 ……正直鬱陶しい。こちらはただでさえストレスが溜まっているのだ。不躾な興味は迷惑以外の何ものでもない。

 

「チッ……

 なぁ、さっきから何か用でもあるのか? ないならいい加減にしてくれ。落ち着かないんだよ」

 

「うっ……! いや、ごめん!

 ただその……ちょっと、聞きたいことがあって」

 

 童顔のソイツは動揺したように咄嗟に謝り、(ほお)をかいて苦笑いをしながら言った。

 

「もしかしてさ、ラノベ好き?」

 

「……悪いかよ」

 

 俺は敵意を込めてソイツを睨みつける。

 

 前の学校ではオタクと指差されていじめられていたからだ。あの時はそこまでオタクという(わけ)ではなかったが、今は本当に否定できない。

 念のためブックカバーで表紙は隠していたんだが、こんなに早く露呈するとは思わなかった。クソッ、やっぱ早計だったか? というか、なんでバレたんだ?

 

「えっ? あ、いや違うんだ! その、君もラノベ好きなのかなって思って」

 

「はぁ……?」

 

 しかし、どうやらその心配は杞憂だったらしい。

 俺の苦い顔を見て内心を察したのか、ソイツは慌てて訂正してきた。

 

「……それがどうしたって言うんだよ」

 

「僕もそういうの大好きだからさ、君と話が合いそうだなって思ったんだ」

 

「……」

 

 ソイツはふわりとした笑みを浮かべた。人畜無害な、包み込むような笑顔。

 目の前の男が、まるであの女のそれのように、俺には見えた。

 

 顔の造形は全く似ていない。性格も多分そうだ。

 なのに、その表面上は平和ボケしているようでいて、どこか自分の中にはっきりとした芯があるかのような雰囲気が、どことなくアイツと似通っている。

 

「もしよかったら、僕が学校を案内しようか?

 ……と言っても、僕もあんまりよく分かってないんだけどね。休み時間はたいてい爆睡してるし」

 

「何だそりゃ……」

 

「いやぁ、中学に入ってから本格的に親の手伝いするようになってさ。睡眠時間がゴリゴリ減ってるんだよね。

 マンガもゲームも作る方は本当に苦労するんだよね、アレ……」

 

 ん? 作る方?

 

「……もしかして、クリエイターか?」

 

「うん。父さんがゲームで、母さんが少女漫画」

 

「マジでか……」

 

 意外なこともあるものだ。目の前の男は凡庸(ぼんよう)な見た目の割に、なかなか特殊な家庭環境らしい。

 

「あはは、それほどでもないよ。

 あっそうだ、今日の放課後うちに来る? 見学くらいなら全然大丈夫だと思うよ」

 

「え? いや、俺は……」

 

 別に、と反射的に言おうと思ったが、よく考えればそれは限りなく勿体ないことなのではないか? 創作の現場を生で見るというのは少しでもサブカルに精通する者であれば誰だって一度は夢に見るものだ。

 

「……でも、迷惑にならないか。それ」

 

「絶対ならないよ! 父さんも母さんも、きっと喜ぶと思うけど」

 

「そ、そうか……」

 

 今まで、こんな風に学校で話した奴はいなかった。

 

 いつも教室の片隅でじっとしているような、空虚な毎日を送っていた。これからも、きっとそれは変わらないだろう。

 

 ただ、少しだけ。少しだけマシなものになるかもしれないと、その時思った。

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「お、お邪魔します……」

 

 その日の放課後、約束通り俺は南雲の家についていった。

 友人と呼べる人間が今までいなかったこともあり、こうして他人の家を訪問したことは一度としてない。

 

 つまり、この上ない緊張を感じている訳だ。

 

 完全なる他人の領域。ここは自分の居場所ではないというような、一種の場違い感に襲われる。

 

「おかえり、ハジメ……あら?」

 

「ただいま、母さん。今日はちょっと、友達を連れてきたんだ」

 

「まぁ……!」

 

 奥の部屋から出てきたのは、南雲の母親らしき人物。黒髪の穏やかそうな女性だ。

 

「はじめまして、南雲菫です。いつも息子がお世話になってます」

 

「!? い、いえ、お世話も何も今日会ったばっかりで、そういうことは何も……」

 

「あら、そうなの?」

 

「清水君は今日転校してきたばかりなんだよ。趣味が合ってさ、ラノベが好きなんだって」

 

「へぇ、良かったじゃないハジメ!

 今まで友達一人連れてきたこともないし、今日は張り切ってもてなさなきゃいけないわね!」

 

「いや、普通でいいよ、普通で」

 

 軽やかに掛け合う、まさに親子という感じの会話。それが何故か、少し懐かしく思う。

 

「ま、こんなところで立ち話も何だし、早く上がってちょうだい。今お茶とお菓子用意するから!」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「もう……母さん、はしゃぎすぎだよ」

 

 あぁ、そういえば、ここ最近ずっと家族と話して無かったな。

 

 家に帰ったらすぐ二階の自分の部屋に行き、食事は部屋の前まで持ってきてもらう。

 オタク趣味に走り出した時からは、兄達とも距離が開き、尚更親と一緒にいる時間も減った気がする。

 だから懐かしいと思うのか。微笑ましく、ほんの少し羨ましい。

 

