命の答えを得た最強のペルソナ使いは異世界でも最強 作:Hetzer愛好家
疲れに呻く体を無理やり起こし、極力顔にも出さないように注意して俺は下へ降りる。既に雫とレイシェンは起きていたらしく、一足先に朝ご飯を食べていた。
個別に朝ご飯を頼み、一人座って欠伸を一つ。かなり大きめだ。周りの人にも伝染しており、欠伸の嵐となっている。
眠気を朝ご飯と朝日で退散させると、俺は部屋へ戻って身支度を整える。整えたら後は出発するだけだ。俺は雫たちが身支度を終えるまで外で待つ。
やがて、二人が出てきたので再度下へ移動。チェックアウトを済ませて俺たちは外に出た。
「くあっ……ぁぁ……」
「ちゃんと眠れたの? さっきから欠伸ばかりしてるけど……」
「寝てるよ。ちゃんと寝てる」
心配してくれる雫には悪いが、あくまでも眠くない体で俺は話をする。眠れないのは俺が禁忌である人殺しを犯したからだ。ただの自業自得でしかない。
それに、こうして日の当たる場所に出て動き回れば眠くなることはない。外と比べたら比較的暗い住処に籠もっていた時はそれなりに苦しかったのは内緒である。
と、雫に心配されながらも俺はテクテク歩いて行く。当てもなく彷徨っていたので、気が付けば様々な裏路地を抜けて一つの豪邸の前に俺たちは立っていた。町から少し離れた森の近くに建っているらしい。
「うお、デカいな……」
絵に描いたような大豪邸である。少なくとも三階以上はあり、奥行きもかなりの物だ。此処からは視認できないぐらいに広い敷地を使っているらしい。門も随分とご立派である。
……門の脇にチョコンと置いてある、犬が寝泊まりするようなボロボロの小屋以外は。いや、これはそもそも小屋と言えるのだろうか。手慣れのホームレスの方がマトモなダンボールハウスを作れるだろう。
犬小屋にしてはあまりにもお粗末である。訝しがって俺は小屋を覗くことにした。
小屋を覗いた途端、鼻に凄まじい悪臭が広がる。俺はすぐに顔を小屋から離した。まるで、長年掃除していない不潔な公衆便所の臭いだ。アンモニア臭が酷い。激臭で思わず涙が出てきた。
あまりの臭いに顔を背けた俺だが、視界の端っこに人間のような影を見つけた。見方によってはネコにも見えるそれは身動き一つ取らない。ちょっと不気味だ。
意を決すると、俺は鼻を摘まんで再度小屋を覗き込む。今度は口呼吸を忘れない。
……相変わらずの激臭に、また勝手に涙が出てくる。だがそれを無視して目を凝らすと、小屋の隅っこには確かに人間のような影があった。
よくよく見ると、その人影にはネコ耳とネコ尻尾が生えている。ネコの亜人らしい。それも女の子である。
「おい、大丈夫か? 生きてるか?」
ピクリとも動かないので思わず声を掛ける。臭いからして糞尿塗れだと思っているが、そもそも生きているのかすら怪しい。
その心配は杞憂だったらしく、ネコの亜人はゴソゴソと動き出した。予想とは違って糞尿塗れではないが、服は継ぎ接ぎで全身に酷い傷が付けられている。
虚ろな瞳で動き出したネコの亜人は、俺を追いかけるようにして小屋から出た。
「これは……」
「なに、これ。酷すぎる……!」
俺は絶句し、雫は怒りを露わにした。唯一、レイシェンだけは大して表情も動かさずに考察している。
常に冷静に、的確な考察をするレイシェンは本当にありがたい存在だ。
「おそらく、この屋敷の主に買われた奴隷でしょう。手酷い扱いを受けているみたいですが」
王国に滞在していた頃に教えてもらった内容が目の前にある。それも、かなり凄惨な形で。
亜人への差別は非常に根深い物で、双方に多大な亀裂を生み出していることは理解していた。が、改めて現実を直視すると目を逸らしたくなる。
生きる希望を無くしてしまったのだろう。乾いた瞳からは、涙一つ流れ落ちていない。ハイライトが仕事を放棄した瞳というのは恐ろしい物だと熟々感じる。
