「全く……あんなところでやり過ぎたらタッグトーナメントが参加禁止になったらどうするんですか。言っておきますけど、こんな時でもない限り一夏さまに攻撃するだなんて認めませんからね? そこの所を肝に命じて行動には気をつけてください」
アリーナからそそくさと立ち去って自室に戻ってきたあと、祓はラウラを先ほどの事について叱りつけていた。
だが、叱られているラウラと言えば馬の耳に念仏といった様子で話を聞き流していた。
「この……――まあいいです。次にこんなことがあったら強制的に止めますからね」
返事のしないパートナーに一抹の不安を抱えながら、祓のタッグマッチトーナメントが始まった。
「まあ、こんな感じですかね?」
タッグトーナメントのシステムを少々弄った後、祓にラウラから通信が入った。
『おい、貴様がどこで何をしているかは知らんが、トーナメント表が出た。とっとと戻って来い』
「はいはい、今行くわ。全く、あなたは今更相手を気にする必要ないでしょうに」
『第一試合だ。とっとと用意しろ』
用件だけを一方的に告げると、ラウラは通信を切断した。
「やれやれ、だったら相手ぐらい教えてくれてもいいではないですか」
不貞腐れたように呟く祓ではあるが、対戦相手は聞くまでもなく知っている。
「私、好きな物は最初に食べるタイプですから」
Aブロック第一試合
織斑一夏&シャルル・デュノア VS 水無鴇祓&ラウラ・ボーデヴィッヒ
「一回戦から戦えるとは、私は運がいい」
「そりゃなによりだ。俺も待たずに済んで助かったぜ」
一夏に対して戦意をむき出しにするラウラと、同じく戦意をラウラに向ける一夏。
双方の後ろにお互いのパートナーが控えている。
だが、前衛で敵意をぶつけている二人に対して、後衛の二人の態度は対照的だ。
緊張した面持ちでラウラを見ているシャルル。目を閉じて腕組みしている。
そして、緊張感が高まる中、戦闘開始の時間が迫ってきた。
5、4、3、2、1――
「「叩き潰す!」」
試合開始の合図と同時に、一夏は
弾丸の如き勢いで疾駆する白式を、ラウラは片手をかざすだけで停止させる。
それはシュヴァルツェア・レーゲンに搭載された第三世代兵器、『
AICは簡単にいえば相手の動きを止めるエネルギー場だ。
発動に僅かな集中を必要とするものの、一直線に自分に向かってくる白式を捉えるのは簡単だった。
「開幕直後の特攻か。単純でわかりやすい」
一夏の動きを止めたラウラは肩に装備されたレールカノンのセーフティを解除して白式に向けた。
この至近距離で砲撃を受けたなら、たとえISでもただでは済まないだろう。
「ああ、忘れてるのか? これはタッグマッチなんだぜ?」
笑みを浮かべる一夏の後ろから、六一口径アサルトカノン『ガルム』を構えたシャルルが飛び出してきた。
ガルムから吐き出された炸裂弾がレールカノンに命中し、明後日の方向を向いた砲門から発射された砲弾がアリーナ外周を取り囲むシールドに命中する。
「ちっ」
シャルルの追撃を避けるために下がるラウラと入れ替わるように、祓がすり足で前に出てきた。
「お覚悟を」
近接ブレードを片手に迫る祓に対して、一夏は雪片弐型で迎撃する。
祓は自分の右から左へと鋭く振り抜かれる刃に対して軽く跳躍し、側面に爪先を乗せると、それを足がかりにして一夏を飛び越えた。
そして、自分に向けられているアサルトカノンを近接ブレードで跳ね上げる。
武器を失ったシャルルに対して容赦なく二の太刀を振り下ろそうとした瞬間、ほぼ真下にいる一夏が雪片弐型を振り上げた。
祓は刃を足裏で受けると、その反動と合わせて飛び上がった。
「『
祓はアサルトライフルを展開すると、二人の間に無造作に弾丸をばら撒いて分断する。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ、そっちは任せました」
ラウラは祓の言葉に返事も反応もせず一夏に襲い掛かり、それを気にした様子もなく、祓はシャルルに攻撃する。
「さて、私と踊っていただきますよ?」
「全力でお相手するよ!」
各々の手に握られる得物は、祓は近接ブレードとアサルトライフル、シャルルは両手に六二口径連装ショットガン『レイン・オブ・サタディ』を構える。
「では、参ります」
祓は左手に持ったアサルトライフルの引き金を引く。
銃口から飛び出す弾丸をシャルルは簡単な機動で回避して、ショットガンで応戦する。
広範囲に広がる弾丸を、祓は近接ブレードの一振りと、それに伴い発生した風圧で弾丸の大半払い除ける。
