明けましておめでとうございます。まさか年を跨いでしまうとは…。
今年もよろしくお願い致します。
では、本編をどうぞ。
とある山の中腹にて……
「…………」
「大丈夫か、ウェンディ?」
「! あ、はい! 頑張ります…!」
ビックスローが問い掛けると、ウェンディはハキハキとした口調で答えた。現在2人はカナの占いによって導き出されたポイントへと向かうため、山登りをしている…。
「この峠を越えれば、目的地はもうすぐだぜぃ」
「はい…!」
と、ここで…
「レイルのことでも考えてんのか?」
「ふぇっ!? あ、あの、どうして…」
「いや、何か考え事でもしてる感じだったからな。適当に勘で聞いてみたんだが…まさか当たってるとは思わなかったぜ」
「あぅ…」
ビックスローにそう言われたウェンディは、言い当てられたのが恥ずかしいのか少し顔を伏せた。
「そんな心配しなくてもいいんじゃねえか? 何せあいつはあのラクサスに勝って認めさせた奴だからな。六魔だろうが元幽鬼の奴等だろうが、あっという間に倒して………ん…?」
「? どうしたんですか?」
「いや、何かがこっちに向かってくるんだが…」
「っ! ひょっとして、六魔将軍か元幽鬼の支配者の誰かが…!」
後ろを見ていたビックスローがそう言うと、ウェンディは咄嗟に後ろを振り返り、すぐに近付いてくる何かを捉える。それは確かに人らしき姿をしていたのだが…
「えっ…!?」
「おいおい、何でだよ…?」
その正体が分かった瞬間、ウェンディとビックスローは驚くしか無かった。何故なら、その人物は…“黒金剛の翼”を使ってこちらへと向かってきているのだから…。そして…
バサッ…!
「よかった、間に合って…!」
「レイルさん!!??」
その人物──レイル・アスフォードはウェンディとビックスローの前に降り立った…。
「レ、レイルさん、どうしてこっちに? シャルル達と一緒じゃ…」
「あー、うん。そうだったんだけど、実は…」
───回想───
話は数時間前に戻る。ここはとある森林地帯。その中で現在、4匹のエクシードと1人の少年が休息を取っていた…。
「ねえねえ、カナの占いで出たポイントって、まだ先?」
「ええ、まだまだね」
「中々の距離だな。今日中には何とか到着したい所だが…」
そんなやり取りをしているのはハッピーとシャルル、リリーである。一方、残るレイルとブランはというと…
「出来ましたよ、レイル」
「! ああ、ありがとう、ブラン…」
完全に喫茶店のような雰囲気を醸し出していた。どうやらブランはコーヒーを淹れるための道具一式を持参していたようで、レイルに出来立てのコーヒーを出していたのである…。そして、レイルがそれを一口飲んだ所で…
「“心ここに在らず”…といった所でしょうか」
「…!」
「前にも言いましたが、あなたの考える事くらいはある程度想像が付きます…。気になっているようですね、ここまでの一連の流れが…」
片付けをしながらブランがそう言ってくると、レイルは口を開く…。
「ブランはどう思ってる?」
「…一言で表現するならば、“違和感だらけ”としか言いようがありませんねぇ。中でも特にその違和感を感じるのは…今回のチーム編成でしょうか」
「うん…。一見すると新鮮味がありつつも悪くない組み合わせなんだけど…連携した行動が取れるかどうか聞かれると、正直不安要素が多いような気がする。そして何より…」
「…ウェンディですね?」
「うん…」
ここで話題に上がったのは、やはりいつもレイルの傍にいる滅竜魔導士の少女だった。
「ウェンディは元幽鬼の支配者の人達から狙われている筈。ビックスローさんはラクサスさんも実力を認めてる雷神衆の1人だけど、もしあのジョゼが直々に来たら…」
