何となく分かると思いますが、“あの人達”が参戦します。また本当に僅かではありますが、少々アニメと変わっている所もあるかと…。
では、本編をどうぞ。
とある丘陵地帯にて……
「ハアアアッ!!」
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ…!!!!
一撃によって大きく地面が抉れ、土煙が舞う。するとやがて晴れていき、そこにいたのは……
「…………」
「…………」
薄い金髪の少年―――レイル・アスフォードと、赤紫の髪と口髭を蓄えているのが特徴の男―――ジョゼ・ポーラだった…。
「すっかり焦りが消えてしまいましたねぇ…」
「…………」
「理由はやはり、先程感じた魔力ですかな?」
「…もしそうだと言ったら、どうしますか?」
「……チッ……」
不敵な笑みを浮かべながら問い返してくるレイルを見て、思わず舌打ちをするジョゼ…。
「ここに来て更なる想定外が起こるとは…先を読むというのは存外難しいものですねぇ。もっとも、どうやらそちらにとっても予想外な事だったようですが…」
「ええ…でも、僕にとっては“嬉しい予想外”です!!」
ダッ!!!
そして、レイルは再びジョゼへ攻撃を仕掛けていく…。
(そっちはお願いします! ルドガーさん!! ユリウスさん!!)
心の中で、ある者達に何かを託しながら…。
☆☆
「どうやら間に合ったようだな、ルドガー」
「ああ、そうみたいだね、兄さん」
突如ウェンディを庇うようにして、4体の幽騎兵達の間に現れた2人の男―――ユリウス・ウィル・クルスニクと、ルドガー・ウィル・クルスニク…。と、ここで、
「だ、れ…?」
「…! “エル”!!」
「うん!!」
倒れているウェンディが朦朧とした状態ながらも2人に気付くと、ルドガーの呼び声を受けて1人の少女が駆け付けて来た…。
「ルルと一緒にその娘の傍に付いてあげてくれ!」
「分かった!!」
「ナァ~!」
「お、おい! テメエ等、一体…!」
ツインテール風に結われた薄い茶髪とプロムナードを被っているのが特徴の少女―――エル・メルマータと、その傍らに居るシャム猫―――ルルがそれぞれ返事をする中、近くに倒れているビックスローは突如現れたルドガー達に困惑を隠し切れない…。
「“新生・六魔将軍(オラシオンセイス)”のエリゴール…いや、グリムリーパーだな?」
「何者だ、貴様等…?」
「ユリウス・ウィル・クルスニク。特務機関“クロニクル”において、八元帥の一角を務めている者だ」
「っ!? クロニクルだと…!?」
グリムリーパーの問い掛けに対してユリウスがそう答えると、ビックスローは驚きを露わにした。
「俺はルドガー・ウィル・クルスニク。兄さんと同じ、クロニクル所属の魔導士だ。そして…」
「ルドガーの相棒、エル・メルマータと! もう1人の相棒のルルだよ!」
「ナァ~ッ!!」
更にルドガー、エル、ルルもユリウスの後に続いて名乗りを上げた。もっとも、ルルに関してはただ鳴いただけだが…。すると、
「クロニ、クル……それじゃあ、レイル、さんの……」
「! もしかして、あなたがウェンディ?」
「! どう、して…?」
エルが自身の名前を口にしたことに驚くウェンディ…。
「君のことは少し前にレイルとブランから聞いていたんだ。でもよかった、何とか間に合って…」
「レイル、さんが……」
「君達は休んでいてくれ。ここから先は、我々が相手をする…!」
ルドガーとウェンディがそんなやり取りを交わす中、ユリウスはそう言いながら双剣を構える。
「何故だ…? 見たところ貴様等は全くの初対面のようだな。にもかかわらず、何故そんな小娘共を庇うようにして戦おうとする? 何故そのような不可解な行動を取ろうとするのだ…?」
「? 不可解だと…?」
「そうだ。不可解以外の、何物でもない…!!」
ゴオオオオオオオオオオッ…!!!
グリムリーパーは苛立ちを露わにしながら、雷を纏わせた突風を放ってきた。しかし…
「一迅ッ!!」
ザァンッ!!
