命の答えを得た最強のペルソナ使いは異世界でも最強 作:Hetzer愛好家
文字数が何時もより多いので注意してください。
目が覚めると、僕は川のど真ん中に寝ていた。
何があったのかはよく覚えていない。確か、鉄砲水のように噴き出る滝に吹き飛ばされて、運良く横穴に入り込んだ。そんな気がする。
低体温症になるのを防ぐため、適正のない魔法を使って火を起こして衣類や体をたっぷり二十分は暖めたり乾かした僕は、その足で脱出するための出口を探すべく歩き出した。
大迷宮である以上、何処に魔物が居るか分からない。細心の注意を払って僕は巨大な通路を歩いて行った。
かなりの時間をかけて歩いていると、僕は初めての分岐点で魔物を見つけた。
僕のいる通路から直進方向の道に白い毛玉がピョンピョンと跳ねているのが分かった。長い耳もある。見た目はまんまウサギだった。
ただし、大きさが中型犬くらいあり、後ろ足がやたらと大きく発達している。そして何より赤黒い線がまるで血管のように幾本も体を走り、ドクンドクンと心臓のように脈打っていた。お世辞にも可愛いとは言えない。
あれはヤバい。そう思い、僕はその辺に落ちている石をクロスボウに装填出来るぐらいの矢の形に変えてから息を潜めながら見つからないように動ける機を見計らっていた。
ドパンッ! ドパンッ! と凄まじい音が鳴っていたが、それはウサギが新たに現れた白い二尾狼に蹴りを叩き込んでいる音であった。
流石に迂闊に動くという選択肢を取ることが出来ないので、結局僕はウサギが何処かへ行くのを待つことにした。
やがてウサギが僕の存在に気が付き、猛然と向かってきた所で、僕は咄嗟に後ろへ跳びながら引き金を引いた。
「キュウッ!?」
命の危機を感じたからなのだろうか。奇跡的とも言える、跳躍後退しながら心臓直撃のワンショットワンキルで僕はウサギを仕留める事に成功した。
ドスッと尻餅をついた僕は、前のめりに倒れるウサギを見て安堵のため息を吐いたところで……思わず凍り付いた。背中に生暖かい吐息のような物が当たったからである。
尻に感じる痛みを無視してゴロゴロと転がりながら前方に移動して、吐息らしき物をぶつけてきた物を“見上げる”。
僕の目の前には、新たな魔物が立っていた。
その魔物は見上げるぐらいに巨体だ。二メートルはあるだろう巨躯に白い毛皮。そして赤黒い線が幾本も体を走っている。その姿は、たとえるなら熊だった。ただし、足元まで伸びた太く長い腕に、三十センチはありそうな鋭い爪が三本生えているが。
「……グルルル」
「っ! くそお!!」
凄まじい威圧感に呼吸すら止めていた僕は、爪熊の唸り声で我に返ると、先制攻撃とばかりにクロスボウの引き金を引いた。
しかし、特に手を加えていない石の矢は爪熊が手を一振りしただけで叩き落とされてしまう。それでも連射式な甲斐あって数本は身体に刺さっているが、全く効いている様子がない。
あのベヒモスにしっかりと通用した矢は此処にはない。故に、使えるのは豊富に落ちている石を材料とした矢のみだ。しかし、その矢はこれっぽっちも通用しない……。
押し寄せる絶望感に潰されそうになりながらも、僕は何とか逃げるための一手を打とうとしたところで爪熊が動き出した。
何の前動作もなく、爪熊の右腕が振るわれる。咄嗟に身をよじって後方へ飛び退こうとしたが、その行動が完全な効果を成す前に凄まじい衝撃が左半身に走った。
「かはっ!」
軽く数メートルは吹き飛ばされ、岩壁に叩き付けられた僕は肺から残らず空気を吐き出す。視界も揺れ、酷い嘔吐感に襲われる。それを無理やり封じ込めたところで、僕は爪熊が何か見覚えのある物を咀嚼している事に気が付いた。
そして同時に、妙に軽くなった左半身に気が付く。何事かと思い、左半身。主に左腕が“あったはずの”場所を見つめる。
そこに、左腕はなかった。大量の血が噴水のようにバシャバシャと流れ落ち、地面を赤く濡らしているが、何度見返しても左腕は見つからない。
現実を受け入れることを脳が拒否していたのか、中々痛みはやって来ない。そう不思議に思っていたが、随分と見通しの甘い考えをしていた事もあって次の瞬間にやって来た激烈な痛みは想像を絶する物に感じた。
「あ、あ、あがぁぁぁあああーーー!!!」
あまりの痛みに地面を転がり回るが、その度に痛みは増していく。そうしてる間にも爪熊はゆっくりと、しかし確実に距離を詰めてきているのでこうしては居られない。
