騎乗と伝説の名を持つウマ娘   作:シグアルト

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騎乗の名を継ぐウマ娘

 

 

 

 

 

 ─────「会長」

 

 

 フェイトレジェンドとトウカイテイオーの模擬レース。グラウンドで準備を行っている中、その光景を少し離れた所で見守っていたシンボリルドルフに声をかける人物がいた。

 

 生徒会副会長『エアグルーヴ』。

 濃い目の鹿毛と右目を隠したような髪型が特徴のウマ娘である。

 

 

「エアグルーヴか。案内引継ぎの件はたずなさんに言伝を頼んだのだが、会わなかったのか?」

 

「寮で待っていましたらグラウンドでの騒ぎが聞こえてきましたので」

 

「そうか、入れ違いになってしまったようだな。すまない」

 

「いえ、構いません。……それで、あの方が?」

 

 

 エアグルーヴは鋭い視線でグラウンドでウォームアップを行っているウマ娘を見る。

 模擬とはいえ学園の猛者であるトウカイテイオーとのレースを前に、委縮した様子はない。これが入学前の生徒なのか、とエアグルーヴは思わず感嘆の息をつく。

 

 

「あぁ。フェイトレジェンド……半年前、私が鎧袖一触*1にされてしまったウマ娘だ」

 

「会長! ですが、あれはあくまで調整トレーニング中の事で……」

 

「あの結果に、それは言い訳になりはしない。私は……負けたんだ」

 

「……ッ」

 

 

 エアグルーヴは口をつぐむ。

 彼女の言葉は正しい。半年前彼女と走った時のシンボリルドルフは、とあるレースの最中に脚に負担をかけすぎた為、軽い療養期間を設けていた。それが明けてからの慣らしのトレーニング、最高のコンディションと言えるかというと疑問が残る。また、あくまで乱入による対決だったため対等な条件とは言えなかった。

 

 だがシンボリルドルフは確かな敗北感をあの勝負に味わっていた。

 

 

 

「彼女が乱入してきた当初、私はテイオーのように血気方剛*2の者がやってきたと挑戦を受け取った。だが、最終コーナーで彼女の纏う雰囲気が突如変わったんだ」

 

「雰囲気……、ですか?」

 

「あぁ。恥ずかしい話だが、私は背後から迫る彼女の圧力に屈してしまった。もしも、あの時の彼女と正面から相対していたのなら、私の体は石の様に進退維谷*3となっていた事だろう」

 

「……そこまでなのですか?」

 

「直接対峙しなければわからなかった感覚だ。あの時の私は心で負けた。蛇に睨まれた蛙……いや、井の中の蛙大海を知らず、というべきかな」

 

「会長ッ!!」

 

 

 エアグルーヴは思わず叫び声をあげた。

 対決の話を聞き、集まった生徒たちが怪訝な顔をしてこちらの様子を伺うが、そんなものには構ってなどいられなかった。

 シンボリルドルフは伊達や酔狂で“皇帝”の名を得た訳ではない。多くの実績と、その振る舞いにより学園の全員に認められたと言っても過言ではない存在だ。そんな尊敬する大人物が、自身を卑屈に思う発言など許せる筈がなかった。

 

 

 

 

「エアグルーヴ。大丈夫だ」

 

 

 だが、そんな彼女の心配は杞憂だとばかりにシンボリルドルフは不敵に笑う。彼女の眼には、エアグルーヴが久しく見ていなかったシンボリルドルフの『挑戦者』としての眼差しがあった。

 

 

「だが、それは半年前の話だ。私は彼女に恐懼感激*4の思いを感じている。私にはまだ上へと至る為の壁がある。そんな存在が草廬三顧*5されたんだ」

 

「……会長」

 

「私は彼女と相対して強くなれた。テイオーもきっと……」

 

 

 そこでエアグルーヴはようやく理解する。

 トレセン学園の入学初日は、大事を取って休息にあたらせるのが常識だ。それをいきなりの模擬レースなど前代未聞だ。

 

 だが、遅れを取り戻す意図があるのかもしれないが初日練習を希望したフェイトレジェンド。

 会長を対等なレースではないとはいえ、勝利したと噂を聞いたトウカイテイオー。

 そして明言はされないが、自身と同じく好敵手(ライバル)をより高みへ至らせたいと願う会長。

 

 それらの目的が一致したことにより、今回の模擬レースは実現する事になったのだろう。と

 

 

「興味深いですね」

 

「あぁ」

 

 

 エアグルーヴは先程以上の関心をもって、ようやく始まろうとしている模擬レースの様子を見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてさて、いきなりテイオーさんに模擬レースを挑まれた訳ですが何やら準備があるようです。

「ちょっとその辺で体温めといて」と投げやりに言われた、私ことアルトリア顔ウマ娘フェイトレジェンドはその辺をランニング中です。

 

 この世界にやってきて半年近く経ちますけれど、やっぱり自分の足で走れるって感動です! あっ、涙出てきそう。

 また、こんな立派なグラウンドで走るのも半年ぶり。これまでの自由時間の8割がお勉強で潰れてしまっていたから仕方ないんですけどね。こんな事なら武〇さんの事とかにもっと興味をもって生きていればよかった!! 

