まぁ、そんな感想も量産型レジライとリンボマンに全部持ってかれたんだけどね!
無事に話し合いを終えた私たちは再度イシュタルさんにお会いした後、私たちの身柄を保証してくれる王宮に行って王様へ挨拶することになった。
王様かぁ……賢王さまや騎士王ほどではなくていいから、少なくともちゃんと会話が成立する人格だといいなぁ……。間違っても英雄王や太陽王みたいなお気に召さなかったら即処すタイプはやめてほしい。いや、そんなタイプだったらわざわざ異世界召喚に頼ることもないよね。自分でなんとかしそうだし。
そうすると一番気をつけなきゃダメなのはどうしようもない愚王ってパターンだけど、さすがに世界の命運を背負う人間である以上その可能性は低い。
普通に優秀な腹黒タイプだったら……まぁ、そっちの方がわかりやすくていいよね。
私が王がどんな人か問題を考えていると、どうやら聖堂の出口に着いたらしく、正面門から差す陽の光が目に染み渡る。
右手を目の上に
元の世界では中々肉眼で見ることはできないその圧倒的な大自然の美しさに、生徒達はしばらく声を出すのも忘れ見入ってしまう。
だが、私はその間別のことに気を取られていた。
「う、えっ……」
というより、えづいていた。
「ちょっ……! 大丈夫リツカ!?」
「あー、うん大丈夫大丈夫。もうおさまったから……」
やー、びっくりしたわ。リバース寸前でした。
なぜ私は吐きそうになってたのかって? まぁ、
あ、もちろん乗り物酔いじゃないよ? 魔力酔いってやつ。つい数時間前まで魔力がうっっすい地球にいたからねー、こっちの普通に魔術が普及してるっぽい世界の濃い魔力との差で一瞬ヤバかったのだ。なんの魔術礼装も着てないから負荷がモロにきただけなので、慣れてしまえば本当に問題はない。
ただ、それでも少し驚きだ。文明としては中世レベル……西暦から結構経ったぐらいだと思ったのに、大気中のマナは神代の数十歩手前ぐらいにはある。話には聞いてたから覚悟はしてたけど、地球の魔術を少しかじっている魔術使いとしては中々に異質に感じてしまう。
おそらく世界における法則が一部違っているのだろう。まさに『異世界』ってことだ。
その後イシュタルさんは私たちを円形のドデカい台座に乗せて詠唱を行ない、なんとその台座を浮かしてリフトのように山を下降し始めた。
この世界に来てから初めて見る魔術に、私もクラスメイトも目をかっぴらいてすげぇ……ってなる。
私の場合は「やべぇ」って感想の方が近いけど。だってこんな大規模な魔術なのに詠唱短すぎるんだもん。なんで二節詠唱でこんなことできんの? 改めてギャップ感じさせられるわ……。感じたのついさっきだけど。
これはますます、マジモンの神様がいらっしゃる可能性が高くなってきたな。
私は経験上、今後確実に待ち構えているだろう厄介事の気配に心の底から「どうしてこうなった……」という溜め息を吐いた。
王宮に着くと、私たちは言われていた通り真っ直ぐに玉座の間に案内された。なんかあったら嫌なので途中の道筋は一応脳内に記録しておいた。
しかし、その道中で王宮の騎士さんやら文官さんやらメイドさんやらとすれ違ったのだが、みんな一様に期待と希望に満ち満ちた目で私たちを見てきたのが私的にはひっじょ〜に違和感がすごかった。
思い返してみれば、私って世界を2回も救ってんのにあんましこういう勇者じみた扱いを元の私がいた世界でされたことないんだよなー。別にされたいわけでもないからいいんだけどさ。
もちろん一度もなかったということはないんだけど、それ大体特異点とか異聞帯の味方になってくれた人たちからだったし。結局はみんな綺麗さっぱり忘れるか、私自身が滅ぼすかしてきたからそういう感覚沸かないのよね。
そんな
私が今まで見てきた王たちへの対応とすれば赤点即刻打首獄門間違いなしの不遜不敬なのだが、なんと王は玉座から立ち上がって待っていた。それどころか教皇が手を差し出すと王は軽く触れない程度のキスをしたではないか。
マジで教会が王権を遥かに
