そして、今回はかなり短いと思います。
次はもっと早く投稿できるように頑張ります…!
大講堂。そして、今居る広間はその名からは想像できないほどの絢爛豪華な内装だった。白塗りの壁や天井には蔓のモチーフを主とした金色の装飾が施されている。壁面には海戦に臨む艦船を主題にした絵画や神話の一場面を描写した絵画、そして歴代の指導者達の肖像画が掛けられている。その中にビスマルクのものもあり、そこに佇むのはまさに完全無欠な鉄血の指導者、といった風格を感じさせるものだった。決して、上官達の会話を聞いて興奮する様な変態さは微塵も感じさせない。
そしてその大広間には、今、多くのKAN-SEN達がひしめき合っていた。恐らく、この母港に居る全KAN-SENがここに集っているようだ。それぞれが手にグラスを持って仲間との会話に興じている。ビュッフェ形式のため、これ幸いと喰らい尽くす勢いで料理のあるテーブルを渡り歩いている者もいた。
何故、今日これほどの数のKAN-SEN達がここに集ったのか。それは、他でもないこの私の母校着艦を祝うためだ。
覚醒してからここまで色々なことがあったが、ここまで展開が早いと流石の私でも流れに身を任せるしか無かった。
現に私は今、ニーミさんに腕を引っ張られながら他のKAN-SEN達に挨拶に回っている。顔を合わせて一言二言言葉を交わして、すぐに次に向かう。息を吐く暇すらすらない程の忙しさだ。
そして、もう一つ悩みの種がある。
KAN-SENは見た目に不相応ながら常人の何倍もの膂力を持っており、いつもはそれをセーブしているが戦闘時にはその力を解放している。そしてそれは隣を歩くニーミさんも例外ではない。それ故にニーミさんが思いっきり掴んでいる左腕が何気に痛いのである。KAN-SENである私が痛い、ということは成人男性であれば圧砕されているほどの力が込められているということだ。何に焦っているのかは分からないが痛いのでそろそろ離してほしい。
「最後はビスマルクさんに挨拶をしておきましょう。それが終わったら、今度は一緒に美味しい料理を食べましょうね」
私の心中を知ってか知らずか、ニーミさんはとびきりの笑顔を携えて、私の腕をより強く握る。
どうやらまだ離してはくれないようだ。
遠い目になりながら、ニーミさんに引っ張られて少女らの間を進んでいくと、妙に人の少ない場所に躍り出た。そして、目の前に立ってのは黒い礼装を着こなした、金髪の麗人だった。
「この人がビスマルクさんです。KAN-SENでありながらこの国の指導者でもあり、鉄血の中で一番偉い人なんですよ!」
ニーミさんがそう紹介した女性、ビスマルクさんはその口元に微笑を湛えながらこちらに歩み寄ってきた。しかし、私は彼女がこちらを見た瞬間、その表情が少し強張ったのを見逃さなかった。
「ふむ……あぁ、卿は確かあの時の。もう具合は大丈夫なの?」
「えぇ、もう大丈夫。迷惑を掛けたわね」
「迷惑なんてことはないわ。我ら鉄血は戦友を決して蔑ろにしない。仲間を助けるのは当たり前のことよ」
「そう………貴女のような指導者が居る場所なら、この母港はきっと素晴らしい場所なのね」
「ふふっ、ありがとう。しかし、その賞賛は私だけのものにするには少し重すぎるわ。私だけではなく、ここに居る彼女達やここを支える鉄血の人間達、そして指揮官達のおかげでもある」
「そういうことが言えるからこそ、貴女は指導者として皆に頼られているのだと思うわ」
「褒めすぎだわ…………
…だが、ありがとう。誰かに認められる喜びを久しく感じていない我が身には、これ以上ないほどの賞賛だったわ」
そう言って彼女はこちらにその手を差し出した。私は迷わずその手を握り返す。
彼女は含みのない、純粋な笑みを浮かべてこちらを見つめている。最初こちらを見た時に見せた表情の強張りはもう見られない。これで彼女とは良い関係が築けそうだ。
「終わりましたか?終わりましたよね!ではヴンダーさんはもう連れて行きますよ。それでは!」
