OVER RIDERS:百鬼夜行〜Worst and best matching〜   作:桂馬

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一話:懐かしくも違った街並み

ここは、次元の狭間。

全ての"物語"が眠る、その名も"次元大図書館"。

そこで、二人の少女が会話していた。

 

???「……本当に、その程度でいいのかな?」

 

???「ええ。このベルトを全員分、そして適合する量産可能コアを人数分。……その上でこれも頂いたのですから、何も言うことはありません」

 

そう言って見せるのは、黒いコア。

 

???「その程度は私にとっては朝飯前さ。なんてったって私はー」

 

???「天才、ですからね。新田さん」

 

鈴「そうとも。この稀代の天才"新田 鈴"に不可能はない。物資も大量にある。私にとっては理想的な世界だったよ。……やることが終わったらここに永住するのも悪くない」

 

???「新田さんさえ良ければ、いつでもいつまでもいらっしゃって結構ですので。……というより、むしろ出立が早すぎると思うのですが。もう少しくらい居てもいいんですよ?」

 

鈴「……本来私は招かれざる客だ。これは私を助けてくれたこと、そしてこの世界の真実を語ってくれたことへの感謝に過ぎない」

 

???「そうですか」

 

鈴「……それじゃあ、行ってくるよ。"A"」

 

"A"「ええ。行ってらっしゃい」

 

新田は一冊の本を開く。

本の名は、"百鬼夜行〜Alone battle〜"。

本を開くと新田はその中に吸い込まれていき、そしてひとりでに本が閉じる。

 

"A"「さて、どうなるか……あら?」

 

"A"が閉じた本を拾い上げる。

その本のタイトルは、先程とは違う。

 

"A"「……見つけたんですね。あなたは」

 

拾い上げた本を持って、歩き去る。

その本の名は……"百鬼夜行〜Worst and best matching〜"。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

新田が目を開けると、まず飛び込んできたのは……大量に積まれたエナジードリンクの空き缶の雪崩だった。

 

鈴「うわあああ!?」

 

ガラガラガラガラガラガシャン!と盛大な音を立てて新田の顔面に空き缶が襲いかかる。

中身が缶の中に残っていたのだろう。白衣や髪にエナジードリンクが少しかかってしまった。

 

鈴「……うぅ。初っ端から酷い有様だ……とりあえずシャワーでも……というかここは、アレだね?私のラボの自室だね……?さては」

 

見回してみると、あるのは山のように積まれた本と実験記録。目の前には大きな机、その上には描きかけの論文と数個のモニター。机の下には小型の冷蔵庫があるが、恐らく中身はエナジードリンクだろう。そして床とベッドを埋め尽くさんばかりに広がった空き缶と洗濯に出し忘れた衣服。おまけに部屋の隅に鎮座するエナジードリンクが入ったダンボール。

間違いなく、ここは私……新田 鈴のラボの自室だ。

 

新田「……我ながら酷いな」

 

ガラガラと音をたてながら棚へ向かい、洗濯済みの着替えを持ってシャワー室へ行く。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

スマホをいじりながら空き缶をゴミ袋に入れ、現在の状況を確認。

現在自分がいる世界。ここは現在、未知の生命体"スラッシャー"の存在により人類が危機的状態にある。

……ただし当然このことを誰もが知っているわけではない。現在このことを知っているのは各国要人と、軍隊。そして……私、"新田 鈴"のみ。

すでにロシアの一部地域に包囲網が形成されており、各国の軍隊が討伐に向かっている。ただし状況は芳しくないらしい。

 

鈴「……ま、そりゃそうか。銃や砲弾すら無意味と化す装甲に、人間どころか地球の生命体全てを易々と超える身体能力。それが軍勢で襲ってくるんだ。死者がまだ揉み消せる程度で済んでることの方が不思議だよ」

 

洗濯も纏めて洗濯機に放り込み、床は掃除機とフローリングシートで綺麗に。

布団も洗濯のついでに干して、干している間に原稿を完成させる。

 

鈴「……さて、あとやることは……ご飯か」

 

軽く腹が鳴る音を聞いてから、コアを手にして歩き出す。

向かったのはラボの裏口。

 

鈴「ちゃんと動いてよねー」

 

駐車場の中にあるロッカーを鍵で開き、中の機械を手に取る。

それは片手で持てるほど小さい、ラジカセを想像させるような物体であった。新田はそれにコアを取り付ける。

するとラジカセは音を立てて変形し、あっという間にバイクに形を変えた。

 

鈴「よしよし。この分だと問題なさそう」

 

バイクの上に出てきたヘルメットを被り、シャッターを開けてから新田は外へ走り出す。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