残った弾丸を発生された実体シールドで防ぐと、シャルルに向かって接近して近接ブレードを振り抜く。
それをシャルルは瞬時に武装を持ち変える『
「面倒ですね」
返す太刀でナイフごと切り伏せようとしたが、シャルルは後ろに下がってその凶刃から逃れる。
その対応を見た瞬間、祓は最低限の動作でアサルトライフルを投げつけた。
予想だにしなかった行為にシャルルの反応が一瞬遅れたが、それでもアサルトライフルはシャルルの専用機『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』のシールドバリアーが防ぐ。
予想だにしなかった行為に僅かに行動が止まったシャルルに対して、祓の音速の突きが放たれた。
祓の突きはシャルルが咄嗟に展開したシールドを貫通し、本体を数メートル後退させた。
「このタイミングで防ぎますか」
少し関心したように呟きながら、祓は貫通したシールドを見て、ブレードを一振りして引き抜いた。
刃をカタパルトにして飛んでいったシールドは、
「貴様……!」
攻撃の邪魔をされたラウラは祓を睨みつけるが、祓は気付かない振りをしてシャルルに斬りかかった。
それを見てシャルルは祓がブレードを振り下ろす前に距離を詰めてナイフ型の近接ブレードで防ごうとした。
「その手品が通じるのは一度だけです」
足運びはそのままに後ろに下がって間合いを合わせた祓は近接ブレードを一閃し、相手のブレードを断ち切ってリヴァイヴの装甲を深く切り裂いた。
だが、それでもリヴァイヴのシールドエネルギーはまだ0にはならず、ショットガンのゼロ距離射撃を祓に浴びせた。
銃弾を受けながら後退した祓は銃弾が届かないところまで下がると、一度深く息を吐いた。
「まだ落ちませんか……――面倒ですね。ここで終わらせますか」
祓は足を僅かに開いて腰を落とし、近接ブレードを腰だめに構え、それを見たシャルルは警戒し、目を閉じて集中する祓に向けて二丁のショットガンの銃口を向けた。
「――我が刃の前に、断てぬものなし――」
そう言って目を開いた祓を見て、シャルルは手持ち全てのシールドを展開すると同時に、腕をクロスしてガードする姿勢を取った。
――直後、祓の斬撃が走り、一機のISが落ちた。
一方の一夏とラウラは付かず離れずの近距離で格闘戦を繰り広げていた。
ラウラの両の手のプラズマ手刀と六つのワイヤーブレードに対して、一夏は雪片弐型一つで立ち向かう。
だが、近接ブレード一本だけでは手数が足りないため、一夏は足や手でブレードの側面を払うことで対処とする。
だが、それだけのことをしても一夏は防戦一方であり、ラウラに反撃する機会を得られないでいた。
「さて、そろそろ終わらせるか」
ラウラが右腕を一夏に向けて突き出すと、一夏の体が拘束される。
AICで身動きが取れなくなった一夏に対して、6本のワイヤーブレードが飛び、白式の装甲の三分の一を剥ぎ取った。
「これで終わりだ」
そして、とどめを刺すために右肩のレールカノンが一夏を狙って放たれる。
(避けられない……なら、斬る!)
一夏は迫り来る砲弾に全神経を集中させ、腰だめに構えた雪片弐型を一閃させた。
そして、一夏が振るった雪片弐型は見事に音速で飛翔する砲弾を切り裂くことに成功した。
それにラウラは僅かに驚いたが、すぐさま次弾を装填。再び発射した。
雪片弐型を振り切った状態では回避も再び両断することもできず、一夏は着弾の衝撃に備えて身構えた。
しかし、一夏が予想していた衝撃は来ず、代わりに一夏の前に1つの影が立っていた。
「一夏、お待たせ」
盾を構えた橙色の機体。シャルルのリヴァイヴである。
「シャルル! 祓を倒したのか!?」
そう言った一夏の声はパートナーの無事を喜ぶというよりは、信じられないと言った声音だった。
一夏たちの当初の作戦では、祓とラウラには共闘するという考えがない(少なくともラウラには皆無)ため、できる限り2対2で戦おうとしていた。
結局祓によって分断されてしまったのだが、なんとかして合流しようと考えていたのだ。
「うーん、あれは倒したって言うのかな?」
シャルルが困ったような表情を浮かべたことを不思議に思い、祓がいる方をみた一夏は、全身から陽炎を吹き出す打鉄に身を包んだ祓が地面に座り込んでいるのが見えた。
「なんか、焼け付いちゃったみたい」
ISが人間の動きについて行けなくなることなど、理論上は皆無である。だが、
「まあ、祓だしな……」
一夏はそう納得して、膝を付いている姿勢から起き上がる。
「行くぜ、シャルル。俺たちのコンビネーションを見せてやろうぜ」
「うん、行こうか。一夏」