 肝心のウマ娘の知識も、没数日前に詰め込んだようなものなので歯抜け状態。ゴルシが面白い良い子で、オグリがよく食べる元気な子って事は覚えてる。ヨシ! (現場猫)

 

 ただ、それよりも気にかけないといけない事があるんですよね。このフェイトレジェンドの持つ力です。

 学生時代少し読んでいたWeb小説によると、こういう転生ものって神様からチート特典が貰えるらしいです。理由は知らない。

 なので、そんな力がないか色々検証していたのですが……どうやら私の仮説は間違っていないようです。

 

 

 ゲームでのウマ娘には【因子継承】というシステムがありました。

 他のウマ娘の力の一部を継承する事で、固有スキル取得可能になったり能力の上昇をしたりという奴です。

 ゲームでは年度末に学園の女神像から継承されるものなのですが、私の場合()()()()()継承されちゃうみたいです。半年前シンボリルドルフさんとの競争中に発現して以降、練習では全く発現しなかったので間違いないと思います。

 一応グラウンドに来る前に女神像に寄って色々試しましたが、見向きもされず学園長さん達の「何やってんだ、コイツ」な目線が見て来るだけでした。凹みます。

 

 

 そして、その時継承されたスキルが問題なんですよねぇ……その時、頭に浮かんだ情報なのですが─────

 

 

 

 

 

 

 

ライダーの想いを受け継いだ! 

 

メドゥーサの継承効果! 

 スキルの因子が発動! 

「騎乗」のスキルは既に取得している

「魔眼」のヒントLvが4上がった

「怪力」のヒントLvが3上がった

 

 

「他者封印・鮮血神殿」のヒントLvが2上がった

「騎英の手綱」のヒントLvが4上がった

 

 

 

 もう絶句ものでした。

 その時は、前世で夢にまで見た全力疾走中による脳内ドーピングのせいで、よくわからず全部のスキルを走りながら取得しましたが(スキルPtは余ってたみたいです)、もし型月原作通りの効果だったら大惨事確定ですよね。

 どうやら大分スケールダウンされているみたいのようです。魔眼を試しに使ったら石化はしませんでしたが、ルドルフさんは体の動きが鈍ってました。

 

 レース中に因子継承が起こるのは、この世界の独自仕様なのかまだわかりませんが、継承内容はどう考えても転生特典って奴ですよね。というか、そうでないと私メドゥーサさんと繋がりのあるヤベー奴になってしまうので、そう思う事にします。

 

 

 そんな訳でチート能力に目覚めた私ですが、危険性のあるものでなければ使用に躊躇ったりはしません。

 ゲーム等でもスキルは整えて勝つものですし、全力を出し切らずに勝負するのは相手にも失礼極まりない行為だと思っているからです。スポーツってそういうものですよね。

 

 

「準備が出来たみたいだよ。それじゃ、はじめよっか!」

「えぇ。お互い、本気で行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ハッ……! ハッ……!  ハッ…………!」

 

 

 ボクと“伝説”と呼ばれるフェイトレジェンドとの模擬レース。

 芝の中距離2000m、ボクの最も得意とする条件だ。作戦は先行で前の方を確保しつつ逃げ切る。相手が初手から逃げの戦法で来たら対応を変える必要があるけど、多分そうならないとボクの勘が感じた。

 

 そして、その読みは当たった。

 フェイトレジェンドはボクの少し後ろから、様子を見るようにこちらを伺っている。差しの定石戦法だ。差し切りだけは避けるように距離を離しつつも、最後の直線に向けての脚は残すようにする。

 

 

「テイオーさん、すごい! フェイトレジェンドさんと5バ身は開いてる!」

 

「えぇ、でもまだ距離は800m。勝負はわからないわ」

 

「その通りデース。差しの恐ろしさはここからデスネ」

 

 

(勝てる! このままいけばきっと……ッ?!)

