第1節 WHY!?
月曜日。学生にとって、それは基本的に学校が始まる日のことを意味する。
「ふんふふ〜ん、おっはよー! 週明けも張り切ってこー!」
だがしかーし! 私は違うのである!
なぜなら私はこの高校二年生というものを完了したことがないからである。
つまりこれまでの私の人生で見ても、ここから先は未知の領域ということだ。楽しみで仕方ない! 大体全部記憶してしまう私にとってそれはとても新鮮味あふれるものだからね!
「おはよう、リツカちゃん! 今日も元気いっぱいだね」
「それが取り柄ですから!」
「おはよう、リツカ。今日は遅刻しなかったわね」
「昨日は本当ギリギリだったよね。今日は起きられたんだ。いや〜昨日のダイナミックエントリーは見ものだったよ」
「そ、それが取り柄ですから!」
「開き直っちゃったわ」
「反省しなよ」
怒涛の口撃に撃沈させられる。ち、違うんよ……昨日のアレはレムレムなんよ……体質だから仕方ないのだよう。気合でどうにかなるけどYO……。
「ハハハ! まぁ、いいじゃねぇか! 普段朝早く学校来てんだから、たまにはゆっくり寝とけ!」
「そうだな、それにリツカの遅刻にも慣れたものさ」
「龍太郎くん……光輝くん……フォロー感謝」
ぐっ、とサムズアップで感謝を送信する。いや、光輝くんのはフォローの体をとったイジりなんじゃなかろうか。私実際に遅刻したことないよ! ファーストコンタクトの印象が強すぎるだけだよきっと! まぁ、あの後遅れてないから冗談めかして言ってるんだろうけど!
そんなこんなで今日も騒がしくも平凡な一日が始まる。
季節は桜の花も落ち、葉が緑に色づく五月の半ば。私たちは私たちなりに、この高校生活というものを楽しんでいた。
「よお、キモオタ! また徹夜でゲームか? どうせエロゲでもしてたんだろ?」
「うわっ、キモ〜。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん〜」
私たちが談笑してホームルームまでの時間をつぶしていると、一人の男子生徒が教室に入ってくるやいなや、クラスでも少々子悪党チックなグループの男子が絡みに行っていた。
侮辱するような暴言に私はちょっとだけむっ、となる。
「あっおはよう南雲くん! 今日も時間ギリギリだね。もっと早く来ようよ」
「あ、ああ、おはよう白崎さん」
だがゲラゲラと南雲くんを笑う彼らを華麗に無視して香織ちゃんが彼に挨拶をする。
しかし南雲くんの反応といえば
香織ちゃんと南雲くんも結構付き合いが長い方である。中学は違ったがお互い連絡を取り合ったりもしていたらしい。香織ちゃんは彼と高校が同じことをすごく喜んでいて、彼と一緒にいられるチャンスが増えてより親密になれるんじゃないかと期待していたのだ。
ただ、より身近になったことで別の問題もあった。香織ちゃんは雫ちゃんと並んで「学校の二大女神」と呼ばれて全校生徒から憧れるマドンナ的存在だ。一方、南雲くんは平々凡々を地でいく上に……その、結構寝てるから、あまりよく思われていないんだよねぇ。
そんな二人の間にある評価の差がこんなややこしい現状を生み出しているわけだ。
私もなんとかしたいと思ってるけど……これが中々厄介なもので、私も客観的に見て結構人気があると思うから私が何かすること自体が逆効果だし、彼らが直接手を出しているわけでもなく悪口ではあるけどそんなにハッキリしたものでもない。
ホント、どうしたもんかねー。
「南雲君。おはよう。今日も大変ね」
「おはよう、南雲。でも、もうチャイムまで数分しかないぞ。さすがにギリギリすぎるんじゃないか? もっと早く起きた方がいいぞ」
「全くだぜ、そんなやる気ないヤツにゃあ何を言っても無駄だと思うけどなぁ」
「言い過ぎだよ、龍太郎。もっと配慮してやって」
「あー、そうか。すまん。悪かったな、南雲」
「はは……、まぁ、自業自得とも言えるから仕方ないよ。おはよう、八重樫さん、天之河君、坂上君、中村さん」
まぁ、確かに彼が普通に授業受けてればこうはならないし、実際私もそういうことを彼にこっそりと言ったこともあるのだが、どうにもこだわりがあるらしくなぁなぁで流されてしまった。
彼の親友である清水くんに聞いたところだと、彼の座右の銘は「趣味の間に人生」らしく、本人的には進学せずに親の元で働くので学校は別に寝てていい場所、という認識のようだ。しかも弱ったことに彼としては真面目に人生送っているつもりなので直す気はサラサラ無いという頑固っぷりである。
