騎乗と伝説の名を持つウマ娘   作:シグアルト

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胃袋の底を探るウマ娘

 

 

 

 

 ─────《「あぁ、君なら大丈夫だろう。すまないが、例の彼女への配膳を頼めないか」》

 

 

 副会長(エアグルーヴ)に言われた私は、食事を持ってある部屋へと向かっていた。

 

 本日転校してきた話題のウマ娘、フェイトレジェンド。彼女の部屋へだ。

 

 

 私は現場にいなかったが、彼女は転校初日からトウカイテイオーと模擬レースを行い、大波乱を起こしたらしい。結果はよくわからない事になったらしく誰も教えてはくれなかったが、今日は誰もが皆その話をしていた。

 

 本来配膳を行うのは私ではなかったが今日の担当者はかなりのおしゃべり好きで、彼女に任せると好奇心からフェイトレジェンドを質問攻めにしてしまう為の配慮だと副会長(エアグルーヴ)は説明してくれた。

 

 彼女も都会へ出てきて大変なのだろう、と私は了承した。私もトレセン学園に入学した直後はとく噂になっていたみたいだ。私自身の自覚はなかったが、友人の『タマモクロス』達が彼等の相手をしてくれていたらしい。だが彼女にはまだ、そんな存在はまだいないだろうし苦労しているようだ。

 

 

 

 

 そんな事を考えながら彼女の部屋へと向かう途中、私はある事に気が付いてしまった。…………食事の量だ。

 

 言われるがままに持ってきてしまったが、明らかに少ない。私の友人たち(イナリやタマモ)が普段食べている量と()()()()()しかないのだ。彼女達は小柄なのであまり食べずとも問題ないのだろうが、普通のウマ娘には足りないのではないのかと不安になる。引き返して追加を貰った方がいいだろうか……。

 

 いや、もしかしたらあの二人に負けず劣らずの小柄で小食のウマ娘なのかもしれない。私は気を取り直して、部屋への歩を進める。

 

 

 何せ私もまだ食事前なのだ。

 

 彼女の配膳が終わってからの食事となるので、引き返して確認する時間がもったいない。

 そうだ、本人に確認しよう。そう結論付けた私は彼女の部屋へノックし、声をかける。

 

 

 

「すまない、入ってもいいだろうか?」

 

 

 

 

 初対面の挨拶は大切だ。最初の挨拶がしっかり出来れば、うまくいかない事はない。

 

 そんな地元で親しくしてもらっていたウメさんの言葉を思い出しながら、私は部屋に入り部屋の主を確認する前に言葉を続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「食事を持ってきた。私は『オグリキャップ』と言う。よろしく頼む」

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暇です。

 

 今を時めくアルトリア顔ウマ娘のフェイトレジェンドですが、自室謹慎を迎えてもやる事がなく暇を持て余しています。

 転校したばかりで宿題もありませんし、本などのの類は持ってきていません。当然トレセン学園内に友人がいる筈もなく、部屋も一人部屋でした。

 

 転校生にありがちな質問に来るウマ娘とかいないかなー、と思っていましたが模擬レースの件は想像以上に反響が大きかったそうで、混乱防止のために用のない訪問は控えるようにとエアグルーヴさんから周知があったそうです。これでは話し相手にも期待できません。

 しかも常識はずれの大ジャンプはかなりの衝撃だったらしく、自室へ向かう途中すれちがった真面目そうなウマ娘の子たちからは『ドン引き』と顔に書いてあるかのような表情で見られました。こちらが廊下の端を通っているにも関わらず、反対側の壁ギリギリまで避けられましたよ。動物園から逃げ出した猛獣か何かですか、私は? 

 

 

 そんなセイバーライオンならぬ、ライダーライオンになった私は自室でゴロゴロしながら暇を持て余していました。

 え、アルトリアロール? 誰かの目がある所は、ちゃんとやりますよ。24時間睡眠以外ずっとロールしてたら、精神の方が参っちゃいます。こういう切り替えは大切です。

 

 

「すまない、入ってもいいだろうか?」

 

 

 

 

 と、そんなゴロゴロを始めてしばらく。

 夕食を運んできてくれた人がいるらしい。トレセン学園寮に入ってはじめての未知との遭遇! そんな茶番を脳内に描きながら、コンマ数秒で取り繕った表情と言葉で返答を行いますよ。

 

 

「えぇ、構いません。どうぞ」

 

