そのウマ娘、問題児につき。   作:shinp

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ウマ娘が面白くて育成してたらいつの間に書いてた。見切り発車の産物だけど、どうぞよろしく。


問題児、出会う。

 トレセン学園。

 それは、この世界に存在する耳と尾を持つウマ娘と呼ばれる少女たちが一握りの夢を掴むべく入学する学園だ。

 志を共にする学友と友情を育み、時には研鑽しあい、高め合う。ここ、トレセン学園、正式名称『日本ウマ娘トレーニングセンター学園』は全国にあるトレセン学園の中でもトップクラスのウマ娘専用学園である。

 

「あはは~。それは面白い出来事ですね~。」

 

 その学園の中庭。ベンチに腰掛けたウマ娘たちが談笑をしていた。

 

「そうなんだよねー。ゴルシ先輩がマックイーン先輩にたいやきを渡したと思ったら、たいやきを食べたマックイーン先輩がむせて、ゴルシ先輩がカラシがぁ!って悶え出したんだもん。」

 

「ゴルシ先輩って絡まれると疲れるよね。楽しそうだけど。」

 

 そこには三人のウマ娘たちが奇人として有名なウマ娘ゴールドシップの事で盛り上がっていた。

 

「この前、なんか遠くで聞こえた救急車か消防車か、どっちのサイレンか忘れたけど、それに反応してヘドバンしてたみたい。」

 

「ホント、レースでも後ろ向きでゲートに入ろうとしたりと話題に事欠かないよね。」

 

「ね、カイシンもそう思わない?」

 

 楽しそうにケラケラ笑う二人を笑顔でのんびりと眺めるカイシンと呼ばれたウマ娘に話題を振る。

 

「う~ん、ゴルシ先輩も何か考えがあっての事じゃないかな~?」

 

「いや、あれで何か考えがあるんじゃ怖いよ…。」

 

「それよりさ、この後何か予定ある?」

 

 カイシンのコメントに困ったように微妙な顔をする二人。そんな空気を切り替えようと別の話題を切り出す。

 

「あ、こないだ近くに良いカフェ出来たみたいなんだ。」

 

「おぉー、いいじゃんいいじゃん、行こうよ。ねぇ、カイシン。」

 

「あ~…。ごめんなさ~い。わたし、この後選抜レースに出るんだ~。」

 

 その中でカイシンが思い出したように、申し訳なさそうに予定を口にした。

 このトレセン学園は入学出来たら即レースに出走。など出来るわけはない。

 最初にトレセン学園に所属しているトレーナー達の前でレースを行い、見込みありと判断したトレーナーがそのウマ娘を勧誘する。いわゆるオーディションのようなものだ。そのレースに出るウマ娘たちは、優秀なトレーナーからスカウトを貰おうと躍起になる場でもあるのだ。

 

「だから~、これから走らなきゃいけないんだ~。誘ってくれたのにごめんね~。」

 

「あ、あー…。そう、なんだ。レース、頑張ってね…。」

 

「うん~。頑張ってくる~!」

 

 微妙な顔で見送る友人にカイシンは張り切ると、喋り声とは裏腹に鋭い走りでレース場へと走っていった。

 

「カイシン…選抜出るんだ…。」

 

「何て言うか、一緒に走る事になっちゃった子、ご愁傷さまだよね…。」

 

 残ったカイシンの友人であるウマ娘は、まるでこれから起こる悲劇を知っているかのように曇った表情をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、流石は選抜レース…。誰もが優秀なトレーナーに気に入られようとギラギラしていますね…。」

 

 選抜レース、芝2400mのゲート前、そこにはゼッケンを着けたウマ娘たちが屈伸や伸びをして身体をほぐして準備体操をしていた。その様子を少し離れた場所で両手を後ろで組んで見渡すように見ているウマ娘がいた。

 ワインレッド一色の髪の毛に右目にモノクルアイを着け、邪悪な笑みを浮かべているウマ娘だ。勿論、彼女も選抜レースに出走するウマ娘である。ゼッケンに書かれた番号は6。名前はノイズサウンド。

 

「クフフフフ!…いいですね、いいですねぇ。昨日までは同じ釜の飯を食べ、共通の趣味や学園生活で笑い合ったクラスメイト、友人。そこにある友情は輝かしいものです。だが、今はどうでしょう?自分の周りは全て敵だと言わんばかりの張り詰めた空気!それまでの友情はごっこ遊びだったのかと錯覚してしまうほどのもの!アッハッハッハ!!」

 

 ノイズサウンドは選抜レース出走前の空気を歪んだ視点で楽しみ、まるで劇の狂言回しのように饒舌に語り出す。ノイズサウンドが語った言葉に他のウマ娘たちは努めて無視をするか、図星を突かれないように平静を装うか、様々で更に空気が張り詰める。しかし、ノイズサウンドはそんな空気を楽しむように眺める。

 

「ふわ~!ごめんなさ~い!遅れました~!」

 

 だが、そんな空気を打ち砕くような、のほほんとした、まるでメルヘンチックな雲の上か、お花畑に来たかのような声と口調をしたウマ娘が入ってきた。

 

「…む。」

 

 空気が和らいだ事に眉間にシワを寄せるノイズサウンド。折角作った空気を壊された事に内心腹を立て、和らがせた声の主に視線を向けると、ゼッケンを着けたカイシンが入ってきた。ゼッケン番号は5である。

 

(…ふん。まぁ、いいでしょう。)

 

 ゲートインの時間になった為、ノイズサウンドは渋々といった足取りでゲートに入り、カイシンもその隣のゲートに入った。

 

(…さて、今日も勝ちに行きますか。)

 

 ノイズサウンドは気持ちを切り替え、準備体勢に入った。

 

 

 

 

 ガコン!

