投稿開始して約一週間でいきなり内容を大幅変更とは・・・・本当に申し訳ありません!
原作の時間軸も大幅に変わっており、あえてスタートは天狼島帰還後になります。
天狼島以前のストーリーの方が良かったという方々がいらっしゃったら、重ね重ね申し訳ないです……!
では、本編を。
ここはフィオーレのとある人里離れた山の中。人が立ち入るとは全く思えない程木々が鬱蒼と生い茂っているそんな場所に、″1人の男″と″1匹の猫″がいた……。
「あれが今回の標的がいる場所ですか」
「うん……」
いや、″男″という表現は些(いささ)か正しくないだろう。何故なら……人間の言葉を話す黒と紫の模様の猫と話しているのは、薄い金髪が特徴の″少年″なのだから……。
「そろそろ行こうか。ブランは外にいる魔導士達を片付けて。僕はその間に中を″一掃″するから……」
「分かりました」
そして1人と1匹はある廃墟を見下ろせる崖の上からあっという間に姿を消したのだった……。これから待ち受ける″運命の邂逅″のことなど知らずに……。
☆☆
「…………う…………あれ…………?」
少女が目を覚ますと、そこは薄暗い部屋の中だった。空気は気味が悪い程ひんやりと冷たく、辺りには特に何もない…………。と、ここで、
ジャラッ……
「! 何…………これ…………!?」
辺りをもっと見回そうとした瞬間、彼女は今の自分の状態に気が付いた。両手は無理矢理上げられ、手首には頑丈な鉄の枷が填(は)められており、しかもその枷は天井から吊るされた鉄の鎖と繋がれている………。そう……彼女は完全に″拘束″されていたのだ……。
「何……で……私、どうして、こんな…………っ!」
そして自分の置かれている状況に思わず混乱しそうになる中、少女は徐々に自分の記憶を思い出し始める。それは…………今から実に半日以上前のことだった……。
☆☆
「すぅ……すぅ……」
「や、やっと寝てくれたぁ……」
目の前で4~5歳くらいの男児が眠りに就いたのを見て、少女は思わず一息ついた。この少女の名はウェンディ・マーベル。マグノリアの外れにあるギルド″妖精の尻尾(フェアリーテイル)″のメンバーで、″12歳″と実に幼いながらも立派な魔導士として活動している……。
「お疲れ様ね、ウェンディ」
「うん、まさかこんなに大変だなんて思わなかったよ……」
「そうね、私もここまでとは思っていなかったわ。でも報酬はすごく良いんだし……内容から考えると十分破格の依頼よ?」
隣にいたウェンディのパートナーとも言うべき白いメスの猫――――シャルルがそう言ってくる。彼女達が今回請け負った依頼……その内容は″小さな子供のお世話″という、何とも平和なものだった。
実は今回ウェンディは訳あって1人で依頼をすることになったのたが、そもそもウェンディは攻撃系の魔術をあまり得意としないため、依頼内容として多い討伐や護衛といった依頼は厳しい。なので探し物や手伝いといった、至極日常的な依頼を探していたのだ。
そして目に入ったのがこの依頼だった。依頼主はマグノリアの隣にある街に屋敷を構える子爵で、報酬も何処かの″某お金に困っている星霊魔導士″が即飛びつきそうな程高額……。今住んでいるギルドの女子寮″フェアリーヒルズ″の家賃数ヶ月分に相当する報酬額は、若干財布事情が芳(かんば)しくないウェンディ達にとって実に嬉しいものだったのである。
「そうだね、それに大変だけど結構楽しいかも……。やっぱりいいね、小さい子のお世話って」
「まあ、確かにこうして小さな子供の寝顔を見てると癒されるわね……」
と、その時だった……。
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ……!!?!?!?』
「「っ!!??」」
突如ウェンディとシャルルの耳に飛び込んできたのは、断末魔とも取れるような男の悲鳴……。
「な、何よ今の悲鳴……!?」
「シャルル、この子をお願い! 私が様子を見てくるから!」
「なっ!? ま、待ちなさいウェンディ! ウェンディッ!!」
それを聞いたウェンディはシャルルの制止に止まることなく部屋を出て、悲鳴の聞こえた方へと向かう。そして屋敷の階段を下りて1階へと辿り着いた、その時、
「っ!? 誰!?」
「なっ!? 小娘!?」
「ここにいるのは小僧じゃねえのかよ!!」
4人の男達と鉢合わせしてしまった。しかも全員が武器を所持しており、少なくともこの屋敷の人間ではない明らかな悪人であることはウェンディにも一瞬で分かった。すると、
「んなこたどうでもいいだろ!! 見られた以上容赦すんな!!」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』
1人の男がそう言った瞬間、男達は一斉にウェンディへと襲いかかる。普通の少女なら大の男4人に襲われば言うまでもなく人溜まりもないだろう。だが彼らは知らなかった……ウェンディが魔導士であり、しかも魔導士達の中でも上位に入る程の少女であることを…………。
「天竜の……咆哮ォォォォッ!!!」
『どわああああああああああああああああああああああああッ……!!?!?』
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ…………!!!
