後日設定資料集を上げる予定です。
「で、いつからこの場を仕組んでたんだよ?」
「え"。いや〜、ちょっっと何言ってるか分かんないカナ……」
俺と藤丸は取り敢えず人の往来が多い場所ではあれだからと、近くのカフェの一席で向かい合っていた。
空は冬の日らしい曇天だったが、その隙間から日差しが降り注いでいて、カフェの窓から見える観葉植物の葉がきらきらと光っていた。
「どうもこうも無い。ついさっきハジメから『急ぎの用ができたので失礼する』ってLINEきたぞ。お前ら内通してただろ。いつからだ」
「えーっと、半年ちょい前です……。南雲くんから連絡があって、受験の後時間空いてるだろうから、ちょうど受験校も同じだから話し合いの場を設けないか、って」
じゃあこれハジメの計画かよ。まんまとアイツに嵌められた訳か。いつの間に接点があったんだ?
「……なんでアイツが俺とお前が拗れてること知ってるんだ」
「う、私が話しました……。彼なら、悪い結果にはならないと思ったから」
気不味そうに藤丸が目を逸らし、たははと笑った。人に弱みを見せたがらなそうなコイツが他人に、しかもコイツのグループ以外の人間にそんなことを打ち明けているとは、正直予想外だった。
オーダーしたコーヒーと紅茶が運ばれてきて、藤丸は紅茶をティースプーンでゆるゆるとかき回しながら続きをとつとつと話す。
「南雲くんとは中二の春ぐらい……ちょうど、君が転校するちょい前くらいに偶然知り合ってね。以来、ちょくちょく連絡を取りあってたんだ。そしたら、君の話になった
「なるほど、俺が転校する前……ね」
ハジメの奴、そんなこと一言も口にしていなかったのに……コミュ症じゃなかったのかよ。いや、たまに相性の良いやつが居ると割とすぐ仲良くなる奴だったなアイツ。
コイツと顔を合わせるのも久しぶりだ。大体2年くらいぶりである。姿形も雰囲気も何もかもが昔のままで、俺はどこかタイムスリップでもしてしまった気がした。
そんな不思議な感慨を抱いている俺を、藤丸はほんの瞬きの間表情を固定してじっと見つめて、それからポツリとこぼすように言った。
「清水くん……変わったねぇ。なんだか、前に見た時よりもすごく男の子っぽくなった気がする」
「なんだそりゃ。前は女っぽかったってことか?」
「いや、なんというかこう……落ち着いたっていうか、雰囲気が穏やかになったよね。大人の男の落ち着き、みたいな? そんな感じ」
「そうか?」
言われて悪い気はしないが、そこまで変わっているのだろうか。確かにハジメという友人ができて、家族との距離も縮まったし、学校も前より随分と好きになれた。やはり、そこが大きいのだろうな。
「……まぁ、色々あったんだよ。色々な。だいぶ身の回りの環境が変わって、心に整理がついたんだろうよ」
「……そっか。うん、それは良かった」
そう言って藤丸は心底安堵したかのようにふにゃりと相好を崩す。まるで長年抱え続けてた悩み事が今ようやっと肩の荷から下ろせた、という風に。
それを見て俺は胸が締め付けられるような痛みを覚えた。罪悪感だ。きっとこのお節介な女は、本当にあの日手を振り払って逃げた俺のことを、心の底から心配していたのだろうとはっきり分かったから。
「なぁ、一つ聞いてもいいか?」
「おっ何かな? 今日は特別にどんな質問にも答えちゃおう! なんせやーっと色々解決した気がして、今すっごく気分がいいからね! 受験とか!」
だからこそ、俺から聞かなければならないだろう。
「あの日、お前が俺を助けた時、お前は……俺になんて言おうとしてたんだ?」
別に俺は今の生活に不満があるわけではないし、むしろ今まで以上に充実した日々を送っている。ただ、コイツの言葉を最後までちゃんと聞いていれば、また違う展開もあったんじゃないかと思わずにはいられない。
何より、あれだけ親身に気遣いをしてくれた相手の言葉を無視して無様に逃げたことに負目を感じ無いと言えば嘘になるからだ。
だから聞いておきたい。あの時あの場所で、藤丸が何を思い、何を言おうとしていたのか。俺には、それを聞く義務というものがあるはずだ。
そして藤丸は、今度は俺のことをまじまじと見つめた後、ふわりと笑って言った。
「ふふ、本当に立派になったんだね。うん、あの時言おうとしたことか……。でも、言っても意味あるのかな。私が言いたかったことはもう君は全部分かっているはずだから」
「……それでも、聞いておきたい。お前がどんな気持ちだったかが知りたいんだよ、俺は」
少し以外そうに目を見開く藤丸。だがすぐにまた微笑んで話しを続ける。
「そっか。まぁ何でも聞いてと言った手前、断るのは筋が通らないしね。
あの時は……友達として君のことを支えたい、みたいなことを言おうとしてたよ。あはは、言葉にするとちょっとチープな感じするけど、私は本気だったんだよ?
