「ワタシ」が型作られていくのを微睡の中で理解する。
嘗ての「私達」から「1人のワタシ」に存在が変化していく。
変化の終わった果てに嘗ての「私」は無い。
だが、不快感はない。
何故なら、其れは新たなるシンワの始まりなのだから。
______________________
「変わらない日々。其れはただの平和か、それとも嵐の前兆か」
「なあ」
「どちらにせよ我々は進まねばならん」
「おい」
「それがただ唯一の生きる道であるが故に」
「耳ある?」
「あるよ。だから良いこと言ってる時に邪魔しないでくれるかな、ディガー?」
「いや、カッコつけてるとこすみませんけどね、一つ言いたいことがあるんですよ」
そこで、漸くフェルディナントはリュディガーの方へ顔を向ける。
「なんだい?我が親友よ。僕の時間を使ってまでどうしても言いたいこと、と言うのを聞かせてもらおうか」
「辛辣ぅ!お前そんな性格だったっけ!?」
「冗談だよ。でも早く言ってくれないかい?」
「いや、お前…ハァ、もういいよ…」
フェルディナントの猛攻にどっと疲れが押し寄せてくるリュディガー。危うく前に倒れ伏しそうであった。
「んじゃ、言うぞ?………計画艦のことだよ。なぁ、普通の計画艦ってどれぐらいで建造完了するんだっけ?」
「一番短かったのはローンの半年だったね。一番長かったのはデータベースの記録上だけど、グローセで約一年半だったと思うけれど?」
「その通りだ。まぁ、大体の計画艦は一年ぐらいで建造が終了する。しかしなぁ…」
そこまで言ってリュディガーは顔の前で組んでいた手を解いて頭を抱えた。
「何で一年経っても全然進んで無いんだよぉ!
てか、漸く戦術データの入力が終わったところってどういうことだよ!」
「まぁ、饅頭達は悪く無いよ。彼らはとてもよく頑張ってくれている」
「勿論それは十分理解しているんだがなぁ。
……何にせよ遅い、遅すぎる。はぁ、資金繰りが大変だ…」
そう、開発には開発資金だけでなくその他諸々の費用がかかるのであった。
そんな中、饅頭という不思議生物のおかげで人件費だけは気にしないでいられるのはありがたいことだった。
「まあまあ、時間をかければかけるほどにその価値は高まっていくともいうじゃないか。
………それがKAN-SENなら尚更ね」
フェルディナントが慰めるもリュディガーは依然頭を抱えたままだった。いや、その手がだんだん顔の前に降りて来ている。
そしてそのまま両の手を組む。いつもの威厳のある組み方ではなく、掌底を合わせまるで神に祈るような姿勢になった。
「高速建造材は無いのかよ…
………おお、神よ!願わくば我に計画艦用の高速建造材を与えたまえ!」
「うわぁ…こんな事で神に祈る人がいたとは。
…まあ、仕方ないと言えば仕方ないかな」
リュディガーのその行いに少し引くフェルディナント。しかし共感するところがあったのか同情するように目を瞑った。どちらの顔も心労のせいか少々老けて見えるようだった。
そんな第二○一海軍基地のTOP2が揃いも揃って老い顔で佇む部屋にノックの音が響く。
2人は顔を引き締めると、すぐさま入室許可を出した。
そして、入って来たのはZ1だった。
「よぉ!指揮官。どうだ?楽しんでるか?」
そして開口一番、2人に朗らかに挨拶の言葉を発する。
「おぉ、よく来たな。まあ、いつも通りだよ」
「こんにちはZ1。いつも通り職務に励んでますよ」
「そうか。俺はいつも通りお前達との日々を楽しんでるぞ!」
Z1の屈託のない笑顔と共に放たれたその言葉に、2人は先程の雰囲気を忘れて破顔した。
「そうか、それは良かった。ん?その手元の手紙は何だ?」
「あ、そうだった。忘れるところだったぜ。
これが指揮官宛に届いてたから持って来たんだ」