竜巻のようなブレスの一撃をもろに受けた男4人は見事に建物を突き破り吹っ飛んでいった……。そして謎の男達を撃破したウェンディは、
「はわわっ!! お、思わず思い切りやっちゃった!! ど、どうしよう……!?」
目の前の廊下の惨状を見て慌て出していた。窓ガラスは殆ど割れ、床や壁にはヒビが入り、終いには突き当たりに見事な大穴が空いている……。どこからどう見ても災害現場にしか見えないだろう……。
「や、やっぱり弁償しなくちゃだよね……。報酬、無くなっちゃうかな……」
ウェンディは自分の犯してしまった失態に目に見えてションボリと落ち込んでしまうが……
「でもさっきの人達は一体……やっぱり闇ギルドの人達かな…………?」
ふと先程の男達について考え始め、最も可能性の高い答えに辿り着いた。主に犯罪行為を生業としている悪質なギルドの総称に……。と、ここで、
「? そういえば……お屋敷の人達の姿が全然見えないけど、皆どうしちゃったんだろう…………?」
そう、これだけの騒ぎが起きているにもかかわらず屋敷の主人や使用人達が一向にくる気配がないのだ。そして……
「っ! まさか……!」
それはあまりにも…………気付くのが遅過ぎた…………。
「やってくれたな、小娘」
「っ!? むぐっ…………!?」
背後からそんな声が聞こえたかと思うと、ウェンディは振り返る間もなく口に布のようなものを押し当てられた。するとそこから甘い香りが漂い始め…………
「ふむっ……! んん……ん……」
同時にウェンディの意識が急激に朦朧とし出したのだ。更に全ての感覚がボヤけ始め、そして……
「だが、これは…………最高の拾い物だ…………」
その言葉を最後に、ウェンディの意識は真っ暗な闇に堕ちていった…………。
☆☆
「じゃあ、私……そのまま眠らされちゃって、何処かに……」
ようやく自分の身に何が起きたのかを思い出し、ウェンディは自分が何者かに″拐われてしまった″ことを理解した。すると、
(と、とにかく、早くここから出なきゃ……!)
そう決意したウェンディは早速何とか両手の拘束具を解こうと、魔法を行使しようとして…………
「え…………?」
行使できなかった……。
「何……で…………?」
その後も何度も魔法を使おうとするも、結果は変わらなかった。発動の兆しさえも窺うことができない。と、その時、
キィィィィィィィィィィィィィンッ!!
「うっ……あ、ああああああああああああああああっ!!?!?!?!」
突如彼女の小さな体全体に激痛が駆け巡ったのだ。あまりのことに思わず悲鳴を上げて苦しむウェンディ。そしてやがてそれが収まると……
「ふぁ……はぁ……はぁ……あ……ぅ……」
間髪入れずに今度は凄まじい虚脱感が押し寄せ始めた。呼吸が一気に乱れ、荒く、そして弱々しく息を吐くウェンディ……。彼女は最早何が起きたのか考えることも出来ない程、気力を激しく失っていたのだ……。と、そこへ、
ギィッ……!