……人間ってさ、やっぱ一人だとダメになっちゃうんだよ。一人は気分が楽だけど、心がそれについていけない。自分のいやーなとこだけ目について、それから目を逸らしたくて良いと思うところを誇張する。そうすると、良いところまでどんどん腐っていっちゃうわけだよ。自分で自分を責めて、失望して、失意の庭から出られない」
「……」
「そんな風に八方塞がりで息もできない時、誰かしら近くにいる人が気付いてあげると、すっごく救われるじゃん? 裏表なく自分の良いところを見てくれて、踏み外しそうな時は支えてくれる……あの時の君には、そんな人が必要だって思ってね」
「……なるほど、な」
ドンピシャだ。確かに俺を引き止めてくれたのは、ハジメや家族だった。あの人達が俺を見捨てなかったから、俺は今の俺でいられる。
あの時点で、藤丸には全部お見通しだったって
「ありがとな、すっきりしたよ。胸のつかえがとれたみたいだ。今すっげぇ気持ちいいわ」
「めっちゃ分かる! 私も多分今そんな感じ! いやぁ、これで今日はぐっすり寝むれそうだよ〜」
俺達はそう言って笑い合う。あぁ、こんな日が来るなんて、思ってもみなかった。なんだかようやく本当に救われた気分だ。
その後も俺達は互いに近況を話したりして、ゆっくりと時間を消費していった。特に互いの友人に関する自慢話は白熱したものだ。
そんな風に過ごしていると、もうすっかり夕暮れ時になっており、黒い雲を夕日が紫紺に染め上げていた。
「あっ、もうこんな時間だね。すっかり時間を忘れちゃってたよ。じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「あ、あぁ。そうだな」
藤丸がにこやかにそう告げる。その笑顔は星のような輝きで、ずっと見ていたいと思わせるような顔で。
俺はこの時間が、永遠に続いていてほしいと思った。どうしても手放したくなくなった。
だからつい、昔心の奥に仕舞い込んで鍵をかけていた言葉が、無意識に口から飛び出していた。
「あのさ、お前……彼氏とか、いる?」
「……え?」
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「きげん?」
何それ。と、私は首を傾げた。
「おいオマエ、もう忘れたっていうのかよ? アーチャーの奴が言ってただろ?」
「いってたし、おぼえてるけど、よくわかんなかった」
「オマエなぁ……。まぁ、まだ5歳かそこらっていうんなら、分からないのも無理はないか」
仕方ないもう一度ボクから説明してやるからちゃんと聞くんだぞ、と目の前の男、ウェイバー・ベルベットはそう言って私に言い聞かせるように説明を始めた。
「起源っていうのは、あらゆる存在が生まれながらに備わっている原初の方向性のことだ。そのものに存在意義とかあるいは」
「もっとかんたんにいって」