 その後、南雲母は現在進行形で行われている息子の厨二的黒歴史や、ただの黒歴史を嬉しそうに語り、息子は息子で仕返しに深夜テンション時の母の奇行・痴態を暴露しまくってちょっとした乱闘になったりしたが、仕事の現場を見せて貰ったり、上手い絵の書き方とかを手解きされたりと、まぁ悪くない経験ができた思う。

 

 気付いたら夢中になっていたのだ。他人の家で、ここまではしゃいだのは人生初の体験だった。

 時間も忘れて、俺は南雲親子とのふれあいを楽しんだ。

 

 心の奥底に溜まっていた黒い淀みもまた、気付けば鳴りを潜めていた。

 

「清水君、今日は楽しかったよ。またよかったら遊びに来て欲しいな。歓迎するよ」

 

「……あぁ、その、ありがとな。

 …………今日は楽しかった。それじゃあ、また」

 

「! うん!」

 

 今日の夕飯は久しぶりに家族と食べたいと、素直にそう思えた。

 

 

 

 

 

 それからというもの、俺と南雲……いや、ハジメとはよく学校でつるむようになった。

 オタクである、というだけでお偉い世間様からの目は冷たいものになる訳で、元々オープンなオタクであったハジメに、俺はお互い過度に目をつけられないように一緒に連んでおこうという提案を持ちかけた。

 徒党を組んでおけば手は出しづらいものだ。ボッチなオタクという人種は生態系ピラミッドではプランクトンか道端の雑草だ。

 実際には……友達になろうとは中々言い出し辛かった俺の建前のようなものだったのだが。

 

 学校でなんとなく駄弁り、あのラノベの何巻が面白いからオススメだの、狩ゲー何分針で討伐できただの、あのアニメ作画ヤベェだのと、くだらない話をしながら学校生活を過ごす。

 

 週末にはどちらかの家に集まってゲームしたり、劇場版のアニメを見に行ったり、休日もまた何の変哲もない日常を過ごした。

 

 いづれもが、世の陽キャ連中に笑われるような地味で無為で無気力な日々。

 だが、それは決して無駄ではなかったと自負している。

 

 そう。無駄ではないんだ。それに、空虚でもない。決して華やかではなくとも、俺はその日々をこれ以上なく楽しんで過ごしたから。

 

 この毒にも薬にもならない生活は、俺の心を潤した。ハジメが、アイツの親御さん達が、そして俺の家族が、ちゃんと支えてくれたから。

 

 今までの俺は、ずっと一人だと思っていた。世界に俺は一人きりで、助けてくれる人も寄り添ってくれる人もいなくて、ただ暗い部屋で縮こまって、世の理不尽とやらを呪うことしかしなかった。

 自分のテリトリーの外側が怖くて、支えてくれる人が身近にいるのを見ないふりして、連れ出そうとする人の手を振り払った。

 

 だから俺の気持ちを察してくれて、何も言わずに寄り添ってくれる人は、俺にとって安息だった。そして、そういう人は意外と身近にいるということにやっと目を向けられた。

 

 刺激に乏しくて、何にも特別なことはなく。ただ友人と話し、遊び、家族と語らう。

 

 しかし、何でもないその日々は俺という人間にとって、かけがえのない一生の思い出。

 

 このありふれた日常は、確かに俺の青春だった。

 

 

 

 

 

 さらに月日は経ち、俺達が高校受験を受ける三年生の二月中旬のこと。

 

 俺もハジメもオタクであるが故に冬アニメの誘惑に抗えず勉強が疎かになることもあったが、もともと成績自体は悪くなかったおかげで、なんとか今日という最大の試練の日を踏破できた。

 日々の積み上げてきた努力のおかげだ。だから勉強とオタク趣味以外やることが無かったからとか言うな。

 

 目にうつることはなくとも、この一年間毎日毎日、日が経つごとに重く俺を押しつぶしてきたプレッシャー。

 それから完全に解放されたこの解放感は、筆舌につくし難いものがある。

 

 ハジメとは同じ高校を受験した。とりあえず一緒に帰路に着くべく電源を切っていたスマホを立ち上げ、校門前で待っている旨のメッセージを送る。

 

 アイツがやって来るまでの間、暇を潰すために暫くご無沙汰だったソシャゲをさっそく起動し、開催中の期間限定イベントを無心でシステム周回する。

 あと帰ったらまずは今年一年積み上げたゲームの山を崩さなければ。まだ未クリアのやつからそもそも封を開けていない新作まであるんだ。徹夜で勉強の代わりに徹夜でゲームができるなんて、恵まれた堕落以外の何物でもない。まさに神の恩寵……いや、悪魔の誘惑だ。今回くらいはソイツに身を任せてゲームをしようそうしよう。

 

 などと益体もないことを考えていると、こっちに近づいてくる人影が目の端にうつる。やっとハジメが来たのだろうと思い、俺はその人物に声をかける。

 

「おう、遅かったな。待ちくたびれて……」

 

 が、その言葉は途中できれてしまった。なぜなら。

 

「や、久しぶりだね。清水くん」

 

 そこには置いてきたはずの過去。俺が今でも負目を抱えている女。

 

「ちょっと、お話しない?」

 

 藤丸リツカが、記憶と変わらない笑顔でそこに立っていた。

 

 




リハビリ用の新作もちょろっと書いていたので、気が向いたらそちらの方も暇つぶしにでも読んでやってください。
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