「ッ…!?」
その攻撃はユリウスの双剣による突きによって、瞬時に霧散した…。
「不可解などではない。レイルは彼女達を“仲間”と認めて共に行動していた…。ならば、我々にとっても決して赤の他人ではない」
「そうだよ! 友達の友達は友達!! だよね、ルドガー♪」
「ああ! 俺達が戦う理由は、それで十分だッ!!」
「ッ!?!? 仲、間……!?!?」
そしてユリウス、エル、ルドガーが言い放つと、グリムリーパーは動揺を露わにし、左手で自身の頭を押さえ始めた…。と、その時、
シュンッ!!×2
「「ッ!!」」
ガキィィィィィィンッ…!!!×2
今まで静観気味だった幽騎兵の内の2体が、ユリウスとルドガーに斬り掛かってきた。
「どうやらまずは、この影の兵達を片付けた方が良さそうだ!!」
「そうみたいだね…! エル! その2人のことを頼む!!」
「うん、任せて!!」
「行くよ! 兄さん!!」
「ああ!!」
キィィィィィィンッ…!!×2
そう言いながらルドガーとユリウスは同時に2体の幽騎兵達を弾き飛ばし、一気にその2体の下へと迫った。当然の如く2体は迎撃するため、素早い突きを繰り出してくるが…
「遅いッ!!」
「ハアッ!!」
ザザザザァンッ!!!×2
ルドガーとユリウスは勢いを殺すことなく避け、すれ違い様に2体を剣閃で斬り伏せる。しかし、残り2体がすぐさま2人の背後を取り、すかさず槍を振り下ろしてきた。そして…
ガッ!!
ルドガーは右足の上段蹴りで槍を吹き飛ばし…
ダッ!!
一方のユリウスは跳躍することで攻撃を避け…
「鳴時雨ッ!!」
ザザザザァンッ!!!
「轟臥衝ッ!!」
ザシュッ!!
目にも止まらぬ剣閃と、剣を突き立てることで残りの2体を倒した。それを見て…
「すごい…」
「あ、あの影共を一瞬で倒しやがった……」
「流石ルドガーとユリウス!」
ウェンディとビックスローが何とか立ち上がりながら再び驚く中、変わらず明るい雰囲気でそう言うエル…。と、その時だった…。
「な、何だ……誰だ……!? グ…ウッ…!?」
『……!!』
「い、今のは…一体……!?」
グリムリーパーの様子がおかしい事に、合流したルドガーやウェンディ達は全員気付く。
「よ、止せッ!! 入ってくるな…記憶などいらん…!!」
「兄さん、あれは…」
「どうやらあの男は、記憶に関して何か重大な問題を抱えているようだな。そして恐らく今、それが暴走している」
「え…?」
「ああ、御明察だ」
ユリウスの言葉にウェンディが首を傾げる中、それに同意したのはビックスローだった…。
「来るな、カゲヤマ…!! 何も言うなァ…!!」
「野郎は今、記憶を取り戻そうとしている。だがそいつに抵抗しようとする何かの力が働いてるせいで、テメエ自身の記憶に押し潰され掛かってんだよ」
ビックスローは左眼でグリムリーパーの魂を見ながら解説した。すると…
「辛そうです…」
「! 何…?」
「あァッ!?」
「私の治癒魔法で、あの人の記憶を戻してあげられたら…」
そんなグリムリーパーの様子を見たウェンディが、いきなりそんなことを言い出したのだ。これにはビックスローだけでなく、ユリウスも驚きを見せる。
「お前、どこまでお人好しなんだよ!? 野郎は敵なんだぞッ!?」
「分かってます! でも…」
そんなビックスローの言葉を聞いても尚、迷いを見せるウェンディ。と、その時、
「ルドガー、手伝ってあげて!」
『…!』
ここで声を上げたのは…ルドガーの隣に居るエルだった。
「よく分かんないけど…このまま何もしなかったら絶対後悔すると思う…! だからお願い、ルドガー!」
「…………」
エルが真剣な表情でそう頼むと、それを聞いたルドガーはウェンディの下へ歩み寄り、彼女と目線を合わせるように片膝を着きながら尋ねる。
「その選択に…君は後悔しないか?」
「え…?」
「成功する保証はどこにもないし…もしかしたら、失敗する可能性の方が高いかもしれない…。それでもその選択する覚悟が、君にはあるのか?」
自身を真っ直ぐ見据えてくるルドガーの問い掛けに対し、ウェンディは思わず逡巡した。だが……
「はい!!」
「…! そっか…」
力強く頷いたウェンディの表情は、間違いなく覚悟を決めたモノだった。するとルドガーはフッと僅かに笑みを浮かべて立ち上がり、ユリウスの方に目を向ける。
「兄さん」
「そうだな。レイルが気に掛けているのも、何となく分かったような気がする…。付き合う価値はあるようだ」
「っ!? お、おい、マジかよッ!?」
「大マジだよ!」
「ナァ~ッ!!」
ユリウスの言葉にビックスローが驚愕していると、すかさずそう声を上げてくるエルとルル。と、ここで、
「貴様等のせいだッ!! まとめて、消えろオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!