こりゃー厄介だなぁ。宗教の力ほんと強いから若干トラウマなんだよね……。セイレムとか怖すぎたわ。人間の根本に根ざした価値観の一つでもあるから、制御がかなりデリケートなのだ。
その後の自己紹介で国王はエリヒド・S・B・ハイリヒといい、その傍らに控えていた3人はそれぞれ王妃ルルアリア、王女リリアーナ、王子ランデルだそうだ。まだ正確にはわからないけど、見た感じみなさんいい人そうだし、人柄に関してはあまり心配する必要はなさそうだった。
それから騎士団長や宰相などの要職に就いている人たちの紹介もあって、それぞれ一癖も二癖もありそうな曲者の雰囲気を漂わせていた。特に騎士団長はかなり強そうだね。オーラがここまでビンビンに伝わってくるもん。
そしてそのまま私たちは親睦を深めるためということで、晩餐会に参加することになった。立食形式のパーティーで、この世界でもさぞかし高級なのだろうと思われる王宮料理の数々が所狭しと並べられた。
なんか頭にショッキングがつくレベルにピンク色なソースがかかってたり、虹色に発光する飲み物とか出てきたけど。あ、ちなみに非常に美味しゅうござんした。
このパーティーは異世界語がわからない私にとって、またとないチャンスだった。有力者の
いっぱい話している人がいるし、こういう場は感情が表に出てきやすいから、言葉がわからなくてもある程度言いたいことはわかるし、さらに完璧に翻訳してくれる人もいる。
つまり、
私はこのままでは確実にお荷物だ。雫ちゃんにずっと付きっきりになってもらうわけにもいかないし、せめて一人でも会話できるようにならなければ。
だから……
そんな風に決意しながら美味そうな匂いにつられて若干トランス状態でふらふら歩いていた私だが、そんなことをしていれば当然結構人がいるこの場所で人にぶつからないわけがなく。
「きゃっ!」
「うわっ! あ"っ! す、すいません大丈夫ですか……ってなんて発音したらいいんですか雫サンっ!?」
「落ち着いてリツカ。語尾おかしくなってるから」
びっくりするほど間抜けなミスにマジでびっくりして今めちゃくちゃパニクって必死に雫ちゃんにヘルプミーする。
さっきの迷惑かけない宣言はお空の彼方にフライアウェイしてしまったようだ。ほんと情けねぇ。
しかも私がぶつかったのは金髪碧眼の美少女……王女であるリリアーナ姫だったのだから尚更だ。とりあえず純正日本人らしく条件反射でペコペコ頭を下げて謝罪の意を表明する。癖ついててよかった。
「もうしわけありません、ひめさま。このこもわるぎがあったわけでは……」
「いえいえ、いいんですよ。わたしもよくまえをみていなかったので……。ここはおあいこということにしましょう。
あっ、あとわたしにはむりしてけいごをつかわなくてもかまいませんよ。みなさんとはこれからもながいつきあいになるでしょうし、もっときらくにせっしていただければ」
「そう? それならえんりょなく。わたしたちもかたくるしいのはなれてないから、そういってくれるとたすかるわ。
大丈夫、気にしてないって言ってるわ。リツカ」
「そっかぁ、大丈夫かぁ、なら良かったぁ」
私の言語野は全然大丈夫じゃないけどね!
くっ、ちょっとずつわかってきたと思ったのに! 今の会話の後半全くわかんなかった! 自信が折れる! なんとかしなければ!
そんなことがあったが鬱な気分はコンマ1秒で綺麗さっぱり忘れてしまえるこの私。
結局は雫ちゃんの翻訳もあり、リリアーナ姫……もとい、リリィとはすっかり意気投合して、彼女おすすめの料理に一緒に舌鼓を打ちながら、無事交流を深められたのでした。しゃおらっ! 一歩前進した気分!
ちなみに王宮では衣食住の保証がされている旨と、訓練における教官のみなさんの紹介もそこで行われた。教官たちは現役の騎士や宮廷魔術師から選ばれたようで、興味深い話もたくさん聞けた。
しかし、やっぱり翻訳通してだと細かいニュアンスがわかりにくいので、正確な情報収集がやりにくい。
図書館の場所もさっき聞けた。
というわけで、今日はオールナイトフィーバーだぜ〜! 南無三!
