あ、ちなみに筆者が一番好きなありふれキャラは天之河くんです
「はい、じゃあクラス長は天之河、副クラス長は藤丸でいいわね?」
「「はい!」」
私と天之河くんが同時に返事をする。天之河くんはそんな私のことをチラリと見るが、すぐに顔を前に戻した。
端的に言って、めっちゃ嫌われております。
実際気持ちはすごくよく分かる。実行犯の私が言うのもなんだけど。隠しているみたいだが、それでも不満? 困惑? みたいなものがひしひしと伝わってくる。
あんな選出方法では納得できないだろうなぁ、というのは昨日あの作戦を実行する段階で既に思い当たっていた。
彼が突っかかってきたあたりで彼の性質は概ね理解できていたからね。
彼は基本善人だが、承認欲求の塊でもある。そしてプライドがたいへん高い。自分に不都合が出た場合、事実を曲解して都合をつける程に。彼自身が所謂天才に部類される人間であるのも昨日の発言で分かっている。
うん、可愛らしいもんじゃないか。誰にもそういう時期はある。世界は自分を中心に回っているのだと無邪気に思い込んでいる、そんな時期が。たいていの人はそれを総じて黒歴史と呼ぶものだ。マイフレンドがそう言ってた。
まぁ、だからこそ、昨日彼がクラスのみんなにもみくちゃにされている間に、誰にも見つからないように抜け出して、いい感じに二人きりになれるタイミングで話かけて謝ろうと思っていたのだが、そんな時ちょうど追いかけてきたのが雫ちゃんなのだ。
よく気付いたな彼女。人理修復で培ったスニーキングスキルはかなりのものという自負があるのだけど。
佇まいからして、何か武術でも嗜んでいるのだろう。それもけっこうな高レベルで。
今日入室時にハイタッチを試みたら手のひらに剣マメができていたから、剣道が今のところ最有力候補だ。
いや〜彼女良い子だよね〜ホント。今時あんなに気の利く幼女いないんじゃない? あれでまだ6歳児だよ? ヤバくない? 最近の子ども鋭すぎ。
ていうか人の機微に異様に鋭いのは、やっぱり彼女が自分のことより他人のことを第一に心配してしまう性分からだろう。カルデアにも似たような人物がチラホラいたので分かるのだ。
ただそういう人は自分を軽視しがちという欠点がある。
だから私たちは相性がいいのだろう。私も彼女ほどではないが似たようなもんじゃないかと思うし。
故に私たちはお互いの欠点を思いやれる良い友人になれるはずだ。
それが堪らなく嬉しくって舞い上がっちゃって、本来の目的である天之河くんのフォローをすっかり忘れて雫ちゃんと一緒に帰っちゃったんだよねぇ……。
ハイ、私のうっかりミスです。たいへん猛省しております……。
「じゃ、クラスを代表してなんか一言言いなさい、二人共。まずは天之河から」
「あっ、はい! えっと。
俺はこのクラスをみんななかのいい友だちになれるようなクラスにしていきたい!
それにはみんなのきょう力がどうしてもひつようだ!
だからみんな! 俺ときょう力して、このクラスをいっしよにもり上げよう!」
やっぱり彼にはまだ敵愾心を抱かれてるな。
彼の性格上、「俺たち」ではなく「俺」とあえて言ったのは言外に「俺に従え」という私への無言のアピールなんじゃないかな。意識的にせよ無意識的にせよ。
さらにクラスみんなに「君たちが必要だ」と言うことで私以上の好感度を稼ごうとしている。
邪推かもだから外れてたら私ってば本当に嫌なやつだけど、彼、分かりやすいし合ってると思う。
今もこっちをチラ見してきてるし。
「藤丸。次」
「はーい。え〜とね。
私も基本的に天之河くんと同意見。
みんなが友達になれれば、このクラスは笑顔でいっぱいになると思う! 私たちはそんなクラス作りをしていくつもり。
例えば学活の時間にレクリエーションを企画して交流を深めたいとか思ってるよ。
あ、あと困ったことがあったらなんでも言ってね!
