そのウマ娘、問題児につき。   作:shinp

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雑音、皐月賞出走

「ではこれより、皐月賞出走者のインタビューを始めます。」

 

 学園にあるインタビュー室。そこには大勢の記者と勝負服を見に纏った出走するウマ娘、そして進行を進める司会がいた。

 皐月賞が一週間前に迫った時期にインタビューを行って世間にアピールする場である。

 

「ではまずは…」

 

 一人一人、出走者の意気込みが語られる中、ノイズサウンドは落ち着いた様子で佇む。

 

「では次に、トウカイテイオーさん。意気込みをどうぞ!」

「ボクの目標はズバリ!カイチョーと同じ無敗三冠だよ!だからこの皐月賞は絶対負けられないね!」

(クックック…。やはり、このトウカイテイオーは他の出走するウマ娘とは違う…。)

 

 トウカイテイオーの意気込みを聞いた記者はやはり、無敗三冠を目指し、それに相応しい実力を持つウマ娘には釘付けになる。ノイズサウンドは今にも笑いだしそうだが、何とかこらえることが出来た。

 

「では次に、コモーノーデスさん、意気込みをどうぞ。」

「あ、は、はい。あ、あのー、さ、皐月賞に、出れるなら、一着取りたいと思ってます。はい。」

 

 ノイズサウンドはコモーノーデスの次である。コモーノーデスの意気込みをバ耳東風に聞き流したノイズサウンドは心の中で一息つく。

 

「では、最後にノイズサウンドさん。意気込みをどうぞ。」

「クックック…。そうですね。このクラシックG1の初戦という重要な舞台に出られるならば…。現在の一番人気に勝つ気でいますよ。」

 

 ノイズサウンドの宣戦布告と捉えられる発言に、トウカイテイオーは青い目をパチクリし、記者はどよめき始めた。

 

「へぇー…。そこまで言うなら、受けて立とうじゃないか!ノイズサウンド!」

 

 だが、トウカイテイオーは闘志を漲らせる青の瞳でノイズサウンドを捉え、その様子を見ていた記者たちはペンを走らせ始めた。

 

 その翌日の新聞の一面には、

『ノイズサウンド、トウカイテイオーに宣戦布告!無敗三冠を阻むか!?』

 と、出ていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 皐月賞当日。

 

「あの皇帝シンボリルドルフ以降の無敗三冠が出てくるかもしれないんだろ?」

「いやー、楽しみだなー!」

「でも、ルドルフには絶対があったけど、トウカイテイオーはどうなんだろな?」

「そうだよなぁ。あのノイズサウンドってウマ娘…ただもんじゃないって感じだよな。」

「今年のクラシックはやべぇかもなぁ~!」

 

 スタンドの観客たちはレースが始まるまでの間、口々に出走するウマ娘たちの情報にコメントし、誰が勝つか予想しあっていた。当日の一番人気はトウカイテイオー。そして、前は八番人気だったノイズサウンドは四番人気までに上がっていたのだ。

 

 

 

「うわわわ…。遂に皐月賞だ…。」

「貴女は出ないでしょう?何をそんなに震えているんですか…。」

 

 皐月賞の選手控え室。カイシンは緊張で震えており、勝負服を見に纏ったノイズサウンドに呆れられていた。

 

「だ、だって、今、目の前にいるノイズサウンドさんがこれからクラシックのG1戦線走るんだと思ったら…。」

「貴女も将来走ることになるかも知れないんですよ?観客席にいるだけで緊張するようでは先が思いやられますね。」

「そうじゃない。確かにお前がG1走ることもあるが、カイシンはお前があの記者会見で放った発言でパニクっている。」

 

 恐山はカイシンの緊張の理由を話す。八番人気が一番人気に宣戦布告をする。記者会見から数日はその話題で持ちきりになり、様々な憶測が飛び交っていたのだ。カイシンはトウカイテイオーとクラスメイトな上にノイズサウンドと同じトレーナーだったため、他のクラスメイトに問い詰められたのだ。

 

「一体、何であんなこと言ったんですか?いい加減教えてくださいよ!大変だったんですから!」

「別に。皐月賞を盛り上げようと思っただけですよ。」

「もーっ!!絶対そんなんじゃないですよ!!」

 

 はぐらかし続けるノイズサウンドにカイシンは頬を膨らました。だが、ノイズサウンドはその膨らんだ頬に人差し指でつつく。カイシンの口からプス~っと頬に貯まった空気が漏れ出ていく。

 

「本当に何でもないですよ。実際、私はお咎め無しで皐月賞に問題なく出ているではないですか。」

「そ、それは、そうですけど…。」

 