そう言ってこちらに手紙を差し出すZ1。リュディガーはそれを受け取りながら、彼女の頭を撫でた。
「ありがとうな。気がきくのはいい事だぞ」
それを聞きながらもされるがままになっているZ1はとても嬉しそうだった。
「おう、次も任せろ!戦闘だけじゃなくて日常で気遣いも出来る、それがZ1様だからな!」
そう言って胸を張るZ1。しかしその双丘は見た目の年齢を反映したものだった。
故にその姿は子供が背伸びしているようにしか見えず、2人からすれば威厳よりも可愛さが立つように思えた。
「えぇ、次も何かあればお願いします。そうだ、お菓子食べますか?前に重桜に視察に行った時に買って来たものがあるんですよ」
「本当か!ああ、もちろん食うぞ。そうだ、妹達の分もお願いできるか?」
「ええ。たくさんあるので後で箱ごと渡しますよ」
そう言ってフェルディナントは隣の部屋から暗い色の四角い物体を持って来た。
「羊羹、というものです。かなり甘いお菓子なのでこちらの抹茶もどうぞ」
「感謝するぜ!____おお、甘くて美味いな」
「だろう?さて、俺も一つ貰おうかな」
うまそうに食べるZ1に自分も食べたくなったのか、羊羹をねだるリュディガー。
しかし、フェルディナントが突きつけるのは無情なる現実だった。
「ならその報告書を書きまとめてからにしましょうか?その後なら何切れでもどうぞ」
「なあ、やっぱり今日お前俺に辛辣だよなぁ!」
「はっはっはっ!やっぱりお前達面白いな!
____うげっ、苦いなぁコレ!うちの小さい子達には飲ませられねぇなぁ」
和やかな雰囲気を楽しむZ1。しかし出された抹茶を飲んだ瞬間、その苦味に顔を顰める。
ちびちびと何度か飲んで漸く慣れたようだ。グッと一息で飲んだ後、勢いよく立ち上がった。
「ご馳走様!美味かったぜ。あ、持って帰る奴にあの緑のは要らない。あれは苦すぎるからな。」
「わかりました。ですがやっぱり甘過ぎると思うので、代わりにほうじ茶を入れておきます」
「ほうじ茶?まあ、苦くなければ何でもいいぜ。出来れば袋に入れてくれないか?」
「ええ、構いませんよ。……はい、出来ました。落とさないように気をつけてくださいね」
「ああ、ありがとう。うちの子達が喜ぶぜ。
じゃあまたな!」
そう言ってZ1は元気いっぱいに部屋から出て行った。
そして、Z1と入れ変わるようにローンが入って来た。
どこか物欲しそうな顔をしながら2人の方に目を向けている。
「やあ、ローン。どうしたんだい」
「…………………………………羊羹」
「…っ!」
狂気に染まる双眸がフェルディナントを射抜く。その目線は全てが凍りつかせ、その狂気は身を焦がし尽くすようだった。
「黙ってたんですか?ねぇ、私にそのお菓子のことを黙ってたんですか?ねぇ、どうしてです?私に食べさせてくれないつもりだったんですか?私を無視しようとしたんですか?そんなの許せない……許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せないゆるせないゆるせないゆるせないゆるせないゆるせないユルセナイユルセナイユルセナイ…」
そして瞬時にフェルディナントの前に移動し、肩をガシッと掴んだ。その様子は蛇に睨まれた蛙、いや、肉食獣が覆い被さって草食獣を今にも喰わんとするようだった。
「………ユルサナイデスヨ?」
しかし、ここで怯んで何も出来ないほどフェルディナントの精神は軟弱なわけではない。
このようなことに対処出来なければ副指揮官など務まらないのだ。
「はい、あーん」
「あむっ…!」
急に出された黒い物体に思わずかぶりついてしまうローン。その瞬間、彼女の顔は先程までの表情が嘘のように綻んだ。
「これは…すごく甘いですねぇ。しかし、拗さはない甘さです。如何にも"重桜"という感じの上品なお菓子ですね。」