深夜。
晩餐が終わった後、私たちは各自一人ずつに用意された個室に案内された。天蓋付きの大きなベッドが備え付けられた豪奢な部屋にはみんな驚いていた。
私はカルデア王様ーズが勝手に開拓した部屋を見たことがあるからそこまで驚きはしなかった。なんであの人たち乱暴なのに建築の天才なんだろうね。
そんな私は今、王宮内の王立図書館の机の一つを占領してこの世界の辞書や語学に関しての文献を片っ端から捲っては目を通し、
これでもう35冊目だ。単語さえ覚えればなんとかなるだろと思っていたのだが、認識が甘かった。
まず音が大体わかっていても文字が読めないことに図書館に来て気付き、大慌てで雫ちゃんから司書さんに話しを繋いでもらってこの世界のアルファベット的なことから覚え始めた。
また、そもそもの文法が違いすぎて、単語がわかっても文章を読み取れないこともあった。
しかもここは王立の図書館である。高尚でまわりくどい上にそもそも基本文法が載ってる文献があまりにもなさすぎて無駄な時間をだいぶ過ごした。
おかげでもうこんな時間である。司書さんには無理を言って土下座して今晩中だけでもここにいさせてくれと頼み込まなきゃならなかった。怒髪天を突く司書さんの怖いこと怖いこと。
「ふぅーーーっ」
つーわけで、すごい疲れた。眠い。
今日はかなり色々なことがあって、急展開の連続に流石の私もちょっちキツい。特にあれこれ考えなきゃいけないのが結構辛い。
元々が現場気質なので陣頭指揮とかには小慣れてても、集団の今後の方針を決めたりなどのトップに立って指揮管制を執るのは中々無かった。
柄にもないことを余計に考えまくってもうヘトヘトだ。ゴッさんは凄かったんだなぁ。
でも、弱音ばっか言ってられない。現状私が一番今頑張らなきゃいけないんだから。
「がんばれ私! 睡魔に負けんな! よし!
さーて、じゃあお次はこのクソ分厚い辞書でも片っ端から……」
「勉強熱心なんですね、リツカ」
「どふぉーう!?」
うぉあ!? やっべ、びっくりしすぎて変な叫び声出たわ。
いや、こんな真夜中のとっくに閉まった図書館で自分以外の人に突然声かけられるのって普通にびびるよ。だから私は悪くないのだ。一体誰に言い訳してるんだ?
って、いかんいかん。ちょっとトリップしてた。
「あっ、だ、大丈夫ですか!? すみません、先にお声がけしなければ驚かせてしまいますよね!? 申し訳ありません!」
「あー、いいよいいよ、全然。慣れてるから。……いや、ほんとドッキリには慣れてるから」
ほんと……慣れてますから……ハハ……。
というジョークは置いときまして、私に話しかけてきたのはまさかのリリアーナ姫ことリリィだった。こんな夜更けの図書館でら聞こえる筈のない声だったのでめちゃくちゃ驚いたのだ。
「実は先程、偶然ですがここの司書にお会いしまして。とても熱心に勉強していると聞いたのです」
「あー……だからここに私がいるってわかったんだ。
あれ? でも、どうしてこの時間に起きてるの? もう外真っ暗だけど」
司書さん帰ったのだいぶ前だし、それを聞いたのも結構前の筈だ。
「あはは……お恥ずかしいことに、目が冴えてしまいまして。城内を散歩してたんです。この宮殿から見る景色はとても綺麗ですから」
「ははぁ、なるほどね。そこで散歩してたら明かりを見つけてここに来たと」
「はい。その通りです」
そう言ってリリィは恥ずかしそうにはにかんだ。丁寧な物腰だけど、意外とお茶目な性格が素なのかもしれないね。かわいい。
そんな風に私が勉強の疲れを癒やしていると、リリィがなにやら不思議そうに見つめてきた。
「? どうしたの?」
「あ、いえ……。ちゃんと話してくれて嬉しかったんです。さっきはあんまりお話出来ませんでしたから……」
「あー……あの時はホラ、私言葉わかんなかったからさー。話したくても無理だったんだよねぇ。心配してくれてありがと、リリィ」
「ふふ、どういたしまして。
それにしても、言葉がわからなかった……とは? 雫や他の皆さんはトータスの言葉を話していたような……」
「えっとねー、なんか私だけわからないみたいでさ。だからこうして勉強してたんだ。いつまでも足引っ張ってらんないからね」
「なるほど、それでこんなに夜遅くまで調べていたんですね」
「そゆこと!」
うん、ちゃんと話せてるっぽいね。伝わってて良かったよ。なんせ、
「でも……どうやって話せるようになったんですか? 一朝一夕にはいかないですよね?」
「単純に暗記したんだよ。私は記憶力……いや、記録力が取り柄でね。とりあえず片っ端から、この世界の言葉の音と文字と単語と文法と意味を脳に刻み込みまくったんだ」
