そのウマ娘、問題児につき。   作:shinp

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雑音、庇われる

 皐月賞を二着という結果で収めたノイズサウンド。

 世間の評価では出走前の記者会見、そして皐月賞の結果から『帝王の無敗三冠伝説を阻む悪魔』『無敗三冠の偉業に走る雑音』とトウカイテイオーのライバルではあるが、悪役的な扱いとなっていた。しかし、ノイズサウンド本人としては狙ってやったことなので別段気にしなかった。

 皐月賞を走った次の日は学校もトレーニングも休みで、ノイズサウンドは暇でしょうがなかった。

 

(…やはり、ここのスパートのタイミングが少し遅れているように見えますね。もう少しタイミングが早かったら完全に抜け出せましたが…日本ダービーはもう少し作戦を練ってみますか。)

 

 ノイズサウンドは一人しかいない寮の自室で暇をもて余しており、皐月賞の動画を見返して一人反省会をしていた。が、それでも暇の方が勝っており大きなあくびをする。

 

(むぅ…こういうときは、図書室で息抜き兼情報収集ですかね…。)

 

 ノイズサウンドは自身のスマホから目を離すと、東京レース場の情報を得るために腰を上げた。

 

 

 

 

 

 寮から出たノイズサウンドは図書室へ向かうべく歩みを進めていると進む先にウマ娘が道を塞いできた。

 

「ねぇ。ちょっと面貸しなよ、空気読まず。」

 

 現れたウマ娘はコモーノーデスだった。怒りを隠そうとしてない声でノイズサウンドに詰め寄り制服の襟首を掴んで引っ張る。

 

「いえ、私はこれから…」

「つべこべ言ってんじゃないわよ!さっさと来い!」

 

 ノイズサウンドは断ろうとしたが、コモーノーデスは有無を言わさず、ノイズサウンドを乱暴に引っ張って人目の無い場所へ行った。

 

「あれって…!」

 

 その現場を見た者がいたことに気付かずに。

 

 

 

 

「あんたさぁ!何で!ふざけたことすんのよ!?」

 

 コモーノーデスは怒りに任せてノイズサウンドの服の襟を掴み、壁に何度も叩き付けた。しかし、ノイズサウンドはやり返さない。

 

「トウカイテイオーさんの夢を潰すつもりなの!?あんなレースなんかして!悪いと思わないの!?トウカイテイオーさんを勝たせてあげようって考えはないわけ!?」

 

 それでも感情のまま叫び喚くコモーノーデス。すると、何度も壁に叩き付けられたノイズサウンドはついに笑顔の仮面を崩してしまった。

 だが、仮面が外れたノイズサウンドの顔を見たコモーノーデスは思わず罵倒を止めたのだ。

 何故なら、いつもの怪しい笑顔から一転、ノイズサウンドはコモーノーデスに対して侮蔑と怒りと失望を含んだ視線で睨み返したからだ。

 

「な、何よ?何か文句でもあるの?」

「…その発言。トウカイテイオーの前で言うなよ、小物。」

「は、はぁ?あ、アンタがアタシに何か文句言う権利あると思ってんの?」

 

 ノイズサウンドはドスを効かせた声でコモーノーデスを脅す。コモーノーデスは言い返されるとは思っていなかった。ノイズサウンドの口から出た、声に動揺する。

 

「えぇ、ありますとも。私はレースするウマ娘ですからね。その発言はトウカイテイオーのみならず、皐月賞を走ったウマ娘全員に対する侮蔑だと思ってください。」

 

 ノイズサウンドはその隙を逃さず、コモーノーデスに壁に押さえつけられているにも関わらず忠告をした。だが、ノイズサウンドを下に見ているコモーノーデスには逆効果のようだ。

 

「うっ…。な、何よ…!だったら走れない体にしてやるわよ!?」

 

 コモーノーデスは頭に血が昇るあまりノイズサウンドの足を蹴ろうとした。

 しかし、黒い影がコモーノーデスの足に飛び付きしがみついて止めたのだ。

 

「だ、ダメです…!ライスのお友達に、ひどいことしないで!」

「な、何よ!?」

「貴女は…!」

 

 しがみついて来た黒い影の正体は、ノイズサウンドの親友ライスシャワーだった。まさかクラスメイトに見られていたとは。コモーノーデスは慌てて表向きの顔でライスシャワーに対応する。

 

「は、放してくれないかなー?ライスシャワーちゃん?」

「嫌です!ノイズサウンドさんに乱暴しているのライス見ちゃったもん!だからノイズサウンドさんにひどいことしないってライスと約束して!」

「…ライスシャワーさん、別に庇わなくても良いですよ。私は気にしていませんし、ライスシャワーさんを巻き込む訳には…」

「でも!お友達がいじめられてるのに何もしない方がもっと嫌なんです!!だってライスは、みんなを幸せにしたくて、ここに来たんだから…!」

 

 ノイズサウンドが突き放そうとするも、ライスシャワーは頑としてコモーノーデスの足から離れない。ノイズサウンドは眉を曲げて困ったと言いたげな表情になり、頭を掻く。

 

「はぁ~…、そう。コイツに随分と絆されてるじゃん。それじゃあ、目を覚ましてあげようか…。」

 

