命の答えを得た最強のペルソナ使いは異世界でも最強 作:Hetzer愛好家
調べてみたらペルソナ3とありふれのクロスは本作品が初みたいですね……いや、このサイトだけの話ですので他は分かりませんが()
※映画版を見返したところ、理が剣道部であったことが抜け落ちてましたので修正を加えました。指摘してくれたチャサキさん、ありがとうございます。
雫の両親にペルソナの力を知られてからというもの、俺は頻繁に門下生の訓練を担うことが増えた。
ある時はオルフェウスで辺りを焼き尽くし、またある時はジャックフロストの生み出した氷河期地獄を体験させ、更にまたある時はノルンの起こした暴風に逆らって動かせたり。流石にメサイアのメギドラオンを使うことはなかったが、かなり強めに頼まれたこともあった。
本当に大丈夫なのか心配になる訓練ばかりをやったが、門下生は嫌な顔一つしない。むしろ尊敬の眼差しを向けてくる。勘弁してくれ。
そして、俺自身もまた訓練を始めた。
俺が扱える武器は片手剣、両手剣、弓矢とかなり多岐に渡るのだが、その中でも一番扱いに慣れている片手剣を再び手にすることになった。
「筋が良い」と雫の祖父である鷲三さんには言われ、「無駄がない」と虎一さんに言われた。とは言え俺の動きはあくまでも実戦経験だけを頼りにしているためか、型はとても粗い。
実は生前は剣道部に所属していた。これ! という思い出はないが、基本的な動き自体は頭に入っている。だがシャドウ討伐に頭が持って行かれていたので大会には出てないし発展的なことも覚えていない。
そのため、改めて基本的な剣術は雫たち剣道の門下生に混じって習うことにした。そしてその工程で、俺は様々な人間と知り合った。
まずは天之河光輝。雫の幼馴染らしい。どうやら完璧超人と持て囃されているらしく、彼の周りには何時も大勢の女子が居る。とても正義感が強く、人間として表面上は素晴らしく見えるが、その実は思い込みが激しいという欠点を持っている……と、思っている。
次に坂上龍太郎。彼は八重樫道場で空手を習っているらしい。光輝とは仲が良いのか、よく一緒に喋っているのを見る。彼は所謂脳筋という奴でとても暑苦しい。テレッテと言う明るい同級生よりも暑苦しいので少々苦手である。
最後に白崎香織。どうやら雫の親友らしい。おっとりとしていて天然であり、容姿が抜群なこともあって門下生からの人気も高い。彼女は普段静かで物を言わない俺とも普通に喋ってくれるため、訓練の休憩中にはとりとめのない話をするぐらいの仲にはなった。
「始め!」
「イィヤアアアアアアアア!」
「……ヤア」
現在、俺は光輝と対局中である。剣道着を着るのは久しぶりで身体に馴染まず、ついでに声を張るというのはあまり好きではないので俺はセオリーから外れた態度で戦いに臨む。
面や小手に目掛けて竹刀が放たれる度に盛り上がる外野が煩いが、至って平静に俺は攻撃を躱すか受け流す。俺の戦法はあくまでカウンター型。真正面からやりあっても年季の差で光輝には勝てない。
「エエイ! エエッ! エエヤアア!!」
「……見つけた。胴」
「一本!」
「くっ、卑怯な……」
光輝はカウンター戦法が気に食わないらしい。どうでもいいけど。攻撃で態勢が僅かに崩れたところに抜き胴。完璧に決まった。
俺は定位置に戻ると、竹刀を下段にダラリと構える。実戦でわざわざ上段や中段に構えることはない。自然に構えるのが一番だ。師範代である虎一さんに特例で許されているからこそ可能な戦法でもあるのは内緒であるが……。
「始め!」
その声と同時に俺は突進する。二度も同じ手が通用するとは思っていない。光輝は現在、俺のカウンターを警戒している。が、それ一辺倒だけだと思っているならただのバカである。
勢いを乗せた突進を光輝の竹刀が振るわれる前に叩き付けてバランスを崩し、そこをすかさず突いて俺は面を狙いに行く。
「面……と、思ってた?」
「えっ」
「胴……!」
「い、一本!」
面を打ちに行くために距離を再度詰め、鍔迫り合いからの引き逆胴でフィニッシュ。拍子抜けするほどアッサリと決まった。
最後の所作を一通り何となくこなしてから俺は壁際に行って面を取る。やはり視界が狭くてやりにくい。汗も凄いのでタオルを手に取って顔を拭う。
すると、光輝がツカツカと歩み寄ってきた。彼は事あるごとに俺の戦い方について文句を言ってくるのである。面倒な人間だ。
「結城! 何度も言ってるが、『待ち』は卑怯だろ!」
「……人それぞれだろ」
顔すら見ずに受け流し、俺は小手や胴も取って身軽になる。本当に光輝は面倒くさい。一々人のやることに首を突っ込まないで欲しい。
「俺は剣道の歴は短い。普通にぶつかり合ったら勝ち目はない。だから頭を使って戦ってるんだ」
「だが!」
「君は実戦でも同じことが言える?」
「実践と剣道は違うだろ! 話を逸らすな!」
「はあ、正直言って君の意見なんかどうでもいいんだ。これ以上、深入りしないでくれ」
「待て、話はまだ……!」
