ありふれた元マスターでクラス最弱   作:抹茶れもん

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いじめっ子が悪質すぎて筆者には正攻法で解決するルートが見えなくなってしまった


第9節 雌伏

 早朝、ホームルーム前の窓際の席。そこで私は一人、脳内作戦会議を紛糾させていた。

 

 目にもの見せてくれるわぁーーー!と、言ったものの、さすがに突撃して「いじめやめろや!」とブチかましに行くワケにもいかないのが人の世の理不尽である。言ってやりたくはあるけど。

 下手に刺激すると、腹いせにいじめが今より陰湿かつ過激になり、自身にも飛び火しかねない。だからこそいじめは誰も注意せず、それによって何もせずとも勝手にエスカレートしていくものなのだ。

 

 ……た、性質悪りぃ〜。見逃しても見逃さずとも過激になるとか、穏便に済ますなんてどだい無理な話だ。

 

 だからこそ、私はこの問題をどうする?私の親友に手ぇ出してくれやがったあんちくしょーどもに、どうやって正当な裁きをくれてやれるだろうか。

 

 やっぱり一番の問題は彼女が持つあの写真だ。あんな画像を流布されたらたまったもんじゃない。それにあんなのがあるかぎり、雫ちゃんも安心できないに違いない。

 

 あの写真の消去。それが最重要目標だ。あれが無くなれば後は簡単だし。

 

 画像データ消去用コンピュータウイルスの作り方はカルデアの電子工作が得意な方々にご教授いただけたのだが、さすがに遠隔でハッキングまではできない。

 せめて直接接触、できれば彼女たちの内一人にでも自宅に自然に入れればいいのだが、雫ちゃんと同性の私では警戒されて近づけないだろうし……

 

「リツカ、今ちょっといいか?相談したいことがあるんだが……」

 

「光輝くん?いいよ。でも、今はちょい立て込んでるからできれば手短にしてくれると嬉しいかな」

 

 私がうんうんと悩んでいると、光輝くんが話かけてきた。いつもより数段真面目な表情。できれば片手間で済むといいけれど……

 

 光輝くんは私がオッケーを出したので、きょろきょろと辺りを見回したあと小声で耳うちをした。

 

「実は今朝、橋から飛び降りようとする女の子を助けたんだ」

 

「ファっ!?」

 

「しーっ、あまり大きな声を出さないでくれ!」

 

 いや出すわ!どうしてそうなった!脈絡が無さすぎない?なんで普通に自殺しようとしてる女の子とばったり会うのさ。状況が理解できん。

 

「えーっと、とりあえず片手間で聴いてたのは悪かったからさ、最初から詳しく説明してくれない?」

 

「分かった。実は……」

 

 

 

 

 

 なるほど。とりあえず、経緯は理解した。

 

 朝のランニング中に、橋から飛び降りようとする中村恵里ちゃんを見つけ、放って置けなかったからなんとか慰めて、家に帰りたくなさそうだったからとりあえず自分の家に連れて帰って、そのまま一緒に登校したと。

 

「……という訳で、今教室の前で待ってもらっているんだけど」

 

「あーうん。分かった。とりあえず入ってもらっていいんじゃないかな。

 私もその……中村恵里ちゃん?に、話したいこととかあるし」

 

「ああ。じゃあ呼んでくるよ」

 

「よろしくー」

 

 光輝くんもよくよく事件に巻き込まれるね。トラブル体質は私とお互いさまだけど。

 しっかし、このタイミングはけっこうまずいかもしれんなぁ……

 

「あ、天之河くん……?この人は……?」

 

「ああ、紹介するよ。親友のリツカだ。

 リツカ、この子が今朝会った恵里。仲良くしてやってくれ」

 

「どうもー!はじめまして。藤丸リツカです!よろしく!恵里ちゃんって呼んでいいかな?」

 

「……」

 

