ありふれた元マスターでクラス最弱   作:抹茶れもん

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執筆フォームと「165話 神域」の間でシャトルランしてました
難産だった……
今話含めてこれからの話は展開に賛否あると思っております。
それでもいいと思ってくれる人は続きをどうぞ


第8節 友達

「……何をしているんだい、君?」

 

 早朝のランニング途中、いつも通るコースの鉄橋に上。

 今にもすべり落ちそうなぐらい身を乗り出している少女を見つけた。

 

「そんな所にいたら危ないよ。もっと気をつけて……ッ!」

 

 俺の呼びかけに振り返った彼女の顔を見て、思わず顔が引き攣ってしまう。

 

「なんで……?」

 

 まるでこの世の終わりかのような、いや、もっと切実な……

 強いて言うなら、なぜ今なのかと非難するかのような、そんな声に聞こえた。

 

 一目見てただごとではない、と理解した俺は慌てて彼女を引っ張って座らせる。

 そのままにしておいたら、ふらりとふとした瞬間に真っ逆さまに底まで落っこちてしまいそうだったから。

 

「……なんで、わた、僕にかまうのさ。どうだっていいだろう、こんな小汚いやつ。無視して行っちゃえばよかったのに。

 そうすれば、僕は今ここで……」

 

「無視するなんて、できる訳無いだろ。今にも死にそうな顔してる女の子がいるんだ。

 これで助けないなんてうそだ」

 

 

「僕は助けなんて望んでない!!」

 

 

「ッ……!」

 

 彼女は目に涙を溜めながら、血を吐くように俺に叫んだ。

 

「……もう疲れたんだ。どうでもいいんだよ、何もかもが。僕自身さえ、僕のことがどうでもいい。

 どうせ誰も僕を助けないし、愛さない。守ってなんかくれやしない」

 

 彼女は諦観の色が滲む笑みを溢す。

 それは世界に対しての諦めの苦笑であり、何の価値もないと断ずる自身に対しての嘲笑であるように感じた。

 

「……どうして、そう思うんだい?」

 

 憔悴する彼女に、何か声をかけてあげたいと思うが、すぐには言葉が出てこなくて。

 結局、俺が溢して言ったのは、複雑であろう彼女の事情に土足で踏み込むような質問だった。

 それが自然と口をついて出た。

 

「……は。君って、結構デリカシー欠けてるよね」

 

「俺もそう思う。というか、幼馴染にはよくそうやって注意されるよ」

 

 皮肉げにこちらを煽るように嗤う彼女。しかし、特段不快には思わない。

 

 いつも雫やリツカに言われていることだし、俺もそれを少し自覚していたりする。

 何より、そう言う目の前の彼女の姿がとても弱々しく見えるから、憤慨なんて懐こうはずもないじゃないか。

 

「それでも、俺は君が何故そんな風に思うのか知りたい。放っておける訳無いじゃないか。せめて何があったのかぐらい教えてくれ。

 君のことが知りたいんだ。知らなきゃ何も分からない。そんなのは、耐えられない」

 

「……それ、全部君の都合じゃないか。君にわざわざ教えてあげる義理なんて……」

 

「頼むよ。

 俺じゃあ何もできないのかもしれないけどさ、話を聞くことぐらいはできるだろう?」

 

「いや、だからさ」

 

「頼む」

 

「……」

 

 俺がつい溢してしまった質問は、確かにあまりにも無神経なものだったと思うけど、それ故に俺の本心に違いなかった。

 

 ここで彼女を見捨てて行ったら、間違いなく彼女は川に飛び込むはずだ。

 

 そんな未来は容認しない。だって救いが無いじゃないか。

 

 俺は彼女を助けたい。本心でそう思ったから、その言葉が出たんだ。彼女を助けるには、彼女のことを知らなければいけないから。

 

 話を聞くまで、絶対に彼女を放したりなんかしない。

 

 そんな俺の思いが伝わったのか、彼女は「はぁ……」と溜め息をついて渋々と、本当に渋々と話出す。

 

「……誰も僕を見てくれないから。

 家族なら僕を見てくれるかもって思ったけど、結局そいつはやっぱり僕を責めて、あぁ、僕に居場所なんてないんだなって思って。

 どこかに僕の居場所を見つけたくて。でもそんなのどこにもなくて。

 ……だからせめて、誰もいない場所に行きたかった」

 

 彼女の言葉はひどく抽象的で、明らかに俺を煙に撒こうという意図が感じられた。

 しかしその曖昧な説明も全てが適当なでっち上げではないだろう。

 その証拠に彼女は説明を始めた途端、先程以上に鬱々とした空気を纏い出した。

 

