もう頑張らないで良い、そういった貴方に   作:nyasu

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私が勝たなくちゃいけなかったのは、誰かを幸せにするためじゃない。

私が幸せにしたかったのは、知らない誰かじゃなくて私を助けてくれたお兄様だったんだ。

 

「もう一度、頑張ってみるの?」

「うん……ライス、頑張るよ」

「そっか、じゃあ叩いてでもお兄様を立ち直らせないとね」

 

頑張ろうと思った私に、誰かが目覚まし時計を渡してくる。

お兄様の、目覚まし時計だ。

 

「青いバラの花言葉は不可能じゃない、夢は叶うなんだよ」

「夢は……叶う……そっか、じゃあやっぱりライスは幸せの青いバラになるよ」

「そっか。がんばれライス、がんばれ、おー」

 

そして、私は……。

 

 

 

 

いつかのどこか、目の前にはお兄様がいた。

これは夢だろうか現実だろうか、もうどっちでもいい。

お兄様の顔は焦燥しきっていて、今にも泣き崩れそうだ。

お兄様は、声を荒げて言う。

 

「俺が何回!何十回失敗したと思ってる!俺には分かってるんだ、この時間の輪がどれだけ残酷な結末を用意してるか!分かっていた、分かっていたんだ……もう、疲れた」

「お兄様……」

 

私は立ち上がって、思いっきり手を掲げた。

 

「えいっ!」

「えっ?」

 

そして、思いっきりビンタした。

ビンタした手は、すごく痛い。

これが紛れもない現実だと教えてくれる。

 

「ライス、負けないよ」

「えっ……」

「青いバラの花言葉は、不可能じゃない!夢は叶う、だよ」

 

今なら分かる、精神は肉体を凌駕する。

ライスが勝てなかったのは、ライス自身が勝てると思っていなかったからだ。

 

 

 

 

 

 

目の前にあるゲート、それは見慣れた光景だ。

3200m、コース、芝の状態、気候、違うのは枠順と人気のみだ。

無駄を削ぎ落とすようにトレーニングを重ねた。

もう、終わっても良い、これで最後になっても良い、その一心でトレーニングをした。

このレースに勝たなければお兄様は死ぬ、それを私は知っているのだ。

だから負けないし、負けられない、青いバラの花言葉は不可能じゃない、夢を叶えるだ。

お兄様が、もう頑張らないで良い世界の為に走るんだ。

 

「マックイーンさんについていく……マックイーンさんについていく……」

 

想像するのは、常に先頭を走っていたマックイーンさん。

狼のように食らいついていく、私はそういう心積もりでここにいる。

 

『各ウマ娘がゲートに入ります。春の天皇賞、栄誉を手にするのはどのウマ娘か!おっと、一番人気メジロマックイーンの様子が可笑しいですね?ゲートの前で立ち止まっています』

 

実況の声が聞こえる。

それはメジロマックイーンさんの事を気にしている。

みんなは三連覇を見に来ている、それは知っている。

でも、それが何だと言うんだ。

私は勝つ、勝ちたいんだって気づいたから、だから躊躇しない。

自然と音はなくなって、ただゲートだけが視界に入る。

音はなくなり、色もなくなり、ただモノクロの世界とゲートだけがある。

 

『春の天皇賞、3200m先の栄光を目指して』

『い――』

 

ゲートが開く、開いていく。

足に力を入れ、地面を踏みしめる。

そして蹴り上げ、走り出す。

 

『――ま、スタートしましたっ!各ウマ娘キレイなスタートしました!』

『先頭争いはやはりメジロパーマーが行きます。二番手の位置で先頭を伺うのはメジロマックイーン、外から外からライスシャワー、ここにいた』

 

最初のコーナー、何度も何度も走った初めての場所。

イメージは出来ている、理想の走り、そのフォームをトレースしていく。

 

『おっと、ここでライスシャワーが速度を上げた!逃げるメジロマックイーン、二番手争いはこの二人だ』

『ちょっと掛かり気味かもしれないですね、一息つけるといいですが』

 