自らの精神を抑えきれなくなったグリムリーパーが、ついに攻撃を仕掛けてきたのだ。それに対し、
「受け止めるぞ、ルドガー!!」
「ああッ!!」
カッ!!!×2
「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」
ルドガーとユリウスは自らの双剣を構えながら、自身に魔力を纏わせることで暴風を受け止め始める。
「「今だッ!!」」
「天竜の咆哮!! プラス、キュアァァァァァァァッ!!!!」
ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!
そしてルドガーとユリウスが合図を出した瞬間、ウェンディは治癒魔法を纏わせた渾身の竜巻を放った。
「消し飛べえええええええええええええええええええッ!!!!」
「思い出してええええええええええええええええええッ!!!!」
ルドガーとユリウスの2人が間に入って尚、激しくぶつかり合う両者の攻撃…。
「いっけええええええええええええええええええええッ!!!!」
「くっ…無茶しやがる…っ!!」
エルもウェンディを応援するように叫ぶ中、左眼を通して何かに気付くビックスロー…。
「このままではマズいな…! 一か八かだ! やるぞ、ルドガー!!」
「! 分かったッ!!」
ここでユリウスとルドガーが現状を打開するために動き出し…
「「双針乱舞ッ!!」」
2人同時に舞い踊るような剣閃の連続を繰り出し、グリムリーパーの放った暴風の勢いを大きく削ぎ落とす。すると…
カアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ…!!!!
『………!!!』
突如ウェンディの放った竜巻が眩い光を帯び始め、輝き出した。そしてその光は…1人の男に大きな影響を与えた…。
その男―――グリムリーパーは、霧掛かった何もない空間の中で1人立っていた…。
「おいッ!」
「ッ……!」
突如聞こえてきた声に驚き、思わず振り返ると、そこには……
「情けねえ姿だなァ、まったく…! 俺が望んだ強さはこんなんだったかァ…?」
「ッ!? 貴様は……俺……!?」
4人の人影の中心にいる、灰色の髪と死神のような鎌が最大の特徴の男の姿があった。そして男は気付く。目の前にいるもう1人の男―――エリゴールが……自分自身であると………。
「これは…」
「何!? 何が起きたの!? すっごい眩しかったけど…」
光が収まった所で思わず呟くユリウスと、あからさまに辺りをキョロキョロし始めるエル。と、その時、
バリバリバリバリバリバリバリッ…!!!
「ヌオオッ!?!? グア、アアアアアッ!?!? アアアアアアアアアアアアアアアアッ……!?!?!?」
いきなりグリムリーパーが黒い雷のようなものを纏いながら、凄まじい叫び声を上げ始めたのだ。まるで、とてつもないショックを体中で受けているかのように…。
「ア…アア……」
ドサッ…!!!
