無常の理、神焼きの焔   作:風剣

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炎の化身

 

 

 

 

   禁帯出 大赦神秘研究部:秋葉10代目火継ぎ秋葉焔に関する経過報告 第8号

 

 

 神世紀297年、齢12での元服を迎えて以降祝福を授ける神性である火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)主導での鍛錬が始動。同年10月18日時点での経過観察においては歴代の火継ぎが発現させた奇跡のなかでも3代目の火継ぎである秋葉鈥夜の消えぬ炎「燼滅」、5代目の火継ぎ秋葉灯迦の治癒・再生の炎「癒火」及び6代目、7代目の火継ぎによって編み出された奥義の行使が確認された。

 防火の結界をも焼く炎の出力は神世紀58年計測された記録を大幅に塗り替えるものでありながら当の本人に消耗は見られず。歴代の火継ぎのなかにおいても群を抜く神の化身としての位階をもってうまれたに相応しい資質を既に発揮するものの、その危険性についてもまた秋葉家11代目当主秋葉炬里から複数の指摘をされている。

 

・心の臓を炉心とする火継ぎは生きている限り権能の神火の出力を高めるものの、それ故に制御を乱した際の危険性は非常に高い。四国全土で神樹様の根が張り巡らされる都合上、秋葉本殿を除いた場での戦闘訓練はリスクが大きく最大限避けるべきである。

 

・上記と同様に危惧されるものとして樹海での戦闘が挙げられる。天の神と戦うべく殲滅力に特化した秋葉焔はその力を抑えるために複数の拘束具を装備、武具に神火を宿すことで最大限神樹様を傷つけることのないよう制限をかけているものの戦闘の余波で樹海が焼かれる可能性もまた高い。火継ぎの戦闘行為は根の薄い大橋に限定し、バーテックスとの主な戦闘を勇者たちに委ね消耗させた個体の討伐にのみ制限するべきである。

 

 これらの指摘をもとに大赦サイバー部特殊係とともに勇者システムを精査、推定された数値(別添参照)から大型バーテックスとの戦闘にあたっては余波のみで勇者たちに重傷を与えかねないことから秋葉炬里の提案を受け入れ、10代目火継ぎ、秋葉焔の戦闘行為及び鍛錬区域の制限を設けることを提言する。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 視界を埋め尽くすような花吹雪、そして鮮やかな光。

 周囲の人々が、建物が溶けるように消えて街が形を変えていく。世界そのものが在り様を変える。

 

 樹海化――。巨大な蔓や根によって覆われた、ありとあらゆるものが樹木に移り変わった世界。神樹によって展開された樹の国で周囲を見回す勇者たちは息を呑んだ。

 

 鷲尾須美、乃木園子、三ノ輪銀。神樹館の生徒である彼女たちのいた校舎も例に漏れず樹海に取り込まれていた。人も、自宅も、駅も、ほとんどのものが消えて樹となった光景を目にした少女たちは樹海を見渡し警戒を強める。

 

「樹海化が始まったってことは……これから敵がやってくるってことで、いいんだよね」

 

「大橋と……。あそこ、秋葉神社だよね? あそこは樹海化してないよ~」

 

「カグツチ様の領域だからかしら……。神樹様といえども、いえ神樹様だからこそ軽々とカグツチ様に干渉できないのかもしれないわね」

 

「地の神様もカグツチ様の弟や子どもだったりするからかなあ」

 

「え、そうなの?」

 

「……三ノ輪さんにおおまかな神樹様に列される神々やカグツチ様を巡る神話を叩き込むのは後にするとして、大橋に行くとしましょうか。敵が来るまでに態勢を整えましょう」

 

「え゛、勉強はちょっと……」

 

 そんなやりとりをしながら携帯端末を操作、勇者システムを起動した少女たちは次々と神樹に与えられた力を宿した姿へと変身し速やかに戦場となる大橋へと向かう。数十メートルを一気に跳躍するようにして樹海を進んで行った彼女たちは間を置くことなく四国を襲う敵を迎撃する舞台に到着した。

 彼女たちは既に各々の得物を構え、神樹を破壊し四国で生きる人類を滅ぼさんとするバーテックスの迎撃の準備を整えている――。白菊を思わせる姿へと変身し弓を構える須美は、油断なく大橋の向こうを見つめる傍らで樹海には覆われていない見慣れた社を一瞥しお役目を共にする仲間たちと言葉を交わす。