店長「新田ちゃん、うちはツケってのはやってないよ?それにこの量食えるの?」

 

鈴「お金くらい持ってますー。そして問題ありません。今日はお腹空いてるんで」

 

自分以外客のいないカフェで、数点料理を注文しただけでこれである。腹が減ったと言いながらコーヒー一杯飲んで去ってくような金欠科学者を数年見てたら誰だってその反応にはなるとは思うが。

 

店長「ま、いっか。残すなら私が食えばいい。ってわけでカルボナーラと気まぐれサラダ、そしてブレンドコーヒーと抹茶パフェね。ちょいと待ってな」

 

店長は奥へ料理を作りに行き、店内は新田一人になる。

新田は軽くスマホをいじりながら、これからのことについて考える。

 

(重要なのは、この世界において私の存在は認知されていないこと。バックアップが受けられないけど、逆に言えばお役所仕事に左右されない自由な状態。……暴走したら誰も私を止めることができない状態でもあるんだけど)

 

そこまで考えてから、白衣の内ポケットに仕込んだ銀色のコアに触れる。

 

???「……ちゃん」

 

(私の切り札は、本当に最終手段にしなきゃいけない。あの時の私にも制御できてないんだから)

 

店長「新田ちゃん!カルボナーラできたよ!」

 

鈴「……あっはい!食べます!」

 

店長「全く。いくらお客さんがいないからってそこまで深刻な顔しなくても……はいこれ、サラダとカルボナーラとコーヒーね。パフェは食後でいいでしょ?」

 

鈴「はい。それじゃいただきます」

 

まずはカルボナーラから。

満足感がでるように大きめにカットされたベーコンと一緒に、麺を口に運ぶ。

……やはりここの料理は美味い。

次はサラダを。よく言えば日替わりサラダ。悪く言えば売れ残り。その分安く、量も多い。

売れ残りとは言っても鮮度は抜群。ここにも店長のこだわりが光る。

 

鈴「やっぱり美味しいですね。……客は来ないけど」

 

店長「一言余計じゃい」

 

苦笑いしながらコーヒーを一口。

前店長のブレンドを独学のみでそのまま再現した、店長こだわりのコーヒー。

香りがよく、クセがないため飲みやすいのが特徴だ。

そのまま食べ進め、20分足らずで完食する。

 

店長「……本当に腹減ってたんだな。まさか本当に食い終わるとは」

 

鈴「だから言ったじゃないですか。……あ、パフェはゆっくり作ってていいですよ」

 

店長「はいはい」

 

店長は空になった皿を下げつつ厨房へ。

 

鈴「……ここの味は変わってない。よかった」

 

ボソリと呟く。

……そこで、スマホから通知が鳴り響く。

 

『warning。warning』

 

この通知は、ラボに設置されたアンテナで周囲からスラッシャーの反応を受信したときに知らせられるもの。

つまり、この通知が来ているということは……。

 

鈴「……スラッシャーが来てる。ということ」

 

ポケットからメモを出し"すぐに戻ってきます。新田"と書いて四品分の代金を置いて店を出る。

そしてバイクに乗り、ヘルメットを被ってからスマホをバイクにセット。そうすると、スラッシャーがいるであろう地点へのナビが始まる。

 

鈴「……早すぎる。やっぱり、私のいた世界とはわけが違う……」

 

アクセルを踏み、現場へ急行しながら新田は呟いた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

少し活気を失いつつある、小さな商店街。

その中心に、翼の生えた化け物が落ちてくる。

 

スラッシャー「…………」

 

町民A「ば、化け物……!?」

 

町民B「……!?な、なんだこいつは!逃げろ!」

 

店員A「うわー!……もしもし警察ですか!?」

 

スラッシャー「……グアアッ!」

 

スラッシャーは手近な店に突撃し、その商品を見て、一番新鮮そうな鯖に齧り付く。

 

店員B「い、今のうちに逃げましょう!」

 

商店街にいた住民や店員は散り散りに逃げていく。

そんな中で、新田は駐車場にバイクを止めていた。

 

鈴「食べ物に気を取られてるなら、今のうちに!」

 

ベルトを取り出し、腰に装着。

スカートの中のベルトに挟んだコアを取り出し、そのうちの二つ、鋼色のコア……"メタルアックス・コア"と紫色のコア……"ポイズンボム・コア"をベルトの左右に付ける。

 

『メタルアックス』

『ポイズンボム』

『コンプリート。一致率75%』

 

鈴「……変身!」

 

左右に付けたコアを縦から横に倒す。

そうすると左右から鋼色の箱が新田に迫り、新田を完全に隠す。

1秒と立たずその箱は弾け飛び、その中から出てきた新田は……黒と紫に輝く装甲を身に纏っていた。

 