私たちが全力でサポートしちゃうよ!」
こんな風に言えば、天之河くんに私は味方アピールができるし、クラスのみんなもまだ学校に慣れない間は学校経験者の私に自然と相談を持ちかけられる。
今のところはこれくらいかな。
「よし、まさに良い子って感じのスピーチありがとう。
ちなみにレクリエーションをするなら1号館2階会議室がいつも空いていて広いからそこ使うといいわ。火曜日なら多分誰も使ってないでしょうし。
それじゃ他の係を決めるけど、まずはアナタ達で進めなさい。分からなければ遠慮せず私に聞きなさい」
「はい。じゃあまずは、ほけんがかりから。やりたい人ー!」
「はい! 私やりたいです。やらせてください!」
「おっ、白崎ちゃんか〜。オッケーオッケー、君のことは雫ちゃんからよく聞いてるよ。責任感が強い君にぴったりの役だね」
「そ、そうかな? えへへ……」
天之河くんの進行で、真っ先に手を挙げたのはクラス一の美少女、白崎香織ちゃんだった。
彼女は雫ちゃんの友達らしくって、入学式の時に知り合ってから仲良くなったそうだ。
うらやましっ! 私もそういう入学式だけの出会いしたかった!
「つぎは……体いくがかり! それじゃあやりたい人は……」
こんな風に委員決めはつつがなく終わっていった。
「決まったわね。まだ時間あるけどもう終わりでいいわね。私は職員室に戻るから、何かあったら呼びに来なさい。それじゃ解散」
お、終わったっぽいな。じゃあさっそく……。
「天之河くん。今後の方針のことで話したいことが……」
「あー、ごめん。
藤丸さん。友だちによばれてるんだ。あとにしてくれるとうれしいな ……じゃ」
「あっ、ちょ……」
あーあ、行っちゃった。
うーむ、これは私が考えていたよりも相当深刻なのでは? クラスメイトの前で話かければまず断らないと思ったけど、どうやら予想以上に嫌われている。いや、というか、避けられてる、って方が近いのか?
どちらにせよ、これは少し面倒なことになったぞ。取り付く島が無ければ腹割っての話合いができないではないか。
「たいへんね、ふくクラスちょうさん?」
「いやー、参った。
天之河くんとの関係改善を望んでたけど、これじゃあ昨日みたいにグイグイ行くのは無理だね。その場しのぎにはちょうどいいけど、こういうことになったりするから大変だな〜」
「……ごめんなさい。私のせいで……」
「いやいや、そんなワケないじゃん。これは仕方ないことだよ。誰のせいってことでもないと思うけどな〜」
しかし、これからどうするかね〜。私が突っ込んで行っても逆効果だろう。待ち伏せ戻るダメだな。下手すりゃさらに引き下がられて、手の施しようが無くなってしまう。
う〜〜〜ん、よし! じゃあこの作戦で行くか!
ひとしきり悩んで考えがまとまった私は、さっそく第一段階に出ることにした。
「雫ちゃん、雫ちゃん。ちょこーっと、ご相談があるのですけどね……」
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「なぁ、雫。はなしたいことって、一体なに? やっぱり教室でもいいんじゃ……」
「だーめ。あんまり、ほかのこたちにきかれたくないの」
俺たちは二人きり、初めて来る場所のろうかをカツカツと歩いていく。
ついさっき雫から大事な話があるから二人で話そう、と話かけられたのだ。
俺はすぐにうなずいた。めずらしい雫からの内緒話だ。断る理由が無い。
それに俺にも話したいことがあったから、俺にとっても都合が良かった。
話したいことというのは、もちろんあのふしぎな同級生の少女、藤丸リツカのことである。
俺は最初に彼女が教室に入ってきたとき、とんでもない不真面目な子だと思った。
遅刻しておきながら堂々と自己紹介をし、先生に対しても軽い反応をする彼女を見ていれば、誰でもそう思うのは自然なことだと思う。
あまつさえ、雫に変なことを言ってひどく困らせていた。さすがにこれは見逃してはおけないなと思い、注意しに行ったのだが、そこで想像もしていなかった体験をした。
彼女はあっという間にクラスの子たちの心をつかみ、いつのまにか俺がクラス長になる、という流れになっていた。彼女に問いただそうにもその姿はきれいさっぱり消えていたし、集まってくるクラスメイトと話していて、それどころではなくなってしまった。
さらに俺を混乱させたのは、今日の係決めでの彼女の言動だ。彼女はクラスメイトが委員に選ばれるごとにその人のことを褒めていた。俺がまだよく知らない人のことも知っていて驚いた。彼女は今日の朝のうちに片っ端から話かけて全員の性格をよく知っていたようで、会話で良くクラスの空気を盛り上げていた。
そんなこともあり、俺には彼女のことがよく分からなくなっていた。
雰囲気は不真面目だったりするが、意外なところで努力しており、クラスの空気を何より大事にしているようにも思えた。
だから俺はそんな彼女が何者なのか、特に彼女と仲が良い雫に彼女がどういった子なのかを聞いておきたかった。
俺はまだ彼女に良いイメージを持ってない。けど、ずっと見ているとよく分からなくなってくる。
特に彼女が場の中心にいるときは、なぜか心の内がひどくモヤモヤして仕方ないのだ。
「ほら、ここ。ここならだれもいないし」
「ここは……」
階段を登って着いたのは「1号館2階会議室」……たぶん。漢字が読めないから確信はできないけど。確かにここは先生が空き教室だと言っていた。
……雫はどんな話をするつもりなんだ? 気になって心臓が少しドキドキしてきた。
「はやくはいってよ、またせてるんだから」
……ん?待たせている……?じゃあ二人で話したいというのは……。
「ごめんなさい、光輝にうそついたこと。でも私も、これがいちばんいいとおもったから。
……私も、私のともだちがなかわるいのはいやなのよ。だからはなしあいましょ。さんにんで」
雫がゆっくりと開けたドアの奥には。
「や、待っていたよ。天之河くん」
俺が避けているクラスメイト、藤丸リツカが陽に照らされて佇んでいた。
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私が考えた天之河くんとの仲を取り持つ作戦は実に単純なものだ。
すなわち「私が避けられるんなら、避けられない人を介して接触すればいいじゃない」作戦である。
実際、雫ちゃん関連がことの発端である以上、三人で腹を割って話し合うのが一番効率的なのは明白だ。
と、いうワケで! レッツ話し合い! スタート!