「厳しいという次元の話ではありませんねぇ。むしろこう言ってはなんですが、仮にギルドメンバーを総動員したとしても、今のあの男の強さでは拮抗しないかもしれません」
「でも、カナさんはそのことも考慮した上で占ったと言っていた…。やっぱり、今回の組み合わせには何かあったんじゃ…」
そう呟きながら険しい表情を浮かべるレイル。すると、それに対しブランは…
「ウェンディのことが心配ですか?」
「! まあ、一言で言えばそういうことになるかな…」
「なるほど…。では、直ちに向かわれた方が良いのではありませんか?」
「…!」
レイルはブランの思わぬ問い掛けを聞いて驚きを露わにした…。
「こちらは仮に戦闘に突入したとしても、私とリリーで対処することが出来ます」
「…本当にいいの、ブラン?」
「ええ。何よりこの提案に同意してくれる方もいるようですから」
「…!」
そう言われたレイルが思わず振り返ると、そこにいたのは…
「シャルル…!」
「話は聞いていましたね?」
「ええ…」
いつの間にかハッピーとリリーの下を離れ、こちらに来ているシャルルだった…。すると、
「私も賛成だわ。すぐにウェンディ達の所に行って」
「! まさか、何か予知で見えたの?」
「そうじゃないわ。ただ…嫌な予感がするのよ。このままだと取り返しのつかないことになるような、そんな予感が…」
そう話すシャルルの表情を見て、レイルはすぐに感じ取る。今ここで動かなければならないと…。
「…ブラン」
「何でしょうか?」
「後の事は任せるよ」
「! 分かりました」
ブランが頷くのを見て、レイルはすぐに黒金剛の翼を背に生やす。すると…
「レイル」
「? シャルル…?」
そんなレイルにシャルルが声を掛けてきたのだ。そして…
「あの娘(こ)をお願い…」
「! うん…」
バサッ!
その言葉を受け、レイルは今度こそ飛び立ったのだった…。
───回想終了────
「…という訳で、急遽こっちに来たんです」
「そういうことか。なるほどな」
レイルがここへ来た理由を説明すると、ビックスローは納得した様子で返した。すると…
「あの、レイルさん…」
「? どうしたの、ウェンディ?」
「ごめんなさい…」
「え?」
「私のせいで、レイルさんに迷惑が…」
ウェンディが俯きながら謝罪の言葉を述べ始めたのだ。その様子はまるで、親に怒られる前の子供のようである。しかし、それに対して当のレイルは…
ポスッ!
「え…?」
「やっぱり優しいな、ウェンディは。そんなこと、気にする必要なんてないのに…」
「! で、でも…」
いつものように右手を彼女の頭に優しく乗せ、柔らかな笑みを浮かべながらそう呟いたのだ。そして戸惑いを露わにするウェンディに対し、続けてこう話を続ける…。
「ギルドの紋章は無いけど、僕も今は“妖精の尻尾”の一員として行動してるつもりだ。マスターマカロフも前に言ってたと思うけど、“妖精の尻尾”にとってギルドのメンバーは家族も同然…。それなら、こうやって心配で駆け付けるのも当たり前のことなんじゃないかな?」
「…!」
「といっても、ブランやシャルルに言われてようやくこっちに来る決心がついたんだけどね…」
然り気無くお茶を濁すようにそう言うレイル…。
「すみません、ビックスローさん。そういう訳で僕も同行させていただきます」
「おいおい、畏まる必要なんざねえよ。あのラクサスとの戦いの後、お前とは一度組んで仕事してみてえと思ってたんだ。歓迎するぜ!」
『スルゼスルゼー!』
「! ありがとうございます」
ビックスローが彼の操る人形達と共に歓迎の意を伝えると、レイルはすぐさま軽く頭を下げ、感謝の言葉を述べる。
「君もそれでいいかな、ウェンディ?」
「! はい!!」
そしてウェンディが嬉しそうな様子で頷いた所で、再び目的の場所へと向かおうとすると…
ゴロゴロゴロゴロッ…!