『バトルモード"紫毒のヴァルキリア"。いざ、開戦!』

 

鈴「はああっ!」

 

新田は駐車場を飛び出し、一直線にスラッシャーの元へ。

三匹目の鯖を口に運ぼうとしていたスラッシャーを、思いっきり店の外に蹴り飛ばす。

 

スラッシャー「グゲェッ!」

 

鈴「……全く。店の商品を無断で取るなんて窃盗罪だよ」

 

スラッシャー「……グゴ?」

 

鈴「言っても仕方ないか。それじゃ……私だけのエキサイトを始めよう」

 

鈴は小型の手斧を取り出し、スラッシャーに向かっていく。

当然スラッシャーも、敵意剥き出しの新田に容赦はしない。こちらも向かっていく。

 

鈴「はあっ!」

スラッシャー「グガッ!」

 

スラッシャーの強靭な爪と、新田の斧がぶつかり合い火花を散らす。しかし、その後は体制を崩さず一発目を受けた新田の方に分がある。一発目で体制を崩したスラッシャーに、間髪入れずに二発目をお見舞いする。

 

スラッシャー「グゲェッ!?」

 

鈴「もう一発!」

 

今度は下から上へ、抉るような一撃。

 

スラッシャー「グガァッ!グゴッ!グガアアッ!」

 

今度はスラッシャーの反撃だ。

斧を上に振り上げた新田のガラ空きのボディに、鋭い爪での一撃。

 

鈴「くっ……!がはっ!」

 

まともに食らってしまい、新田は後ろに吹き飛ばされる。

 

鈴「……これなら、どうだ!」

 

"メタルアックス・コア"を縦に戻して外し、そこに新たに赤色のコア……"レッドドラゴン・コア"を嵌め、横に倒す。

 

『モードチェンジ!"紫龍のフィスト"!常在、戦場!』

 

紫色の龍があしらわれた、赤のアクセントが目立つ装甲に変身。紫色に光る鋼鉄のグローブを腕に装着し、近づいてきたスラッシャーに向けて一撃、二撃、三撃とパンチのラッシュをかける。

 

スラッシャー「ガァァァッ!?」

 

鈴「……さて、ここからだ!」

 

『モードチェンジ!"紫毒のヴァルキリア"。いざ、再戦!』

 

"レッドドラゴン・コア"を"メタルアックス・コア"に変え、元の姿に。

そして怯むスラッシャーに斧によるさらなる追い討ち。

 

鈴「はっ!せいっ!どりゃぁっ!」

スラッシャー「グッ!ウッ!ガァァァッ!?」

 

スラッシャーは倒れ込み、大きな隙を見せる。

 

鈴「一気に決めてあげようか!」

 

新田がベルトから"メタルアックス・コア"を外し、手斧に装着。

すると斧に鋼色のエネルギーが宿り、その輝きを増していく。

 

『必殺!メタル・ヴァルキリア・スラッシュ!』

 

スラッシャー「グァァァァッ!?」

 

エネルギーを纏った斧の一撃を喰らい、スラッシャーは爆散する。

それを横目で確認してから、新田はコアを縦に戻し、両方のコアを引き抜く。

そうすると新田が纏っていた装甲は霧散し、元の白衣姿に戻る。

 

『変身解除』

 

鈴「……よし、これでひとまずは解決かな」

 

スマホを見ても、これ以上のスラッシャーの反応はない。

 

鈴「さて、帰りますか」

 

駐車場でバイクに乗り、ラボに向かって走り出す。

 

鈴「スラッシャーがこの時期にここまで来るのは予想外だったけど……今はなんとかなってる。このまま……今度こそ」

 

ハンドルを握る手に力がこもる。

 

鈴「……あれ、そういえば何か忘れてるような」

 

タイミングを合わせたかのように、スマホから通知音が鳴る。

新田は路肩にバイクを止め、スマホを取り出し通知を見る。

 

"店長「新田ちゃーん?アイス溶けちゃうよー?」"

 

鈴「……あっ」

 

食べ忘れかけていたパフェを食べるため、カフェに全速力で向かう新田であったとさ。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

???「……ぜえ、ぜえ」

 

傷口を押さえ込みながら、一人の男が森を歩いている。

目は虚ろ。傷口からは血が滴り、服はボロボロになっている。

 

???「俺に……力があれば……!」

 

木の幹に拳を叩きつける。

当然、幹は折れることも、揺れることさえもない。

男はそのまま、フラフラと歩き去っていった……。




失踪前提で見ておいてください。
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