「とある駆逐艦の子には不評でしたが、やはりその羊羹の後には抹茶が最適だと思うのです」
そう言って、ローンの前に緑茶を差し出す。
受け取ったローンはそれを物珍しそうに見ながら一口ズズッと啜った。
「この苦味で羊羹の甘さの余韻が引き立ちますねぇ。とても美味しいです。この抹茶と羊羹、また貰えますか?」
「えぇ、構いませんよ。後で渡します」
「ふふっ、ありがとうございます」
ローンの機嫌が持ち直したのを見てフェルディナントは気づかれないように大きく息を吐く。
そして、その様子を面白そうに見ていたリュディガーはそろそろ本題に入ろうと歪めていた口を開いた。
「さて、ローン。そろそろ本題に入りたいんだがいいか?」
「えぇ、いいですよ指揮官。何でも聞いてくださいね〜」
食べている間ずっとフェルディナントの肩を掴んでいたローンは漸くリュディガーの方を見た。
ローン。彼女は鉄血の艦船であり、同時に計画艦のうちの1人だ。
まず鉄血の計画艦、架空艦とも言う、について説明する。
基本的に架空艦はどのKAN-SENも強力な力を持っている。
それ故に鉄血は、他の陣営への情報漏洩がないように情報規制を行っている。その対象には同盟関係にある重桜も入っており、鉄血が架空艦という存在に対しかなり重要視していることが分かる。
そして、開発艦計画に携わるのはその秘匿性故、上層部の一握りと一つの艦隊のみなのである。
つまり、それが第二艦隊という訳だ。
その中でも第二○一海軍基地でしか架空艦の建造を行っていない。第二○二海軍基地以下では架空艦の研究やデータ分析、兵装開発、そして架空艦のデータを元にした技術開発などを行っている。
技術開発による成果には例えば"B.B.弾薬"がある。正式名称は"架空砲撃弾薬"だ。
これはKAN-SEN達が戦闘中に弾薬切れになってしまった時、本来の威力には程遠いが新たに弾薬を装填することができる、というものだ。
架空存在から発せられる波長パターンを解析し、実態がなくともそこにある、という事実だけを抽出するという技術によってイメージ上の弾薬という形に押し込めているのだ。
これにより敵艦隊との戦闘で弾薬切れに陥った時でも戦闘継続でき、帰還率も大幅に上昇した。
ちなみに他陣営でも同じような技術が開発されており、そのデータ元もやはり架空艦だったりするのである。
さて、話を戻すと今まで特別計画艦はローン、フリードリヒ・デア・グローセ、マインツ、オーディンそして、ドレイクの公開された全てのKAN-SENを建造している。この内ローン以外はリュディガー達が着任する前に建造されており、今は他の基地に派遣という名目で所属している。
そして、最後に建造されたローンはそのままリュディガーの指揮下に入ったのである。
そのローンが今回何故呼び出されたのか。
その答えをローンも薄々勘づいているのかその顔に疑問の色はなく、リュディガーに対し穏やかな笑みを浮かべているだけであった。
「今回の本題は、特別計画第三期6番艦についてだ。便宜上これからは36艦と呼称する」
「あぁ、一年前から開発が開始されたKAN-SENですねぇ。確か、名前や能力といった情報が何もわからないとか」
「その通りだ」
ローンの確認の言葉に首肯するリュディガー。そしてここからが大事なことだというように身を乗り出す。
「36艦は一年前から開発を継続しているが、未だに建造途中の代物だ。情報の開示も無い。
そしてローン、お前に聞きたい。お前は今回の計画艦をどう見ている?」
「どう見ている、とは?」
言葉は疑問の体でありながらも、その顔はどこか愉快さを含んだ表情に見える。少なくともそこに疑問の色はない。