「それで……」

 

「もういいでしょ。これ以上は言いたくない。僕にだって、拒否権ぐらいあるはずだ」

 

「……分かった」

 

 本当はもっと詳しく聞きたかったが、これ以上は彼女も限界なのだろう。顔色もかなり悪くなっている。

 

 だが、彼女の断片的な話を聞く限り、おそらく彼女には学校にも家にも居たくなくて、飛び出してきたのだということは分かった。

 

 彼女は、自分の居る場所も頼れる人もいないんだ。

 

 だったら、俺がそばに居なきゃいけない。

 

 彼女を守る人がそばに居なきゃいけない。

 

 ならそれは俺しか居ない。今ここには俺しか居ないんだから。

 

 俺が彼女を守り、彼女を安心させてやらなくちゃならない。

 

 それなら、俺でもできるぴったりな方法がある。

 今の親友達に、あの日の空き教室で教えてもらったことだ。

 

「君、名前は?」

 

「え……?」

 

「君の名前を教えてほしい」

 

「な、中村……恵里」

 

「そうか、恵里か。

 なら恵里。俺と友達になろう」

 

「……は?」

 

 俺の言葉は恵里には全くの予想外だったのか、鳩が豆鉄砲を喰らったように茫然としている。

 

「な、なんでそうなるのさ……?」

 

「だって、友達はお互いに守り合うものじゃないか」

 

「は……?」

 

「友達が傷つくのは嫌だろ?だから俺達は助け合う。守り合う。そして馬鹿やって過ごすんだ。それが俺達の居場所だ。最高のね」

 

「でも、僕は……」

 

「俺は恵里と友達になりたい。君には居場所が必要なんだろ?だったら俺が……俺達が、恵里の居場所になろう」

 

 目を伏せる恵里の顔を両手で挟んで、無理矢理俺と目を合わせさせる。

 

「!?はっ!?」

 

「だから恵里は、もう一人じゃない。俺達が、恵里を守ってやる」

 

「は……」

 

 彼女は目をまんまるにして驚き、そして一雫の涙を溢した。

 

「……一緒に、居てくれるの?」

 

「ああ」

 

「助けて、くれるの?」

 

「ああ」

 

「ずっと、守ってくれる……?」

 

「ああ、もちろんだ」

 

 今度は止めどなく、彼女の目から涙が流れ出す。

 今まで堰き止めていた感情が、ついに決壊したかのように俺には見えた。

 

「……う、うぁ。う、うぅぅ……!」

 

 

 俺は彼女が泣き止むまで、ずっとその小さな肩を抱きしめた。

 

______________________

 

 

 私がそれを見つけたのは、雫ちゃんの様子が最近おかしくなっている理由を探るため、こっそり尾行していたときだ。

 

 こういったことは私たちの信頼に反することでもあるので最初は気が進まなかった。

 しかしこうでもしないと雫ちゃんの身に何が起こっているのか分からないのだ。

 私たちが彼女に何があったのか問いただしても、「何でもない」の一点張りで絶対に口にしようとしない。

 

 だが何もないなんてことは、それこそありえない。

 何でもないと言った彼女の顔は、ひどく悲痛に歪んでいたから。

 

 きっと何か理由があるのだろう。私たちに話せない理由が。

 しかしこのまま放っておくというのもまた無理な話だ。

 

 私たちは一人残らずお人好しなんだ。友達が傷ついているのを黙って見てろだなんて、ケンカ売ってるとしか思えない。

 

 こういう場合はとりあえずなんもかんも無視して突っ走るのも一つの手だ。行き詰まったら突破するしかないのです。

 

 そんなワケで雫ちゃんのストーキング一日目の早朝なのだが……

 さっそく原因と思しき事態に遭遇した。しかもかなりまずい状態だ。

 

「あっはは!まじだっさ〜!そんなん汚れた服着てちゃクラス来たらダメだよ〜?臭くて汚くてどうしようもないし!」

 

 雫ちゃんを囲む三人の少女。いずれの人物の顔にも大層悪逆な、人を貶めて悦に入る最悪な笑みが浮かんでいる。

 

 思わず駆け出そうとした。が、その前にいじめの主犯だろう少女の言葉が私の足を縫い留めた。

 

「しかもこ〜んな可哀想な写真撮られちゃって。もう誰も、あんたを助けない。だってあんたが助けてって言えないんだもん。

 あはは!こんなんバラ撒かれたら、あんたの人生お終いね!」

 