「! 嵐…?」
「山の天気は変わりやすいっつうが…」
晴れていた空模様が一気に急変し、黒い雲が上空一体を覆い始めたのだ。それを見たウェンディとビックスローは当然疑問に思い呟く。と、その時、
「ッ! ブラックメイク! 壁(ウォール)!!」
ゴオオオオオオオオオオッ!!!
「「ッ!?」」
レイルがいきなり2人の前に出て黒金剛の壁を作り出したかと思うと、突如前方から激しい突風が襲ってきたのだ。当然黒金剛の壁により、3人へのダメージは全く無い。
「何だこいつは!?」
「風…? ッ! もしかして…」
ビックスローが驚きを見せる中、ウェンディは突如襲ってきた突風の正体に気付く…。
「昨日の空模様は…思い出せない…」
「「ッ…!!」」
その声は3人の上から聞こえてきた。マントを羽織り、宙に浮いているスキンヘッドの男…。
「やっぱりあなたでしたか、グリムリーパー」
「! こいつが新生六魔将軍の1人か。歩く異常気象だな、まるで…」
「元“鉄の森(アイゼン・ヴァルト)”の1人、エリゴールさんらしいですよ…?」
レイルが予測していた様子で言うと、ウェンディは以前判明していた目の前の男──グリムリーパーについての補足を述べた。
「鉄の森(アイゼン・ヴァルト)……エリゴール……知らんな…」
「何だよテメエ、物忘れが過ぎるんじゃねえか?」
「……?」
(…! この前の戦闘でも少し感じていたけど…まさか…)
ビックスローの発言に対するグリムリーパーの反応を見て、何かに気付くレイル。と、その時だった…。
「ッ!! ウェンディッ!!」
「ふぇ?」
バッ!!
「キャッ/////!?」
レイルがいきなりウェンディを抱えてその場から離れたかと思うと…
ドォンッ!!
「なっ!!?」
まさに先程までウェンディが立っていた場所に、数十センチ程のクレーターが轟音と同時に出現したのだ。それを見たビックスローは驚きを露わにしながらも、すぐに何が起きたのかを察する。そう…ウェンディに向かって攻撃が為されたのだ…。
「大丈夫、ウェンディ!?」
「は、はい。でも、何が…」
レイルの問い掛けにウェンディは頷きながらも、突然のことに呆然とした様子だった。まあ、当然である。グリムリーパーに攻撃をした様子はないのだから…。すると、
「フフフフフッ…やはり気付かれてしまいましたねぇ…」
「「ッ…!!??」」
その声はグリムリーパーと比べ、ウェンディとビックスローに一段と響いた。おどろおどろしい魔力を放つ、その声の主は…
「久しぶりですねぇ、レイル・アスフォード…」
「ジョゼ・ポーラ……」
「ッ! こいつが…」
崖の上から見下すように立っている男──ジョゼ・ポーラとレイルが対峙する中、その姿を初めて見たビックスローは思わず呟く。咄嗟に感じたのだ…圧倒的な力の差を…。
「どうして貴方もここに…?」
「おやおや、まさか忘れた訳ではないでしょう? 私の狙いが一体何なのかを…」
「………」
「ッ……(ビクッ!)」
ジョゼの小馬鹿にするような発言に対し、口を閉ざすレイル。その一方で、ウェンディは見下すようなジョゼの視線に恐怖を抑えきれず、密かにレイルの後ろに隠れてしまった…。
「邪魔してしまい申し訳ありませんねぇ。1人だけ、こちらで御相手させていただきますよ?」
「…好きにしろ……どうでもいいことだ…」
「では、遠慮なく…。先日の続きと参りましょう」
「…!」
「断る理由はありませんよねぇ? 何しろ、貴方はそうするしかないのですから…」
そんな狂気染みた笑みを浮かべるジョゼがそう言うと、ここでレイルは口を開いた…。
「ビックスローさん」
「! 何だ?」
「グリムリーパーの方をお願いします。あの人の言う通り、僕のやることは決まってるようなので…」
「…ああ、任せろ」
「レイルさん…」
「ウェンディは、ビックスローさんのサポートをしてあげて。あの人も一筋縄じゃいかない強敵だからね」
「! で、でも…」
ビックスローはすぐに承諾したものの、ウェンディは不安そうな様子でレイルに目を向ける。やはりその圧倒的な強さを知っているとはいえ、不安はどうしても残っているのだろう。すると…
スッ…
「あ…」
「大丈夫…。あの誓いを破るようなことは、絶対にしないから…」
「…!」
レイルが目線を合わせるように屈んで言うと、ウェンディはそれを聞いて思い出す。先日の夜の出来事と……その時に彼が言った言葉を…。
「ビックスローさん…ウェンディのことも頼みます」
「ハッ、言われるまでもねえよ!」
「助かります…。では…!」
バサッ!!