凄惨な痛みと恐怖に顔を歪めながらも僕は動き回り、爪熊から少しでも離れようとした。だが、足がもつれて思うように行かず、しかも真っ直ぐ走ることすら叶わないため気が付けば壁に激突していた。
思わず呻き声を上げて後ろを振り返ると、そう遠くない位置に爪熊の姿が見える。今の全力疾走と、それまで叫んでいた事で体力を使い果たしてしまい、立とうにも立つことが出来ない。
完全に“チェックメイト”だ。
壁を錬成しようにも魔力が足りない。万事休すという言葉でしか表せないこの状況で、僕の脳裏にはこれまでの様々な思い出が走馬灯のように駆け抜けていった。
保育園時代から小学生、中学生、そして高校時代。様々な思い出が駆け巡るが、最後の思い出は友人に肩を貸した事で奈落へ落ちるという皮肉でしかない結末を迎えたあの日の事だった。
心の中には、「何で自分がこんな目に遭わないといけないんだ」という思いが渦巻いている。
(なぜ僕が苦しまなきゃならない……僕が何をした……)
(なぜこんな目に遭ってる……何が原因だ……)
(神は理不尽に誘拐した……)
(クラスメイトは僕を裏切った……)
(アイツは僕を喰った……)
ジワリ、ジワリと黒い感情が心を満たしていく。自分を包み込んだ理不尽に対する憤怒と憎悪の念が膨れ上がっていった。
「なんで、助けたんだろう。助けてなければ、僕はこんな目に……」
遂には、あの時友人を助けた事すら否定する。どんなに正しいことをしたと分かっていても、この理不尽な状況下で正常な判断を下せるはずがなかった。
気が付けば全てを諦め、僕はゆっくりとにじり寄って来る爪熊をボーッと見ていた。
死の間際だからだろうか。やけにゆっくりに見える爪熊を見ながら、「死ぬ時ってどんな感じなんだろう。痛いのかな」と思い始めた。
その時であった。
『どうした……見ているだけか?』
「え……だれ?」
誰かの声が、耳に入ってきた。
『誰よりも“生”を望むというのに、こんなにも簡単に諦めるのか? このまま何もしなければ、本当に死ぬぞ。それでも良いのか?』
「っ、それは……」
分かっている。このまま何もしなければ死ぬのは、誰よりも分かっている。
『……それとも、あれは間違っていたのか? 己の友を助けるために取った、身を挺した行為を間違っていたと自分で否定するのか?』
ああ、そうだ。間違っていたんだ。そう答えようと思った。だが、口は動かない。
……心の何処かでは、やはり間違ってない、正しかったんだと信じているからだろうか。
僕はあの時、結城くんを助けたのは……。
「間違って、ない……!」
そうだ。間違ってなんかない。人を助けるという行為が間違ってるなんて、余程でない限りは有り得ない。僕はそう信じている!
『よかろう……覚悟、聞き届けたり……』
「うぐっ!?」
腕から伝わる痛みよりも、更に凄惨な頭痛が俺を襲った。
残った右手で頭を抱え、掻き毟り、地面に倒れ伏せる。涙や鼻水、そして涎で顔はベチャベチャだ。しかし、当然ながらそうしても痛みが消えることはない。
『……契約だ!!』
「うあぐっ!? がああ……!! ああっ、がはあああああ!」
爪熊がすぐ目の前に来ても痛みは治まらず、僕はただ地面を転がることしか出来ない。
そんな惨めな姿を晒す爪熊は無慈悲にも僕のことを腕で持ち上げた。その爪で切り裂かないということは生きたまま食うつもりなのかもしれない。
「うがあああああ、はあっ! ハア、ハア……ぐううう……!」
……目元に、何か付いている。
何だ、これは。邪魔だ……。
そう思い、俺は目元に付いた仮面のような物に手をかけて外そうとする。
しかし、まるで接着剤を塗られたかのように顔面の皮膚にくっ付いている。剥がそうとする度に、神経を炙られるかのような激烈な痛みが全身に走った。
「ぐぅ……がぁああっ! うぐあああああああああああああああ!」
少しずつ仮面が剥がれ、その度に口いっぱいに鉄を食べたような味が広がる。顔面から酷く出血しているようだ。
それでも構わない。この仮面を、俺は外したい。
仮面の内に隠れた、抑圧された自分を解き放ちたい。
この理不尽から解放される力が欲しい。
奪われた自由を、この手に取り返したい。
「分かった……契約、しよう!」
全力で仮面を引き剥がしながら、僕はそう叫んだ。
顔面に付着した生々しい血痕を拭うこともなく、僕は……“俺は”不敵な笑みを浮かべた。
剥がれた仮面が地面に落ちると凄まじい暴風が発生する。爪熊は俺を手放し、巨体でありながらも数メートル吹き飛ばされてしまった。
「来い! 〝アルセーヌ〟!!」
ボバア!!!
