『これで、第66回新入生入学式を閉会します。一同、礼』
ハイ! 入学式終了! 全員かいさーん!
なんでさぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
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おのれ! 私のさっきまでの意気込みをどうしてくれるのだ!
いつの間にか入学式終わってるんですけど!?
友達一人作れてないよ!
それもこれも全ては我が両親のせいである。
というのも、彼らは小学校に着くなり感極まって号泣してしまったのだ。周りが引く勢いで。
いや、早いよ! 少なくとも正門前はやめてくれない!?
おかげでひどい目に遭ったのだ。
人目につく場所で悪目立ちしまくった結果、私のことをヤバいヤツだと誤解した周りの子どもが私のことを避け始めた。
すると今度はそれを見た周りの子がアイツヤベーんじゃねーかと避ける。
そしてそれを見かけた別の子が……といった負のスパイラルが巻き起こってしまったワケだ。
その上式中も私の方を凝視して泣くので周りの視線が痛いのなんの。
そんな事情があって、私の入学式は色んな意味でドタバタして終わりましたとさ。
さて、というワケでお仕置きの時間だよ!
くらえ三蔵ちゃん式なんかすごいお説教! 私の怒りを思い知れー!
「よし、それでは二人ともちゃんと反省したかな?」
「「申し訳ございませんでした」」
「うむ、よろしい」
分かれば良いのだ。私も本気で怒るつもりはないし。
私が憑依する前の藤丸リツカはとにかく病弱で、病院で寝たきりの生活をしてなんとか生きていたらしい。
小学生になるまでは生きられないと言われてもいたそうで、そんな私が無事入学を果たしたことが大層嬉しかったそうな。
それに彼らも我にかえって自分たちが娘の晴れ舞台を邪魔してしまったのに気づいて猛省している。
私を案じてのことだし、今回は大目に見て不問にして差し上げよう!
ただし二度目はないよ〜? そのときは相応のお仕置きをしなければ。具体的には初代様式なんかすごく恐いお説教の出番である。
はぁ、卒業式が今から不安でならないよ。
といっても、普通本格的な友達作りってクラスの初登校日からだよね?
だから気を取り直してがんばろう。おー!
この日のために買ってもらった真っ赤なランドセルを背負いながら校門をくぐり、誰もいない廊下を急ぎ足で歩いて自分のクラスに向かう。
どんなクラスなんだろうか。できれば個性的な面白い人がいると学校生活楽しめそうだ。
期待を胸に、ガラガラっと勢いよくドアを開けて挨拶をする。こういうのは元気な挨拶が大事だろう。せーのっ!
「おはようございまーす!」
クラス中の視線が一気に私に集中する。クラスメイトは既に全員席に着いている。真面目だなみんな。まだ開始まで30分ほど__
「……藤丸さん。登校初日から遅刻とは感心しないわね」
ふぁっ!?
「ふぁっ!?」
「悪い子のアナタにはお説教が必要よ。さっさと前に来なさい!」
ね、寝過ごしたァーーー!
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「申し訳ございませんでした」
「うむ、よろしい。今後は気を付けるように」
「はい……」
とつぜん教室のドアから"だいなみっくえんとりー"(ドアを突き破ってはいないけど)をかましたオレンジ色の髪をサイドテールにした少女は今先生の机の横でシュン…としおれている。
あれほど堂々とした遅刻をするとはよほどの変人だと思ったが、しっかり反省しているようでなによりだ。
変人だったら困っていた。なぜなら彼女の席は一つだけ空いている私の隣りだろうから。
「それじゃ、アナタも自己紹介済ませちゃいなさい」
「あっ、はい!
え〜っと、私の名前は藤丸リツカです!
好きなものは家族とハンバーグで、趣味・特技は旅をすることです!