まぁ、私も前の世界で高校中退してカルデアに行ったから
結果的にクラスでも目立つみんなが集中してしまい、余計に彼に突き刺さる視線が強くなる。みんなは普通に挨拶をしただけで、もちろん南雲くんにも誰にも別にやましいことなどないというのに。おはようの挨拶一つまともにできないというのはちょっと問題だろう。
「……ごめんね、みんな悪気はないんだ」
「分かってるよ。ありがとう、藤丸さん」
私が小声で告げた謝罪を、彼は肩をすくめて苦笑しながらそう言った。うーん、本当に優しくていい男の子なんだけどなぁ。ままならないものだ。
私は彼と香織ちゃんが出会った場面に居合わせているので、なんとかくっつけてあげたいのだが……道のりは長そうだね。
そうこうしているうちに朝一番のチャイムが鳴り、クラスのみんなが一斉にガタガタと慌ただしく席に着く。私も急いで自分の席に着き、その瞬間先生が教室に入ってきて、朝の連絡事項を伝え始める。
ふと南雲くんの方に目を向ければ、ホームルームが始まった直後なのにもう机に突っ伏している。うん、あれは完全に寝てるね。私も最近はそんなにないが、以前は
先生は
その他の反応を見てみれば、彼にぞっこんの香織ちゃんは微笑みながら見つめていて、ややダメンズに惹かれる傾向があるのではと思っている雫ちゃんはやれやれといった表情で苦笑いをしている。雫ちゃん、順調に君のオカン化が進行してるよ……。
恵里ちゃんはまぁ……最近の席替えで光輝くんの真後ろの席になったため南雲くんのことは眼中に無い様子で、目の前の光輝くんの背中をニマニマと見つめている。こちらも清姫化が凄まじい勢いで進行している……。光輝くん、燃やされないように気をつけてね。
こんな風に、少し変な雰囲気のこのクラスをどうやって良くしていけるのかで頭を悩ませることが最近の日課になってきている。
私は小さく溜め息を吐き、今後のこのクラスが少しでも仲が良いクラスになりますように、と現代では世界の裏側にでも消えてしまった神さまにお祈りしてみた。
「いやっほーい! おっべんとだぁーっ!」
「またこの子は……。ほら、お昼ぐらいでそんなにはしゃがないの!」
「何言ってんのさ雫ちゃん! 健全な女子高生たるもの、学校にはおべんと食べに来てるようなもんですぞ!?」
「ハイハイ、わかったからこっち来て早く
おべんとたべるのポーズをする私に、別にお弁当食べるために学校来てる
「……なんか失礼なこと考えてるでしょ」
「イエイエー、ナンデモアリマセンヨー?」
「はぁ……。まぁいいわ。リツカがテンション高いのはいつものことだし」
失礼な。私は結構落ち着きがある方の淑女ですぞ!
と、コントはここまでにして大人しく席に着いてお弁当を食べ始める。みんなが微笑ましく見守ってくれているので万々歳だ。
え? 幼稚園児を見ているような視線だった? ははは、まぁこれで空気もいい感じに
いやーこれで私も恥を
「南雲くん。珍しいね、教室にいるの。お弁当? よかったら一緒にどう?」
早速無駄になった模様ッ! はは……まぁ、別にいいけどね……気にしてなんていないけどね……ごめん、やっぱちょっと
しかし、確かに珍しいな。南雲くんってば昼休みになるといつもすぐに教室から消えてるし。それに香織ちゃんはずっと彼と一緒にお昼食べるの狙ってただろうから、言われてみればこれを逃す手は無いね。
きっとすごく緊張しただろうし、勇気を振り絞って言ったんだろうなぁ。うーん、
「あ〜、誘ってくれてありがとう、白崎さん。でも、もう食べ終わったから藤丸さん達とたべたらどうかな?」
しかし、これまたおいそれと
……あれ? ちょっ、ちょっと待ったっ!
「えっ! お昼それだけなの? ダメだよ、ちゃんと食べないと! 私のお弁当、分けてあげるね!」
そう! それだよ! え、もしかして南雲くんお昼いつもそんなん一袋で
いや、まさかそんな、毎食ウ⚪︎ダーinゼリーだなんてそんなわけが……あるな。南雲くんなら余裕でありうるわ。
これにはさすがの私も突撃せざるを得ない。
「ねぇ、南雲くん……もしかして、お昼は毎食それだったりします……?」
「えっ!? 藤丸さん!? う、うーん、そう聞かれると『はい』と答えなければ嘘になるかもしれなくもなくもないカナ……」
「家でも……?」
「い、家では、母さんの仕事が立て込んでない時はちゃんと食べてる……よ?」
「ほほう……?」
それは、お医者さん志望の私にとって聞き捨てなりませんなァ?