「気分はどうだ? 小娘」
「! だ……れ………?」
1人の男が部屋に入ってきた。身体中に黒の刺青が刻まれたスキンヘッドの屈強な男を見たウェンディは、身を強張らせながらも思わず尋ねると……
「″自分を拐った男″の声も覚えていないとは……哀れだな」
「っ………!!」
その言葉を聞いた瞬間、ウェンディの表情は一気に恐怖に染まる。当然であろう。何せ今自分をこんな目に遭わせている元凶が目の前にいるのだから………。
「どうやら魔法を使おうとしたようだな?」
「はぁ……はぁ……………え……?」
「ヒヒヒッ! その様子を見れば分かるさ……。お前の手首に填められた枷は特別製でなぁ……。魔法の発動そのものを阻害することができんだよ」
「っ…………!」
「そしてお前も体験済みだとは思うが、その上発動しようとした魔法の分の魔力を強制的に吸収することが出来る優れもんだ。要するに、魔法じゃその手枷は絶対に外せねえ」
「そん……な……」
心の何処かでは理解していたとはいえ、男の口からそれを聞いたウェンディは絶望感を覚える他なかった。魔法が無ければ、彼女は年相応の非力な少女でしかないのである……。すると、
「まあ大人しくしてもらうことを俺は願うぜ? 何せお前は大事な″商品″だからなぁ……」
「商……品………?」
男の口から出た一つの単語の意味がウェンディには分からなかった。そしてそんな彼女の様子を見た男は、淡々とした様子で話し出す………。
「俺達が最大の生業としてるのは拐った子供(ガキ)を適当な連中に売り飛ばす……いわゆる子供(ガキ)専門の人身売買だ」
「え…………!?」
「だが俺達の目的はただの子供(ガキ)じゃねえ……魔力資質の高え子供(ガキ)なんだよ。そういう子供(ガキ)は闇ギルドの連中にはよく売れる……。洗脳やら恐怖で縛り付けてコキ使わせるのは簡単だからなぁ……」
「! じゃ、じゃあ……あの屋敷を襲ったのって…………!」
「………………(ニヤッ)」
ウェンディがそこまで聞いたところで気付くと、男は何も言わずただ醜悪な笑みを浮かべた……。
「あそこにいる子爵の子供(ガキ)は高え魔力を持ってるって評判でなぁ。前々から狙ってたから成功して何よりだぜぇ……。まあ、つっても付属として″変なネコ″まで付いてきちまったけどな……」
「っ!! シャルル……? シャルルは……シャルルは無事なんですか!?」
「あ? 誰だよその″シャルル″ってのは…………!」
「あ…………!」
″シャルル″という名前が出てきたことに男は初め意味が分からないといった表情を浮かべるが、ここでふと思い当たった。ウェンディは思わず自分の過ちに気付くが、もう遅い…………。
「そうか……あのネコはお前のペットか! なるほどなぁ、ハハハッ!!」
「シャ、シャルルはペットなんかじゃありません……! 私の大切なパートナーです!」
「パートナーね~……。まあ何でもいい……お前は次の取引の時に″最高の商品″として売り出すつもりだ。何せ魔導士の中でも桁外れな魔力を持ってるみてえだからな……。これなら即戦力として他の闇ギルドの連中が高値で取り合うこと間違いねえ。ったく、まさかこんな小娘(ガキ)があの超弱小の″妖精の尻尾″にいるとは思わなかったぜ……」
「フェ、フェアリーテイルは弱小なんかじゃありません!! それに……私は闇ギルドの人達の協力なんて絶対にしません……!!」
シャルルだけでなく妖精の尻尾(フェアリーテイル)のことまで馬鹿にするような発言をした男に、流石のウェンディも有らんばかりの声で怒りを露にした。すると…………
「…………恐怖の宴(フィアーズ・フィエスタ)……」
「っ!?!?! ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ……!!!!!!!」
男はそう呟いたかと思うと、赤く血走った両目をカッと見開いてウェンディを凝視した。そしてウェンディがその目を思わず見た瞬間…………彼女は先程の魔力を吸い取られた時以上の悲鳴を上げた……。
「なに、これ………い、や……いや………いやぁ………!」
彼女を襲っているもの…………それは見ることのできない、″感覚だけの恐怖″である。言葉では一切表現できない恐ろしい何かを感じ取ったウェンディは無意識の内にもがき出す。だが当然彼女の純粋な力では拘束を抜け出すことなど出来るはずもない…………。
「もう、やめ、て……いやぁぁ…………」
そしてついに、もがくことも出来ずに力なく呟いた、その時、
パンッ!
