ありふれた元マスターでクラス最弱   作:抹茶れもん

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 長らくお待たせしてしまい申し訳ない。今後の展開の擦り合わせとかがあってちょっと詰まっておりました。本当はもう1エピソードほど挟んでおきたかったんですが思いつかなかったんです。
 また間が空くのも嫌ですし、モチベ維持のためにも短いですが投稿しちゃいます。ほんとごめんね!



第6節 イヴ

 早朝、訓練場にて。

 私と雫ちゃんによる模擬戦が繰り広げられていた。

 

「八重樫流——断空!!」

 

「とわっ!?」

 

 鋭い剣閃が私の目の前を薙ぎ払う。

 咄嗟に体重を後ろにかけておいたので助かった。安全を考慮して木刀を使っているとはいえ、頭をカッ飛ばされるのはごめん(こうむ)りたいところだ。

 痛いのはキライです!

 

「〝(ケン)〟」

 

「ッ!」

 

 宙空に魔力で文字を書き、発動させるのは炎のルーン。

 至近距離で発生した熱に一瞬怯んだ隙を突いて距離を取る。

 

「はぁっ!!」

 

 だが対する雫ちゃんも伊達ではない。飛び退いた私を力強い踏み込みで猛追する。

 私はさらに彼女の踏み込み一歩分の距離後ろに下がり、今度は踏み込みの姿勢をとって待ち構える。

 

 そして雫ちゃんがさっき私のいた場所を踏みしめた刹那。

 

「〝TH(ソーン)〟」

 

「きゃっ!?」

 

 足下から(いばら)が伸びて絡みつく。雫ちゃんは突撃の勢いもあり、思いっきりつんのめった。

 瞬間、私は震脚て勢いをつけた滑歩で懐に潜り込み渾身の掌底を叩き込む。

 

「シッ!」

 

「がはっ!!」

 

 掌底は突きよりも(けい)を相手の体内に伝えやすいため、フィジカルが上の相手には効果的だ。

 ろくに拳も振るえない距離こそが八極の間合い。

 そのまま(あご)をかち上げるように肘鉄を放ちながら足を股下に差し込む。

 

「くっ……!」

 

 雫ちゃんは流石の動体視力で私の肘撃(ちゅうげき)を首を捻って回避するが、足下から意識が逸れている。

 なので足を引き戻すように膝裏を蹴り込み、膝カックンの容量で体勢を崩させると同時に背中を向けて体を捻り、体当たりを繰り出す。

 

「ふんッ!!」

 

「あぐッ!」

 

 鉄山靠(てつざんこう)と呼ばれる代表的な八極拳の技だ。相手のバランスを崩すのに最適で私も書文先生から教わって以来愛用している。

 よろめいて地面に倒れる寸前の雫ちゃんに向かってトドメに拳を振り下ろす。

 

「〝縮地〟!!」

 

「! まじかっ」

 

 拳が鼻先に当たるその寸前、雫ちゃんが〝技能〟を使って掻き消えた。

 雫ちゃんの得意とする技能は〝縮地〟という特殊な高速歩法。私の動体視力では目で追うのがやっとのそれが土壇場で繰り出され、私は一瞬姿を見失う。

 しかし〝縮地〟は扱いが難しく、体捌きがなっていないとたちまちすっ転ぶシロモノだったはず。不安定な体勢で使用したならそれはそれで隙が生じて———

 

「へっ?」

 

 位置を探るべく振り向いた視界のすぐ目の前に、既に雫ちゃんは肉薄していた。

 

「もらったぁッッッ!!!」

 

「あ、ちょっ」

 

 そして〝縮地〟の勢いそのままに、木刀が私の脳天に叩き落とされた。

 

 

 

 

 

「うごごぉおおうぉおうゥぅ……!」

 

「ご、ごめんなさいリツカ! つい気合い入っちゃって……!」

 

「い、いいってことよ……」

 

 ただ思いっきり唐竹割りするのは今後控えてほしいなー、って。脳みそシェイクされたかと思ったわというか確実にシェイクマイブレインだったわ。あ"ぁ〜、いぃってぇぇ〜〜〜っ!!