「フッ…」
シュンッ!!
そして最後にビックスローにそう伝えると、レイルは即座に黒金剛の翼を生やし、高速でその場から離れる。更にそれを見たジョゼもまた、意味深な笑みと共に瞬時に姿を消した…。
「レイルさん…」
「あいつなら問題ねえよ。それより今は…」
「上空からの突風!!」
「「ッ!!」」
ビュオオオオオオオオオッ…!!
会話を遮るようにして上から突風が襲い掛かるが、ウェンディとビックスローはそれをかわす。
「この異常気象野郎をさっさと倒すぞッ!!」
「! はい…!!」
☆☆
その頃、そこから少し離れた所で2人の人物が対峙していた…。
「クックックッ! では、早速再開するとしましょうか…」
「…………」
「おや、一体どうしたのですかな?」
依然として狂気に満ちた笑みを浮かべる男──ジョゼ・ポーラが尋ねると、対する少年──レイル・アスフォードが口を開く…。
「どうして、あなたはここに来たんですか?」
「! おやおや、貴方ともあろう人間が、もうお忘れになったんですか? 私の狙いが一体何なのかを…」
「そうじゃありません。僕が聞いているのは…“どうしてウェンディが来るこの場所に、あなたも来ることが出来たのか”ということです」
「…ほお…」
ジョゼが僅かに感心したような様子で呟く中、レイルは話を続ける。
「あなたはウェンディがここへ来ることを確信していた…。妖精の尻尾がどんな行動をするのかも分からない以上、普通ならそんな確信を持つことなど絶対にできません。ですがもし、妖精の尻尾の人達の行動が全て“仕組まれたもの”だったとしたら…そこにはむしろ確信しかありません」
「…つまり、こちらがあの羽虫共の誰かを操ったという訳ですか? それこそ、何かしら“夢のようなもの”を利用して…」
(ッ! やっぱり、あのカナさんの占いは…)
ジョゼの言葉を聞いたレイルは確信した。今回の六魔将軍および幽鬼の支配者への追撃そのものが、相手の術中であったということを…。
「やはりあなたは素晴らしい。あの羽虫共とは違い、既に疑念を感じ予想を建てていた。その結果、今回あなたは六魔将軍の方々の想定を覆す行動に至った…。ですが、それも私の中では予想通りです」
「! それはどういう意味ですか?」
「クックックッ…これは予想ではなく、“予感”といった方が正しいでしょうかねぇ」
「? “予感”…?」
「そう、“予感”ですよ。あなたがこうして想定を裏切り、この場に居るという予感を私は感じていました。そしてだからこそ…」
バッ!!
「ッ!!」
「再び殺し合いをすることが出来る…!」
ドガアアアアアアアンッ!!!
戦いの火蓋は突如、ジョゼの方から切って落とされた。先制と言わんばかりに、おどろおどろしい紫色の魔力の波動を放つが、レイルはそれを危なげ無く避ける。
「デッド・レイン…!」
ジョゼはそれを見越していたように、今度は上空に向けて魔力の塊を放つと、最高到達点で一気に分散し雨のように降り注ぐ。しかし、それに対してレイルは…
「ブラックメイク! “大鎌(ジ・デスサイス)”!!」
自身の身の丈以上に大きい黒金剛の鎌を生成したかと思うと、それをバトンのように自在に振り回すことで全て振り払い…
「ハァッ!!」
今度はレイルが大鎌による斬撃を放った。ジョゼは当然それを避けるものの、後方にあった巨大な岩は真っ二つに斬り裂かれている…。
「フフッ、でしたらこういうのはどうでしょう…」
パチンッ!