「じゃあ、まずは謝らせてもらおうかな。
騙すようなことをして本当にごめんなさい。あなたと正面から話すにはこれしかないと思ったんだ」
「……いや、俺も君のとこにあんまりいかなかったから……それに、俺も君とはちゃんとはなしたいと思ってたとこなんだ」
おや……? 意外に好感触だ。てっきりもっと文句を言われるだろうと思っていたが。
しかしこれは嬉しい誤算だ。このまま畳み掛けるとしよう。
「そっか! それは良かった!
それで、話したいことはもちろん昨日のことなんだ。あれは本当に強引過ぎたよね……。申し訳ない! ただ、あのときはあれしか思い浮かばなかったんだ」
「……べつに、あやまらなくていいよ。ちゃんとはんせいしてるんだよね? 今日のかかりぎめでがんばってるのみてたし……」
どうやら、好感触の理由は私の仕事ぶりだったようだ。昨日彼が私に突っかかってきた最初の原因は、私が不真面目な生徒だと彼に思われていたからだ。
だからその原因をまずは崩す。私が真面目な良い生徒であると態度で示す。だからいつも以上に気合い入れて臨んだのだ多少やりすぎかとも思ったが、彼にとってはそれぐらいでちょうどいいだろうという判断だ。
「……でも、雫にはちゃんとあやまったのかい? そこをはっきり……」
「きにしてないっていってるでしょ。ただのおしゃべりよ。リツカなりのじょうだんだってわかるもの」
「そ、そっか。まぁ、雫がきにしていないんだったら……」
雫ちゃんに同席してもらったもう一つの理由がこれだ。私だけではこの展開に持っていくことがどうしてもできそうになかった。
私の言は彼がとって信用に値しないかもしれないが、第一の不真面目という不信感をある程度払拭しさえすれば、雫ちゃんという彼にとって何よりその意見が届きやすい人物の言葉であれば、彼も一時は納得してくれるだろうと踏んだのだ。
だがそれだけでは足りない。彼の根本にある問題、心の奥底の承認欲求と独占欲を満たしていないから。これらを満たさなければ、彼はまたすぐにご都合解釈で逃げ延びて、本気で語り合うということをしなくなるだろう。
つまりはここからが正念場。彼の心の奥底に土足で踏み込み、本気で
よし! 覚悟は決めた! いざ!
「ところで、天之河くんはさ、私のことが
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「……っ!?」
なんだかまた自分が操られているような気がして、またも心の中がモヤモヤしていたところに、彼女がとんでもないことを言ってきた。
「そっ、そんなこと、あるもんか! きっ、君は俺をばかにしてるのか!? 言っていいこととわるいことがあるだろ!」
「君は私がみんなの前でしゃべっているときずっと私の方を見ていたよね? あれは、私があなたよりもクラスで目立っていたからだよね? 自分が一番にクラスで目立つべきなのに、そうでない現実に心の底でイラついてたんでしょ?」
「……!? ちっ、ちがう! あれはただ……!」
「さらに言えば、君は雫ちゃんのことでも嫉妬しているんじゃないかな? 自分が彼女の一番の友達なのに、自分以外の、それも会ったばかりの自分が不真面目だと思う人間に、自分と同じぐらい心を許していることが我慢ならなかったんじゃない?」
「そんなことない! 俺はそんなふうに、雫をものみたいにおもったりは……!」
なんなんだ。なんなんだ! 彼女は! さっきまで持ち直した彼女の良いイメージがガラガラと崩れていく。
やはり彼女は悪い人間だったんだ! 騙された! やっぱり俺が正しかった! あの心のモヤモヤは、彼女は本当は良い人の皮を被った悪い人だということを教えてくれていたんだ!