やがてそれも収まったかと思うと、グリムリーパーは空中に留まることが出来ずに地上へと落下した…。
「ど、どうなったの…?」
「奴の魂から何かが抜け出たようだな…」
それを見て状況が分からないエルの問い掛けに対し、そう言葉を返すビックスロー。すると…
「そんな……私、人を治す力で……人を傷付けてしまった……?」
ウェンディは動揺と恐れが入り混じった様な表情を浮かべながら、そう言い出したのだ。確かに倒れているグリムリーパーの様子を見ると、“傷付けてしまった”と思わざるを得ないだろう…。しかし、それを真っ向から否定する者がいた。その人物とは……
「違うよ、ウェンディ」
『………!!』
「レイル…さん…?」
黒金剛の翼を生やし、いつの間にか彼女の隣に立っていた…レイルだった…。
「君の治癒魔法は、決して人を傷付けたりしない……」
「ああ、俺にも見えたぜ。やっぱりお前は治したんだよ、あいつの心を」
「! じゃあ…!」
レイルとビックスローの言葉を聞いたエルは、すぐさまグリムリーパーの下へ駆け寄っているルドガーとユリウスの方を見る。
「………(コクッ)」
「………(グッ!)」
そこにはこちらを見ながらしっかりと頷くユリウスと、右手の親指を立ててサムズアップしているルドガーの姿があった。一体それが何を意味しているのかは…言うまでもないだろう…。
ポスッ…
「あ……」
「僕が保証する…君の治癒魔法は間違いなく、人を癒すために存在している力だよ」
「…! ありがとうございます、レイルさん…」
そんな言葉を掛けながら自身の頭を優しく撫でてくれるレイルに対し、ウェンディは心から感謝の意を伝えた。何よりも…自身の治癒魔法の存在意義を、しっかりと認めてくれたことに…。
☆☆
しばらくして……
「さて、正式な自己紹介をまだしていなかったな。私はユリウス・ウィル・クルスニク。クロニクルに所属する魔導士であり、そこにいるレイルと同じ“元帥”の職を預かっている」
「俺はルドガー・ウィル・クルスニク。もう分かっていると思うけど、俺達は兄弟なんだ。勿論俺もクロニクルの魔導士だよ。そして俺の隣に居るのが…」
「エル・メルマータ! ルドガーの相棒だよ! こっちはもう1人の相棒のルル!」
「ナァ~!」
「レイルやブランが世話になっていたようだな。これから宜しく頼む」
「あ、い、いえ…!」
自己紹介を終えたユリウスが代表して挨拶をすると、ウェンディは少々慌てた様子で受け取った。
「世話になったのはこっちの方だ。本当に助かったぜ」
「あの、ありがとうございました! さっきも皆さんの助けがなかったら、きっと…」
「いや、俺達はほんの少し手を貸しただけ。あれは間違いなく、君の力で為し遂げたことだよ」
ビックスローとウェンディが礼を言ったのに対し、ルドガーは先程のグリムリーパー…ではなく、エリゴールの一件を、ウェンディの功績だと断言した。と、ここで、
「でも本当に助かりました。まさかユリウスさん達が援軍に来てくれるなんて…」
「我々が応援として向かうことは元々決まっていてな。そこへ丁度本部へ戻る途中のジェイドから、一連の詳細とそれぞれの目的地についての情報を伝えられたのだ…。無論、そこにいるウェンディが狙われていることも聞いている」
「…!」
レイルに対してユリウスがそう話す中、ウェンディは“自身が狙われている”という旨を聞いて僅かに身を強張らせる。
「本当にギリギリだったよね~。まさに“ピンチに駆け付けたヒーロー”って感じだった!」
「あー、ま、まあね。あはは…」
一方でエルの中々能天気な発言に、思わず苦笑いを浮かべるルドガー。
「んなことよりレイル、あのジョゼって野郎はどうしたんだよ?」
「! それが、ルドガーさん達が参戦してきたと分かった後、すぐに退いてしまったんです」
「? すぐに…?」
「それって、私達にビビって逃げたってことじゃない?」
ビックスローの問い掛けに対するレイルの言葉を聞いて、ルドガーが疑問を感じる中、エルは若干胸を張りながらそう言った。しかし…
「確かにルドガーさん達が助けに来てくれたことは、向こうにとっても想定外だったみたい。でも、あの人にはまだ大きな余裕があった。まるで…」
「今の状況を楽しんでいるかのように…か?」
「! ええ…」
「だが、お前はその余裕の理由についても、おおよその見当を付けているのだろう?」
「…流石ですね、ユリウスさん」
「…?」
ユリウスが意味深にそう尋ねると、レイルもまた意味あり気な様子で言葉を返した。そしてそのやり取りを聞いていたウェンディが疑問を感じていると…
「ぐっ…ぬぅ…」
『!』
ここで気を失っていたエリゴールがようやく目を覚ました。すると、
「ようやくお目覚めか。丁度良い…絶対に聞かないといけねえことがあるからなぁ…」
ガッ!!