先ほどまで黙って見ていたニーミさん。どうやら何かがお気に召さなかったようだ。若干眉を顰めながら、また私の腕を掴んで引っ張ろうとしている。
その様子にビスマルクさんは最初は驚いていたが、何かを察したようで苦笑しながら握手していた手を離した。
「ちょ、ちょっと、ニーミさん?まだ話は終わってないの…」
「いや、もう終わりましたよね?それに、なんで私のことをさん付けで呼ぶんですか!呼び捨てにしてください!」
「いや、会って間もないのにそんなこと…」
「呼・ん・で・く・だ・さ・い・!」
「いや、しかし…」
「ふふふっ、あっはははははは!」
堪えきれないという様子で笑い出すビスマルク。それに驚いたのかその近くにいるKAN-SEN達は全員動きを止め、笑い続けるビスマルクを凝視している。そして漸く落ち着いたのかお腹を押さえながらも、こちらを見据えて口を開く。
「ヴンダー、諦めて名前で呼んであげなさい。いずれ呼ぶつもりなのならば今から呼んでもいいはずよ。ついでに、私の事もビスマルクでいいわよ。ふふっ」
未だ笑い続けるビスマルクを置いて、先ほどよりもちょっと不機嫌になったニーミに引っ張られながらその場を離れていく。そしてその後、そのパーティの間はずっとビスマルクの笑い声が私の耳から離れないのであった。
______________________
母港沿岸部 近海演習場
雲ひとつない晴天。水面が太陽の光を反射して、キラキラと輝いている。ここは、母港にある隠れた絶景スポットだ。
そして、心地の良い風がその景色を眺める者達の頬を撫でる。
「今日もいい天気だな!まさに演習日和だ。そう思わないか?」
「僕もそう思うよ、ディガー。けど今日は演習じゃなくてヴンダーの武装確認だけどね」
そう言って、フェルディナントは同じように景色を見ていたヴンダーに顔を向ける。
「えぇ、とりあえず"船体"を出して貰いましょうか」
「早く見たいですねぇ。……できれば、この後お手合わせ願いたいです〜」
ここに来ているのは、リュディガとフェルディナントに加えて、ビスマルクとローン、そしてヴンダーの5人だった。フェルディナントの言葉通り、彼らが今回ここに来た目的はヴンダーのかの世界での姿の確認、そして彼女の武装の確認だ。
「ルディ、計測器の準備を。ヴンダー、いけるか?」
「ええ、大丈夫よ。ありがとう、私の我儘を聞いてもらって」
「構わないさ。その方がより確実なデータが取れるんだろう?それに、この程度の労力なんてあって無いようなものだしな」
「ディガー、計測器の準備ができたよ。全て正常だ。いつでもいける」
「分かった。さて、始めよう、ヴンダー」
各々がそれぞれ配置につく。フェルディナントは少し離れた場所で電子機器を並べ、データを取っている。その横にはスキルでバリアをはれるローンが護衛として張り付いている。そして、リュディガーとビスマルクは彼らよりも海に近い場所におり、そこから少し前方の崖ギリギリにヴンダーが立っている。
「いつでもいいぞー!とりあえず最初は"船体"を出してくれー!」
「了解した!ではいくわよ!」
その声に計測を始める機器。
世界最強の戦艦がその姿を見せる瞬間をその場にいる面々は固唾を飲んで見守っている。
そして、儀式が始まった。
ヴンダーはその手に赫い槍を顕現させる。
それを両手で持って掲げたかと思うと、
思い切り、槍を自らの胸に突き刺し、海に飛び込んだ。
______________________
俺はその光景に言葉が出なかった。
始まりはあの時、ヴンダーがその胸に槍を突き刺した時だ。一瞬思考に空白ができて、それを脳内で理解した瞬間、俺は思わずヴンダーに駆け寄ろうとした。
想像していない出来事に、事前に聞いておけばよかったと後悔する。とりあえず応急処置をしなければと思ってビスマルクを呼ぼうとしたその時、大きな衝撃波が俺の体を襲った。それと同時に海水が衝撃波によって打ち上げられたようで、霧となって視界を妨げる。
いったい、何が起こったのか。
そう思って周りを見渡そうとしたその瞬間、風が吹き荒れて全ての霧を吹き飛ばした。