「だいたいそういう君だって! だいちこくするくらいふまじめで! いつもみんなとたのしそうにしてて! いつもクラスの一ばん中にいる!
きのうだってじぶんがリーダーになれたのに、なんで俺をクラス長にしたんだ!? きっと俺がこまっているのを見てたのしんでいるんだ! そうにちがいない!
今日も雫とずっとしゃべってた! 雫は俺と今日一どもしゃべっていなかったのに!
お前のせいで、俺はいやなおもいばっかりするんだ! お前は俺のてきだ! わるいやつだ!」
心の奥底からどくどくと溢れ出すどす黒い気持ちに俺は一気に飲み込まれた。あいつは悪いやつだ、あいつは悪いやつだ、あいつは……。
今にも殴りかかりそうな俺に、藤丸リツカは一切怯えることなく俺の目を真っ直ぐ向いてはっきりと言った。
「そっか。君の本当の気持ちはそれなんだね」
目の前の女の子の言葉に動きが止まる。それどころかさっきまで荒れ狂っていた怒りまで、きれいに止んでしまった。
なぜなら、彼女の声音はひどく透き通っていて、慈愛の色に満ち満ちていたから。さっきまでの荒ていた教室に染み渡るように響いたからだ。
止まったままの俺を差し置いて彼女は言葉を続ける。
「君はよく自分の都合いいよう解釈して誤魔化すようだけどね、それってさ、一番誤魔化してるのは自分なんじゃないかな。
だからこそ、君自身が自分の本当の気持ちが分からなくなるんだと思う。
私はいつも本気でしゃべってる。だからこれで対等だね!」
俺は動けなかった。さっきまで罵詈雑言を浴びせられていたのに、それどころか彼女は心底嬉しそうに笑っていた。
「本気でぶつかんないと改善しない関係もあるよ。君と私がまさにそれ。私はあなたと友達になりたい。一緒にパートナーとしてクラスを盛り上げていきたい。
君のその頭の良さと類い稀な行動力は、私たちのクラスをよりよくしてくれるって確信してる」
「……でも俺は、さっき君にひどいことをいった。
それに、俺は君がやっぱりみとめられない。君がさきにいてもうしろにいても、心がモヤモヤしてくるしいんだ。
だからやっぱりともだちなんて……」
「それなら簡単なことじゃん。前でも後ろでもダメならさ、隣を歩けばいいんだよ」
「えっ……」
「お互い対等な目線に立って、手と手を取り合って困難に取り組む。それが友達ってもんさ」
対等。そういえば俺はしきりに人に優劣をつけようとしていた。それは祖父の言っていた正しい人間の在り方なのか?
気づけば俺の顔は羞恥で赤くなっていた。今までのセリフは明らかに正義の味方のものじゃなかった。
すると今度は今までずっと沈黙を守っていた雫が話し出した。
「……光輝。私もいままでずっとあなたについていくだけで、あなたとちゃんとむきあってなかった。
だからあなたは私をものみたいにおもってたのよね。
……それはしかたないことじゃない? これからは、私もあなたのとなりにいるから。まもられるだけでも、ついていくだけでもない。
となりでわらえるともだちになりたいの」
……ずるいよ、雫。こんなの、涙を堪え切れないじゃないか。
「……ごめん、二人とも。俺がまちがってたよ」
女子二人は顔を見合わせて屈託なく笑った。
「「いいよ! どういたしまして!」」
……俺は幸せ者だ。入学してすぐに、こんなに素敵な出会いがあるなんて。あぁ、この二人と、真の意味で友達になりたい。
そんな思いで、俺は言葉を紡ぐ。
「……どうか俺と、友だちになってください」
「「こちらこそ、よろこんで!」」
今日俺は、運命と逢ったんだと。そう思った春の日のことだった。
お祖父ちゃんが死んだ直後でナイーブになっていた光輝くん。
ご都合解釈での誤魔化し回数が少なかったために比較的早く自分の本音を見つけられてよかったです。高校時ではこう都合良くはいきません。影響を受けやすい小学生だからこそ、自分の否にいち早く気づけました
これから転移するまでにどんな人間になるかは彼と周りの友達次第です