 

 

 

 そう感じた瞬間、ボクの脚が急に重くなる。視野も狭くなり、少しでも気を抜いたら体をうまく動かすことも難しくなってしまいそうだ。

 原因はすぐにわかった。後ろから感じるフェイトレジェンドの発する重圧だ。

 

 

「グ、グラスちゃん! テイオーさんの様子がおかしいよ」

 

「えぇ、何か重圧を感じているようだけど……けん制やかく乱かしら」

 

「ですが、あそこまで狼狽えているのはおかしいデース!」

 

 

 

 

「……はじまったな」

 

「では、会長。あれが……?」

 

「あぁ、フェイトレジェンドの眼光が放つ重圧を正確に感じ取れているのはテイオーだけだろう、恐らく冷汗三斗*6の状況に陥っている筈だ。この状況をどう切り抜けられるかで、勝負は決まる」

 

 

(負けない……! 負けない!!!)

 

 

 ボクは降りかかる重圧に対して、真っ向から立ち向かう。

 もしもこれがレースであったなら、こちらも差しに対してけん制を行ったり駆け引きを行ったりする方がいいのかもしれない。

 

 でもこれはレースじゃない。

 模擬レースだからとかそんな意味じゃなく…………。これはボクと会長、そしてフェイトレジェンドとの

 

 

 

 

「勝負だぁぁぁああああああああああ!!」

 

 

 

「テイオーさん!?」

 

「嘘!? 1200m地点を越えてもうスパートを!?」

 

「最後までスタミナが持つのデスか?!」

 

 

 

「……会長!」

 

「勝負に出るか。テイオー」

 

 

 

 ボクはフェイトレジェンドの重圧から逃げ切る為に、全力で駆け抜ける。ラストのスタミナの事なんて考えなかった。

 頼む、持ってくれよボクの気力! 練習でだってこんな距離からスパートをかける事なんてなかった。どうなるのかなんてボクにもわからない。

 

 

 

「……1600m地点を通過。 リードは3バ身」

 

「テイオーさん……」

 

「根性デス! 根性デース!」

 

 

 スタミナはもう切れかけていた。残す距離をボクは根性で走り抜ける。

 そして、ゴール地点に目印として立っていたヒシアマゾン。その目はこれ以上ないくらいにびっくりしたような顔をしている。

 

 おいおい、なんて顔してるのさ。ボクそんな必死な顔して……上? 

 

 

 何故か、ヒシアマゾンはボクのもっと上。空を見上げ指をさしている。

 脚に込める力を緩めない様に気を付けつつ、上を見上げると─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

壇ノ浦(だんのうら)八艘跳(はっそうとび)!!」

 

 

 

「……へ?」

 

 

 

 ボクの遥か頭上を飛び越え、ボクより先にヒシアマゾンの示すゴール地点を文字通り飛び越えて着地するフェイトレジェンドの姿があった。

 ありえない光景に、ボクの脚も失速し呆然と立ち止まってしまう。

 

 

「テイオー、良いレースでした。あなたの協力に、感謝を」

 

「え? ……え?」

 

 

 振り向いて僅かな微笑を浮かべつつ、握手を求めてくるフェイトレジェンド。いや、その……

 

 

 

 

 

 

 

「フェイトレジェンド。失格だ」

 

「なっ!? 何故ですか、生徒会長!?」

 

「当たり前だ。レース中のジャンプは禁止、ポールを足場に跳躍も当然危険行為による禁止事項だ」

 

「な、何ですって……」

 

 

 呆然としていたボク達に代わって、彼女に近づき説明をする生徒会長。後ろではプルプル震えてる副会長(エアグルーヴ)の姿も見える。これはお説教コースだね。多分、レース場の使用禁止とのフルコースになると思う。

 

 どうやら伝説の到来は、とんでもない大波乱になりそうだ。

 

 

 ボクはひとまず、彼女とゴールドシップ(ゴルシ)が出会っても面倒な事にならなければいいなぁと思いつつ、芝に倒れこむように横になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

ライダーの想いを受け継いだ! 

 

牛若丸の継承効果! 

 スキルの因子が発動! 

「騎乗」のスキルは既に取得している

「カリスマ〇」のスキルは既に取得している

「燕の早業」のヒントLvが3上がった

 

 

「壇ノ浦・八艘跳」のヒントLvが2上がった ※ただし使用禁止

 

*1
簡単に敵を負かすこと

*2
血気盛んな

*3
身動きが取れないこと

*4
嬉しさのあまりに、恐れかしこまりながらも喜ぶこと

*5
すぐれた才能のある人を丁重に招くこと

*6
体中からひや汗が流れること

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