「本来ならば埋められるはずのないエンプティスペース。それが埋められた。それがどういうことかお前なら理解しているのではないか、ということだ」
「お前も含めて架空艦とは本来ならば存在しないものだ。それが存在している。私はそこに違和感を覚える。
何故上層部はそんなものを作れた?セイレーンとの戦いでは確かに有用だ。しかし、どうやってそんな技術を開発した?そして、そんな秘匿すべき技術を何故内外に発表したのだ。あの時は同盟関係にあったとしても、無から有を作り出す技術はそれだけで世界の覇権を握れる代物だというのにそれを大した見返りも無く国外に公開した」
ここまでローンは怪しげな微笑みを浮かべながらリュディガーを見ている。何も言わないということは、この答えはあながち間違っていないのだろう。
そしてリュディガーはそのまま話を続ける。
「何度も言うがその技術は世界を獲る力がある。というか、無から有を作り出すというのは最早神の所業だ。だからこれは本来ならば秘匿されているはずの技術なのだろう」
「では、そんな秘匿されているはずの技術は何故公開される必要があった?そこに俺は一つの仮説を立てた」
そこでリュディガーは机にあったコーヒーを手に取り口に運ぶ。そこに口を挟んだのは、今まで静寂を保っていたフェルディナントだった。
「ここに貴女達の開発記録があります。そして、ここの項目を見てください」
そう言って指さしたのは何らかの数値が打ち込まれている表だった。
「これは貴女達架空艦の存在値、ここでは存在しているときに発する波長の大きさを数値化したものだと思ってください、貴女達のそれは普通のKAN-SENと比較して遥かに高いのですよ。
そして、次のページを見てください」
ローンが紙を捲ると、同じように他のKAN-SENの存在値が記載されていた。
ただし、その数値は異様なほどに小さ過ぎるものだった。
「この数値は?」
入室以来ずっと張り付けたような笑みのままだったローンの顔に困惑の色が広がった。
「36艦の船体構築完了時、すなわち建造過程の8割完了した時における存在値、その試算ですよ」
フェルディナントの言葉に先程までの余裕のある雰囲気から一転、ローンは頭を抱えてワナワナと震え出した。
「これが…?ありえない…なにかの間違いではありませんか?………私達の…未完成であった私達の…漸くこの渇きから解放されると思ったのに…こんなのはあまりにも…あまりにも残酷ではないですか!!!!!」
「落ち着け!しっかりしろ!」
突然のローンの凶行に驚くも、肩を支えて落ち着くように言い聞かせる。
長い時間にも思えるようで実際には1分も経っていない短い時間の後、漸くローンの目はリュディガーの顔をしっかり捉えた。
「………あぁ、すみません。もう大丈夫です。
でも、もう少しこのまま…出来れば、一生」
「そんな冗談が言えるのなら、もう大丈夫だな。ほら、離れろよ」
「えぇ〜、そんな殺生な〜」
いつの間にかいつもの笑みに戻っているローン。側でそれを見ていたフェルディナントには執務室に漂っていた異様な狂気が霧散するのがよくわかった。
「…さて、そろそろ聞かせてもらっていいか?
お前が知っていることを」
「わかりました。では、お話ししますねぇ」
落ち着いたローンから聞かされた話は、彼らの想像を絶するものだった。
___私達計画艦は、かの世界では建造どころか設計図も不完全な状態で建造中止となった船なんですよ。それ故、私達の力は"想像による補完"がなされています。
ところでお二人とも、子供の頃"僕の考えた最強の〜"みたいなことを考えたりしませんでしたか?
あぁ、いえ、別に恥ずかしく思うことはないですよ。"オトコノコ"なんですからね。ふふっ。
では、そんなことを考える時って、1から全部1人で考えられますか?