そして目を開けたその瞬間、それは現れた。
その全長は、普通の艦船の十倍はあるだろうか。少なくとも、測る単位がメートルではなく、キロメートルであることは間違いない。その三胴の左右には鳥の翼のようなものがあり、大きく広がっている。腹部は白い骨状のもので構成されていた。白い骨状のものは後端まで続き、後ろに行くにつれて細くなっている為、尾のようにも見える。前方は鳥の顔のように先が尖っている。全体的に見ても、その姿は鳥によく似ているように思う。その少し下に目がたくさん集まったように見える部分がある。そして、上部には今までに見たことがない程の大きさの艦砲が左右に二機ずつあり、さらに艦砲の後ろと尾の付け根あたりに大きなアンテナのようなものが計3機ある。
とりあえず、何が言いたいのかというと、
ただただ全てが圧倒的なほどにデカい。以上。
「あれは……いったいなんなんだ」
その声は誰のものか。そんなことすら考えられないほどのものが、今、目の前にある。
それは隣にいるビスマルクを同じようで、息を呑む雰囲気が伝わってくる。後方にいるフェルディナントとローンも同じように、驚いて言葉も出ないのだろう。しばらくその場には計測器のアラートが鳴り響くのみであった。
そして、先ほどまで彼らが聞いていた声が、彼らの耳に届く。
『"無人式全自動方舟AAAヴンダー"………これが私の姿。
………そして、これこそが"神殺しの力"なのよ』
聞こえてくる声が頭の中で言葉をなす。それをゆっくりと反芻した。彼女のことを理解する為に。彼女のことを受け入れる為、そして______
(自分の名前を、そんなに辛そうな声で言うなよ…)
ある程度考えがまとまった後、しっかりと彼女、ヴンダーの船体を目に捉えながらはっきりと告げる。
「よし!分かった。じゃあ、次は武装確認だな。とりあえず色々説明してくれるか?」
『へっ?…………えぇ、うん……分かった…わ?』
場の温度を戻す為に敢えて明るい声を出してたのだが、返ってきたのは気の抜けた返事だった。
そして後方と横からの目線をひしひしと感じる。
だが、ここで負けてはならないのだ。押し通す為に、周りに指示を出す。
「フェルディナント!計測終わったか?終わったのなら、ローンと一緒にこちらに来てくれ」
「ディガー、君は………やっぱり君の、その豪胆さは真似できないね…」
呆れたような声が返ってきた。まあ、奴なら俺のしたことの意味を察してくれるだろう。そして、さっきから怪しい雰囲気でハァハァしているローンのこともあいつに任せてしまおう。ちょっとこれ以上の負荷に俺の頭は耐えきれない気がする。
さて、諸問題が解決した(押し付けた)ところでもう一度ヴンダーに確認する。
「さて、ヴンダー。先程の話の続きだが、お前の武装を説明してくれるか?」
『貴方って、案外大物なのかもしれないわね…』
「失礼な。俺は一応、同年代からしたら出世頭なんだぞ」
『ああ、もう分かったわよ。あと、説明のことだけど、艦内でしましょう。立ちっぱなしというのもなかなか辛いでしょうし。指示を出すからそれに従って中に入って頂戴』
「分かった。案内は頼んだぞ」
ヴンダーに了承の意を示した後、今度は後ろを向く。
「おーい、お前ら!後の話はヴンダーの艦内でやることになった。だから、ビスマルクとローンのどちらかが"船体"を出してくれ」
その場にいる2人のKAN-SENの名前を呼ぶ。
すると、ビスマルクが若干食い気味に返事をしてきた。
「なら、私に任せて。すぐに出すわ。
………というか卿、私の存在に気づいてたのね。何も言われないから、私って実は影が薄いのでは、と思ってしまったわ」
「え?………ああ、そうか。そうだな。うーん、いや、別に、妹の方が見た目的には印象的だなー、とか思ってないぞ?金髪巨乳なのに、全体的に黒が多いせいでなんだか暗い、ぶっちゃけると喪服に見える、とも思ってないとも。全然全く」
「ぶっちゃけてしまったら、それはもう思ってると言ってるのと同じなのよ!