「———つまり! アイデンティティみたいなもんだって言ってんだよ! 性格とか、生き方とか、そういうのを決定するのが『起源』ってことだ!」
「なるほどー」
今のは分かりやすかった、と言う意味も込めてぱちぱちと拍手をするが、ウェイバーの顔は引き攣っていた。どうやら噛み砕いて説明するのに慣れていないようだ。
彼はぴくぴくと口端を震わしながら説明を続ける。
「それで、アーチャーが鑑定した結果、オマエの起源は『白紙』だって分かったんだよ。しかもその起源が覚醒して表に出てきてる生まれつきの『起源覚醒者』だとさ。オマエに人間らしい情緒が無いのはそのせいだって」
「はくし」
「真っ白い紙のことだ。言っておくけど、物理的な話じゃないぞ。あり方の話だ。アーチャーによると『白紙とは無垢のことだ。真っさらな紙には当然殺風景な白で埋め尽くされているが、そこには巧拙問わずいかなる文字も絵図も記せよう。そのように、何も思わず何も感じぬ無垢な魂でありながら、ありとあらゆる情報を受け入れる器でもある』だとさ」
「?????」
「……確かにこれ何言ってんだってなるな。えーと、簡単に言えば、めちゃくちゃ記憶力がいいってことだ。それと、神を身に宿せる巫女みたいな感じだ」
「みこ……」
「オマエ、今まで何かを
「あ……」
言われてみれば、確かに時々自分に何かが刻み込まれる感覚がする。今までそれが自然だと思っていたけど、もしかしてこの感覚のことなのだろうか。
たどたどしく説明してみたが、どうやらそうらしいという曖昧なことしか分からなかった。
「ともかく! オマエはそういう特性を持ってる。アーチャーは容量は無限に等しいって言ってたけど、それはあくまで人間が想像できる範囲での無限だ。オマエはバーサーカーが魂に埋め込んだアレの影響でだいぶ容量を食い潰してる。容量が一杯になればきっとロクなことにならない。
くれぐれも、刻み込む情報は考えて決めるんだぞ」
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ジリリ、という音で目が覚める。眠気に押し込まれる目蓋を擦りながらリビングに出る。
「おはよ〜……」
「おはよう、リツカ」
「もう、しっかりしなさい。今日は高校の入学式でしょう?」
「わかってるよ〜。いただきま〜す」
半レムレム状態で朝食を
それにしても、懐かしい夢を見たな。聖杯戦争直後の
朝食を完食し、洗面所で歯を磨き、顔を洗って眠気を綺麗さっぱり拭い去る。
真新しいブレザーに身を包み、姿見の前で髪を整えシュシュでサイドテールを拵える。
革製のカバンを肩から下げれば……
「おお〜、ぴちぴちのJKだ〜! なんか懐かしいなぁ」
転移前は高校2年の時にカルデアに行ったから、私の学生時代の
だから、この世界に来て久しぶりにちょっと緊張しているのだ。だがそれ以上にめちゃくちゃ楽しみでワクワクする。
取り敢えず目標は友達と卒業式で号泣すること。転移前では出来なかった高校卒業を今度こそ成し遂げるのだ!