 

 私の言葉を受けて《おずおず》という擬音が出てきそうな慎重さで、一人のウマ娘が入ってきます。

 銀髪の綺麗な長髪をした、長身のウマ娘だ。今まで見た中で最も長身のウマ娘だった生徒会長(シンボリルドルフ)よりも僅かに背が高そうです。

 うーむ、それにしても何処かで見た事あるような……

 

 

「食事を持ってきた。私は『オグリキャップ』よろしく頼む」

 

 

 おっ、そうか。彼女がオグリキャップでしたか。

 彼女が名乗った瞬間、前世の自分の僅かな記憶を結集させる。彼女は食べる事が好きなウマ娘で、食堂によく出没するかなりの実力派ウマ娘だった筈。ゲームでは彼女の事に触れる前に転生してしまったので詳細はわからないが、おおむね間違ってはいないと思います。

 

 それなら、彼女が食事を持ってきても不思議な事ではないですね。むしろ好都合。

 寮生活ではウマ娘と出会う機会に恵まれず、アルトリアロールを遵守する私が、人間の寮母さん達に「ウマ娘ってどの位食べる生き物なんですか?」なんて聞ける筈もなく調査が不足していました。

 だが同じウマ娘となら雑談を通じて色々な事を知る事が出来る。さらに個室で二人きりなら少し踏み込んだ内容を聞いても怪しまれない筈。この子、口が堅そうだしなお素晴らしい。

 

 

 そんな打算を働かせ(この間数秒)、彼女の自己紹介に対して言葉を返します。

 

 

「名乗られたからには、こちらも名乗り返すのが礼儀ですね。私はフェイトレジェンド。(ともがら)として良き関係でいたいものです」

 

 

 

 それっぽく名乗れたかな、と内心ドヤ顔をしているとオグリは少し目を丸くしてこちらを見ていた。驚いてるのかな? 

 

 

「どうかしましたか? オグリキャップ」

 

「背が高いし、小食でもなさそう。やはりこの食事量では足らないのではないか? せめてスペシャルウィーク位の量はなければ」

 

 

 

 何かボソボソ言ってるが、全く聞こえないな。

 オグリは自身が持っている食事を見て何か呟いてようだけど……もしかして食べたいのかな? かわいい。

 

 

「オグリキャップ、食事に何か気になる事でも?」

 

「あ、あぁ何でもない。ただ、この食事量を見て『タマモクロス』……私の友人の様に、キミが小柄なウマ娘なのだろうと思っていたんだ」

 

 

 そう言うオグリキャップが持つ食事量は……平均成人男性が《大盛り》と感じ取れる程度には量があった。

 

 え? それで少ないの? 

 

 

「参考までにお聞きしたいのですが……(ウマ娘平均の)普通の食事はそれよりも量が多いのですか?」

 

「あぁ、(()())普通の食事量と比較すればあまりに少ないと言わざるを得ないな」

 

 

 

 まじで!? ウマ娘ってそんな食っていいの?! 

 アルトリアロールを崩さない様に表情を必死に取り繕いながらも、私は驚愕する。今まで食べ過ぎないよう必死に節制していたけど、逆に食べなさすぎだったのかな。

 

 これは早急に食事を見直す必要がありますね。

 考えてみれば、人間の入院患者と健康的なウマ娘。二人の食事量が同じ筈がなかった。『騎英の手綱(ベルレフォーン)』のコンディション調整能力に頼りすぎて、健康管理が疎かになりすぎたと脳内反省。

 速効で食事量の少なさに気付くとは、さすが食事の神様オグリキャップ(勝手に命名)。彼女に聞いてよかった。

 

 

 

「フェイトレジェンド。キミは、食が細い方なのか?」

 

「いえ。お恥ずかしながら自身の食事量を把握していなかったようです。これまでずっと空腹感と戦っていたようなもので」

 

「……何と。キミは忍耐強いな、私にはとても真似が出来ない」

 

「すみませんが(ウマ娘平均と)同じ量の食事を頂いてもよろしいですか? この機会に自身の食事量を見直したいのです」

 

「わかった。食堂に戻って(私と)同じ量を用意するように言ってこよう」

 

 

 

 そう言ってひとまず机に食事を置き、追加の食事を取りにいこうとするオグリキャップ。

 2,3言葉をかわしただけで新情報が手に入りましたね。やはり同じウマ娘同士の会話は情報の宝庫です。折角のこの機会、逃したくはありませんが……(ピコーン!)閃いた! 

