命の答えを得た最強のペルソナ使いは異世界でも最強 作:Hetzer愛好家
魔法陣の光に満たされた視界、何も見えなくとも空気が変わったことは実感した。奈落の底の澱んだ空気とは明らかに異なる、どこか新鮮さを感じる空気。
しかし、あまり期待せずに光が晴れるのを待つ。その心構えはどうやら正しかったようで、光が晴れた先にあるのは洞窟であった。
秘密の通路だし、いきなり外に出るなんてことはない。そう予想していたのでショックはないに等しい。ハジメは少しガッカリしているようだが、ユエに諭されて立ち直った。
立ち止まってもどうにもならないので、俺たちはテクテクと真っ暗な洞窟を歩いて行く。途中、幾つか封印が施された扉やトラップがあったが、オルクスの指輪が反応して尽く勝手に解除されていった。
「お、あれは……」
歩き始めて数十分。目の前に光を見つけた。漸く現れた変化に思わず声を出した俺。しかしそんな俺をハジメとユエは追い越す。どうやら早く外に出たいらしい。
そんな二人に感化されたのか、香織も走り出した。ハジメとユエは望まない形でこの奈落に来たので分かるのだが、香織は違うだろうに……まあ良いけどさ。
「私たちも走りますか?」
「いや、走らない。ハジメとは違って俺は自分の意思で奈落にやって来たし、何よりそこまで外が恋しいとも思ってないからね」
「私も同意見ね。まあ、今はあの三人で喜びを分かち合って欲しいわ」
それを暖かく見守る二名。一名は困惑しているが、まあ良いだろう。
それなりに時間を掛けて外に出る。顔に当たる風が心地良い。奈落のような澱んだ空気ではない。ずっと清涼で新鮮な風だ。空気が旨いとはこう言う事かと一人納得する。
光に目が徐々に慣れ、久方ぶりの青空が視界に飛び込んでくる。現在俺たちが立っている場所は、世間的には地獄と評される【ライセン大峡谷】だ。だが、そんな場所にはおよそ似つかわしくない笑い声が響き渡っていた。
一足先に外へ出たハジメたちは、各々笑顔を浮かべながら抱き合っていた。途中で小石に躓いて転んだらしいが、それでも互いに笑っている。幸せそうで何よりだ。
なので、その周りを囲んで殺意を丸出しにしている魔物たちを俺は片付けることにした。
ガキイン!
「〝アリス〟」
『うっふふふふふ……! ねえねえ死んでよ~! 早く死んでよ~! お兄さんたちに迷惑かけたら死んでよ~! 邪魔したらダメ~! 絶対ダメ~! だから、〝死んでくれる?〟」
ドサドサ。そしてバタバタ。アリスが〝死んでくれる?〟とお願いした瞬間に、俺たちを囲んでいた魔物は一斉に息の根を止めた。
あまりの呆気なさは何度見ても慣れない。詳しい原理は俺も分からないが、何でも生き物の深層心理に語りかけて強制的に心臓の鼓動を止める……らしい。
大迷宮突破には随分とお世話になった必殺魔法であるが、普通に戦ったら間違いなく強力な魔物ですら一撃の〝死んでくれる?〟をその辺の魔物が耐えられるはずがなかった。
余談程度の話だが、この技に限り魔力消費も体力消耗もない反則技だったりする。
「お、おお……相変わらず凄いね、その技」
「アルセーヌのエイハを数百倍に強化したような物だからな。それよりも、外に出られた歓喜の舞はもう終わったのか?」
念の為に聞いておく。魔物が墜落した音で我に返ったらしいから大丈夫だとは思うが、念の為だ。
「うん、もう大丈夫。そろそろ出発しようか」
すっかり落ち着いたらしく、何時ものハジメたちに戻っていた。出発しても大丈夫らしい。
取り敢えず、ハジメたちは大迷宮制覇に乗り出すと聞いている。その気持ちが変わっていないなら、このままライセン大峡谷を探索しに行くだろう。
一方で、俺たちは迷宮攻略ではなく普通に旅をすることにしている。この大峡谷に何時までも留まる理由はない。町に出るのを一端の目的にしても良いかもしれない。
「此処から一番近い町は……ブルックの町か」
「それなら、僕たちとは方向が逆だね。僕たちは樹海方面へ探索するつもりなんだ」
暫しのお別れ。そういう事か。まあ、これに関しては予め決めていた事項だ。今更どうのこうの言っても仕方がない。少し寂しい気もするが、ポジティブに考えればハジメと香織、そしてユエがゆっくりと愛を育む事が出来ると言うわけだ。良いことだらけだと思おう。
俺はハジメから魔力駆動二輪を二つと様々な荷物を受け取る。オスカーの遺品を改造して作られた特殊な荷物袋――勇者袋みたいな物だ――に私物を詰め込むと、それを雫が代わりに持ってくれた。
「それじゃあ、俺たちは概念魔法無しで元の世界へ帰る方法を探す旅に出るよ。ハジメたちは迷宮制覇だったか?」
「そうだね。後は……狂った神を何とかして倒すよ」
「頑張れ。あ、助けが必要なら何時でも呼んでくれよ。すぐに駆け付けるからな」