「! あ………はぁ……はぁ……あ……ぅ…………」
男が手を叩いた瞬間、ウェンディを襲っていた″感覚だけの恐怖″がパッと消えた……。男の″幻術″から解放され弱々しく息をする彼女の目からは、止めどなく涙が流れている……。
「どうだ? 俺の恐怖の幻術を喰らった感想は……」
「! い、嫌………こ、来ないで………!」
男が一歩一歩近づいてくるのを見たウェンディは、思わず首を横に振りながら拒絶の言葉を呟く。もう先程までの怒りを見せる余裕など微塵も無く、今の彼女は完全に恐怖に支配されていた。そして……
ガシッ!!
「あうっ…………!!」
そんなウェンディの目の前までやってきた男は、彼女の髪を粗っぽく掴み上げると……
「お前の意志なんかどうでもいいんだよ……。それとも……魔法が使えなくなるまでさっきのを味わうか?」
「っ……!!!」
男の脅迫を聞いたウェンディは言葉も発することが出来ず、ただ体を震わせるだけだった。だがそれは、男の幻術への恐怖だけではなく、″魔法が使えなくなる″という言葉への恐怖も原因となっていた……。彼女の魔法は、彼女にとって大切な″ある者″から教えてもらったもの……。そして、姿を消してしまったその相手との繋がりを証明する唯一のものなのだ。魔法が使えなくなってしまうということは、その繋がりが断たれてしまうこと…………ウェンディにとって、絶対にあってはならないことなのである。更に……
「それともお前の言う大事なパートナーに、お前の受ける苦痛を肩代わりしてもらうか?」
「っ!? や、やめてください……シャルルに酷いことしないで……!」
今度はシャルルのことを挙げ、追い打ちを掛けるように男は言ってきた。自分にとって家族同然でいつも傍に居てくれるシャルルの身を自らの代わりに差し出すなど出来るはずもなく、ウェンディは当然嘆願の言葉を紡ぐ他無い……。
「分かったらあの子供(ガキ)と一緒に売り飛ばされるまで、大人しくそこにいるんだな。魔法も使えねえ以上、お前はもうここから逃げられねえんだからよ……」
「ひぐっ………うぅ…………」
男がそう吐き捨ててその場を後にする中、ウェンディはもう絶望感に心を満たされ………限界だった……。
(い、や………こんなの、いやぁ………)
捕まったパートナーや子供を助けることもできなかった……。
(せっかく、戻ってこれたのに…………)
ここから逃げることすらもできなかった…………。
(帰りたい………)
何もできなかった………。
(フェアリーテイルに…………皆のところに……帰りたい………)
どうすることもできなかった………。そして………
(だれ、か…………たす……けて………)
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ…………!!!!!
突如、轟音が響き渡ったのだった…………。
☆☆
ガッ!!
「ぐあっ!?」
ドスッ!!
「ぐえっ!?」
ザシュッ!!
「がはっ………!?」
ドサッ…………!!
「……これで殆ど片付いたかな………」
廃墟の中で1人の少年がそう言って手持ちの奇妙な形の剣を鞘に納める。その周りには………大勢の男達が倒れ付していた……。
「ブランの方も粗方片付けてると思うけど………あとは………」
と、ここで、
「! これは………地下かな……?」
少年は微かな気配を感じると、とんでもない速さで地下へと通ずるルートを下りていく………。すると、
「たった2人に何手こずってやがんだテメエ等はァッ!!!」
「す、すいやせんマスターッ!! で、ですがそいつ等、ば、化け物みてえな強さで……!!」
「チッ……! もういい!! 俺が直接そいつ等を潰す! テメエはここでこの小娘(ガキ)を見張ってろッ!! こいつは次の目玉商品になる………変な気は起こすんじゃねえぞ? いいなァッ!?」
「へ、へいっ!!」
地下のある一室からそんな会話が聞こえてきたのだ。と、次の瞬間、
ガンッ!!