「ヤッホー、雫ちゃん! 今日も美人だね!」
「きゃっ! もう、驚かさないでちょうだい、リツカ!」
何度驚かせても雫ちゃんの驚いた反応はかわいいな。いい匂いもする。
「うへへー、ごめんごめん。香織ちゃんも恵里ちゃんもおはよ!」
「おはよう、リツカちゃん。制服似合ってるね」
「リツカ、あんまり雫を困らせないでやってよね」
桜の並木道にきゃいきゃいと女子のはしゃぐ声が響く。
女三人寄れば姦しいと言うが、四人集まればそらもう大騒ぎってもんですよ。
「そういえば香織ちゃんは南雲くんと上手くいってるの? この前デートしたんじゃなかったっけ」
「何で知ってるのリツカちゃん!?」
「信頼できるスジからの密告です」
「え、何それ僕初耳なんだけど! いついつ? どこで?」
「恵里ちゃん!?」
「先々週の日曜。隣町のデパートらしい」
「香織……まさか貴女が好きな人をデートに誘えるようになっているなんて……。大きくなったわね……」
「お母さん!? もう、みんなしてからかわないでよ! それに、あれはデートとかじゃなくて、私が南雲くんにおすすめの本を聞いて、じゃあ実際に見た方が早いってなって、なし崩し的にご一緒しただけなんだから!」
「しっかりデートじゃん」
ほんそれ。いや〜香織ちゃんも中々隅におけませんな〜。
「あら、もうすぐ校門に着くわね。どう? 記念に写真撮らない?」
「いいね! 輝ける青春の思い出だよ〜!」
「言葉のチョイスが古くない? リツカ」
「ちょっと待って!? 誤解がまだ解けてない気がする! あのね、本当にデートとかじゃなかったの! 別にそんな雰囲気だったりキスしたりとかそんなことしてないから!」
「ちょ、待って。え? キスしたの? あのよく分かんないとこで強引なくせによく分かんないとこでヘタレな香織が? マジで?」
「あ、キスはしてないって言ってた」
「なーんだ、残念」
「だからリツカちゃんは何で知ってるの!? というか誰情報!?」
もしかして南雲くんじゃないよね!? という香織ちゃんの嬉し恥ずかしな照れ隠しをBGMに私たちは今日入学する校門をくぐる。
「おっ、光輝。あれリツカ達じゃないか?」
「本当だ。相変わらず仲が良いな、みんな」
正門前にはすでに光輝くんと龍太郎くんがスタンバっていた。どうやら早く着きすぎたようなので待っていてくれたらしい。
「おっはよう! 光輝くん、龍太郎くん! 一緒に記念写真撮ろう!」
「おはよう、リツカ。うん、それは良いね。じゃあ、あの桜の木の下とかどうだい? 一番満開で綺麗だと思っていたんだ」
「おっ、いいね〜! じゃあ、みんな並んで並んで〜! あっ、そこのかわいい女の子! よかったら写真撮ってくれませんか? いい? よっしゃ!」
「相変わらず怒涛だね、リツカ……」
私はみんなに桜の前に集まるように呼びかけながら、近くを通りがかった小動物チックなかわいい女の子に写真撮ってとお願いする。
みんな一列だと入らないので、肩を組んで
「じゃ、いきますよー!」
「リツカ」
「ん、何? 光輝くん」
写真を撮る直前に隣の光輝くんが耳うちをしてくる。
「入学式が終わったら……2人きりで話がしたい」
「え……?」
「はい、チーズ!」
ぱしゃり、とシャッターが切られた。
入学式が終わり、雫ちゃんたちと別れた後。私と光輝くんは近くの公園の噴水の前で向かい合っていた。
夕暮れ時のオレンジ色の光が噴き上がる水に反射して金色に輝いている。
そして、ぶっちゃけ私は緊張していた。目の前に立っている光輝くんがいつになく真剣な表情をしていたからだ。
いくら鈍感な私でも雰囲気を察することぐらいできるのである。
「それで……話って、何?」
こんなロマンティックな雰囲気で二人きりで話さしたいなんて、これはもう適切なシチュエーションは一つしかないだろう。
「……単刀直入に言うよ。リツカ、俺は君が好きだ。付き合いたいって、そう思ってる」
「……」
告白ぐらいだよね。知ってた。ただ、私に来たのが予想外なだけで。