 

「確かバーテックスと戦うのは私たちだけじゃないんだよね?」

 

「ええ、私の婚約者……秋葉の火継ぎのひとも来ると思うけれど、戦闘行為はだいぶ制限を受けるようだから基本的には私たちが──……なに?」

 

「……婚約者? えっ鷲尾さんって結婚を約束したひといるの!? しかも秋葉の火継ぎって、マジぃ!?」

 

「あ、改めて口にするとなるとこそばゆいわね……、敵!」

 

 ぬるりと橋の向こう側から現れたのは非生物的な光沢と冷たさをもった奇怪なシルエット。銀との会話で恥ずかし気に頬を紅潮させながら須美が弓を構えるのに、追随して槍を構えた園子はどこか愉快そうに微笑みを浮かべた。

 

「私は知ってるよー。一回だけ祭礼の時に顔をあわせたことあったし。秋葉さんちの焔くんでしょ? すみすけとほむくんがどんなラブラブ生活してるか気になるなあ」

 

「………………け、健全な関係ですっ! あと乃木さん、すみすけって渾名はちょっと――危ない!」

 

 どこか緊張感のぬけた雰囲気を引き裂くようにして、バーテックスから放たれた高圧の水流が少女たちに襲い掛かる。散開するようにして回避した3人は各々の得物を構え直し表情を引き締め外からの尖兵に向けかけていく。

 勇者と()()()()初陣は、そうして幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ずっと、火継ぎは。

 神と、神の尖兵を根絶やしにするために。ずっと、力を蓄えてきていた。

 

「……」

 

 ドクリと心の臓が脈打つ。頭髪の紅い毛先を指で弄ぶ秋葉焔は、本殿の屋根に腰をおろして神樹によって街並みを塗り替えられ樹海となった四国を見下ろしていた。

 巨大な水泡を手繰り高圧の水流、無数に生み出した水球を用いて自身の身を削り取る勇者たちを翻弄するバーテックスと、攻撃をかいくぐりながら巨大な敵に対しても臆することなく苛烈な猛攻を仕掛けていく3人の勇者。

 

 前に立つ少女たちを援護するように須美が矢で牽制を入れれば、的確に関節部を狙い槍を突き出す園子が動きをぐらつかせ、豪快に戦斧を振り回す銀がスライスする勢いで畳みかけていく。

 表面上は勇者たちの有利に盤面が傾いていると見えなくはない。しかし実際に劣勢に陥りつつあるのは、強烈なラッシュをしかけバーテックスの巨体を削り取っていく3人の方だろうと。冷静に分析しながら、少年は本殿の屋根から戦場を見下ろす。

 

「──300年前と比べて勇者システムの強化は著しい。それこそ純粋な破壊力なら、当時の切り札を切った高嶋友奈や乃木若葉に匹敵する……。けれどあと一押しが足りない、か」

 

 ──御霊には、届いていない。

 勇者たちの猛攻も、バーテックスを消耗させるという意味合いでは決して間違いではない。が……眼下で繰り広げられる戦闘の最中も、己の身を削られたバーテックスは損耗も意に介することなくすぐさま再生し勇者を攻撃する。

 

 高圧水流の余波に吹き飛ばされ転がってできた掠り傷さえもすぐには治らない勇者と、甚大なダメージを受けてもすぐに再生するバーテックス。

 少女たちがバーテックスの不死性を突破できない以上、状況はじり貧に近い。損壊と回復の連鎖による消耗が積み重なり疲弊すればバーテックスも神樹による鎮花の儀を受け撤退するだろうが、勇者たちの体力もまた有限であり堅固な装甲も傷を癒す回復力もない以上はバーテックスの攻撃を一度浴びただけで死んだとしてもおかしくはなかった。

 

 だがそんな薄氷の上で繰り広げられる戦いのなかでも、初の実戦にも関わらず少女たちは水流の直撃を浴びるのだけは避け水球を迎撃し、次々とバーテックスへとカウンターの一撃を叩き込んでいる。

 3人の少女たちは純粋な武力としては神の炎を宿す焔より()()()()()。しかし、神樹を護るための防衛戦にあたっては焔よりも()()()()()()()()と認める。