「っ!?」
「なっ!? て、てめえは………!?」
少年は一切迷うこと無く扉を蹴破り部屋の中へ入った。そして2人の男が驚きを露にしている間に、下っ端と見られる男へ一気に迫り……
ドゴンッ!!
「がふっ………!?」
腹部に拳を一発お見舞いして、あっという間に片付けた………。と、その時、
「っ…………!?」
少年の目があるものを捉えた瞬間、少年は動揺したような表情を浮かべる。それは………部屋の奥でぐったりとしている、両手を吊るされて拘束されている青髪のツインテールの少女だった……。と、ここで、
「おいおい……どんな奴かと思えば小僧(ガキ)じゃねえか。こんな小僧にやられたのか、うちの屑共は………」
ここでもう1人の…………先程まで後ろにいる少女を極限まで追い詰めていた、マスターと思われる男がそう言ってきたのを聞いて、少年はすぐさま男の方へと視線を向けた。すると……
「闇ギルド″恐禍の狩人(テラーズ・ハント)″のマスター……ジゼル・バーチャーですね?」
「……てめえ………正規ギルドの人間か? ってことは、目的は俺か?」
「………答える気はありません……」
その男――――ジゼル・バーチャーは自身の正体を確認するような問いかけをしてくる少年に対してそう尋ねるが、少年は答えなかった……。
「チッ、まあいい……。だがどうやらてめえは知らねえみたいだから、1つ教えてやる……」
「……………………」
「俺を目当てにやってきた連中は今まで何人もいた……。評議院の検束魔導士の連中は勿論、ギルド間抗争禁止条約違反覚悟で俺を倒しにきた馬鹿な正規ギルドの魔導士もいたなぁ……。だが、俺は今もこうしている。何故だか分かるか……? 俺が全員返り討ちにしてやったからだよ……」
そう話すジゼルの顔は醜悪な笑みで満ち溢れていた・・・。
「全員廃人になっちまったんだよ! 精神を完全にぶっ壊してなぁッ!! 今でも思い出すぜあの快感ッ!! バカみてえな正義を振りかざして突っ込んでくる馬鹿が、言葉1つ碌に発せられなくなる人間に変わる瞬間を見た時は、マジで最高なんだ!! てめえには分かるか!? あァッ!? 分かる訳ねえよなぁッ!! その馬鹿共と同類のてめえになんかよぉッ!!!」
「……………………」
まるで別人かと疑いたくなるような狂い様のジゼル。だがそれでも依然として少年は言葉を発さない……。そして……
「まあ、つー訳で……今すぐ壊れちまいなクソ小僧(ガキ)ィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!!!」
ジゼルがそう言って幻術魔法を発動した、次の瞬間、
ヒュッ!!!!
「は……?」
嫌でも目に焼き付いてしまうような“真紅の瞳”………それがジゼルの“最後”の光景だった………。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ…………!!!!
それは本当に一瞬の出来事だった。少年のしたことはただ″近付いて相手の頭を地面に叩き付ける″…………それだけである。何ら変鉄もない攻撃だが、それだけで部屋の床全体が壊れ、ジゼルは頭を床にめり込ませてピクリとも動かない…………。それはすなわち、″ジゼル・バーチャー″という闇ギルドのマスターが少年にとって………戦うことはおろか、言葉を掛ける必要さえ感じない程の男だったということを示していた……。すると、
「………………」
そんな″ジゼル″というすでに倒された男には一切目を向けることもなく、少年は何かの前に足を進める。それは…………部屋の奥で両手を手枷で吊り上げられた状態でぐったりとしている、白を基調とした服を着た青髪の少女の下(もと)だった。そして少年はそんな自分よりも幼い少女の前に立つと、腰に帯刀していた奇妙な形の剣を抜き…………
バキィィィィィィィンッ!!