 

 

 

 

 ゲートが開いたと同時にウマ娘たちが走り出す。他のウマ娘たちがそれぞれのペースで走っていくが、ノイズサウンドは最後尾から走るウマ娘の様子を眺めるように走る。

 

(ふむふむ、やはり日本最高峰のトレセン学園。走り方、ペース配分、コース取り…。いつ見ても地方のトレセンとは雲泥の差ですね。このウマ娘たちはそれぞれの想いを胸に、このターフの上を走っていると思うと心踊りますが…。)

 

 ノイズサウンドは自分の前を走っているウマ娘の後ろ姿を見ながらジワジワと先頭へスパートを掛けていく。まずはノイズサウンドが作った空気を壊してくれたカイシンを追い越す。ノイズサウンドが目線を一瞬カイシンに移すと、カイシンは焦った様子もなく走り続けていた。

 

(私の心を踊らせるには遠く及びませんよ。)

 

 心の中でそう吐き捨てると、カイシンの前で集団になっているウマ娘たち。それを外側から差していくノイズサウンド。横目で他のウマ娘を見ると最後尾にいたはずのノイズサウンドに追い抜かれた事に気付き、焦り始めたウマ娘たちがペースを乱し始める。

 

(日本最高峰とはいえ、差されただけで焦るとは、その程度ですか。)

 

 ノイズサウンドは肩透かしを食らった気分でスパートを掛け、集団を突き放した。既に第4コーナーに入り、最後の直線勝負になっていたが、集団は4、5バ身後ろ、ノイズサウンドが独走状態になっており、ノイズサウンド自身も勝ちを確信し、人相が悪い笑みを浮かべた。

 

 しかし、レースに絶対はない。

 

 ドッドッドッドッドッ…

 

 独走状態のノイズサウンドの耳にウマ娘の足音が入ってきた。

 

「…む?」

 

 ドッドッドッドッドッドッ

 

 集団は引き離したはず。だが、その音は段々と、確実に近付いてくる。

 

 ドッドッドッドッドッドッドッ!

 

(そんなまさか!?)

 

 そして、その音はノイズサウンドの隣に追い付いた。ノイズサウンドは驚き、横目で見るとそこにいたのは、

 

「勝ちは俺様のもんだ譲りやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 最初に追い越したカイシンだった。だが、その形相は追い越した時とは別人と思うほど凶悪で口が悪く、粗暴と言う言葉が似合いそうな走りだった。

 

 ノイズサウンドは無言で加速し、カイシンを突き放そうと足に力を込め、駆け出す。

 

「ぅおりゃああああああああああああ!!!!」

「…っ!!」

 

 だが、カイシンも負けじと加速し始め、し烈なデッドヒートを展開し始めた。観客席では見に来ていたトレーナーやウマ娘たちの驚きと戸惑い、そして感嘆の声が聞こえた。

 

 二人の差し差されの競り合いの末、二人はゴール板を通り抜けた。

 

「ふっ…ふっ…ふっ…ふっ…ふっ…!」

 

 ノイズサウンドは荒くなった息を整えるように呼吸し始め、スコアボードを見る。その結果は、6が1位の枠に表示され、2位の5との差は「ハナ」と表示された。

 

「今回も、私が、一着、ですか…。」

 

 ノイズサウンドは選抜レースで勝利を納めた。だが、ノイズサウンドはさっきのデッドヒートのようなギリギリの勝負で手の内を見せてしまった事で唇の下で歯噛みする。

 

(まさか、こんな早く全力を出すことになるとは…。前言撤回しましょう。この学園にいるウマ娘は底知れない者もいる。)

 

 だが、それ以上に思わぬ強敵に出会えた感動の方が大きく笑みを浮かべた。ノイズサウンドはその感動を競り合ったウマ娘に送ろうと目を向けた。

 

「ほぇ~…。何ですごく疲れてるし、目の前がチカチカするぅ~。私勝ったのぉ~?」

 

 が、件のウマ娘、カイシンは元のほんわかした雰囲気に戻っていた。

 

(ふむ…、このウマ娘は二重人格なのでしょうか?しかも、この様子は走っているときの記憶は無さそうですね。)

 

 ノイズサウンドはカイシンについて分析し、後続のウマ娘たちに視線を向ける。

 

(そして、あの集団をすり抜けて来たと言うことは差しウマ娘としての素質もある…。)

 

 ノイズサウンドが差し抜いたウマ娘の集団。ノイズサウンドが後ろや横目で見た限り、内から行くのは困難を極めるほどの密度、かと言って外から差しに行くのも大変な広がりだ。

 

(私も問題児であると言う自覚はあるつもりでしたが…。いやはや、楽しくなりそうだ…。)

 

 ノイズサウンドは一人、クックックッと笑みを浮かべながらこれから大挙してくるであろうトレーナーのスカウトに囲まれるカイシンを見つめていた。

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