まあ、大体は無理ですよね。殆どがどこかで見たような武装だったり、外見だったりを取り入れます。
それと同じですよ。
私たちが持っているのはただそこに"あったかもしれない"という"伝承"、それと建造中止時点での情報ぐらいです。
まあ、わたしに至っては構想段階の設計案しかなく、あったのは取り付けられるはずだった武装の設計図だけだったんですけどねぇ。あはは。
……そんな悲しい顔をしないでください。それが私が存在するという唯一の証拠だったんですから…。
で、そんな私たちなので全員が想像による補完で史上の船よりも強くなっています。
まあ、いわば私達自身が"僕の考えた最強の船"ということになりますね〜。
そしてそんな私たちの最後、つまり36艦は私たちの終着点として建造されるんです。
36艦は我々のような"あったかもしれない"を想像で補完したものではなく、"あったらいいな"を想像で肉付けした船なんですよ。
つまり、想像力100%の最強艦船ってことですねぇ。どこの少年誌の主人公なんですかそれは。
んんっ!まあ、そういう訳でして、終着点たるその船は常に最高、最強、最大でなくてはならないんですよ。難儀なものですね〜。
ですが、その強さ、存在値でしたか?それは計画艦ですら無い普通のKAN-SENにすら及ばない。
それすなわち、私たちの存在する理由に反する、ということなのです。
何故なら、私たちがソレを作る最強たらしめる為の試金石だからです。
だから私は混乱した、ということですね〜
__ここまで私を、私達を愚弄するのか、とね。
静かな熱を秘め、流れるように語ったその話は、彼らにどのような感情をもたらしたのだろう。
そう思って語っている間とじていた目をそっと開く。そして、そっと2人の顔を見た。
その瞬間、その心の裡に溢れんばかりの悦びが溢れ出た。
その目に入った2人の顔に表情はなく、どちらもただ、こちらを見るのみであった。
しかしその目は、その胸中に抱く熱情を映していた。
この2人が、私を、心の底から見てくれている。
その事実が、私を、体の内から火照らせている。
その熱の何と甘美なことか。
どうしようもない私の、どうしようもない現実を、どうしようもなく足掻いて、そしてどうすることもできない。
その虚無感こそが私に安寧をもたらしてくれる。
ああ、それこそが私の___________
「なんか悦に浸ってるところごめんなさい。見せたいものってこれだけじゃないんですよね」
その言葉でローンの意識が引き戻される。それでも、その脳内は熱によって浮かれたままだった。
「とりあえず、次のページを捲ってください。実を言うと、これが見せたかった情報です」
熱に浮かされたまま、何も考えることなくその言葉に従うローン。
その瞬間、水を大量にかけられた時のように、ローンの身体から急激に熱が引いていった。
「完成時の存在値が…ゼロ?」
「えぇ、その通りです。36艦の完成時の存在値はゼロ。この数値は存在する限りあり得ない、あり得てはいけない数値です。それこそ、存在値がマイナスになるよりもずっと」
そう言ったっきり黙り込むフェルディナント。そして、先ほどのように狂乱することはないが、考えるそぶりを見せるローン。そこで口を開いたのは、今まで黙りこくっていたリュディガーだった。
「さて、ここで俺の仮説を聞いてくれ。今までコイツが言っていたことも頭の中にとどめながら、な」
そう言って、一つ一つゆっくり語り始めた。
___さて、確か何故上層部は架空艦というような既存の技術を大きく凌駕する技術を公開したのか、だったな。
俺は、この技術は本来秘匿されているはずのものだったと言った。
ここで注目すべきは「秘匿されているはず」というところだ。
「されているべきもの」ではなく「されているはずのもの」と言ったことには理由がある。
「されているべきもの」というのはそこにそれをしなければならない、という必要性がある場合に使われる。
それに反して、「されているはずのもの」はそれをするのは当然で、それをしないのはありえないということだ。