目標は沢山友達を作ること!これからどうぞよろしくね!」
彼女はお花みたいな笑顔で、ハキハキと自己紹介を終えた。
クラスの雰囲気が少し変わっていた。
彼女が話始めてからクラスの誰もが彼女に自然と視線を引き寄せられた。
ふしぎと目をひく子だ。私の幼なじみにもこういった人がいる。これがカリスマというものなのだろうか。
ふんす、と自己紹介をする女の子はどこからどうみても普通の少女だが、今この場の主役は確かにあの子であった。
「……終わったわね。じゃあ、アナタの席はそこの一番前の席よ。居眠りなんかしたらすぐ叩き起こすわよ。分かったわね?」
「アイアイサー!」
「はぁ……。返事は『はい』よ。早くそこ座んなさい」
「はい!」
「じゃ、そろそろ時間だし、活動はここまで。あぁ、あと、明日はクラスの係決めだから、全員何か希望を考えてきなさい」
そしてオレンジの子は、私の隣りの席に着くやいなや小声で話しかけてきた。
「おはよう。これからしばらくお隣りさんだね。私、みんなの自己紹介聞いてなくってさ。よかったら、あなたの名前を聞かせて欲しいな」
……少し、驚いた。女の子の声には予想外におだやかだったから。
もっとズカズカ踏み込んでくると思っていたのだが、どうやらこの子はそれとは少し違うらしい。
正直ありがたかった。あまり初めて会った人にぐいぐいこられると困るからだ。
っと、そうだ。名前を聞かれていたんだっけ。ならすぐに答えなくちゃならないわね。
剣道は礼に始まり礼に終わる。道場の一人娘として、礼を失する訳にはいかないのである。
なので私もちゃんと自己紹介をした。
「私のなまえは八重樫雫。こちらこそ、これからよろしくおねがいね」
これが、これから何度も窮地を救われることになる、リツカと私のファーストコンタクトだった。
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「いやぁ〜、一時はどうなるかと思ったけど、なんとかなってよかった、よかった。遅刻したと分かったときはこの世の終わりだと思ったね」
「あなたねぇ……」
雫ちゃんがはぁ、というため息と共に言葉をこぼす。どうやら過去のことを全然気にしてないかのように語る私に呆れているらしい。
ちなみに、あの後すぐにチャイムが鳴って休み時間になり、私の席に沢山の人が押し寄せて、やれ、あんな遅刻かましたのに平然としてるとは大したヤツだな、とか、やれ、自己紹介すごく良かったよ! ……よ、よければ友達になってくれないかな?とか、次々と話かけられ、一躍有名人になった気分だった。
まぁ、すでに過ぎ去ったことですし? いつまでも気にしてたりしたら身がもたないよ。ちゃんと反省してるし、次同じことが起こんないよう気を付けときゃそれでいいのさ。
何事も脱力のタイミングが大事だと、私は人理修復の旅で学んでいる。
適度にリラックスしてこう。ずっと肩肘張っててもいいことないしね。
そんな感じで、今はお隣さんの雫ちゃんと談笑中だ。短く切り揃えられた黒髪がボーイッシュな感じで、切れ長のクールな目によく似合っている。
ただ、彼女が女の子らしい服装をすれば、また違った魅力が出て来るかもしれない。
今度ショッピングに誘っていろいろ着てみてもらおうかな。
「というか、なんでちこくしたのよ」
「いやぁ、ちょっと寝坊してしまいまして……。私、たまに眠りが超深いときが多々あるんだよねぇ」
カルデアにいたころからこのレムレム体質にはさんざん苦労させられてきた。おかげで何度トラブルに巻き込まれたことか……。
「ねぼうしたって……おとうさんやおかあさんにおこしてもらわなかったの?」
「お父さんは出張。お母さんは隠れうっかり属性」
「つまりあなたのおかあさんがねぼうしたのね……。こんどからはちゃんとめざましかけるのよ?」
「はーい。……雫ちゃんってさ、もしかしてオカン体質だったりしない?」
「おかん……? なにそれ」
「……いや、何でもないよ」
「えっ、なんかこわいんだけど」
いや、将来苦労するんだろうなって。某赤い弓兵さんみたいに。
「大丈夫だって! 一定の需要があるから。それにオカン体質の人は「ねぇ、やめてくれないかな。雫がこまってるだろ?」……へ?」