既に暴風と言っても差し支えなかった風が更に強く吹き荒れる。
そしてその風に乗せられたかのように、俺の身体を蒼白い炎が包んでいった。だが、全く焼けるような熱さを感じない。
……いや、それは少し間違ってる。俺の心は今、火傷しそうなぐらいに熱く燃え盛っているのだから。
『フハハハハハ……!!』
響き渡る高笑い。同時に炎も少しずつ晴れていき、俺の身体にはさっきまで着ていた服とは違う衣類が装着されていく。
全身黒づくめの上下服に、手だけは赤い手袋が嵌められる。切り落とされたはずの左腕は、まるで焔のような謎の物体が形を取っている。動かそうと思えば動かせるので少し驚いた。
『我は汝……汝は我……己が信じた正義の為に、あまねく冒涜を省みぬ者よ! その怒り、我が名と共に解き放て! たとえ地獄に繋がれようと全てを己で見定める、強き意志の力を!』
心強くも冷徹な声と共に、俺の目の前に人間のようで人間ではない何かが姿を見せた。
俺の身につけている服のように何もかもを吸い込んでしまいそうな、漆黒の両翼とシルクハット。
“彼”が身につけている服は、俺の両手の手袋のように紅蓮色だ。
地を跳ね回る数多の鎖。そして、常に身体から漏れている蒼白い炎。
それは、俺にとっては反逆の意志を示す焔だ。
「グルオオオオオ!」
餌を仕留めきれなかった事に怒ったのか、爪熊は荒々しい叫び声を上げてその巨体に似合わない速度で走ってきた。普通の熊でも時速四十キロぐらいで走る個体も居るので当たり前と言えば当たり前なのかもしれないが、それでもインパクトは絶大だ。
俺はそれでも逃げない。ついさっきまでの自分なら逃げていたかもしれないが、今はもう違う。前の苦笑いするだけで何もしようと努力しない、弱気な“南雲ハジメ”ではない!
懐から“奥の手”の原型とも言える、とあるブツを取り出す。それは、俺たちの住んでいた世界でもギャングやテロリストが使用していた物騒な兵器と酷似していた。
安全装置は付いていないが、その分だけ構造が単純明快で非常に制作が楽であった“拳銃”だ。俺たちの住む世界では“トカレフTT-33”として有名である。
弾薬は所持していない。だが、それでも俺は懐から取り出した。本能が「そうしろ」と俺に訴えかけているのだ。
「頼むぞ、アルセーヌ!」
ガチリと引き金を引く。すると、
ダダダン!
……蒼色の弾丸のような物が三連続で発射された。とても現実的とは思えない出来事に思わず俺は唖然とする。
「グルアアア!?」
しかも、弾丸は実態かつ毒のような効果まであるらしい。食らった爪熊の表面が少しずつ崩れ落ちている。痛いのか、はたまた苦しいのか。爪熊は地面を転がり回っているので確実にダメージは入っているようだが……。
「って、どういう事だよ! こっちは何も装填してないぞ!?」
『なに、我からすれば玩具であろうと武器として扱えるようにするのは朝飯前よ。それよりもお前。我の力の一端を解放する詠唱を早くしろ』
「は、はあ? 詠唱?」
訳が分からない。一から説明しろ。出来るだけ分かりやすく、そして簡潔に。そう思ったのだが、それを口にする前に俺の脳裏に一つの言葉が浮かんだ。
簡潔だが、これ一つを唱えれば敵一体ならば跡形もなく消し去れる。そんな魔法の詠唱である。これを利用しない手はない。
「……分かった」
『では、詠唱をしろ。我は汝の詠唱と共に動き出す』
「奪え、アルセーヌ! 〝エイガオン〟!!」
俺が指を指すと、そこを目がけてアルセーヌが何かを飛ばした。
赤黒く発光した物体は高速で爪熊の顔面に直撃し、被弾した瞬間に爆発。まるで水素を受け取った火のように凄まじい爆発の広がりを見せ、あっという間に爪熊の身体を包み込んだ。
何かを呑み込むような、苦痛に呻く声のような、兎に角悍ましい音が洞窟内に響き渡る。思わず耳を塞ごうとした俺は、目の前で起こった不可解な出来事に目を疑った。
先ほどぶちかました拳銃攻撃の時とは比較にならない勢いで、爪熊の身体が埃のようにボロボロと崩れ落ちていったからだ。少しの抵抗も許さずに、形状崩壊は瞬く間に全身に回ると瞬きもしない内に目の前から姿形を消していた。
何度でも言いたい。有り得ない。
だが、それを口にすることはない。何故なら……
「が、は……」
体力の限界だったからだ。さっきの今まで立っていたのが不思議なぐらい、呆気なく俺は地面に蹲った。
『我はまた、汝が必要とした時に現れよう。その時が来るまで、さらばだ』
意識が薄れていく中、“僕”はアルセーヌがそう言って姿を消していくのを見た。そんな気がした。
エイガオン使ったのはチュートリアルをイメージしてます。今後は使うかは……謎ですね!()
ハジメにワイルドの能力は必要?
-
いると思う
-
いらん