 光輝くんに連れてこられたのはメガネが似合う女の子。名前は中村恵里ちゃんか。

 エリちゃんと聞くとアレなトラウマがぶり返してくるが彼女とはこれっぽっちも関係ないのですぐに脳内奥深くに封印する。

 

 そんな彼女は私が挨拶すると目をまんまるにして硬直してしまった。

 

「えーっと、馴れ馴れしかったかな?じゃあ別に名前じゃなくても……」

 

「あっ、ううん!ご、ごめんなさい!気にしてないから、大丈夫。ちょっとびっくりしちゃって。今までこんな風に話しかけられたことなかったから。

 うん、僕のことは、恵里って呼んでくれていいよ。

 これから、どうぞよろしく」

 

「うん!じゃあ私のこともリツカでいいよ」

 

 一瞬微妙な空気になったが、すぐに元に戻った。

 しかし、これはやっぱり問題が複雑化しそうな予感的中だ。

 

「まだホームルーム開始まで時間あるし、俺達は雫のところにも挨拶に……」

 

「あっ、待った待った。私の方にも相談したいことがある!」

 

「そういえば話があるって言ってたな」

 

「うん、雫ちゃんのことなんだけど……」

 

 そうして私もまた今朝の件を小声で話す。

もちろん写真のことは話さない。雫ちゃんも光輝くんには知られたくないだろうし。

 

「なんだって……そんなことに、なってたのか……!雫は!?大丈夫だったのか!?」

 

「大丈夫かって聞かれると、とてもそうとは言えないかな。だいぶ落ち込んでるみたいだったし」

 

 光輝くんは数秒歯を食いしばり、そして睨むようにこちらを見た。

 

「……リツカは、黙って見てたのか?」

 

「落ち着いて、光輝くん。さっき私が飛び出しても何もいいことはなかったよ」

 

 私は光輝くんを宥めようとするが、やはり彼は納得していない様子だ。

 当然か。光輝くんは雫ちゃんと一番長い間一緒にいる。心配もひとしおだろう。

 

「けど……!」

 

「もちろん、このまま済ませるなんてしない。彼女たちには痛い目を見てもらう。

 光輝くんには、事前準備を頼みたい」

 

 だから私はちゃんと彼の目を見て告げる。とっておきの方法があると。

 

「当てがあるのか……?」

 

「うん。さっき思いついた。けっこう手荒だけど、これしか無いと思う」

 

「分かった。俺はリツカを信じる。雫は絶対俺達で守らなきゃな。それで、俺は何をすればいいんだ?」

 

「まず光輝くんは……」

 

「……あの!」

 

 光輝くんが納得したのを確認し、段取りの説明を始めようとしたところで、今まで沈黙を維持していた恵里ちゃんが声を上げた。

 

「……やっぱり、僕って邪魔なんじゃないかな。二人に迷惑かけちゃいそうだしさ……」

 

「そんな訳ないじゃないか!恵里、どうしてそう思うんだ?」

 

「だって、僕が君たちの周りにいたら、そのいじめられてる子と同じようになる。

 今まで爪弾きだったやつが、いきなり光輝君たちと一緒になったら……それこそ、やっかみを買うよ。

 その作戦とやらが上手く行っても、対象が変わるだけで解決しない。

 だから……」

 

 彼女の懸念は私が抱いた危機感そのものだった。確かにこの作戦が成功しても、繰り返しになっては根本的には意味がない。

 だが。

 

「それがどうしたってやつだよ、恵里ちゃん」

 

「えっ」

 

「私たちは友達を悲しませるようなことは絶対しない。必ず全部の問題は解決する」

 

「そうだ。恵里はよく見ていてくれ。俺達がみんな守ってみせるから」

 

「あっ、じゃあ恵里ちゃんにも強力してもらおうかな。と言っても、これほぼ既に作戦に勘定しちゃってるようなもんなだけど、それでもだいぶ役に立つと思うよ。

 まぁ、ちょっと?大変かもしれないけど……主に自助努力になるだろうし」

 

「……いいの?僕、完璧に足手まといで」

 