 

「『天の息吹、満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん——〝天恵〟』」

 

「おっ?」

 

 そうやって頭を抱えていると、鈴を転がすような声音が訓練場に響き私の頭から徐々に痛みが引いていった。

 

「ありがと、香織ちゃん」

 

「うん、どういたしまして。でもあんまり無理しちゃダメだよ二人とも」

 

「ハハハ……」

 

「面目ないわ……」

 

 回復魔法をかけてくれたのは先程から隅っこで観戦していた香織ちゃんだ。念のため回復のスペシャリストである彼女にも同席してもらっていた。

 私たちはこうして早朝に自主訓練をしている。私もたまに調べ物に飽きたら気分転換がてら参加させてもらっているわけだ。

 

「でも、やっぱりリツカは強いわね。新技を使わなきゃ危なかったわよ」

 

「新技ってあの急に目の前に現れたヤツ?」

 

「そ。〝重縮地〟って言うの。縮地をしている間にさらに縮地を重ねて方向転換する技」

 

「うへぇ〜、体幹キツそう」

 

「本当よ。ぶっつけ本番だったおかげで腰が今も引き()ってるわ」

 

 ぶっつけ本番であれだけ完璧に決められるのすごいなぁ。私だったら絶対無理だわ。これが才能の違いなのかね。

 

「私も結構良いところまでいったと思ったんだけどなぁー。やっぱ技能が無いのがキツいな。私もド派手な魔術とか高速移動とか使ってみたい!」

 

「よく言うわよ。私としては技能無しでここまでやれるのが驚きなんだけど。というかさっき使ってたあの魔法なに? 見覚えがないんだけど」

 

「地球にも若干神秘は残ってるってことさ」

 

「つまり地球産魔法ってこと……? リツカちゃんなんでそんなの使えるの?」

 

「黙秘権を行使させていただきまーす」

 

 神秘は口外しないのが魔術師としての絶対のルールなので。私は正確には魔術使いなんですけどね。

 こんな状況だから使えることは知らせておかないとだけど、仕組みとかは教えても仕方のないことなので黙っておこうと思ったのだ。帰ってからのことも考えると、お互いのために線引きは重要だからね。

 

「……それ、私にも使えたりする?」

 

 と、香織ちゃんが興味深そうに聞いてきた。彼女は魔術関係の鍛錬に一際(ひときわ)熱心だから気になったのだろう。

 

「無理だと思うよー。こっちの魔術とは体系が違いすぎるし、そもそもこっち原産の技能とかじゃないから一朝一夕で身につけるのは難しいだろうね。

 何より使おうとしたら多分……いや、絶対死ぬよ」

 

「絶対死ぬの!?」

 

「絶対死ぬね」

 

 香織ちゃんはぎょっと驚く。まぁこっちの世界の魔術って才能ある人が普通に使うだけなら特に命の危険とか無いもんね。

 けど地球の魔術はちょっと毛色が違う。最大の違いは魔術回路を開く必要がある点。これが最初にして最大の関門なのだ。

 

 魔術師が最初にする覚悟は、死を受け入れること。

 

 自分の死、使い魔の死、そして他者の死。それらが奪われる覚悟を持って初めて一人の魔術師として最初の一歩を踏み出すのだ。生半(なまなか)な興味だけで門戸を開かせるのは双方にとって無責任と言える。

 

 それにそもそも私ってば魔術回路開く儀式できないんだよね。後継とか作る気一切無かったから記録し(メモっ)てないんだなぁこれが。無駄に容量食うし。

 そんな素人が人体に神経みたいに張り巡らされてる回路開こうとしてみなさいよ。確実にどっかでミスってそのまま死ぬと思うんだな。命を預かる立場としては到底容認できません!

 

 しかも世代を重ねないと碌な魔術使えないしね。リスクとリターンが全然見合ってないよ。

 

「ま、理由は色々あるけどね。とりあえず無理ってことだけわかっといてよ」

 

「うん。リツカちゃんがそう言うなら」

 

 何も気にした風もなく微笑む香織ちゃん。あ〜、ほんと素直で良い子ですわぁ。やっぱモテる女子は違うっすね。まぁたまに信じられないくらい頑固になる時あるけど、それはほら、「そこに触れたら戦争じゃあ!」ってとこは誰しも少なからず持ってるわけですし。

 

「んじゃ、ちょっと早いけど私はこれで上がるね。南雲くんの進捗も見て来なきゃだし」

 

「わかったわ。お疲れ様、リツカ」

 