「南雲くん!」
「は、はい!」
「いいかい? 君が愛飲してるそれだけどね、別に時々食べるぐらいなら全然問題無いんだよ。でもさ……毎食ってなってくると話は変わるよね……?」
「は、はい……?」
「変わるのです! まずカロリー量だけどね、一般的手作りお弁当の半分を大きく下回ってるのさ! 具体的には約320キロカロリーも低いんだよ? 加えてエネルギーのウイ⚪︎ーinゼリーに含まれる栄養素は炭水化物とビタミンぐらいで、他の人体に欠かせない栄養素のタンパク質と必須脂肪酸が摂れないんだ。それが足りなくなると肝機能とか低下して糖尿病になりやすくなったり、動脈硬化起きたり、肌とか爪とか荒れやすくなるんだからね! 栄養失調ってマジ
「イ、イエス、オフコース……」
ふう、いかんいかん……ついついアラブってしまった……。でもちゃんと栄養摂るのはほんと大事だからこれから真剣に気をつけてくれることを願うよ。
いやぁしかし、目立っちゃったなぁ。どうしたもんかね? この静まり返った教室の空気……よし!
「雫ちゃん! なんとかして!」
「えっ!? 私!? この流れと雰囲気で私に振るの!?」
取り敢えずわちゃわちゃと騒いでおこう。
「はぁ……すまない、南雲。リツカはああ見えて食事には結構うるさくてね」
「あ、天之河君……いや、大丈夫だよ。僕のことを心配して言ってくれたのは何となく分かったし……」
「……そうだな。リツカは何故か、君には特に心を開いているように見えるよ」
「え……?」
荒ぶる雫ちゃんをどうどうと
「ッ……!?」
突然、光輝くんの足元に
間違いなく———何らかの大魔術を発動するための大規模術式!
魔法陣は輝きを増し、急速にその面積が教室いっぱいになるまで広がっていく。こんな大規模な魔術を公然で使うとか……神秘の
「みんな! 早く教室から出てッ!!」
私は金縛りにあったかのように固まるクラスメイトたちに大声で呼びかける。
かく言う私も、まさかこんな大衆の目前で魔術が行使されるとは思っておらず、油断を突かれて冷静な判断ができなかった。この教室で唯一魔術に精通している私なら、魔法陣の無効化ができた可能性だってあったのに。
だが、時すでに遅し。
魔法陣の光がついに教室全体を埋め尽くし、私の意識は
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「リツカ! 起きて、リツカ!」
「う……」
脳みそがズキズキと締め付けられるような痛みで目が覚める。どうやら気絶していたらしく、私は直前まで近くにいた雫ちゃんに
不覚だ。一番状況を理解できるはずの魔術関係者である私が真っ先に意識を取り戻せないなど。これではクラスの混乱を
「……な、ここ、は……?」
取り敢えず状況を確認しようと
まず目に入るのは巨大で美しい、壁一面に描かれた壁画。腕を大きく広げる金髪の中性的な人型が、雄大な自然を表した背景を包み込むように描かれている。
私は、それを何の確証もなく『神』だと直感的に感じ取った。
私たちがいるこの空間は広いドーム状になっているようで、大理石のような美しい
まさに「大聖堂」と呼ぶに
あまりの光景に息を
「良かった……ちゃんと目が覚めたのね、リツカ。本当に……本当に、良かった……」
目尻に涙を
しかもよく見ると目が覚めてなかったのは私だけみたいだったから、余計に心配をかけてしまったのだろう。私が一番しっかりしなきゃいけない状況なのに、なんとも不甲斐ないことだ。
「大丈夫だよ、雫ちゃん。この通り元気ハツラツさ! 介抱してくれてありがとね、助かった!」
「……ふふ、そうね、どういたしまして。貴女が変わらず元気で安心したわ」
やった、ちょっと笑ってくれた。笑顔は前に進む原動力だ。これから大変なことになりそうなんだし、いつまでもしょげてたら身がもたないからね。少しでも気が楽になってくれれば万々歳である。
改めて周囲を見回すと、私たちがいる場所は祭壇のようで、この空間の中でも少々高い位置にあった。
そして何より注視すべきものは、その私たちが座り込んでいるであろうこの祭壇をぐるっと円状に取り囲んでいる教会の法衣らしき、純白の豪奢な衣服を身に纏った、おそらくこの超規模儀礼魔術を
特にそのリーダーと思わしき、
好々爺然とした笑顔を浮かべ、親しみやすそうな雰囲気を漂わせているが、内に秘めている覇気……いや、これは狂気か。狂気が漏れ出ているようで、少々の威圧感を感じる。
一目見て、私が何度も関わってきたような人物だと推測を立てる。具体的には、ロンドン時計塔に巣食っている食わせ者どものような性格だろうと。
見た感じ私たちに敵意があるわけではなく、
この世に本当に信頼のおける魔術師など、ほんの一握りであるが故に。
私の警戒する視線に気付いたのか、老爺は一度こちらに目を向けてにっこり微笑んだ後、手に持った
「ようこそ、トータスへ。ゆうしゃさま、そしてごどうほうのみなさま。かんげいいたしますぞ。わたしは、せいきょうきょうかいにてきょうこうのちいについておりますいしゅたる・らんごばるどともうすもの。いご、よろしくおねがいいたしますぞ」
「……」
やっと転移できた……長かったぁ……
ちなみに作者は別にウイダ⚪︎inゼリーのアンチではありません。むしろ大変お世話になっております。そこは分かっていただきたい。