 カイシンは納得していないが、一応は引き下がってくれた。

 すると、ノックの音が聞こえた。パドックでアピールをし、出走準備する段階に来たのだ。

 

「さて、そろそろ向かいますか。」

 

 ノイズサウンドは椅子から立ち上がるとパドックへと向かっていく。しかし、カイシンはパドックへ向かうノイズサウンドの背を心配そうにじっと見つめていた。

 

「おい、俺達はスタンドへ行くぞ。」

「はい…。」

 

 恐山に呼ばれ、カイシンは後ろ髪を引かれる気持ちで観客席へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

『七番人気、六番、コモーノーデス。』

 

 パドックでは、皐月賞の出走者達が勝負服を観客に披露しており、その度に拍手が起こる。

 コモーノーデスも自身の勝負服を身に包んで観客に思い切り可愛らしいアピールをする。しかし、その笑顔とは裏腹に心の中は荒れていた。

 

(何でよ…!何であんな奴がアタシよりも人気が上なのよ!?不平等じゃないの!どうせ大口叩いてるだけ…。そうよ!目立ちたいあまりに大口叩いているだけなのよ!あんな奴とは違うんだから!!)

 

 コモーノーデスはノイズサウンドの印象を薄くしようと観客に存分アピールをした後、ノイズサウンドを呼ぶアナウンスが流れた。

 

『四番人気、七番、ノイズサウンド。』

 

 アナウンスが流れた後にカツン、カツン。と一歩一歩を踏み締めるように歩く音が聞こえ、ノイズサウンドが現れた。

 

「うぉぉ…。」

「やっぱ生で見ると違うな…。」

「この雰囲気で四番人気?二番人気の間違いじゃないのか?」

「まるで悪魔だな…。」

 

 赤黒い燕尾服のような勝負服。何を考えているのか読み取りづらい仮面のような笑顔。そして、すらりと伸びた体躯に幽鬼のようで、隙がない佇まい。

 観客たちはパドック現れたノイズサウンドの雰囲気に息を飲んだ。

 

(…ふん!精々カッコつけてるが良いわ。今回の皐月賞でアンタの薄気味悪い笑顔のメッキは剥がれるんだからね。)

 

 完全に注目を奪われたコモーノーデスは唇の下で歯軋りをして負け惜しみをするしかなかった。

 

 

 

 

(ノイズサウンド…か…。)

 

 指定の観客席からパドックを見ているシンボリルドルフはノイズサウンドを見て、目を細め、スカウト前にやった模擬レースを思い出していた。

 

(あの走り…。本来の脚質ではない、トレーナーも居ない状態だったが、それでも気を抜けない走り方をしていた…。もし、あの時仕掛けるタイミングが間違えていたら追い越せなかったかもしれない…。さて、トレーナーを得てこの皐月賞でどう化けたか、見物だな。)

 

『一番人気、十八番、トウカイテイオー。』

 

 アナウンスが最後にトウカイテイオーの名を呼んだ瞬間、歓声が上がった。パドックに立っていたウマ娘はノイズサウンドを除き、少し驚いたようにビックリする。

 しかし、トウカイテイオーは自身に向けられた歓声に臆すること無く軽やかなステップを踏みながらパドックに現れた。

 

「うぉぉぉぉ!テイオー頑張れー!」

「俺達に三冠の夢を見させてくれー!」

「キャーッ!可愛い~!」

 

 本命の一番人気の登場で観客のボルテージは更に上がる。

 

(…期待してるぞ、テイオー。今年はノイズサウンドという魔物が虎視眈々とお前を狙ってる。お前がどう走るのか見て貰おう。)

 

 シンボリルドルフは微笑みながら、トウカイテイオーに心の中で激を送り、パドックで不敵な笑みを浮かべるノイズサウンドを睨むように見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わあ、ここがG1の…すごいですね!」

 

 カイシンは最前列の席で目の前に広がるターフに目を奪われていた。

 

 

「来年、お前もここを走る事になるかもしれないからな。しっかり場の空気、雰囲気、そして走るウマ娘達を焼き付けとけ。」

 

 恐山はその隣でカイシンにアドバイスをする。モチベーション維持のためならばやっておいて損はないだろう。

 

「…おや?やぁやぁ、これはこれは!」

 

すると、隣からやけに馴れ馴れしい声が飛び込んできた。ターフに夢中になっているカイシンに代わり恐山が目を向けると、

 

 

「恐山トレーナーではないか!そう言えば、キミのウマ娘も出走するんだったね!」

 