横に一閃して少女を拘束している手枷を破壊した。すると解放された少女が前のめりに倒れてきたので、少年は瞬時に剣を収めて彼女を抱き止め、安静な状態にするために右手で彼女の上半身を抱えつつ仰向けに寝かせた……。と、ここで、
「…………ん…………」
ウェンディが目を覚まし、ゆっくりと目を開けた。すると……
「気が付いた……?」
「……あなた……は…………?」
少年が声を掛けると、少女は目覚めたばかりのためか少し空(うつ)ろな様子で尋ねてきた。そしてそれに対し少年は言葉では答えず……
ポスッ
「ふぇ…………?」
穏やかな笑みを浮かべつつ、ただ優しく頭を撫でるだけだった。見ず知らずの相手にいきなりこんなことをされたら、普通は思いきり違和感を感じるだろう………。だがその少女――――ウェンディは自分を撫でる少年の手に不思議な温もりを感じ、彼に何処か安心感さえ覚えていた。まるで目の前の少年が自分に危害を与えることなど絶対にないと、理解しているかのように……。と、そこへ、
「どうやらすでに終わったようですね、レイル」
「! うん……。ブランもお疲れ様」
「労いの言葉を掛けられる程のことはしてはおりませんがね……」
部屋に1人の男…………もとい″獣人″と表現すべきような男性並みの体格を持つ生き物―――ブランがやってくると、軽くウェンディを助けた少年―――レイルと話し出した。すると、
「! シャルル………!」
「おや、こちらはあなたのお知り合いでしたか」
ここでウェンディが何かに気付き声を上げる。それはブランが片腕で抱えているもの………。それは紛れもなくウェンディが捕まっている間ずっと身を案じていたパートナーのシャルルだったのだ……。
「! エクシード………! ブラン、その娘は……?」
「地下の別の場所で捕らえられていました。ご安心ください。気を失ってるだけですので、怪我はしておりません」
「! よかっ……た………」
ブランからそう言われたウェンディは、思わず涙を流しながら笑みを浮かべる。それだけ大事なパートナーが無事であったことに安心したのだろう……。と、ここで、
「君も休んでいいよ」
「え……? で、でも………」
「大丈夫……。君はもう十分頑張ったから………。ね……?」
「あ…………」
レイルは戸惑うウェンディの頭を撫でながら、あやすように優しく言葉を掛けた。すると……
「は……い………」
ウェンディはそんなレイルの言葉に安心したのか、頷きながらゆっくりと目を閉じ始める。そして………
「すぅ………すぅ………すぅ………」
そのまま穏やかな寝息を立てて眠りに就いてしまった………。それを見て、
「いつものことながら子供の扱いには手慣れていますね、レイル」
「……それは誉め言葉?」
「さぁ、どうでしょう?」
「……はぁ………もういい……」
若干小馬鹿しているかのようなブランの発言に、ブランはげんなりしながらそう返した。どうやら2人にとっては実に取るに足らないやり取りのようである……。
「しかしレイル、この少女は……」
「うん……僕もこの子を見た時は驚いたよ……」
「まさかこのような形でお会いするとは思ってませんでしたか……。それで、どうするおつもりですか? レイル……」
ブランのその問いかけに対し、レイルは……
「このままにする訳にはいかない……勿論行くよ……」
「そうですか……。では、私は近くで待機している部隊に知らせてきます。こちらはお任せしてもよろしいですね?」
「分かった。頼むよ、ブラン」
返答を聞いたブランが足早に部屋を後にしていくのを見たレイルは、自分の腕の中で眠りに就いているウェンディに目を向ける。そして……
「妖精の(フェアリー)………尻尾(テイル)………」
思わずそう呟く………ウェンディの右肩に刻まれた水色の紋章を見つめながら…………。
――――今ここに相反する少年と少女が邂逅を果たし………運命の歯車が動き出した――――