「そんなん全然気にしてないって。君は自分のやりたいようにすればいい。

 私たちはそれを全力で支えるよ」

 

 恵里ちゃんの目に涙が浮かぶ。彼女の目には、既に泣き腫らした痕がある。

 

「僕、今日は泣いてばっかりだな……

 でも、ありがとう。勇気が湧いたよ、リツカ。僕にできることならなんでもやる。

 君達に相応しい人間になれるよう、これから全力で追いかけるよ」

 

「そんなに気を負わなくていいさ。気楽が一番だよ」

 

「ああ。俺達は何があっても恵里を見捨てたりなんかしないからな」

 

「……うん!本当に、ありがとう。二人共」

 

 どうやら吹っ切れてくれたらしい。私と光輝くんは顔を見合わせて笑う。

 

「よし!じゃあ改めて、俺は何をすればいい?」

 

「うん、光輝くんにはね……」

 

 彼女たち三人の内、リーダー格の女の子の家に遊びに行って欲しいんだ。

 

 

_______________________

 

 

「あ、天之河くん!どうぞ遠慮なく入って入って!今お菓子持ってくるから!そこのリビングで待ってて!」

 

 リツカが言う雫いじめの主犯の女子の家についた途端、彼女から盛大な歓迎を受けた。

 

 こうして直に接していると、彼女がリツカに見せてもらった隠し撮り映像証拠の犯人だとは到底思えない。

 妹の美月が言っていた「女は皆役者だよ、お兄ちゃん」という言葉を当時は簡単に流していたが、こうまで裏表を見せられると真実味を帯びてくる。

 女性不信になりそうだ。いや、全ての女子が腹黒いとはもちろん思っていないが。

 リツカは結構裏があったりすると思うけど、雫や香織にはそういうの感じないし。

 

 そんなことをつらつら考えながら、彼女のリビングの扉をくぐる。

 

「やあ、待たせてしまったかな」

 

「すっご……生天之河君だ……!」

 

「今日来てよかった!」

 

「ははは、大袈裟だな」

 

「ここ!ここ座って!」

 

 リビングのソファーにはすでに彼女のグループの女子達が座っており、席を譲ってくる。

 

「こーら、あんたたち。天之河君が困ってるでしょ。絡むのもほどほどにしときなさいよ」

 

「え〜だって〜」

 

「まったく。じゃあ天之河君、まずはおしゃべりしよ!私たち、もっとお互いのことを知っておくべきだと思うの!」

 

「そうだな自己紹介でもしようか。まずは俺から……」

 

 よし、掴みはいい感じだな。あとはおしゃべりの隙を伺って席を立ち、リツカの仕込みを仕掛けるだけだ。

 

 

 

 

 

「じゃあ、俺はちょっとお手洗いに行ってくるよ。三人で待っていてくれ」

 

「あっ、うん!場所分かる?よかったら案内しようか?」

 

「いや、その気遣いだけで十分だよ。ありがとう」

 

 話にひとくくりついたので、ようやく俺は席を立つ。時間にして約三十分はしゃべりっぱなしだった。何故女子はこんなに話が長いんだろうか。

 

 そして、俺がまず向かったのはトイレではなく、二階のベランダのある部屋。ここと、あとは寝室のベットの下にある仕掛けを頼まれた。

 俺にはよく理解できない仕掛けなんだけど。

 

 俺が彼女に渡されたのは、綺麗な石にかなり崩したアルファベットのような文字が刻まれた、お守りのみたいなもの。

 こんなのが作戦の鍵になるとか、不安を覚えずにはいられない。

 この作戦は極めて重要なものだ。こんなおまじないじみた非科学的な方法で本当に大丈夫なのか、リツカに聞いてものらりくらりと躱されるだけであった。詮索禁止の一点張りで、答えようとしない。

 

 まぁ、リツカのことだ。きっと何かの意味がある行為なのだろう。俺とは違う次元のことが見えていそうな彼女の行動は時折かなり突飛だ。

 しかし実績と信頼が彼女にはある。今回もきっと、彼女の策に乗れば上手いこと行くだろう。俺は彼女を信じるだけだ。

 