「おい起きろ、エリゴール!!」
「ちょっ…!?」
「そ、そんな乱暴な…」
「お前等の目的を話すんだ!! 無限時計は何処だッ!?」
ビックスローが荒っぽくエリゴールの首根っこを掴みながら、そう問い質し始めたのだ。これには思わずルドガーとウェンディも思わず慌てる。しかし、
「ぐっ……わ、分からん…ボーっとして、自分が何をしていたのか…」
「? どういうこと…?」
それに対してエリゴールは頭を押さえながら答えた。エルはその意味が分からず、そう呟くが…
「記憶が戻ったばかりで、まだ頭がハッキリしないんですね?」
「戦いの後でもあるし、当然と言えば当然か…」
ウェンディとルドガーは彼の状態について、そう推察した。
「お前、監獄に居た筈だろ」
「そうだ…。いつだったか、酷い悪夢を見た…。誰かが俺の夢に忍び込んだ感じだった…。その後、俺は…」
「グリムリーパーとして活動していた訳だな」
「夢に忍び込む…夢を使って、その人を操る魔法でしょうか?」
ビックスローとエリゴールのやり取りを聞いて、そんな予想を立てるウェンディ。
「だな。脳波に少しずつ影響を与え、無意識化でコントロールするってとこだろ…」
「催眠系統の魔法は一気に掛けるよりも、徐々に掛けていく方がより相手の精神を支配下に置くことが出来る。無論、その分魔法そのものの精度が要求されることになるがな」
ビックスローは彼女の予想を肯定し、ユリウスは更にそこへ補足を加える。
「言われるままに記憶を差し出し、その代わりに気象を統べる魔法を得た…。しかし、全てを忘れる…苦痛だった! あんなに辛いことはねえ…! 大きな力には大きな代償があると言うが…あんなモノ…!」
「自分の夢に入り込まれて操られるなんて、エルも絶対イヤだなぁ。想像しただけで怖いもん…」
「ナァ~……」
更にエリゴールのそんな話を聞いて、思わずゾッとしながら呟くエル。隣に居たルルも心なしか、鳴き声が弱かった。と、ここで、
「そんな時、あんたの声が聞こえた…」
「え…?」
エリゴールがそう言いながらウェンディに目を向けると、ウェンディはふとそんな声を漏らす。
「フッ…馴れ合う気はねえが、感謝させてくれ」
「! あ…はい…!」
そして、彼の感謝の言葉をウェンディが嬉しそうに受け取った…その時だった…。
「ッ!! ちょっと待てよッ!!」
「わっ!? どうしたの、急に怖い顔して…!?」
ビックスローの驚愕の表情にエルが驚くものの、当の本人はそれどころじゃないといった様子でこう言い始める…。
「今回のチームを占いで決めた時、カナが言ってたよな!?」
「! そういえば、『何だか知らないけど、やたら眠い』って……っ!!」
「っ! ということは、まさか…!?」
その話を聞いた瞬間、ウェンディだけでなくルドガーも気付いた。それは…
「そう…カナさんの占いは、始めから仕組まれたものだったんですよ。エリゴールさんと同じ魔法によって…」
「っ!? れ、レイルさん、どうして…!?」
「ッ! まさかお前、気付いてたのか!?」
意味あり気なレイルの言い方にウェンディが驚く中、ビックスローはすぐにその結論に至った。
「はい。元々カナさんの今回のチーム編成に関しては疑いを持っていました。もっとも、確信したのはあの男…ジョゼの戦いの中でです。何しろあの男自身がそれを認めていましたから…」
「! なら、お前がいきなり俺達と合流したのも…」