「それは……すごいですね。もしかして、あなた方の世界の魔法なのですか?」
「うーん、まぁ似たようなもんかな」
正確には私の起源を魔術理論でコントロールしてそれっぽく魔術に仕立て上げただけのものだ。
『
私の起源である『白紙』の性質を応用し、自分の目と耳で取り入れた情報を私という
これを使えば、私は一度刻み込んだ情報を自然に忘れることはほぼ無いし、ノータイムでパッと記憶することができる。
それどころかこの魔術理論の性質上、存在に情報を入力しているので、あたかも以前からその知識を保有していたかのような熟練度も得られるのだ。
これによって私は時計塔でも早くから『
ただまぁ、当然メリットばかりではなく。情報を入力する
「それは……辛く、ないのですか?」
「辛いよ?」
なんせ自分の記憶だ。私が私として生きてきた証。
それを捨てるということは、積み重ねてきた人生の重みを捨て去ることと同義。数多の英霊と絆を結び、記憶の大切さを知った私にとって、これを使うというのは、自分の行為だからこそ安易に許せるものではない。
ゆえに、使う時は余程の非常事態に限られる。
そして、今がその時だ。
私はカルデアで多くの突発的な緊急事態に遭遇してきた。つまり、他の生徒たちよりもこういう状況には慣れている。
今は最も経験豊かな私が、一番冷静に正確に物事を判断しなければならない。さもなくば、きっと取り返しのつかないことが容易に起こる。
「でも、辛くてもやらないと。だって、これが私の
「……!」
弱音なんて吐いている暇は無い。ここにはドクターもダ・ヴィンチちゃんもホームズもシオンもゴルドルフ司令官もいないんだから。
舵取りは、私の最大の役目だ。
これを果たせず、もし自分たちの中に一人でも犠牲者が出たら……私は自分を許せない。ならば、死に物狂いでやるべきことをやるだけだ。
「恨んで……いますよね」
「え……?」
そうやって改めて決意を確かめていると、不意にリリィがか細い声で話しかけてきた。
「……これは私達の世界の問題です。それならば、私達だけで解決すべきなのに。無関係のあなた達を巻き込んだ。……あまつさえ、死の危険のある戦場に出てもらうのを期待している。辛く苦しい思いをさせてしまっている。その上帰る保証も無いのです。恨まれたって文句は言えません。寧ろ、文句を言ってほしいぐらいなのに」
「……」
短い間しか接していないが、彼女の
優しい良い人だ。責任感があり、誠実に向き合ってくれて、真面目で穏やか。そして清濁を
そんな彼女だからこそ、自分ではどうにもならないことだったとしても、責任を感じないわけにはいかないのだろう。
正直私もその気持ちはよくわかる。そんなこと、口が裂けても言えないけどね。
「正直、思うところが無いわけじゃないよ」
「……そうですよね。尤もだと思います」
「だけどさ、人生ってままならないことばっかだからね。私はこの状況も事故に遭ったようなもんだって思ってるよ」
経験論である。人生の半分以上を偶然で命の危機になって偶然で命を助けられてきた私が言うのだ。間違いは無いだろう。
禍福は糾える縄の如しだ。災いが転じて幸運になることも結構ある。
巻き込まれるのは仕方ない。ただの運だ。そこからどう巻き返していくのかで運命というものは変わってくる。
「だからまぁ、ことさら恨んでるってことはないかな。少なくとも私はね。大体、生きるために苦労するなんて、どの世界でも変わらんさ」
「そう、ですか……」
まぁ、真面目な彼女はこんなこと聞いても納得しないよね。結局は納得の問題だもん。自分の気が済まなきゃこういうのは意味がない。
「じゃあさ、お詫びってわけじゃないけど、私の勉強手伝ってくれる?」
「え?」
「いやー、いくら暗記が得意って言ったって、一人で勉強はキツいからね〜。道連れがいてくれると気が楽だなってさ」
リリィはいきなりのことで、きょとんとしている。ふっふっふ、こういう時はそんな暗いことばっか考えていても馬鹿を見るものなのだ。
だったら他のことに集中した方がよっぽどいい。
そんな私の思いを察したのか、リリィも上品に微笑んで返事をしてくれた。
「ふふ……そうですね。ごめんなさい、辛気臭い話を聞かせてしまいました。
では、私が責任を持ってご指導させて頂きますね。
……これからもよろしくお願いします、リツカ」
「うん、こちらこそよろしくね。リリィ!」
こうして異世界の王女様と言葉を交わし合いながら、私の異世界生活1日目の夜は明けていったのでした。