本来の歴史では、存在しなかった事象。それがお前たちを生み出す「架空艦技術」というわけだ。そして、今、それが公開されている。それはあり得ないことだ。つまり、あり得ないことが起こるほどの理由があるということになる。
その理由はわからないが、一つだけわかることがある。
お前たち架空艦、そしてKAN-SENが存在するということには何らかの明確な意味があるということだ。それは恐らくセイレーンも例外ではない。
まあ、セイレーンとの結び付けに関しては、KAN-SENの出現時期によるこじ付けに過ぎないがな。
だが、俺はこの仮説にある種の確信めいたものをもっている。恐らく、上層部が我々にKAN-SENについて開示していない情報がある。そして、それこそがこの仮説を真実たらしめる鍵であると俺は考えている。
「とまあ、これが俺の仮説だ。上層部の仮説の中には、セイレーンの技術力が現在の技術では再現不可能なことから、奴らは未来から来ており、未来では勝つことのできない敵がいるために過去の俺たちに力をつけることで対処しようとしている、という説があるがな」
そこまで言ってリュディガーはローンの様子を見る。彼女もまたリュディガーの方を見ていた。
その様子は真剣そのもので、一字一句しっかりと聞いているようだった。
それを見て、最後に36艦について述べようとしたその時。
「っ!これは?」
「非常警報です!クソッ!一体何があったんだ!セイレーンか!?」
「とりあえず、事態の確認だ!各員、状況報告!」
全員が慌てる中、リュディガーは机に取り付けられたスイッチを押しながら事態の確認を命じる。すると、すぐに執務室に通信が入る。
『こちらペーター・シュトラッサーよ。現時点でセイレーンの侵攻は確認できない』
「ありがとう。ほかに気づいたことはないか?」
その時、ペーターとは違うもう一つの声が回線に割り込み、質問に答えた。
『こちらビスマルク。どうやら開発ドッグにて原因不明の衝撃波が発生したようだ。ただ今そちらに急行している。あと、現場近くの饅頭達や非戦闘員に避難命令を頼むわ』
「了解だ。俺達も直ちにそっちに向かおう」
進言の通りに命令をした後、リュディガーはフェルディナントとローンの方を向く。
そこには艤装を展開させたローンと身一つで向かおうとするフェルディナントが居た。
「話は聞いていました。直ぐに向かいましょう」
「道中の護衛をしますよー」
リュディガーは支度の早過ぎる2人に呆れると同時に彼らの姿に頼もしさを覚えた。
「ああ、行こうか。それとローン、そのままじゃ扉を通れないぞ」
「私の道を阻むのなら、扉といえども容赦はしないですよ」
小気味の良い言葉の応酬に笑い合う2人。軽口を言い合えるくらいには冷静になってきたところで、今の状況を考える。
「さあ、行きますよ。ローン、先導は任せます」
「了解しました。では行きますよ〜」
ローンの言葉を皮切りに3人は部屋から走り出していった。
______________________
私は他のKAN-SEN達に避難指示を出していた。それが粗方終わり、今は練度の高いKAN-SEN達を引き連れて開発ドッグに向かっていた。
並走するティルピッツが私に顔を向ける。
「姉さん、一体何があったというの?…いつもの母港とは空気が違う」
肌に感じる威圧感。それを我が妹も感じたようだ。戦場とは違う、表現し難い空気の重さにどうやらいつも以上に口数が減ってしまっていたようだ。すぐさまいつもの口調で返答する。
「わからないわ。でも、恐らく指揮官達も動いていることでしょうし、心配することはないわ」
「…そうね。あの人達なら大丈夫か」
会話をしている間にも疾走し続ける。そして開発ドッグの正面まで来た。しかし、私たちの足はそこで止まってしまった。
別に足が動かないわけではない。ならば何故止まったのか。
それは、私たちの目の前で起こっていることが私たちの想像以上のものだったからである。
崩壊する開発ドッグ。
そこだけ違う世界であるかのように、赫く変わった世界。
空には名状し難い色彩の多重の円環が広がっている。
その中心にあるのは、