助けてやりたい。だが、俺は追われる身だ。そう簡単に決意は出来ない。
今、俺がしてやれる事は……。
「雫、大きめの岩を捜してきてくれ。あまりゴツゴツしてないのを頼む」
「分かったわ」
「岩が集まったら俺が錬成する。終わったらレイシェンの出番だ。熱湯を頼む」
「了解です」
その足を活かして雫はすぐにその場を離れた。レイシェンも自主的に動き出し、その辺にある岩を魔法で引っ張ってくる。
その光景を見ても表情一つ変えないネコの亜人に、俺は濡らしたタオルで素肌を優しく拭いてやってから一声掛けた。
「待っていてくれよな」
あっという間に真っ黒に染まり、使い物にならなくなったタオルに顔を顰めながらも俺はその場を離れる。ちなみにだが、錬成するのに使うのはクロスボウである。ハジメみたいに大掛かりな錬成は不可能だが、即席の風呂を作るぐらいなら訳もない。
一人分の即席風呂ならそこまで多くの岩は必要ない。俺は使えそうな岩を二つ見つけると、それを肩に一個ずつ担いでネコの亜人が待つ場所へ戻る。
どうやら雫とレイシェンも戻ってきたらしく、相当数の岩が置いてあった。俺は岩を地面に置くと、まるでそれを待っていたかのようにレイシェンが適当な場所に二人ぐらいは入れそうな穴を生み出した。
俺はジークフリードを呼び出して岩を半分に斬っていき、片方は錬成で薄く伸ばして穴の底に敷く。そしてもう片方はやはり錬成して形を整えると、穴の側面に一個ずつ置いていった。
一通り岩のセットを終えると、俺は仕上げとばかりにアリスを呼び、岩に付着しているであろう細菌や虫を殲滅。最後にレイシェンが熱湯を注ぎ込んだ。さり気なく熱湯に回復魔法を付与しているレイシェン、流石だ。
これで即席風呂の完成である。雫に頼んでネコの亜人の服を脱がせると、そのままゆっくりと湯船につからせた。俺はそれとなく風呂から目を逸らすと、豪邸の壁に寄り掛かりながら簡単な料理を始めた。
大っぴらに助けることは出来ない。俺や雫たちには勿論だが、無関係のネコの亜人までもが巻き込まれてしまう可能性が高い。無論、俺が上手く立ち回ればそんな事は起こり得ないのだが……そんな自信は無いに等しい。
あーでもない。こーでもない。そうやって思案を重ねながら料理をしていると、何時の間にかネコの亜人は即席風呂から上がって雫の予備の服を着込んでいた。サイズが大きいのか、ワンピースみたいになっているのはご愛嬌か。
「……あり、がとう」
「うん、顔色は少し良くなったな。それじゃあこれを食べなよ」
皿に装ったのは、あまり量の多くないお粥である。ブルックの町で購入した米を使ってみた。日本米と比べると甘みは薄いが、普通に料理する事には困らない材質である。それに加えて、俺は購入した果物も添えて手渡した。
お粥と果物を受け取ったネコの亜人は、何故だか涙を流し始めた。慌てて事情を聞こうかと思ったが、俺はデリケートゾーンに入ってしまうだろうと思い直してグッと抑える。また、噛みしめるようにしてお粥と果物を食べるネコの亜人から大凡の事情を察したのも理由の一つである。
と言っても、俺が察した情報は氷山の一角であろう。この娘は奴隷であり、食事や風呂を与えられることもなく暴力を振るわれている事しか分からない。もっと込み入った事情があるに違いない。
「ごちそうさま、でした……」
「ん、お粗末様。美味しかったか?」
「とっても、美味しかった」
未だに涙を流し続けるネコの亜人には何も言わない。ただ、微笑みながら優しく頭を撫でてやるに留まる。
しかし表情とは裏腹に、俺の心中は激しく葛藤していた。
絶望に打ちひしがれていたこの娘に、俺はほんの一筋の、僅かで一時的な希望を与えてしまった。このまま「ハイ、サヨナラ」をすれば、この娘はより深い絶望に襲われることだろう。