「…!」
すると、ジョゼは指を鳴らしながら“あるモノ”を出現させる。それは…
「“幽兵(シェイド)”…いや、ただの幽兵じゃない…」
「御明察…。これは戦闘能力をそれなりに強化した幽兵。そうですねぇ…“幽騎兵(イル・シェイダー)”とでも呼びましょうか」
16体の特殊な幽兵達だった。その全てが魔力で構成された黒馬に乗っており、尚且つ重厚な槍を携えている…。
「行きなさい…」
シュッ!!
「ッ…!!」
レイルが驚いたのは、行動を開始した幽騎兵達のスピードである。その速度は今までの幽兵とは比べ物にならない程のモノであり、妖精の尻尾の実力者達すらも上回っていたのだ。
ドガアアアアアアアンッ!!
まず4体が一気に槍を振り下ろしてくるが、レイルはそれを跳躍して避け…
ガキィィィィィィィンッ!!
空中を狙って追撃を仕掛けてきた別の4体の一突きを、黒金剛の大鎌とエコートレイサーで器用に防ぐ。そこへ残りの8体がトドメと言わんばかりに迫ってくるが…
「シッ…!!」
キィィィィィィンッ…!!!
レイルはその全てを回転切りの要領で吹っ飛ばし、距離を取らせた。するとすぐさま大鎌を片手剣へ造形し直し…逸機に反撃へと転じる…。
「ふっ!!」
まず手近にいた2体へと迫り、防御する余裕を与えることなく瞬時に斬り伏せる。すると、すかさず背後から別の2体が斬りかかってくるが…
キィィィィィィンッ…!!
それをレイルは背中の後ろで双剣を交差させて受け止めたのだ。そして…
「ブラックメイク…“針地獄(ニードル・クライシス)”!!」
その状態のまま黒金剛の巨大な針を地中から発現させ、2体の幽騎兵を串刺しにした。
ダッ!!
それを見た残りの幽騎兵達は一斉にレイルへと飛び掛かる。前後左右は勿論のこと、空中からも同時に仕掛けてきているため、一切死角はない。だが…
「黒龍一閃…」
それはレイルにとってむしろ好都合だった。自身の得物をエコートレイサーだけにすると、姿勢を低くして構え…
「“扇燼(せんじん)”ッ!!!」
目にも留まらぬ速さで無数の斬撃を放った。その範囲は全方位に及び、残る12体全員に殺到する。その結果……全ての幽騎兵が跡形もなく消滅した…。
パチッ、パチッ、パチッ…!
「いやはや、これは参りましたねぇ。私の幽騎兵達がこうもあっさり倒されてしまうとは…」
「…………」
「おや? 何やら納得がいっていないようですねぇ…?」
それを見たジョゼは意味あり気な拍手を送るが、当の送られたレイルは複雑な表情を浮かべ、こう口にした…。
「あなたは一体、何を考えているんですか?」
「…それはどういう意味ですかな?」
「確かに今の幽騎兵達の強さは、幽兵と比べると別格です。ですが…“この程度”なら精々時間稼ぎくらいにしかなりません。貴方ほどの人なら当然それも分かっている筈…。僕が知りたいのは…今の行動の真意です…」
レイルの言っていることを簡単に説明すると、要するに“狙いを教えろ”ということである。普通なら、そう言われて教える者などいない。しかしジョゼは…敢えてそれを話し始める…。
「確かに、あなたが相手では時間稼ぎの役割を果たすのが限界でしょう。ですが…あなたが相手であればそれでいい。そう…“あなたが相手ならば”…」
「ッ…!? まさか…」
「フフフッ、どうやら気付いたようですねぇ…。私の生み出した幽騎兵が、あなたの倒した者達だけではないことに…」
「ッ!!」
狂気に満ちた笑みを浮かべるジョゼを見た瞬間、レイルはすぐさま黒金剛の翼を羽ばたかせて飛び立とうとした。しかし…
「デッド・ウェイブ」
「ッ! くっ…!!」
ジョゼの攻撃によって遮られ、その場に着地せざるを得なくなってしまった…。
「フフッ、私がそう易々と逃がすとでも?」
「やはり、狙いは最初から…!」
「目的を見失うほど私は愚かではありませんのでねぇ。まあ、安心して下さい。手荒な真似はなるべくしないようにしてありますから。もっとも、状況によっては“やむを得ない”場合もあるかもしれませんが…」
「ッ…!!」
それを聞いたレイルは苦虫を潰したような表情を浮かべ、思わず拳を握り締める。目の前の男の狙いが何かを確信できたものの、そのために目の前の男を無視する余裕は…流石のレイルにもなかったのだ。そして…
(ウェンディッ……!)