綺麗に防具を片付けると、俺は光輝を無視してさっさと道場を後にして更衣のため自室に戻った。俺の自室は雫の部屋の隣に新築され、それなりの広さがある。基本的に誰も来ないため、とても静かで俺としてはありがたい部屋である。
鷲三さんのお古である和服を着こみ、俺は窓を開けて空を眺めた。剣道の稽古が終わったらこうして何も考えずに空を見上げるのがルーティンだ。
稽古。そして復習程度の勉強の毎日に俺は疲れ気味だが、こうして様々な表情を見せる空を眺めているとその疲れも多少は吹っ飛ぶ。
と、その時である。俄かに隣にある雫の部屋側からガタン! と騒音が聞こえてきた。まるで扉を勢いよく閉めたような音だ。そして、何かが壁に放り投げられてぶつかったような音も聞こえる。
最初は無視していたが、一向に音が収まらないので俺は自分の部屋を出て雫の部屋の扉を叩く。
「……なによっ」
「雫。物音」
「あ、ま、理? ご、ごめんなさい」
「……入るぞ」
「待って、今はっ!」
躊躇うことなく扉を開ける。着替えているという択は時間からしてないと考えていたので特に思うこともない。
扉の先。そこには、目元を赤く腫らした雫が蹲っていた。
何があったのかはサッパリなのだが、この一瞬だけ見えた雫の表情が尋常ならざる物だったことが、この部屋を黙って出ていくという選択肢を消した。
「……何があった?」
「まこ、と……」
「泣くほど辛いことがあった? 嫌じゃないなら、俺が話を聞く」
すると、雫は何も言わず俺に抱き着いてきた。流石に面食らったが、彼女が俺の胸に顔を埋めて肩を震わせているのを見ては引き剥がすなんてことは出来ない。ただ黙って、優しく頭を撫でてやる。
「『あんた、女だったの?』て言われてっ。見えないところで目立たない部位を殴られてっ」
「雫……」
「辛い……辛いよぉ……何で、私がこんな目に遭わないといけないのよお!」
その原因は絶対に光輝にある。光輝は無意識だとは思うが、主に視線を雫に向けている。しかし、雫の容姿は確かに綺麗だが髪の毛が短く体格もガッチリとしている。要は、上っ面だけ見れば彼女は女の子らしくないのだ。
だと言うのに、光輝は雫にお熱。当然、光輝に恋する女子は許せないだろう。
だから彼女に心無い言葉を容赦なく浴びせ、躊躇うはずの暴力も平然と振るう。悪魔のような所業であっても、嫉妬に駆られた人間と言うのは恐ろしく冷酷な生き物になれるのである。
だが。だが、雫という人間は、どうしようもないぐらいに女の子なのだ。
部屋には可愛らしい人形やぬいぐるみが所狭しと置かれている。棚に入っている本のタイトルを見れば、それの殆どが恋愛物。彼女の語る恋愛観と言うのも非常にロマンチックである。
見た目がどうであろうと関係ない。八重樫雫という〝女〟は誰よりも純粋な乙女なのだ。
「光輝に話しても彼から返ってくるのは苦笑だけ! 事態は悪化しかしない! なんでっ。なんで……! 私が何をしたのよ!?」
「……」
「ねえ……教えてよ。私が何をしたのよぉ……」
雫からは底なしの悲しみと怒りだけが伝わってくる。一番近くに居る俺にもその悲しみと怒りは伝達されて共有され、同じ感情を覚えた。
俺が彼女に対して出来る事は殆ど思いつかない。こうして雫の言葉を何も言わずに受け止める壁になるぐらいしか、俺には出来る事がない。慰めの言葉もありふれた物しか出てこない。そんな自分に嫌悪感すら覚えた。
だが、そんなありふれた言葉でも良いと言うならば。俺は幾らでも、何度でも彼女に送ろうと思う。
「……雫は、女だよ」
「え……」
「誰が何と言っても、雫は女だ。少なくとも、俺はそう思っている」
「まこ、と」
「お世辞だと思うなら好きにしてくれて構わない。嘘だと思うなら聞き流しても良い。それでも、俺は雫が女だと思ってるから」
雫の頬をまた一つ、涙が伝う。そんな雫の瞳を真っ直ぐ見つめて、俺は彼女の心に響いてくれと願いながら言葉を紡いだ。
「辛いなら。そして悲しいなら存分に泣けばいい。でも、壊れてしまう前に誰かに話してみるのもアリだと思う。別に俺じゃなくても良い。白崎でも良いし、両親でも良い」
「……」
「君は、独りじゃない」
雫から離れようとする。が、雫が俺の服の裾を引っ張って引き留めた。
迷惑とは思わない。だが、雫ぐらいに綺麗な人と長時間触れ合うというのは流石に抵抗があったので離れようと思ったのだが……まだ話したいことがあるのだろうか。
「……もう少し、このままで居させて欲しいの」
「俺の事が嫌じゃないなら、好きなだけこうしても良い」
「嫌いならこうしないわよ、おバカさん」
「それも、そうなのか」
俺たちは恋人とか言う特別な関係ではない。あくまで同居人だ。変な感情は抱いていない。抱いてはいけない。そう思っている。
しかし、その同居人が困っているならば。何か願い事があるならば。幾らでも俺は聞いたり叶えたりしようと思う。
日はまだ落ちない。夕飯の時間はまだ先である。それまでは、きっと誰の邪魔も入らないだろう。
俺は強く抱き締めて離れない雫の頭を黙って撫で続けるのだった。
雫さんのフラグが立ちました。回収も近い……かも。
原作の言葉を使ってはいますが、時間の流れは多少異なっています。ご注意を。