しかし、この娘を引き取った場合は死ぬよりも辛い旅路が待つ可能性が高い。何れ幸せになるかもしれないが、そこまでの道のりは果てしなく長い。
仮に連れて行かなかったとしても、俺と関わった人物として酷い尋問を受ける可能性がある。元は無関係であったこの娘を巻き込むのは当たり前だが気乗りしない。
そもそも連れて行かなければ、この娘は再び襲い掛かる絶望感に耐えきれないだろう。そのまま死んでいく未来が直視出来てしまう。
何方を取っても、この娘に待つのは死ぬより辛い未来。より辛くない未来は何方なのか。
「理……」
雫は何とかして助けたいらしい。見れば、レイシェンも表情は分かりにくいながらこのネコの亜人を助けたいと思っているようだ。
この娘がどうして欲しいのか。それは一目瞭然だ。行動するのは俺たち。そしてどの行動を選ぶのか。それを決断を下すのはこの俺だ。
……覚悟を決める必要がある、か。
「雫。此処に残ってくれ」
「それって……そう、なのね。分かったわ。任せなさい」
「ああ、頼んだよ。もう覚悟は決めた。俺にどんな災難が降り懸かっても、この娘を含めた君たちを幸せにするってな」
召喚器を手にする。ヒンヤリと冷たいそれによって心を落ち着かせると、俺はレイシェンを連れて大豪邸の門を軽々と飛び越える。
随分なザル警備なので、裏口を見つけるとすぐにそこから大豪邸へ足を踏み入れた。土足で。
大豪邸なだけあって隠れる場所も豊富だ。時折通りすがる“亜人のメイド”に見つからないように技能を駆使し、厨房やリビングと様々な部屋を捜しては出て行く。
気配感知で一際ドス黒い気配を察知した俺は、あまりのドス黒さに辟易しながらも、その気配が出されている場所を目指して早足で歩いた。
そして俺たちは、遂に諸悪の根源と対面する。一際豪勢な扉を見つけると、迷うことなくそれを蹴破って中へ突入する。
「な、なんだぁ貴様らあ! こ、このプーム・ミンのべ、別荘に土足で入るとは礼儀知らずめえ!」
体重が軽く百キロは超えていそうな肥えた体に、脂ぎった顔、豚鼻と頭部にちょこんと乗っているベットリした金髪。ドモリ気味のキィキィ声で不快感は倍増だ。
弓道部の彼女なら、きっと速攻でピチュンしに掛かったに違いない。ブリリアントな生徒会長も同様である。
と、まあ割かしどうでも良い事を考えていると、ブタ男がレイシェンに気が付いた。ニヤニヤと欲に汚れた目で彼女を見やる。
「お、おい、ガキ。そ、その女を私に寄越せっ。そうすれば、土足で踏み込んだことをす、全て無かった事にしてやる」
「だ、そうだけど? 君の意見は?」
「断固拒否ですね」
バッサリ。まあ、知っていたので動揺は特にない。人間として性格が終わっていそうな奴の元には行きたくないだろう。
「先に言っておく。俺たちの要求は、貴方が外で“飼っている”ネコの亜人をこの金と交換してもらう事だ。悪いが、この娘は命より大切な人なんだよ」
「な、嘗めてるのか! 私はミン家の男爵だぞ! この私に逆らうつもりかあっ!」
「あまり血気盛んにならないでくれ。俺たちは争うことを望んでいない」
交渉の始め方が最悪レベルに悪かったので仕方がないが、どうやら俺の態度はブタ男を激昂させてしまったらしい。交渉決裂の可能性が大である。
キィキィと何かを喚いているが、どうせ碌な事ではないので聞く耳を持たない。その態度にいよいよ堪忍袋の緒が切れたのか、奴は大量に雇ったであろう兵士を呼び出した。両手では数え切れないぐらいには居るな……。
「こ、殺せえ! ガキは殺してしまえ! て、手柄を立てた者には、その銀髪の女と寝る権利をあ、与えてやる!」
「……神敵を通さ『落ち着け』ですが、ここは私がやるべきでは?」
「良いよ。俺がやる。君が戦ったら皆殺しにしてしまいそうだからな」
今にも障壁を張り巡らそうとしたレイシェンを諫めると、俺はこめかみに召喚器を当てた。そして、やけに重たい引き金を引く。
ガキイン!