この場にいない少女を心配にしながらも、再び狂気の笑みを浮かべる男──ジョゼ・ポーラと対峙するのだった…。
☆☆
その頃、グリムリーパーと戦っていた筈のウェンディとビックスローは……圧倒的な危機に瀕していた…。
「しっかり! しっかりしてください、ビックスローさん…!」
「グッ…チクショウ、がぁ…!」
大きなダメージを負った様子のビックスローに、治癒魔法を掛けているウェンディ。だがそんな彼女も無事とは言えず、明らかに体力を消耗している様子だった…。
「何なんだよ…“あの連中”は…!?」
そんな状態に陥っているのには、ある大きな要因があった。グリムリーパーとの戦闘中に突如現れ、今そんな彼の両脇を固めるように浮いている者達……5体の幽騎兵である…。ただでさえグリムリーパーを相手に劣勢に立たされていた所へ、この5体はいきなり襲撃を仕掛けてきた。しかもその狙いは、完全にウェンディだったのである。その結果、ビックスローは間一髪で彼女を助けた代わりに大ダメージを受けることになってしまった…。
「あの男が寄越したようだな…余計な真似をしてくれる…」
(ッ! やっばり、あれはあの人の…)
グリムリーパーの言葉を聞いたウェンディはすぐに確信する。目の前の謎の騎兵がジョゼの魔法によって生み出されたモノであると…。
「まあ、どうでもいい…。使えるものは使わせてもらう…」
「ッ…! ウェンディ、今すぐ逃げろ!!」
「えっ…!?」
ウェンディが驚く中、ビックスローは続けてこう言い放つ。
「あの異常気象野郎はともかく、周りの奴等の狙いは間違いなくお前だ…! 俺を置いていけッ…!!」
「………」
「賢明な判断だな…。今の状況では何も出来ん…。もっとも、塵一つの差であろうが…」
ビックスローの指示について、グリムリーパーはまるで他人事のように評価をする。しかし当のウェンディの取った行動は…
ザッ…!!
「っ!? 何してやがるッ!! 早く行け…!!」
ビックスローの前に立ち、宙に佇むグリムリーパーや幽騎兵達と対峙するウェンディ。ビックスローが声を荒らげるが、動こうともしない。そして…
「何故その男を見捨てようとしない…? その男を見捨てれば、貴様の勝機も上がるだろうに…」
「仲間を見捨てるなんて…あり得ないッ!!」
その言葉と共に、ウェンディはグリムリーパーと幽騎兵達に迫る。
「天竜の…咆哮ッ!!!」
ある程度の距離を詰めた所で風の衝撃波を放つが、グリムリーパー達は当然の如く避け、2体の幽騎兵が槍を彼女の背後から振り下ろす。
「ッ…!!」
ドガアアアアアアアンッ!!!