「お疲れ、リツカちゃん」

 

「うい〜、お疲れさま〜!」

 

 こうして、私たちはそれぞれに新しく始まった異世界での生活にだんだんと慣れ始めてきていた。

 

 

 

 

 

 今後の方針が決定されたことで、私たちは本格的にこの世界での活動を開始した。

 

 その手始めとしてまず戦闘系の技能や天職を持つ戦闘班とそれらを持たない支援班の区分けをおこなった。と言ってもほぼ全員戦闘職だったため、支援系のグループは私を含めて南雲くんと愛ちゃん先生の三名のみだ。

 指揮系統は戦闘班と支援班のリーダーがそれぞれ同等の権限を持ち、両者の合意を持って最終的な意思決定を行う手筈になっている。

 戦闘班に関しては人数が多いからそれぞれ5〜6人でまた班を作ってもらい、それぞれのリーダーは全体のリーダーを支える幹部役職と同等という扱いになっている。

 

 ちなみにその二つの班のリーダーは私と光輝くん。戦闘班の幹部にはリーダー補佐の雫ちゃん、参謀の恵里ちゃんにやってもらうことにした。二人とも頭の回転が早いのでサポート向きだと思ったからだ。

 

 戦闘班はさっき雫ちゃんがやっていたような戦闘訓練を行っていて、レベルアップというものを経験した人もそれなりに出てきた。クラスメイトが目に見えるほどメキメキと身体能力が向上させていくのを側から見ていると、なんとも言い知れぬ不安感を覚えるものだ。

 私の場合は結構頑張って訓練してみたけど変わりはないっぽい。やはり私という存在にこの世界の法則が上手く機能していないということだろう。

 

 そして支援班の仕事は彼らのサポートや手の回らないこと全部だ。南雲くんは武器開発、愛ちゃん先生は技能を活かして兵站に革命を起こしている。南雲くんが創る拳銃もだんだんと様になってきており、最近ではガトリングとか対物狙撃銃の構造を知りたいとねだられた。

 私もそこまでは……と言いたい所だったのだが、あいにくカルデア時代にコヤンスカヤにめちゃくちゃ売り込まれていて覚えていたので、一応だけど設計図は渡しておいた。危険すぎるから本当は渡したくなかったけど、まぁかなり複雑な構造だから今すぐには大丈夫でしょ。ちゃんと念は押しておいたし。

 

 そんな風につらつらとここ1週間程の成果を反芻しながら城の窓際の廊下を歩いていると、奥の通路から何やら人影が出てきた。

 

「あっ、恵里ちゃん」

 

「! リツカ!?」

 

「へ?」

 

 それはぎょっと目を見開いて驚く恵里ちゃんだった。しかし、確かにいきなりの遭遇だけどそんなに驚くことあるだろうか?

 

「あ……えっと、リツカはなんでここに?」

 

「なんとなく景色を見ながら歩きたくなったから、かな」

 

「そっか」

 

 なんだかギクシャクしながら話は進む。

 

 違和感。

 

 彼女に何かあったんだろうか。

 

「ねぇ恵里ちゃん。なんか悩み事があるんだったら……」

 

「リツカが気にすることじゃないよ。

 あっそういえばもうそろそろ朝食だよね。私、支度があるから部屋に戻るよ。じゃあね」

 

「えっ、ちょっとまっ……行っちゃった」

 

 私は伸ばしかけた手を下ろす。通路を曲がって走り去ってしまった恵里ちゃんの姿はもうどこにも見えない。

 

 私はそれに、妙な胸騒ぎを覚えたのだった。

 




 投稿が遅れたお詫びとして『サブタイトル元ネタ中間発表』を開催します。ちなみに前も書いた記憶があるんですけど全部楽曲がモチーフです。選曲にも意味はあります。興味あったら聞いてみてくださいませ。第一章への理解がより深まると思います。
・第1節「WHY!?」→加藤ミリヤ様「WHY」
・第2節「ひび割れた異世界」→majiko様「ひび割れた世界」
・第3節「乙女解読」→DECO*27様「乙女解剖」
・第4節「サイNOグラム」→DECO*27様「サイコグラム」
・第5節「カプリスミュトス」→ユギカ様「カプリスキャスト」
・第6節「イヴ」→柊キライ様「エバ」
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