「〝ラミア〟」
上半身は美しい女性。下半身は醜い怪物。その名をラミア。欲に汚れ堕ちたこの男には、このペルソナが最適だろう。
「〝ポイズンミスト〟」
「あ、があっ!? き、き貴様、何をしたあ!」
「なに、ちょっと麻痺毒をな」
ポイズンミストは様々な毒物を散布する事が出来る、非常に便利な攻撃魔法だ。致命傷を与える猛毒から麻痺毒まで何でもござれである。
さて、兵士含めてすっかり身動き取れなくなった訳だが……このまま要求を呑ませたとしても、毒が解除された途端に背中をザックリなんて事が有りえる。
なので、此処は念には念を入れて……。
「〝モスマン〟」
ガキイン!
アメリカで確認された未確認生物……を模したペルソナを召喚。ぶっちゃけ見た目は可愛い。人によって意見が分かれそうだが、少なくとも俺は愛着を持っている。
ペルソナを召喚したからには何か行動を起こさなければならない。そこで俺が選んだのは、
「〝フラッシュノイズ〟」
である。「キーンッ」と耳鳴りのような音がまず対象を襲い、そこから何故だか動揺してしまう謎の技だ。
ちなみに、モスマンに技の原理を聞くと「内緒ダ」と言われてしまった。おそらくアリスの〝死んでくれる?〟と似たような原理なのだろうが……真相は謎である。
麻痺毒。そして動揺。あともう一押し、何か欲しいところだ。
……そうだ、此奴にしようか。此奴ならきっと、最適な反応を引き出してくれるはずだ。
ガキイン!
「〝タナトス〟」
処刑人を召喚。とは言っても、今回は誰一人として殺すつもりはない。いや、「殺せない」の方が実際は正しいか。禁忌を犯すと罪の意識が薄れる人も居るらしいが、俺は真逆で罪の意識に苛まれる事になった。
威嚇と脅しを兼ねたタナトスの召喚は、俺が望んでいた通りの効果を発揮した。麻痺毒と動揺。そこへ恐怖が加わった事によって完全に心を折ることに成功したようだ。
本当に余計な一手な気もするが、俺はタナトスに命じてブタの胸ぐらを掴ませる。物理のデビルタッチなので即死する事はない。
「気が変わった。金ぐらいなら渡そうとも思っていたが、それもナシだ。あの娘は俺の好きにさせてもらう」
「ふ、ふざけるなっ。そんなか、勝手。許されると思って『口を塞ぎなさい、外道』ヒィッ!?」
……やっぱり感情豊かになってるな、レイシェン。相当にムカムカしていたらしく、この状況であっても文句を垂れようとするブタを背筋が凍るような声で黙らせた。
最近は随分と人間らしい瞳をするようになっていたのだが、怒ると“ゼクスト”として働いていた頃の瞳に戻るようだ。ちょっと怖い。
「殺さなければ良いんですね?」
「うん、まあ……そうだね」
「それでは、ペルソナカードをお借りします」
ペルソナカードを取り出すレイシェン。取り出したのは技カードだけだ。なるほど、技だけを自分自身の魔力で発動させる事も可能らしい。
レイシェンがカードを割ると、途端に辺りの空気が冷え込み始めた。範囲や破壊力を見るに、使用したのは〝マハブフダイン〟だろうか。
「……この家を隅から隅まで凍らせました。あと十分もすればこの家は倒壊するでしょう。その毒が効力を失うまで動けないでしょうけど、頑張ってください」
えげつない。サラリととんでもない事実を告げてクルリと反転し、悠然と部屋を立ち去るレイシェンを見て俺は身震いした。この身震いは、絶対に寒さから来る物ではない。
心を折ったので、ネコの亜人を勝手に連れ出すのは問題ないだろうが……今後、レイシェンを怒らせてはいけないと改めて感じた。
怒らせたらマズいのはアイギスとも似通ってるな。何だか懐かしい気分だ。でも、おっかない。女は怒らせたらダメだな……。
亜人ちゃんのお名前募集してます()
原作のハジメたちとは別の道を歩む関係上、どうしても入れておきたかったイベントを絡めた上での新キャラ登場です。見た目とか性格は後に詳しく描いていきます。
ネコの亜人さんのお名前(随時更新)
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ニュープ(New+Hope)
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ホープ(Hope)
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レーリス(ロシア語で自由)
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ナディーツァ(ロシア語で希望)