「理由を、聞いてもいいかな」
「……君が、いつも俺を助けてくれたから。リツカはいつも俺達の前を進んでいて、どんな時でも迷わず手を取ってくれた。
俺はきっと、リツカのその優しさに救われたんだ。君がいなければ、俺はもっと違う人間になっていたと思う。
自分の優秀さを疑わず、自分の価値観で何もかもを決めてしまうような、そんな人間になっていたと気がするんだ。今でもまだ若干その気があるみたいだし……」
「まぁ確かにそういう点はあるけど、別にそれほど迷惑になってないし、それも個性だと思うけど」
やっぱりあるんだ、みたいな微妙な顔をした光輝くんだったが、すぐにもとの顔にカムバックして言葉を続けた。
「そんな
「そっか」
「だから君のことはよく知ってるつもりだ。だからこそ知りたい。リツカのことをもっと。
俺は何でもできるリツカにとても嫉妬していたけど、それを遥かに超えるぐらい、君の優しさや、明るさや、正義感にずっと憧れてた。
俺も君に並びたい。いつも先へ先へと進んで行くリツカの横に立ちたいと思った。
……リツカが大好きなんだ。誰をも救える正義の味方みたいな、そんな君が大好きなんだ」
「……」
「どうか、俺と付き合ってほしい。俺は……ずっと、リツカの隣にいたいから」
とても誠実な告白だった。光輝くんは告白されることはあっても、告白することは無かったはずだ。その彼が、初めて告白したのが多分私だ。彼の言葉から読み取るなら、おそらく初恋も私だと思う。
だからこそ、私も誠実にあらねばならないだろう。彼の覚悟に応える覚悟を、ちゃんと示さないとダメだろう。
「ごめんなさい。お付き合いすることは、できません」
「———どうして?」
「他に好きな人がいるから」
明らかにショックを受けたような表情の光輝くんを見て、胸が軋むように痛む。そんな顔をさせたいわけじゃないんだよ。悪いのは君じゃない、私の方なんだから。出来損ないの心を持った私のせいなんだ。
「勘違いしないでほしいのは、光輝くんに問題があるわけじゃないってこと。私も君のことが好きだよ。親友だって思ってる。君に対して、本当に誠実でありたいからこそ、私は君とお付き合いすることはできない」
「……理由、は?」
「……ちょっと長くなるけど、いい?」
「それで、納得できるなら。俺はいつまでだって聞いていい」
やっぱり彼は優しいな。とてもいい人だ。
「……人には誰しも『起源』がある。その人を決定付ける根幹の要素がそれだよ」
「え?」
「難しいよね。まぁ、深層心理とかアイデンティティみたいなもんさ。生まれる前から決まってる、自分の価値観や生き方、性格のことだと思えばいいよ」
「う、うん……?」
急に話が変わって困惑している光輝くん。でもちゃんと前提を話しておかないと説明できない。私は結構、特殊例だから。
「そんでごくたまに、その起源が表に出てきちゃう人がいる。それが私」
「えっ!? それ……大丈夫、なのか?」
「心配してくれてありがと。でも大丈夫だよ、ちゃんと日常に支障ないぐらいには制御できてるし。ただ、どうしても自力じゃどうにもできないこともあってね」
「……」
「私の起源は『白紙』。しかも生まれつき覚醒しててね。その名の通り、幼少期の私はもう真っさらすぎて、ただ生きてるだけのロボットみたいだったらしい。産声すら上げなかったそうだよ」
「それは……!」
全然大丈夫じゃないだろ、と言いたげな光輝くん。ここまではなんとか理解できてる感じかな。
「あはは、大丈夫だって。今の私がそんな風に見える? 『白紙』っていうのはね、何も書かれてないって意味じゃなくて、何でも書き込めるって意味なんだ。
私は今までの人生で、親から"愛"を、悪人から"負の感情"を、恩人から"善"を、師から"普通"を、それぞれ私の真っ白な魂に刻み込んでいった。
そして最終的に、可もなく不可もなくな"一般人"な藤丸リツカという人間ができた……って感じ」