すっごく優しくて強い人の証なのさ! という言葉は、突如降ってきた爽やかボイスに遮られた。
見上げるとそこには少し不機嫌そうな雰囲気を王子様スマイルの奥から少し覗かせているイケメン少年がいた。
「えーっと、確か……、天之河くん! ……だったよね?」
「そうだよ。おばえていてくれたんだ。それで、雫がこまってるだろ? その子は俺の友達だから、めいわくかけるのは止めてくれないかな」
「ちょっと光輝! なにいってるの!?」
一気に場の温度が下がっていく。天之河くんはよく目立つ早くも男子たちのリーダー的地位を確立している。ある程度のグループがまだできていない以上、彼の意思が男子の総意といった状態だ。
そして往々にしてこういった場合の女子の意見力は低い。天之河くんの顔を見るに、もう雫ちゃん個人の意見はおそらく通らないだろう。
「雫はやさしいから君のことをかまってあげてるんだよ。でも、俺には雫がすごくこまってるように見えたし、君はいみが分からないことを言ってこわがらせてたよね。
それに、君はちこくをしたのにぜんぜんはんせいしてないじゃん。雫をこまらせる前にもっとやることがあるんじゃないの?」
「そんないいかたしなくてもいいじゃない! 私はきにしてないわ! それに、リツカのちこくにはりゆうがあって……!」
「それは俺もきいてた。でもあれはただの言いわけだよ。とうこう日は前からに分かってたんだから、きのうのよる早くねるとか、お母さんに正しいじかんをつたえておくとか、いろいろできたと思うんだ」
「……ッ! で、でも……!」
これはあれかな?俗に言う修羅場ってやつかな? まぁ、発端が私なのでかなり笑えないんだけどね。
というか全面的に彼の言う通りなんだから私は全然気にしてないんだけど、このままでは雫ちゃんと天之河くんの間に溝を作ってしまうかもしれないな。そうなったら私はかなりいたたまれない。二人はもともと仲が良かったみたいだし、私のせいで関係が崩れるなんて誰も望まない結末だろう。
ってなワケで! なんとかしようじゃあないですか!
「いやぁ〜、全くその通りだなぁ! あれはマジで私の不注意だったし、みんなのクラス活動の邪魔をしちゃったことは事実だし! だからこの場を借りてみんなに謝るよ。本っ当にごめんなさい!」
ガバッと私は勢いよく立ち上がって頭を下げる。いきなりの行動に誰もが私の方を向く。まずは注目を集めないとね。
「そ、そうか。いやまぁ分かってるならいいんだけど……」
「そっか! 許してくれるんだ! なんだよ〜天之河くんって話分かるんじゃな〜い!
「え、えぇ……?」
解決策その1! 徹底的にうざがらみする! こうすることで自分は全然気にしてないことをアピールし、関係が崩れて無いことを示し、なおかつ場の主導権を握る! その際相手の主張を崩せればなおグッド!
そしてすかさず解決策その2! 私は今天之河くんと肩を組んでいる状態。そして彼にだけ聴こえるように小声で囁く。
「いや〜しかし、気づかなかったな〜? まさか天之河くんが雫ちゃんのこと好きだったなんて……」
「はっ、ハァ!?」
「いやよーく分かるよ? 雫ちゃん可愛いもんね。惚れちゃうのも無理はないって」
「は!?だっ、だからちがっ……」
「いやいやそんな隠さなくっていいんだって。うんうん、分かっているよ? よーく分かっていますとも」
「はなしをきいてくれないかな!?」
こうやって相手の弱みを捏造することで自分が相手より優位な位置にいる強敵だと相手にだけ思わせる。この際周りの誰にも聞かれないのがベスト。あとあとの禍根に繋がりかねないからね。
さらに解決策その3! 私は天之河くんから離れ、再びみんなに向き直って声を上げる。
「そこでみんなに相談があるんだ! 私はこの天之河くんをクラス長に任命したいと思うんだ!」
『はぁーーー!?』
「だって彼以外の適任はいないと思わない? 決め手はさっきの雫ちゃんとの話し合い! 天之河くんの説明はとっても正しかった! そんで彼は男子の中心! リーダーシップがあるし! 彼ならきっと私たちみんなのリーダーにふさわしい! そして私が細かい部分を副クラス長として支えよう!