「…光の…翼?」
見たこともない大きな人型の物体が光り輝き、その物体から出た光はまるで翼のように思われた。
「…なんなのあれは?」
思わずと言った様子で呟かれたその言葉は、赫い世界に掻き消される。しかしそんなことも気にならず、ただあの光の巨人を見続ける。目を離してはいけない。そんな確信を胸に抱きながら。
______________________
誰かが呆然と何かを呟く声が聞こえる。しかし、それが気にもならないほど目の前の光景に圧倒されている。
「あれは…いったい何なんだ?…ルディ」
あまりの光景に自分で考えることを放棄してしまった。だが、その問いに答える声は無い。
どうやら彼もこれに圧倒されてしまっているようだ。
誰も喋らない、ただただ圧倒される状況でただ1人、嬉しそうに口を開く者がいた。
「かの世界の再現を超えた新たな可能性の誕生」
まるで祝詞のように、全てを祝福するように。
「その祝福は人類に福音をもたらす」
ローンは滔滔と語り続ける。
「そう…これは歴史の改変。そして、新たな歴史が始まる!」
その顔を歓喜に歪め、最後の文言を言い切る。
「世界が、変わるんですよ」
そして、ローンはそれっきり黙りこくった。
その言葉を聞いていたリュディガーを含め、その場にいる者は皆動かない。全員がただ、何かが変わるのだという雰囲気を肌で感じるのみだった。
それ故、その直後に起こったことに誰も反応できなかった。
ビュンッ!と音を立て、何かが視界の端から飛び出した。それは真っ直ぐ光の巨人に向かって飛んでいき、そのまま貫いた。
その瞬間、目の前が光で満たされ思わず目を覆ってしまった。
そして、次に目を開けた時、そこにはいつも通りの空と空気があった。思わず夢だったのかと思うのも束の間、崩壊した開発ドッグが目に入り、それが現実だったのだと思い知らされる。
いったい何があったのだと周りを確認しようとする。そして、先ほどまで光の巨人がいた場所の真下。そこにソレはいた。
すらりとした肢体。そして、濃青の髪に包まれたその顔はやはりKAN-SEN達共通の美少女と言える。しかし何処か神聖さを感じさせ、近寄り難い雰囲気を持っていた。今は閉じられている瞼がも彼女の神聖さを引き出している。
そしてその腕には、先ほどの景色を凝縮したような赫い槍を抱いている。その形状はシンプルで、両端が尖っており、螺旋模様が浮かんでいるのみであった。その槍を見ていると、どうしても目が離せないという気分に襲われる。しかし、そこでリュディガーはハッと正気に戻った。
彼女は服を着ていなかったのだ。
リュディガーは今ほど自分のヘタレさに感謝したことはない。
そして正気に戻った直後ではあるが、すぐに周囲に指示を出す。
「フェルディナント!しっかりしろ!いいか、まずは怪我人の確認だ!ビスマルク!他のKAN-SEN達と共にそこにいる少女の保護!残った者はフェルディナントの指示に従え!」
その言葉を聞いたフェルディナントとビスマルクがすぐに動き出す。その2人に遅れて、皆が一斉に動き出した。
それを見ながら、リュディガーはこれから来るであろう波乱にため息をつかざるを得ないのであった。
______________________
海域座標???
「漸く…漸く"救い"が現れた…!あれらを打ち倒す、大いなる力が!」
「ああ、ああ!"審判者"さま!これで…これで私たちの悲願が叶いますわ!」
「私が、未来へ届けます。あの"神殺しの力"、"創造の槍"を、貴方さまへ」
「だから待っていてくださいね?"審判者"さま」
やったー!一万字超えた!いやー、時間なかったけど頑張った。
ヴンダーちゃん、次の話ぐらいで漸く出るとか言ってたけど、今回で出てくれました。…喋ってないけど。喋ってないけど!
次回、ヴンダーちゃんの着任式です。
ちなみに、ヴンダーちゃんの見た目はシンエヴァの最後に出てきたレイさんぐらいで髪の色と服は葛城艦長的な感じです。(帽子なし)
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