 

 

 

「オグリキャップ。もしよろしければ、あなたの分も持ってきて共に食事をしてはいかがでしょうか」

 

「一緒に? すまないが、食事中の話をするタイプではないんだ」

 

「問題ありません。食事というものは誰にも邪魔されず……そう、自由で、救われていなければいけません」

 

「……! あぁ……、その通りだ!」

 

「言葉を交わさずとも共に食卓を囲む事でわかる事もあります。いかがでしょうか」

 

「そうか……! そういう事ならわかった。実を言うと、空腹のまま食堂を往復するのは大変だったんだ」

 

「えぇ、わかりますとも。空腹は敵です」

 

 

 内心、必死の説得でオグリキャップと一緒に夕食を取る事に成功。やったぜ

 いきなり食事量をウマ娘の体に合わせて増やす訳ですから、色々と気を付けないといけませんからね。()()()()()()()()()、食事に関しての心配事も解消する筈です。さすが食堂の女神様オグリ様! 最高のタイミングで来てくれましたね。 

 

 

「……じゃあ、キミの分の追加と私の食事も運んでこよう。すぐ戻ってくるので、待っていてくれ」

 

 

 

 言葉は落ち着いていますが、若干はずんだ声で部屋を出ていくオグリキャップ。かわいい。(直球)

 私も久々の満腹感を味わえるという事実に内心ウキウキしながら、オグリキャップの帰りを待っていた。

 

 

 

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 お腹が空きました。

 

 

 

 いえ、別に一度言ってみたかったという訳ではないんですよ。素直な気持ちです。どうやら半年ぶり、いえこの体では初めてのまともな栄養分の摂取という事で、私の体内が大はしゃぎしているようです。

 とはいえ、オグリキャップが帰ってこないとお預け状態なので苦しい。こっそりつまみ食いなんてアルトリアロールを遵守する私には出来ません。

 

 なので妥協案として、部屋のドアからチラリと廊下を伺い帰りを素早く察知できるようにしています。もし見つかりそうになったら『燕の早業』で、素早く撤退すれば問題ありません。

 

 

 

「なぁ、オグリ。ホントのホントにホントなんか?」

「あぁ、ホントのホントにホントなんだ」

 

 

 そしてオグリの姿を待ち間引ている事しばらく。何度か顔の知らないウマ娘達が通りかかるのをやり過ごし、オグリキャップの話し声が廊下の奥から聞こえてきました。やっと来ましたね! 

 話し声と言う事は誰か他のウマ娘と一緒に来ているのでしょうか。

 

 

「確かに話題の“伝説”はすごいやっちゃっちゅー事は知っとるけど、食事量まで伝説級なんか? オグリ」

 

「本当なんだ、タマ。彼女は私と同じ量で食事を共にしたいと言っていた」

 

 

 声から推測すると、先程オグリキャップが話題に出していた友人のタマモナイン……間違えた、『タマモクロス』ですね。

 

 聞こえてくる関西弁からそんな事を考えていると、彼女たちが廊下の角を曲がり此方から見える位置に現れました。 

 

 

「せやけど食堂のオバちゃんはえらい事になっとったな。あそこまで機敏な動きをしてるオバちゃん初めて見たわ」

 

「あぁ、調理場の角を曲がるコーナリングは素晴らしかった。聞けばレースで応用するコツを教えて貰えるだろうか」

 

「いやいや、何でレースのコツをオバちゃんに聞くねん! そういうのは同じウマ娘に聞くもんやろ」

 

「だがコーナリングの良いコツを知るキタサンブラックは、ついこの間までイベントで忙しそうだったからな」

 

「若干メタ入っとる発言やめーや!!」

 

 

 

 何か楽しそうに話をしている二人ですが、私はでもそんな事重要じゃないとばかりと聞き流します。

 今や私の視線と興味の矛先は、オグリキャップが押している食事を載せたカートです。

 

 

 

デカァァァァァいッ! 説明不要!! 

 

 カートの積載量を優に越えている程の食料が乗ったカートは、きしむ音がここまで聞こえてきそうでした。オグリキャップの姿が隠れて見えません。あれ全部で二人分なの?! いや、タマモクロスがいるから三人分? それでもすごい量! すごいなウマ娘!! 