さあ、彼に投票する人は手をあげてー!」
すかさず雫ちゃんに目を合わせる。届けー! 私の思いー!
雫ちゃんが目を見開き、そしてバッと手を大きく上げる。よし! 私の念がちゃんと伝わった!
雫ちゃんにつられて、ぱらぱらと徐々に手が挙がっていき……そして過半数を超えた。今!
「はい! けってーい! これにて天之河くんが我々のリーダーになりました! 拍手〜!」
「……………」
ぱちぱちぱち!
天之河くんはまだ呆然としている。そりゃそうだ。押せ押せで決めたもんね。
天之河くんは多分私が遅刻してきたのに褒められているのが嫌だったんだろね。ましてそいつが仲の良い友達と楽しく談笑している。
承認欲求と独占欲が彼を突き動かしたのだろう。
だが今はその彼にとっての最大の敵が、敵でなくなってしまった。あまつさえ自分をめちゃくちゃ持ち上げる味方になった。だからもう、彼が追及する相手はどこにもいない。
そして雫ちゃんに私が見合うかどうかの話はうやむやになった。天之河くんと雫ちゃんの口論もする理由は無くなった。
これにより一触即発の空気は霧散し、天之河くんを称える空間が出来上がったのだった。
ぱちぱちぱちぱち。
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オレンジ色の後ろ姿を追いかける。光輝はまだクラスメイトたちに囲まれてあたふたしている。
「まって!」
「うん? あっ、雫ちゃん! さっきぶり〜」
さっきの変な空間を作り出した張本人は、打って変わってポヤポヤした返事を返してきた。
これがあなたの素なの? それとも、さっきのが?
「……こたえて。どうしてあんなことしたの?」
「えっ、うーん。あれが一番いい感じに済みそうだったから?」
「でも、あなたがあそこまですることはなかったでしょ。わるいのは光輝だったんだから」
そうかなぁ? と彼女は言う。
「あなたはおこってもよかったのに。それともあなたはおこれないの?じぶんがきずつけられても」
そんなことはないよ。と彼女は首を振る。
「……私はあなたがしんぱいなの。いつかあなたがほんとうにこまったらどうするの? あなたをたすけてくれるひとはいるの?」
あはは、大丈夫さ。沢山いるよ。と彼女は苦笑する。
「そう……、なら、よかった。ほんとうに、よかったわ」
大袈裟だなぁ。でも、心配してくれてありがとう。と、彼女ははにかんで笑う。
「……きょう、私は。ううん、私たちは、あなたにたすけられたわ。あんなことでケンカするのはいやだったから。
……だから、なにかこまったら、こんどはわたしにそうだんして」
いやいや、いいよこれぐらい。あんま気にしなくていいよ? と彼女はかぶりを振る。
「私ががまんできないの! ……もし、すごくつらくなったときは、私にたよって。たすけられるだけって、けっこうかなしいから。だからたよって。
わたしは、あなたとともだちになりたいの!」
彼女は少し驚いたように私の話を聞いていて。
「……これは参ったなぁ。
これから遠慮しないって思ってたのに、こんなこと言わせちゃうなんて。私のバカ。
……うん、早めに気付けてよかったよ。じゃないと私はこれからずっとクソヤローだったよ。これじゃあ天之河くんが怒るのも無理ないか」
「? よくわからないけど、あれはたぶんきづいてないわよ」
「あはは! 辛辣だね!
うん、思えばすごく失礼なことをしてた。謝るよ。ごめんなさい。
それで、実はまだちゃんと言ってなかったね。だから、改めて」
こちらに手を差し伸べて彼女は言う。
「どうか私と、友達になってください」
「えぇ。こちらこそ、よろしくね。リツカ!」
こうして私とリツカは、友達として一歩を踏み出したのだった。
何この会話……。小学生上がりたてなのに全員IQ高すぎでしょ……。