直線、まだまだ中盤、ここでペースは抑え気味に走る。

終盤に向けて、スタミナを温存する、走りたいが我慢して、3位を維持する。

 

『さぁ、1コーナーから2コーナーへ向かっていくウマ娘達』

 

次のコーナー、内側で無駄を削ぎ落として完璧なフォームで走り抜ける。

軽い、今までで一番疲れのない走りが出来ている。

これなら、終盤でもスタミナに余裕がありそうだ。

 

『先頭は以前メジロパーマー、メジロマックイーン並びかけてきた!少し後ろからはライスシャワー、先頭を狙っています』

『他のウマ娘達はうまく差しきれるでしょうか』

『さぁ、いよいよ第4コーナーを回った!最後の直線勝負、ここで先頭に躍り出るのはメジロマックイーンだ!』

『メジロマックイーン先頭!外から、外からライスシャワーが来た!』

 

ゴールが見えた、そして先を行くマックイーンさんの背中。

ありったけだ、全身全霊で温存していたスタミナなんか気にしないで走り続ける。

見える、この場所を、今までを知っている。

どこを走ればロスが無いか、どこを走れば速く走れるか、どうすれば速度が上がるのか知っている。

早く、速く、疾く、地面を力強く蹴り上げられる。

 

『ここに来てライスシャワー!更に加速した!速い、速い!逃げるメジロマックイーン!ライスシャワー横に並んだ!ライスシャワー並んだ!』

 

 

肺が苦しい、だけど破れたって関係ないっ!

足が重い、でもまだ動くっ!

ライスは、何度も負けてきた!誰よりもマックイーンさんに負けたのはライスだ。

 

『並びかけるライスシャワー!メジロマックイーンも先頭は譲らない!レースは残り100m、その差は僅かどちらが勝つか!』

 

負けられない、負けたくない。

誰かの夢を壊してしまったとしても、それでもあの人の夢を叶えるんだ!

 

「ライスシャワー!」

 

声が聞こえた。

それはお兄様の声だ。

 

「行けよぉぉぉぉ!」

 

そうだ。

今度こそ、今度こそ勝つんだ。

 

『さぁ、マックイーンの三連覇、偉業を阻むのはまさかのウマ娘!ライスシャワー!』

 

ライスは……ヒールじゃない――。

 

「――ヒーローだ」

 

『ライスシャワーかわした!ライスシャワーかわした!ライスシャワーかわしたか!今年だけもう一度頑張れマックイーン!しかしライスシャワーだ!ライスシャワー完全に先頭!2馬身から3馬身!ライスシャワーだ!ライスシャワーが今!一着です、ゴールイン!誰が予想できたでしょうか、三連覇を阻止したのはG1初優勝、ライスシャワーだ!』

 

そこには観客の歓声はなかった。

むしろあるのは罵詈雑言、不平不満の声ばかりだ。

だが、ライスが気にしているのは目の前にいるただ一人だ。

 

「ライス……」

「お兄様、ライスやったよ!」

「あぁ、あぁ、俺の愛馬が……走り出し……駆けてゆくなんて……こんな思いは初めてだ」

 

それからの話をしよう。

春の天皇賞、終わらないループ地獄から見事勝ち上がったライスシャワーとお兄様は次の有馬記念に向けて走り出した。

そう、彼女達の戦いはこれからだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……というゴルシちゃん考案スペシャル小説考えたんだがどうだろうか」

「どうしてこれでライスさんが走ってくれるんですか!あと、私が負けてるんですが!」

「仕方ない、みんなサングラスとマスクは持ったか!ライスを拉致するぞ!」

「ちょ、ま、待ちなさいゴールドシップ!ゴ、ゴールドシィィィィップ!」

 

その後、チームスピカに拉致られてミホノブルボンの助力を得て、なんやかんやでライスシャワーは走った。

気になる人は、アニメを見よう。

ウマ娘はいいぞ~!

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