 そう考えて、俺はベランダに続く窓がある部屋に指定された順で部屋の隅に石を並べて、窓の鍵を開けておく。

 ついでにこの家にある全てのベットの下にも石を放り込んでおく。

 

 これで俺の仕事はお終い。後のことは君に任せる。絶対に作戦を成功させろよ。信じてるからな、リツカ。

 

 

_______________________

 

 

 深夜二時。草木も眠る丑三つ時に、私はいじめの主犯の女子の家の前で軽くストレッチをしていた。

 へっぽこ魔術師の私だが、一般家庭への住居侵入くらいはやってやれないことはない。

 

 ……この方法、できればやりたくないんだけど、そうも言ってられない。一刻も早い事態解決が望まれる今、やり方にこだわることはしない。

 

 まず、何はともあれあの写真をデリートする。そうすることで、相手の最大の防衛線を白紙にする。じゃないと結局雫ちゃんにダメージが入るから。

 そのためにわざわざ不法侵入してウイルス仕込みに行くんだ。けど私にそんな経験はないから普通にやったら足がついて即お縄。

 

 じゃあどうするか。普通の手段でバレるなら、普通じゃない手を使えばいい。私はそれをよく知っている。

 私の切り札その一、ルーン魔術だ。

 

 これのいいところは、刻み手がへっぽこでも時間と知識さえあればそれなりのものに仕上がること。仕込む人間が刻み手以外でも特に問題ないこと。

 

 だから私が立てた作戦はこう。

 

 まず光輝くんがいい笑顔で目標に接近して家に上がり込み、事前に私が刻んでおいたルーンを設置。

 そして夜に私が魔術をフル活用して忍びこみ、彼女のスマホに、USBに入れといたウイルスソフトをダウンロードさせて画像データを消去する。

 

 でもなー最大の問題は私自身が魔術を使った工作任務が苦手なこと。今まで、こういうのはアサシンに任せっきりだったから慣れてないのだ。

 

 ……正直、今から緊張で心臓がまろび出そう。

 いや、弱気になるな!雫ちゃんのため!覚悟を決めろ、私。女は度胸!

 

E(エイワズ) U(ウル)

 

 スニーカーと服に刻んだ速力強化のE(エイワズ)、身体強化のU(ウル)を起動させ、塀に足をかけて一気に跳躍。

 雨樋のパイプを掴んで壁を駆け上がり、ベランダへジャンプして猫のように音を立てずに着地する。

 

 ふうー、いやぁマジで緊張したぁ〜!ミスったら流石に大きな音出るし気付かれるから慎重に素早い移動を心がけたが、普段しない行動に鼓動が高鳴る。

 

 もう一度深呼吸して呼吸を落ち着かさせ、今度はそろーりと窓を開けて侵入する。ピッキングは音出るし技術ないし面倒だし足つくしで今回は見送り。

 代わりにY(ユル)TH(ソーン)を組み合わせた人払いの結界を張って、そもそも鍵を閉めさせないようにした。

 

R(ラド)

 

 彼女の部屋に入ったあとは、探知のルーンでスマホの位置を割り出す。

 各人のベッドの下にはM(マン)という瞑想を促すルーンを仕込んで睡眠導入に使う応用技も使っているので近くを探ってもバレないだろう。

 

「おっ、発見発見」

 

 首尾よく見つかってよかった。私はUSBを差し込み、彼女のスマホから該当の画像と同じものを自動でサーチして消去するウイルスを入れる。

 こうすれば例えバックアップしてたり残りの女子二名と画像を共有していても自動で消せる。

 

 

 ……よし!これで任務達成。雌伏の時間はもう終わり。ここからは、反撃のお時間だよ。

 

 




ルーンは万能
原作には出てない文字ばっかだけど、使い手ごとに勝手に解釈していいそうなので好き勝手やってみました
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