それを間一髪かわすウェンディだが、今度はグリムリーパーが追撃する。
「前方からの嵐…!!」
「ッ! 天竜の…翼撃ッ!!」
グリムリーパーの攻撃を両手から放った風の渦で相殺するが、僅かに押されてしまう…。
「バカヤローがッ!! お人好しも大概にしやがれッ!! 時には仲間を置いていく勇気も必要だろうがッ!!」
「嫌です!!」
それを見たビックスローが声を荒げるが…それでも尚、ウェンディは退こうとしなかった…。
「私も妖精の尻尾の一員です! 仲間を見捨てたりなんて、絶対にしない…!!」
「上空からの竜巻!!」
エリゴールが竜巻を起こして攻撃するが、ウェンディはそれを避ける…。
(それに…!)
2体の幽騎兵がすかさず襲ってくるが、今度は跳躍でかわす。
(“あの日”からずっと、レイルさんに守ってもらってた…。でも…!)
そこへ容赦なく追撃を掛けようと迫ってくる別の2体の幽騎兵。すると、それに対しウェンディは…
「ッ…!!」
ガッ!!×2
(守ってもらうだけなんて、もう出来ない…! だから…!)
2体の槍の横一閃を回転で器用に避け、両者の頭部を踏み台にような格好で蹴りを繰り出し、その反動を利用して更に跳躍したのだ。その先には…1体の幽騎兵の姿が…。
「今度は私が、仲間を守る…!!」
「ッ! 仲間…?」
グリムリーパーが動揺を見せている中、ウェンディは上空の幽騎兵に向かって真っ直ぐ突っ込んでいく。それを見た幽騎兵は当然彼女に向けて槍を突いてきた。と、次の瞬間、
キィィィィィィンッ!!
ウェンディは空気を纏った右足で、その槍の先端を蹴り上げたのだ。そして…
「天竜の…咆哮ッ!!!!」
ゴオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!
渾身のブレスが幽騎兵に直撃し…一瞬にして消滅させた…。
(やった…!)
僅かに安堵するウェンディ。しかし…
「上空からの暴風ッ!!」
「ッ…!!??」
ドガアアアアアアアアアアアアアンッ…!!!!
「ウェンディッ…!!!」
ウェンディがグリムリーパーの攻撃をもろに受けたのを見て、思わず声を上げるビックスロー…。
「うぅ……」
土煙が晴れると、そこには酷いダメージを受けた様子のウェンディが倒れていた…。
「くっ…何だ、今のは…? まあ、いい…さっさとその娘を連れていくがいい…。俺は…その男を片付けるとしよう…」
「(ッ!? コイツ等、ウェンディを連れ去る気か…!!) ウェンディッ! 起きろ、ウェンディッ!! クソッ…!!」
動揺したままの状態のグリムリーパーの発言を聞き、ビックスローは倒れ伏しているウェンディに向かって叫びつつ、何とか立ち上がろうとする。だが彼女の治癒魔法を受けていたとはいえ、回復は十分ではなかった…。
(ダメ……動け、ない……)
ウェンディも意識こそ保っていたが、やはり動くことは出来なかった…。
(戦わない、と……)
目の前には近付いてくる4体の幽騎兵達の姿が、ハッキリと見えていた。しかし、体が言うことを聞いてくれる様子はない…。
(レイル、さん……)
そして、ウェンディの意識が遠ざかり始めた…その時……
「レイン・バレットッ!!」
ガガガガガガガガガガッ…!!!!
突如ウェンディと幽騎兵達の間に、無数の弾丸の雨が降り注いだのだ。意思を持たない幽騎兵達も、目の前の出来事に動きを止める。すると土煙が晴れ、そこには…
「どうやら間に合ったようだな、“ルドガー”」
金色の髪に眼鏡を掛けているのが特徴で、何処か紳士的な雰囲気のある男──ユリウス・ウィル・クルスニクと…
「ああ、そうみたいだね、“兄さん”」
少し黒のメッシュが入った灰色の髪が特徴で、青色のシャツにネクタイというピシッとした格好の男──ルドガー・ウィル・クルスニクが立っていた…。