 

 ドクリと、心の臓が――火継ぎのなかで燃える炉心が脈打つ。

 

 上方からずっと観察を続けていた彼は傍らに置いていた抜き身の刀を握りゆらりと立ち上がると、炎の色の瞳を燃やしぽつりとつぶやいた。

 

「――灼骨纏身」

 

 燃え上がる炎とともに少年の身を焼き包んで現れたのは、四肢を覆うようにして展開された白い装甲。頭部を除いた全身を呑み込んだ白亜の鎧をがちゃがちゃと鳴らしながら、彼は本殿の屋根から虚空に身を躍らせて――轟音と共に、宙を駆け抜けていく。

 

 装甲の背に、関節部に備え付けられた()()からジェットエンジンさながらに火を噴き出し飛翔する焔は、全身を襲う強烈な風圧も構わずに最短最速でバーテックスへ向けて突き進む。

 その手のなかで、握られる刀の柄がぎしりと軋んだ。

 

 ――お前に宿った力は、秋葉の勇者から受け継がれて以降火継ぎによって継承と昇華を積み重ねられてきた神をも焼き尽くす業火だ。

 

 かつて、秋葉に祝福を授けた火を司る神は。歴代の火継ぎを遥かに凌駕する強度と才覚を秘めうまれた少年が鍛錬をする様子を見守りながら言った。

 

『正真正銘、お前は最強の火継ぎになるだろうさ。いずれは天の神をも殺してのける神殺しの英雄にだって至るだろう。……だが、それは今じゃあない』

『ただひたすらに積み上げろ、戦いのなかで。その先にこそ秋葉の祖が求めた未来がある』

 

 空から飛来し、勇者の猛攻によって後退させられたバーテックスと接触する刹那。

 少年の握る刃が赤熱化した。

 

『そうだな、まずは初戦だが』

『樹海での戦闘に制限をかけられるなかで、やってきたバーテックスを一撃で殺せ。そのくらいはできてもらわないと困るからなあ』

 

 突如現れた焔による強襲に、バーテックスは反応できない。西暦の時代あらゆる兵器による攻撃を受けてもなお砕けることのなかった外殻が拮抗さえもできずに灼熱の刃を受けて溶けおち、焼き焦がされ、全身に罅割れを奔らせていく。

 

 (あか)く、(あか)く、(あか)く。一瞬のうちに真っ二つにバーテックスを断ち切った斬閃は、居合わせた勇者たちの眼を焼かんばかりに輝いていた。

 

 力を喪い墜落しようとするバーテックス、黒く焦げついたその断面で鈍く輝くものを見つけた少年は、装甲左腕部の噴出口から炎を放出し半ばまで焦げ落ちた刃を突き立てて断面にしがみついて伸ばした手でそれを握りこむ。

 アクエリアス・バーテックス――、水瓶座の名を冠したバーテックスのもっていた不死性の象徴。四角錐の形状をした御霊が抵抗するように点滅と震動を繰り返すのも意に介さずに握りしめたままの発熱した五指で火を通し徐々に黒ずませる。やがて炭化した御霊を砕いた少年は、乱雑に手を振って大橋に崩れ落ちようとしたバーテックスの残骸の悉くを焼き払った。

 

 火の粉と炭化したバーテックスの残骸が降り注ぐ大橋。放熱を用いて緩やかに下降していった焔は、驚いたように深緑の瞳を見開いた須美を見つけ目を細め微笑む。

 

「……お疲れ様、勇者のみんな」

 

 ごてついた装甲を纏い大橋に着地した少年は、大橋に佇む勇者たちに向け手を振りながら声をかける。

 

「全員顔見知りではあるけれど、話したことのない娘もいることだしひとまずは名乗ろうか」

「秋葉の火継ぎ、カグツチの炎の継承者。秋葉焔だ――。これからバーテックスからの四国の防衛と討伐を共同で行うことになる。どうかよろしく頼む」

 

『……ふうん』

 

 勇者と火継ぎ、4人の初陣はそうして幕を下ろす。

 だが、秋葉の社の本殿にて。そんな少年少女の様子を見守っていた神の反応は、どこか淡白なものだった。

 

『こんなもんか。まあ妥当なところではある、が――さて、本当に間に合うもんかね』

 

 

 

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