 そうやって彼女が掲げたのは雫ちゃんの下着姿。

 あれで脅してるから雫ちゃんは助けを請えない、と。

 なるほどなるほど。

 

 

 

 クソくらえ。

 

 

 

「ふう……すっきりした!んじゃ、行こ。朝の会遅れちゃうし。

 ……あんたが片付けといて。やらなかったら殺すから」

 

 

 少女たちがキンキン笑いながら去って行く中も、私は殴りかからないよう自分を抑えるのに必死だった。

 

 

_______________________

 

 

「……雫ちゃん」

 

「……なんだ、見てたのね、リツカ。

 ……隠してたの、無駄になっちゃったなぁ」

 

「……ッ!」

 

 私の覇気の無い声に顔を顰めるリツカ。よく見れば強く手を握りすぎたせいか、爪が手の平に深く食い込んでいる。

 

 珍しいこともあるものだ。

 長い間一緒にいるが、これほど彼女が怒りを露わにしたことは今まで一度として見たことがなかった。

 

「もう、いいの。最初はね、絶対負けてやるもんかって、思ってた。けど……やっぱり、辛いわね、こういうの。

 私って……こんなに弱かったんだ」

 

「そんなことは」

 

「そんなことはない、って?

 事実、私の心はもう折れたのに?

 ……このまま放って置けば、きっとすぐにあいつらも飽きて、解放される。それが一番穏便でしょ」

 

「でも、それじゃ……雫ちゃんが」

 

 そう。その方法はいじめが終わるまで私が被害に遭い続ける前提に成り立っている。

 優しい彼女に、この選択をさせるのは酷だろう。

 

 ただ、私はこうも思うのだ。

 

「ねぇ、リツカ。あなたは私を見捨てられるでしょ。

 あなたはいつも、敵も味方も救われる方法を探してるわ。一番、被害が少ない方法をあなたは考える。

 あいつらは、下手に刺激したら何をするか分からない。だから半端な手は打てない。最悪もっといじめが激しくなる。

 これは私が我慢すれば被害は私だけ。けど、私を助けることはあいつら三人を破滅させること。被害は三倍になる」

 

 それならば、

 

「あなたは私を見捨てるわ。それが一番賢い手段。……そして私もそれを望んでる。

 どうせ止める手段も無いしね。

 だから……」

 

 だから、リツカが気に病む必要はない。そう言おうとした。

 

「クソくらえだよ。そんなこと」

 

「え……?」

 

 そんな時、リツカが絶対言いそうにないことが彼女の口から飛び出した。

 

「そんな風に思われてただなんて心外だなー。私そんなに薄情に見える?」

 

「あ、いや、そういうことじゃ……」

 

「まぁ、確かにそういう部分もあるかもだよ。できるだけ沢山の人が平和な方が嬉しいし、そうなるように努力してるのも本当。

 だけど、それで親友を見捨てると思われるとは甚だ心外だよ」

 

「うっ……」

 

「私にとってはあの三人より雫ちゃんの方が何百倍も大事。私、人数で助ける人決められるほど聖人じゃないし。

 雫ちゃんと同じで、私は私の大切な人を勝手に気遣って勝手に助ける。

 雫ちゃんに止められたって、絶対止めてあげないよ。

 私、雫ちゃんのこと大好きだもん」

 

「……」

 

「殴って解決!なんて、ちゃちなことはしない。あの三人にはちゃんと報いを受けてもらう。方法なんて知るもんか!」

 

 あぁ、これだ。この目が潰れそうな眩しさ。

 リツカの凡人でありながら非凡な、障害なんて無視して前を向いて走り出せるその精神。

 

「完膚なきまでブチのめしてやる。

 私の親友に手ぇ出したんだ。思い知らせてやろうじゃん!」

 

 不敵に笑って彼女は私の方を見る。

 気づいたら、何故か涙が両の頬を伝っていた。

 

「……私の苦労、無駄になっちゃったじゃない。このおせっかい焼き」

 

「お生憎さま。先に焼いたのそっちでしょ。

約束したしね、お互い全力でカバーするって。今回は、ちょっと空回っちゃったけど。

そういうとこもやっぱり……」

 

 

 やっぱり、私達らしいわね!

 

 




やたら友達友達って連呼しすぎだと思うけど、この世界の主要人物ってほぼコミュ症、拗らせ、狂人、頑固者のどれかだから、はっきり言わないと伝わらないと思うんですよね……
筆者の個人的解釈でしかないですけど
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