「ふふ、頼りにしてるよ」
最後にガシッと握手をする。すっかり逞しくなった目つきを持つハジメを見て、俺は漠然とだがハジメはこの狂った世界を救えると感じた。
お別れの雰囲気を察してか、雫と香織は互いに抱き合いながら何かを話している。ユエとレイシェンも、無表情ながら別れの言葉を告げている。
「またな」
「うん、またね」
そう言って反対を向く。そのまま歩き、俺は二輪に跨がった。少し待つと、雫とレイシェンも二台目の二輪に跨がる。どうやら今回の運転者は雫らしい。
振り返ることはしない。振り返ったら、中々この場を離れることが出来なくなってしまうだろうから。
また何時の日か。そんな思いを胸に、俺は二輪に魔力を流した。
エンジン機構が組み込まれているわけではないので、爆音を立てることもなく、二輪は非常に静かにその場を発進した。
あっという間にハジメたちの気配が離れていく。景色も次々と流れていく。数分もすれば、ハジメたちの気配はプツリと途絶えた。と言うより、感知範囲から外れた。
「さて、ブルックの町まではどのぐらいかなっと……」
地図を片手に二輪を走らせる。まあ、ライセン大峡谷は基本的に一本道だ。地図を見るのは、道を確認するというよりは距離を調べるからである。
さて、距離を確認すると大体一時間と言った所だ。魔力が露散してしまうライセン大峡谷で長時間この魔力駆動二輪は使えないが、まあ一時間ぐらいなら何とかなるだろう。
時折襲い掛かってくる魔物をクロスボウで蹴散らし、更に二輪を走らせること約一時間。遂に、俺の目に町の入り口が見えてきた。
どうやら周囲を堀と柵で囲まれた小規模な町らしい。街道に面した場所に木製の門があり、その傍には小屋もある。おそらく門番の詰所だろう。小規模といっても、門番を配置する程度の規模はあるようだ。
流石に二輪で乗り込むのは憚られるため、俺たちはそれなりに離れた場所で二輪から降りると荷物袋に収納する。この荷物袋、仕組みはどうなってるのか分からないが、割と何でも入る便利な道具だ。
テクテクと門を目指して歩いて行く。案の定、門の脇の小屋は門番の詰所だったらしく、武装した男が出てきた。格好は、革鎧に長剣を腰に身につけているだけで、兵士というより冒険者に見える。その冒険者風の男が俺たちを呼び止めた。
「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」
規定通りの質問なのだろう。どことなくやる気なさげである。俺は門番の質問に答えながら、しっかりと偽装を施したステータスプレートを取り出した。
「食糧の補給だね。旅の途中なんだ。あ、連れはステータスプレートを無くしちゃったんだよ」
「ふーん……」
ステータスプレートの名前欄には偽名が表記されている。また、自身の能力値やレイシェンのステータスを閲覧する機能は隠蔽済みだ。
ちなみに、偽名は「有里 湊」となっている。今となれば随分と前の事になるが、初めて雫と会ったときに偽名を名乗ろうとして考えたのがこの名前である。
他の候補は「汐見 朔也」や「キタロー」に「望月綾時」。後は「ファルロス」だ。考えた偽名は、有里湊という名前が使えなくなったら名乗れるように心の中で暖めることにした。
「よし、通って良いぞ」
「ありがとう。あ、そうだ。素材の換金場所って何処にある?」
「あん? それなら、中央の道を真っ直ぐ行けば冒険者ギルドがある。店に直接持ち込むなら、ギルドで場所を聞け。簡単な町の地図をくれるから」
「そうか、分かったよ」
門番に礼を言って先へ進む。
眼前に広がるのは、それなりに活気のある町の様子であった。露店がかなり出ており、彼方此方から呼び込みの声や、白熱した値切り交渉の喧騒が聞こえてくる。
明るい雰囲気の場所に行くと、自然と気分も明るくなっていく。実はここ最近、ずっとクラスメイトを殺したあの日の夢を見て全く眠れていない。それが原因で、なるべく顔に出さないようにしてたが心はかなり荒れていた。
この町で、ほんの少しで良いから眠れるようにしたいところだ。
此処でハジメくんたちとは分断です。大体の指標として、大迷宮攻略が一度済んだら彼らは本格的に再登場……という流れです。つまり次回の本格登場は大火山ということになります。
賛否両論になるのは承知しています。ですが、私の技術ではどうしても人数が増えると描写しきれず中途半端になってしまうのです。苦肉の策他ならないですが、ご理解頂けると嬉しく思います……。
ハジメにワイルドの能力は必要?
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いると思う
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いらん