…というか、喪服って………喪服……喪女……」
「おいおい、冗談だって。しかし俺はそんなところもビスマルクの美しさや可愛さを引き立てていると思うぞ」
「喪服女…もふ…もふくもふもふ……今なんと?」
「いや、だから可愛いって…」
聞き返してきたのでもう一度同じことを言うと、ビスマルクはキョトンと目を瞬かせた後、納得したように頷いた。
「……ふふっ、そうか。まあ、お世辞でも嬉しいわ」
「お世辞じゃ無いんだが………いや、そんなに顔を赤くするなよ」
それを言った瞬間、ビスマルクは瞬時にこちらを向く。目を見開き、口を開けたり閉じたりと忙しなくしている。どうやら声が出ないようだ。
『……そろそろいいかしら?見せつけられながら待っているのも辛いだけなのよ』
グダグダとしているうちに痺れを切らしたのであろう。呆れたようなヴンダーの声が響く。
「すまん、待たせた。もう行く。
ルディは…まだローンと格闘してんのか……」
「あはっ!あはははははははははははははっ!」
「ローンっ!くそっ、菓子でも持ってくればよかった!正気に戻ってください、ローン!ちょっ、そこはだっ…ロォォォォォォォン!!!」
後ろを見ると、ローンと取っ組み合いになっているフェルディナントの姿があった。思わず見なかったことにしたくなったが、そろそろフェルディナントの息の根が止まりそうだったので止めに行こうと覚悟を決めた。
『……ねぇ、まだなの………?』
そして、その場にもう何度目かのヴンダーの呆れをを通り越して、もうつらい、というような感情を含んだ声が届く。
それを聞きながら、心からこう思った。
「…………あぁ……空って本当に、綺麗だなぁ」
混沌の広がるこの地から見る空は、どこまでも美しく、綺麗で、俺の視界を満たしてくれる。
少なくとも、目の前のアホらしい、そして面倒くさいこと極まりないであろう取っ組み合いよりは断然綺麗だ。そう思える。心から、本当に。
______________________
海域座標???
「…………漸く……漸く目覚めたか」
その声には強い安堵の色が滲んでいる。その胸中に溢れた感情を沈めるように静かに息を吐く。
そして、そこに新たな影が現れた。
「ふむ、これにアンチエックス共はどう反応するのであろうか」
「喜び勇んで接触するのでは無いか?
……まあ、目指す所は奴らと同じだ。我々もいずれ彼女に会う時が来る」
「そうか、今のところはそれでよかろう。
……しかし、彼女のそばにいる■■■はどうなっておるのだ?奴の"兆し"は、既に周りにも影響をもたらしているのであろう?」
「ああ、しかしまだ焦るほどでは無い。■■■が蘇るのは彼女の中にいる●●●を奴自身が気づいてからだ。そして、それはまだ来るはずもない」
「そうか。……しかし、アンチエックス共が何かやらかさなければいいのだが…」
「それについては大丈夫だろう。あの方がお造りになられたアビータシリーズが記録機構へ渡る情報を制御しているからな。そして、奴らに入力されているのは、■■■の情報のみ。●●●には気づくはずもない。それに、この世界は前提事象からして奴らの知るものとは違う。おそらく、入力された■■■の情報についてもこの世界軸の事実とは全く違う内容だろう」
「別の世界軸で作られた奴らが、この世界軸のことを知るはずもなし、か。
………しかし、それも業腹だな。この世界軸を守ろうと身を挺したのはオースタとアンジュの両名でなく、イ……」
「そこまでだ。ここはまだ安全とは言えない。それに、その名を出せば奴らの記録に矛盾が起こってしまう。あの方はまだここには存在していないからな」
そこまで言ったところで、制止の声がかかった。
その制止にハッとなった後、すぐにその頭を下げる。
「…すまぬ、少々気が抜けていたようだ」
「構わない。漸く、救いを得たんだ。浮かれてしまうのも無理はない。
……さて、とりあえず■■■に接触するのは彼からの連絡が来てからにしよう」
「彼………"マグダラのユダ"、か。奴は信頼に足る者なのか?」
「あれはたった一人のエックスの内通者だ。信じるより他に道はない。
……さて、話はここまでだ。早く安全海域に移動するぞ」
「…了解した。先を急がねばな」
次の瞬間、二つの影は夜の闇に消えていった。そこに月の光が照らされるも、物影一つなく、ただただ水面が揺れるのみだった。
オリジナル設定
船体 KAN-SENのかの世界での姿。アニメ版で母港に停泊してたり、赤城さん達が乗ってたりするやつをイメージしてもらえれば。
本文6666文字。なんだか不吉な数字だなぁ…(訳:次の投稿も遅れるかもしれません)
次回予告
その姿を見せたヴンダー。持っている力は驚くべきものだった。それに対し、リュディガー達は何を思うのか。
次回 大いなる力
次回もお楽しみにネッ!
………しっかし、綾波ちゃんはどこにいったのかしら?
(現在ゲームに熱中している模様)