 釜瀬トレーナーだった。大声でキザったらしい態度は相変わらずのようで恐山の強面に臆すること無く距離を詰めていく。

 

「ふふん。今日の皐月賞、残念ながらトウカイテイオーでも、キミのノイズサウンドでもない!ボクの可憐でもあり、強くもあるコモーノーデスがかっさらってやるさ!パドックの注目はキミのノイズサウンドとトウカイテイオーに奪われたが、コモーの魅力は…」

(さて、ノイズサウンド。お前の末脚がこのG1に通用するか…。)

 

 釜瀬の担当ウマ娘のプレゼンを聞き流しながら恐山はスタートのゲートに注視するのだった。

 

 

『ここを制しなければ三冠の栄光は掴めません。皐月賞、中山、稍重の芝2000mに十八人のウマ娘が揃いました!一番人気はトウカイテイオー。あの皇帝シンボリルドルフに憧れてターフに立ち、ここまで無敗。だが重賞は初挑戦です。宣戦布告をしたノイズサウンドはホープフルステークスを制したジュニア王者。果たして、勝つのはどのウマ娘でしょうか?』

 

 実況が流れるなか、ゲート前に立つウマ娘達。

 勝利しか考えていないウマ娘達の異様な雰囲気にノイズサウンドはウズウズしていた。

 

(これが…クラシックG1…。)

 

 噛み締めるように、目を閉じて五感を働かせるノイズサウンド。同期のプレッシャーに極悪な笑みを浮かべ、足踏みする。

 

「ねぇ、ちょっと。」

 

 すると、声を掛けられた。

 まだ場の雰囲気を味わっていたかったノイズサウンドは渋々ながら目を開け、声を掛けてきた人物に視線を動かした。

 

「でしゃばった真似すんじゃないわよ。親知らず。」

 

 声を掛けてきたのはコモーノーデスだった。それが分かったノイズサウンドは無視するようにまた目を閉じた。

 

「ちょっと!聞いて…」

 

 その態度に怒りを覚えたコモーノーデスが噛みつこうとした瞬間、ラッパの演奏とそれに合わせた手拍子が起こった。

 レース開始のファンファーレだ。これから出走するウマ娘達はゲートに入らなければいけない。

 

「チッ…、無様な敗けを期待してるわよ?」

 

 コモーノーデスは舌打ちしながらゲートへと向かい、ノイズサウンドもゆっくりとゲートに入っていく。

 

(さぁ…トウカイテイオー、油断してはいけませんよ?)

(ここから始まるんだ…ボクの三冠への道が!)

(そうよ、人気が上だからってノイズサウンド風情にアタシが負けるわけないじゃん。あ、でもテイオーさんには一着譲ろっかなー?)

 

 全員がゲートに入り、レース場は不気味な静けさに包まれる。そして、

 

 

ガコン!!

 

 

 ゲートが開いたと同時に歓声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

『スタートしました!まず先頭でハナを主張したのはコモーノーデスです!ローカルシリーズから成り上がったウマ娘がハナを主張しました!このまま先頭をキープ出来るのでしょうか!?』

「行けー!トウカイテイオー!」

「ノイズさぁぁぁぁん!頑張れぇぇぇぇぇ!!」

「後方に位置しつつも、離されないようにしている…。理想の展開だな。」

「いいぞ!コモー!そのまま先頭を誰にも譲るな!」

 

 スタートと同時にウマ娘は駆け出し、観客はそれぞれ好きなウマ娘に声援を送る。当然、見に来ているカイシンや恐山、釜瀬も例外ではない。このレースを見に来ている者全員が大いに盛り上がっていた。

 

 

 

 

 

 

「…うん?」

 

 しかし、ターフ全体を俯瞰して見れる観客席でレースを見守っているシンボリルドルフは難しい顔をした。

 視線の先にいるのはコモーノーデスだ。

 

「あら、どうしたの?」

 

 隣で一緒にレースを見守るマルゼンスキーがシンボリルドルフの表情に気付き、話し掛ける。

 

「…マルゼンスキー。君の意見を聞かせてほしい。コモーノーデス君の走り、あれを見てどう思う?」

 

 シンボリルドルフに促され、マルゼンスキーは先頭で走っているコモーノーデスを見る。すると、マルゼンスキーも難しい顔をした。

 

「うーん…こういうG1レースに出てる娘は一杯見てきたけど…あの娘、本気の逃げじゃないわね。」

「あぁ、策があるのか、それとも…。」

 

 シンボリルドルフは無敗で三冠を獲り、G1七冠を制したウマ娘である。そんな彼女は生徒会の仕事のため、レースを退いた身ではあるものの、レースを読む目は衰えていない。そんな彼女の戦術眼が察したのだ。