「疑いを持っていたことが一番の理由です。ブランも同じように疑っていましたし…何より、シャルルも不安を感じていました」
「! シャルル…」
レイルの口から出てきた自身のパートナーの名前に、大きく反応するウェンディ。
「もしもレイルがこっちに来ていなかったら、間違いなく奴等の思い通りになっていた筈だ」
「いえ、ジョゼは僕が来る事も予想していました。ルドガーさん達が来てくれたことが一番の想定外だったのは、間違いないと思います」
お互いが駆け付けなければ最悪の状況に陥っていたと実感するルドガーとレイル…。
「だが何にせよ、今回のチームが奴等にとって都合の良いように組まされていたのは間違いねえッ!」
「そんな! じゃあ、私達は…」
「ああ…完全に奴等の罠に嵌まってたんだよッ!!」
ビックスローとウェンディはギルド全体が敵の掌の上で転がされていることに、愕然とする他なかった。更に…
「ショックを受けている所すまないが、君達にはもう1つ“悪い知らせ”がある」
「ッ! 何…?」
「“悪い知らせ”って、一体どういう…」
ここでユリウスが厳しい表情を浮かべつつ、そう切り出してきたのだ。その様子にビックスローとウェンディもやや動揺を見せる…。
「レイル、“例の件”についてだが…」
「! 何か分かったんですか?」
「ああ、どうやらお前の予感は的中していたようだ」
「っ…!」
「? レイルさん…?」
「おい、一体何の話だよッ!?」
ユリウスとルドガーのやり取りに、首を傾げるウェンディと、やや粗っぽく声を上げて尋ねるビックスロー。一方で傍らにいるエルも何か知っているのか、その表情には陰りが見られた。そして…
「落ち着いて聞いて欲しいんだけど、実は…」
“ある事実”に関して、ルドガーが話し出し始めた…。
☆☆
某森林地帯にて……
「サンド・スラッシュッ!!」
「無駄だ…聞こえている…」
マックスが砂の斬撃を繰り出すも、その隻眼の男―――コブラは音の壁で易々と防ぐ。
シュンッ!!
「こっちだってのッ!!」
すかさずマックスはその隙に背後から攻撃を仕掛けようとするが…
ドゴッ!!
「ゴフッ…!!」
「だからよぉ…」
あっさりと腹部に蹴りを受けてしまう。しかし…
「へっ、かかったな…!」
サァァァァァァッ……
「……!」
攻撃を受けた筈のマックスの姿が見る見るうちに砂の塊へと変わり、コブラの左足の部分を拘束した。
ガバッ…!!
「サンドトラップ! シュガーボーイの粘液から思いついたんだ…! エルザ!! いけえええッ!!!」
「ハアアアアアアアアアッ!!!」
そして近くの地中から姿を現したマックスが合図を出すと、伸縮性が特徴の“悠遠の衣”を纏ったエルザは自らの槍で一気に斬り掛かろうとした。だが……
「聞こえてると…言ってるだろうがァッ!!」
「「ぬああああ(ぐああああ)ッ!!!」」
コブラにはそれすらも完全に見通されており、高威力の衝撃波を2人共もろに喰らってしまった。咄嗟にエルザは何とか体勢を立て直しに掛かるものの…
バッ!!
「ッ…!?」
「砕けろッ…!!」
背後には既にコブラの姿があった。そして…
ゴッ!!!!
「かはっ…!?!?」
ドサッ…!!!
コブラの一撃を喰らったのは…咄嗟にエルザを庇ったマックスだった…。
「マックスッ…!!!」
マックスが倒れたことに少なからず動揺を見せるエルザ。それは言うまでもなく…
シュンッ!!