光輝くんは複雑そうな顔をして見つめている。それは普通ならさっき私が語ったことは悲劇だけど、当の本人がケロッとしているからだろう。実際私は幸運だなぁ、としか思ってないし。
「それから色々試行錯誤して、私は脳みそに刻んだ記憶や感情を文字通り
「……!」
「ただ、これも万能じゃなくてね。私自身がそこまで思い入れがないものなら消しゴムで消すみたいなイメージで綺麗さっぱり消せるんだけど、私自身が強くそれらを覚えていたいと……意識的にでも無意識的にでも思ってる記憶は、絶対に消えることがない。
その時の感情も何もかも、紙に力いっぱい書き込んで、消しゴムでも消えないくらいに刻み込まれたそれは、ずっと跡になって残り続ける」
ここまでが前提。本題なのは、ここからだ。
「その強く刻まれた
「ッ……!」
ここまで言えば、頭の良い彼なら察してくれるだろう。
「……君が本気で私のことを想ってくれてるのは痛いほど分かったよ。でもさ、たとえ付き合ったとしても、私はずっと君とは別の人を好いてるんだ。
こんな私が、君の恋人になるだなんて……そんな不誠実なことは無いよ。君にとっても私にとっても、ね」
あぁ、そんな悲しそうな顔をしないでほしい。君には君を本当に好いてくれる女の子が沢山いるんだから、その子たちと普通の幸せを手に入れてほしいんだよ。
「だから、私は君とは付き合えない。気持ちは本当に嬉しいけどさ、君には私なんかより
「いやだ」
「ふぇっ?」
申し訳なさで、心が痛くて、彼の顔を直視するのが気が引けて。思わず一瞬目を逸らしてしまった瞬間、ガシッと肩を両手で掴まれる。顔が近い。いきなりすぎて変な声出た。
「俺は、リツカじゃないといやだ」
「あ、えと……だから、ね? ホラ、さっき説明したじゃん? 体質的な問題でさ、仕方ないことだって……」
「そんなの、リツカの都合だ。俺の知ったことじゃない。俺は、君がいいんだ」
「……」
キザな
端的に言って、ちょっとパニクった。そんで一瞬思考がショートした。
「前の好きだった奴が、そんなに忘れられないのか? だったら俺が、そいつがリツカに刻んだ恋を塗り潰すほどに君に恋をさせればいいだけだ」
「あー、そうなる……のカナ?」
そういうとこ。そういうとこだぞ光輝くん。君が女性に刺されそうになるのそういうとこ! 私もそういうとこあるらしいから
「だから、俺はリツカを諦めない。絶対に……この手を離さない。ずっと、君と一緒に居たいから」
「ははは……こりゃ、参った」
完全に光輝くんのペースに乗せられてしまった。うだうだ考えてた私がバカみたいじゃないか。さっきまでのシリアスムードが台無しだってばよ。
全く、私はこれでも負けず嫌いなのだ。負けっぱなしは性に合わない。
だから今度はこっちから。肩を掴まれたまま、私は両手を光輝くんの顔に添えて、ぐいと近づける。お返しだ!
さっきまで珍しくしおらしかった私の突然の反撃にたじろぐ光輝くんにすかさず畳み掛ける。
「言っておくけどね、私はこれでもかなーり一途な方だよ? 起源とかそういうの関係なしに、あの人のことは絶対忘れないって心に誓ってる。
だから———そう簡単にオトせるとは思わないでねっ!」
いたずらっぽい笑みを浮かべて言う。あぁ〜、私の
そろそろ気恥ずかしくなってきたので、バッと元の位置に戻り、彼の方に振り返る。
ふふ、顔真っ赤。かわいー! さて、これでなんとか引き分けには持っていけたかな?
夕陽を背に、彼に
「さぁ、じゃあまずは、帰り道にエスコートをお願いしようかな? 私の
ある夕焼けと、それに照らされる桜の花びらが美しい、実にありふれた日常の出来事だった。
———————————————————————
これは本来交わる筈のない世界。
異端の漂流者が降り立ち、物語を変革する。
それは希望か、絶望か。
その救済は、意味を変える
星
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