 コモーノーデスは最初から勝つつもりは無いのかと。

 

 

 

 

(へへへっ。この後トウカイテイオーさんが来たら、先頭を譲って、ノイズサウンドのクソ野郎に抜かされない程度に頑張れば…。)

 

 そんな目論見が皇帝にバレているとも知らないコモーノーデスは最終コーナーもそのままのペースで走り続ける。

 

『さぁ、最終コーナーを曲がって直線に入った!トウカイテイオー抜けた!抜け出した!コモーノーデスは伸びない!』

「コモー!?どうしたんだ!?まだ足は残っているんだろう!?」

 

 釜瀬トレーナーは悲鳴に近い困惑を口に出す。しかし、コモーノーデスはそんなトレーナーの心配をよそにほくそ笑みを浮かべる。

 

(よしよし、このまま入着出来るペースで走れば…。)

『ここで大外から赤い勝負服が飛び出してきた!!ノイズサウンド!ノイズサウンドだ!!先頭へ抜け出したトウカイテイオーを逃がさないと言わんばかりの凄まじい末脚だ!!驚異的な加速力!!』

(え?はぁっ!?何やってんのアイツ!?そのままトウカイテイオーさん勝たせなよ!?ってかアタシ抜かされてる!?)

 

 コモーノーデスは視界に入ってきた赤黒い影を見つけ、慌ててスパートを掛けた。しかし、既に遅かった。

 

「コ、コモー!そんなあ!?」

「ノイズさぁん!まだ行けまぁす!さっさと加速しろアホンダラ!」

「もっとだ!もっと伸びろノイズ!!」

 

 崩れ落ちる釜瀬を尻目に興奮したカイシンと恐山もエールを飛ばす。

 

『残り200!コモーノーデス、ようやくスパートしたが伸びない!バ群の中に沈んでいく!ノイズサウンド追い掛ける!赤い悪魔が距離を詰めるがトウカイテイオー、抜かせない!トウカイテイオー強い!トウカイテイオー、一着でゴールイン!!堂々と駆け抜けましたトウカイテイオー!!』

 

 結果は、トウカイテイオーの勝利でノイズサウンドは半バ身差の二着だった。

 

「ま、負けちゃいましたぁ…へにゃあ~…。」

「…まぁ、結果は残せた。それだけでも十分だ。」

 

 カイシンは別人格まで出てくるほど全力で応援したため力が抜けてその場にへたり込んでしまった。恐山も内心、地団駄を踏みたかったが、この結果をポジティブに捉える事にした。

 

 

 

(クソ…、負けましたか。仕掛けるタイミングが遅かったのが敗因か?)

 

 ノイズサウンドは肩で息をしながら考察し、軽やかなステップで観客にアピールするウマ娘を見る。

 トウカイテイオーは自信満々に人差し指を空高く突き出していた。

 自分は一冠を手にいれたとアピールしたのだ。その後ろ姿は正しく、強者らしい自信に満ち溢れた姿だった。

 

(…まぁ、良いでしょう。まだチャンスは二回ある。それまでに仕上げなくては…。)

 

 ノイズサウンドは開き直り、ウィニングライブの為にその場を後にした。

 

(何でよ…?何でアタシが入着してないわけ!?こんなのあり得ないでしょ!?…アイツだ!ノイズサウンド!アイツがペースを乱してきたせいでアタシは入着出来なかったんだ!!ふざけやがって…!)

 

 コモーノーデスは掲示板を見て自分の番号が出ていない事をノイズサウンドのせいだと逆恨みし、ノイズサウンドの姿を血眼になって探した。だが、ノイズサウンドは既にウィニングライブの準備に向かっていたのだった。

 

 

 

 

「…明日、コモーノーデス君と話してみよう。」

 

 シンボリルドルフは最終コーナーを曲がった辺りでコモーノーデスがスパートを掛けなかった事でトウカイテイオーに忖度しているのが確信した。

 トウカイテイオーの勝利を見た時の穏やかな顔から一転、皇帝の顔に変わる。それも見たマルゼンスキーはそれとなく宥めた。

 

「あんまり脅しすぎちゃダメよ?」

「…それは、コモーノーデス君の弁解次第だろうな。」

「…そうね。でも今は、テイオーちゃんのライブを見届けましょう?」

「…あぁ、そうだな。」

 

 シンボリルドルフはトウカイテイオーのウィニングライブを見届ける為に、全ウマ娘の幸福を願う生徒会長の顔になったのだった。

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