 興奮しつつも、彼女達が私の部屋のドアに関心が移る前にチラ身を終了。素早く部屋の中央で待機します。

 

 ほどなく、ノックの音と共に二人が入ってきました。

 

 

 

「すまない、フェイトレジェンド。待たせてしまった」

 

「よっ! ウチはオグリのライバル、タマモクロスや。ついでに冷やかしに来たでー!」

 

「どうやらキミと友人になりたいみたいだ。仲良くしてくれると嬉しい」

 

「ちゃうわ! もしそうだとしても、なんでオグリが母親みたいな事いっとんねん!」

 

 

 うーん、仲がいいなぁ。

 微笑ましい気持ちで二人の様子を見つめていると、タマさん(勝手に命名)がこちらを値踏みするようにじろじろ見てきます。頭に「?」を浮かべていると、オグリから聞こえない様にこっそりとこちらに話しかけて来ましたね。

 

 

「ところでフェイトレジェンド。アンタに聞きたいんやけど」

 

「何でしょうか」

 

「アンタ、無理してへんか? ええんやで、無理に()()()()()()()()()()()

 

 

 合わせる? オグリに? 何を? 

 ここで思わず「何の事ですか?」とすぐ聞き返さなかった自分をほめてあげたいです。アルトリアならば、ここは華麗な直感で答えを思いつける筈! 

 タマさんは大量の食事を二人分準備しているオグリと、カートの食事を流し目でチラチラ見ながらこちらの様子を伺っています。

 

 

 

 ポクポクポク……! (チーン)

 なるほど、そういう事ですか。直感A(自称)の前にはまるっとお見通しだ! 

 

 

 どうやらタマさんは私が空気を読み、()()()()()()()()()オグリを食事に誘ったのではないかと思ったのでしょう。確かにオグリは人付き合いの得意そうなタイプには見えないし、流されるまま断り切れなかったせいで狭い部屋で盛り上がらない食事をする羽目になっているのではないか、と気を聞かせてくれたのでしょう。

 

 タマさんの優しさに頬が緩みますが、別に無理して誘ったわけではありません。オグリの名誉のためににも、誤解はきちんと解いておきましょう。

 

 

「配慮に感謝します。ですが、それは杞憂だ。私は無理に合わせている訳ではない」

 

「ホ、ホンマか!? せやけどオグリに並ぶ奴なんて、今まで誰一人いなかったんやで! あのスペシャルウィークかて……」

 

 

 いやいや、驚きすぎでしょう。友人を目の前で『この人ぼっちなんです。横に並んでくれる様な友達もいなかったんです』ってこき下ろすのも如何なものでしょうか。

 それにスペシャルウィークですか。主人公みたいな見た目の素朴ないい子に見えましたけど……

 

 

 

《私、この人とは食事したくありません! あ″げません!!》

 

 

 こんな感じでつっけんどんに断られたんでしょうか。

 いやいやスペちゃん、そんなに怒らなくても……私も彼女だけは怒らせないように注意しましょう。

 

 

 

「フェイトレジェンド、準備が出来た。食事にしよう、タマはどうする?」

 

「あー、ウチはええわ。せいぜい新顔の喰いっぷりを見学させてもらうわ」

 

 

 そう言って少し離れた場所に椅子を動かして、ニヤニヤしながら座るタマさん。

 なんだかんだ言いつつもオグリと離れるのが寂しいのでしょうか。よきかなよきかな。

 

 

「ありがとうございます、オグリキャップ。では……」

「うむ」

 

 

 

 

「「いただきます」」

 

 

 

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………

 

 

 

 

 

 

「くさいよね~」

「私も同感デ~~ス!」

 

「そうですね、私もくさいと……あら? スペちゃん、エルちゃん。廊下の向こうから歩いてくるのって……タマモクロスさんですよね?」

「何だかフラフラしてマース! 頭痛か何かでショウか?」

 

「何かあったんでしょうか? タマモクロスさ~~~ん」

 

 

「あぁ……スペシャルウィーク、アンタ等か」

「どうしたんですか? 顔色が悪いですよ」

「……大した事ないわ。あまりの光景に胸やけしただけや」

 

 

 

「「「? (デース)」」」

 

 

 グラスワンダーの言葉に軽い返答のみを行い、自室へと戻るタマモクロス。

 彼女が去り際に放った言葉を、3人が理解したのはフェイトレジェンドの謹慎が明けての事だった。

 

 

 

 

 

 

「オグリが……、増えよったわ」

 

 

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