「っ!? しまっ…!?」
「終わりだ…」
再びコブラに背後を取られる程、大きな隙となってしまった。到底回避するには間に合わない状況である…。と、次の瞬間、
「魔神剣ッ!!」
「ッ…!!!」
コブラが背後から攻撃を仕掛けることは無かった。何故なら…突如横から来た衝撃に素早く反応し、咄嗟にその場を離れたのだから…。
「あら? せっかくの不意打ちだったのに、避けられちゃったわよ?」
「構わん。俺自身、不意打ちはあまり好きではないからな…」
「っ! 何者だ、テメエ等…?」
そんな会話と共に姿を現したのは2人の男女。1人は右手に刀を携え、黒いスーツのような重厚な服を着こなしている屈強な男性。もう1人は少々露出のある青系統の色合いが特徴のロングドレスを身に纏っている、白藍色のロングヘアーの女性である。
「それじゃあ、早速お仕事に取り掛かりましょうか」
「ああ…」
その2人の名はそれぞれ…“ガイアス”と“ミュゼ”という…。
☆☆
とある氷山の内部にて……
ドッ、ドッ、ドッ…!!
「御苦労♪」
『見つけたよ~。星霊魔導士を捕まえたよ~ん…!』
新生・六魔将軍の一角を務める銀髪の女性―――エンジェルの下へやってきたのは、裕に5メートル以上はあろうかという巨大な天使だった。といっても、髪型がリーゼントであったり、非常に頭が大きかったりするなど、とても天使とは思えない姿ではあるが…。そしてそんな異形の天使が捕まえているのは、星霊魔導士と思われる1人の男だった…。
「振幅制限器のアンチリンク…決行する」
「っ! お、おのれェッ…!」
キィィィンッ…!
「ふふっ、美しい…」
星霊魔導士の男が叫ぶ中、エンジェルはいつの間にか持っていた赤いクリスタルの短剣の輝きを見て、そう呟く…。一方、グレイがその光景を近くで見ているものの、かなりのダメージを喰らっているのか立ち上がる様子もなく、声を発することもままならないようである。そのすぐ傍では同様にフリードも倒れており、こちらに至っては既に気絶していた…。
「わ、私の生体リンクを断った所で、ま、まだ同士がッ…!」
ザシュッ!!
「グアアアアアアアアアアアアッ…!!!!」
その叫び声が最後となり、星霊魔導士の男はエンジェルの持つ短剣に斬り裂かれたことで、黄色い彫像のような姿へと変わってしまった…。するとそれを見た異形の天使は星霊魔導士の成れの果てを、まるでガラクタを扱うかのように乱暴に放り投げる…。
「奴がファブリーゾフ司祭から引き出した情報によれば、残るはあと2人…」
『わ~い! 楽しいよ~…!』
「いよいよ、我等の祈りが成就される…。フフフッ…ハハハハハッ! ハハハハハハハハッ…!!!」
そしてついにグレイも自らの意識を落とす中、エンジェルがそんな高笑いを上げ始めた……その時だった…。
「ヴァリアブル・トリガーッ!」
ドガアアアアアンッ!!!
『ぬおおおおおおおんッ…!!』
ドゴォォォォォンッ…!!!
「何ッ…!?!?」
突如異形の天使の顔面に何かが直撃したかと思うと、その巨体が一気に吹き飛ばされてしまったのだ。いきなりのことに動揺を表すエンジェル。と、そこへ…
「おーおー、今のをもろに喰らって吹き飛ぶだけとはな~。随分頑丈じゃないの」
「か、感心してる場合じゃないですよ、“アルヴィン”…!」
『アルヴィンからまたオッサン臭が~…』
「おいおい、今の俺の発言の何処にオッサンの要素があったんだよ! 簡単に俺をオッサン扱いすんの止めてくんない…!?』
そんな会話が聞こえてきたかと思うと、その3つの声の主が姿を現した。1人は首に巻いた黄色の長いスカーフと黒に近い紺色のスーツが特徴の男性。1人は紺とピンクを基調とした学生服のような衣装を身に纏った、萌黄色のツインテールが特徴の少女。そしてもう1人は、紫とピンクのチェック柄が最大の特徴である……動く“ぬいぐるみ”だった…。
「ッ!? お前達、一体何者だゾ…?」
依然として動揺を見せるエンジェルの問い掛けに答えたのは…スーツ姿の男だった…。
「ただのしがない“商人”と“お姫様”、それと…“ゆるキモなぬいぐるみ”だよ」
『ゆ、ゆるキモって言われた~…!!』
エンジェルの前に姿を現したのは、スーツを着た怪しさの漂う男性―――“アルヴィン”と、学生服のような衣装を身に纏った少女―――“エリーゼ・ルタス”、そして……謎の動くぬいぐるみ―――“ティポ”だった…。
☆☆
時は少し進み、とある田園地帯に居るナツやルーシィ達は現在、ある信じ難い光景を目の当たりにしていた。突如暗雲の中から巨大過ぎる魚の形をした浮遊物体が出現したかと思うと、その物体から無数の巨大な鎖付きの矛が放たれ、次々と地上に突き刺さり始めたのだ…。
「何だこりゃ…!?」
「無限時計が活動を始めたのだ」
「っ!? そんな!? 何とかして止めなきゃ…!!」
ナツが驚いている中でレギオン隊のトップを務める男―――バイロの発言に対し、ルーシィはそう言った。すると…
「しかし、私には私の任務がある。それはルーシィ・ハートフィリア…君を連れ帰ることだ」
「はあっ!?」
「何で!? 今更私に何の用が…」
バイロがここでいきなり、そんな任務の内容を明らかにしてきたのだ。これにはナツは勿論、当の本人であるルーシィも特に驚愕してしまう他無い…。
「私にも理解できない。しかし、それに従うのが私の任務…!」
「っ!?」
そして、バイロが動き出そうとした…その時、
「飛燕連脚ッ!!」
「っ!?」
ガガガッ…!!!
突如何者かが横から乱入してきたかと思うと、バイロに対して回し蹴りを放ってきたのだ。その攻撃は咄嗟に防御されるものの、その攻撃の主は体勢を立て直しつつ、バイロとルーシィ達の間に割って入るように降り立った…。
「よかった、間に合ったみたいだね」
「! だ、誰…?」
「っ! 貴様は…!!」
その攻撃の主である“白衣が特徴的な黒髪の青年”を見て、ルーシィが思わず首を傾げる一方、バイロはその姿を見てあからさまに反応を見せる。何故なら彼は…その青年の正体を知っているのだから…。
「ジュード・マティス…“クロニクル”屈指の格闘戦士である貴様が、何故ここに…!?」
「ッ! クロニクルって…!!」
「レイルの仲間か…!!」
バイロの口から出たその青年―――ジュード・マティスの素性に、思わず驚愕するルーシィとナツ…。
「僕達の目的は“妖精の尻尾の人達と協力して、無限時計を巡る一連の事件を全て終わらせる”こと。そして今僕達は、そのために為すべきことをしに来たんです…。そこにいるルーシィさんを“貴方達”から守るために…」
「っ!? 何だと…!?」
「私を守るって…一体何がどうなってるの…?」
ジュードの言葉にバイロが驚く中、ルーシィは自身が未だに渦中に居る理由が分からず困惑せざるを得ない…。
「今すぐ退いてください。こんなことをしている場合じゃないことは、貴方も何処かで感じている筈…」
「黙れッ! 与えられた任務は絶対! そのためであれば誰が立ち塞がろうとも…!」
「人攫いの任務が絶対か…聞くに堪えんな…」
「「「ッ…!!??」」」
ジュードとバイロがやり取りしている中で突如聞こえてきた声に、ナツとルーシィ、バイロが驚き、その声が聞こえてきた方に目を向ける。そこにいたのは、白や青を基調とした服を身に纏った、ボリュームのある金髪と赤紫色の瞳が特徴の女性だった。そして……
「そんなモノに貴様は信念を持てるというのか、バイロ・クラシー」
「貴様も来ていたのか……“ミラ・マクスウェル”ッ!!」
――――こうして混沌とした状況の中、“選択を潜り抜けて来た強者達”が介入を果たした――――