 ライスシャワーの叫びを聞いたコモーノーデスは声を低く落とし、完全に表向きの仮面を外した。コモーノーデスが何をするのかノイズサウンドは察した。

 

「コモーノーデス。ライスシャワーさんは関係ないですよ。標的にするなら私一人にしてください。」

 

 ノイズサウンドは引き留めるように、それでいて声を荒げない程度の声でライスシャワーを庇った。

 今まで声の圧を変えることがなかった友人の姿にライスシャワーは紫色の瞳を大きく開く。そして、その声を聞いたコモーノーデスは良いオモチャを見つけたと言わんばかりの表情をした。

 

「…へぇー、庇うんだ?こんなちっこくてまだデビューもしてないし、レースに向いてなさそうな奴をアンタが?」

 

 ノイズサウンドはそれまで崩さずにいた笑顔に少しだけ下唇を噛み、コモーノーデスを睨む。

 

「そうだな~。じゃあ、これからアンタはアタシの舎弟になりな。土下座をして『今まで舐めた態度をしてすみませんでした。これからあなたの下僕でいます。』って、言ったら許してやろうかな~?」

「そ、そんなひどいこと…!」

「…それで許されるなら、安いものですよ。」

「ノイズサウンドさん!?」

 

 コモーノーデスの屈辱的な提案にノイズサウンドはあっさりと受け入れた。ライスシャワーは泣きそうな目で友人を見るが、ノイズサウンドは笑った。まるで、心配するような事じゃないと。そう言いたげな目で。

 

(ダメだよ…。ノイズサウンドさん!ライスのためにそんな事しなくても…!)

「ほら、早く言いなよ。アンタは…」

「うぉらああああああああっ!!フラストレーションが押さえられねぇぜぇえええええ!!」

「ふぇっ!?」

「へ!?」

「なっ…!?」

 

 すると、突然大声が響き渡り三人は驚愕の表情を浮かべた。

 いや、一人は絶望した顔になった。

 

「おらおらおらああああ!!お?よう紅ショウガ!何だそれ、大喜利でもやるのか!?邪魔だてめー!」

「ぐえっ!?」

 

 現れたのはゴールドシップだった。トレセン学園指定のジャージを着ていることからトレーニング中だったのだろうか。コモーノーデスを突き飛ばして、土下座姿勢のノイズサウンドの前に立つ。

 

「いやー、お前はヴィジュアルバンドやるかと思ったらまさか落語家になりたかったなんてな!ゴルシちゃんビックリしたぜ!そんな驚いてもねぇけど。田中くん!ノイズサウンドの座布団全部持ってって~!」

(屈辱だ…。よりにもよってコイツにこの姿を見られるのは…。)

 

 ゴールドシップはベラベラと喋りまくるが、今のノイズサウンドには対応するだけの余裕もなく、ずっと地面に顔を向けたままだ。

 

「つーか、聞こえてんの?もしもし?もしもぉ~し?」

「あ、あの、ゴールドシップ、さん…?」

 

 突如現れたゴールドシップにライスシャワーは困惑する。友人をいじめていたウマ娘が突然妙なことばかり口走るウマ娘に突き飛ばされたのだから無理もない。

 

「トゥルルルルン、トゥルルルルン。ガチャン。お電話ありがとうございます。こちら、ゴルシちゃん何でも相談センターです♪あなたのお悩みはなんでしょうか?良かったらお聞かせくださーい♪」

(早く何処かに行ってください…。)

 

 ノイズサウンドの反応が無いことを不思議に思ったゴールドシップは更に絡んでいく。鬱陶しく感じたノイズサウンドは地面に顔を向けたままやつれた顔になった。

 

「あ、あのぉ~ゴールドシップさぁん…わたしの心配はぁ…。」

 

 すると、突き飛ばされたコモーノーデスが戻ってきた。話し掛けられたゴールドシップは声がした方に目を向け、ノイズサウンドはこのままコモーノーデスに意識が向いていてほしいと願うばかりだ。

 

「んん?おっ。おぉーっ!お前は確か!」

 

 自分の事を知っているのか声を上げたゴールドシップにコモーノーデスは得意気になったが、

 

「昨日の皐月賞で忖度丸出しのクッソつまんねぇ逃げをしていた奴じゃねーか!えーっと、コモノデスヨだったな!」

 

 昨日のレースの忖度を見抜かれていた上に名前も間違われた。コモーノーデスの得意気な笑顔が引きつる。

 

「こ、コモーノーデス、ですよ?ゴールドシップ先輩?」

「そうカリカリすんなよ。んな細かいこと、どうだって良いだろ。つかさぁ、なんかお前ムカつくから蹴っ飛ばしたくなるんだよなぁ。していいか?」

「名前は細かくないですよ!て言うか怖い!?暴力反対です!」

「にしてもよぉ、マジでどうした紅ショウガ?さっきからイソギンチャクレベルで動かねぇじゃねーか。キャベツ食ったバフンウニでもつまみ食いしたか?」

「わたしの事は!?」

 

 すぐにコモーノーデスに興味を失くすゴールドシップ。場のペースは完全に葦毛の奇人の物になっていた。

 

「まぁ、良いや。お前の日本ダービー応援してっぞ~。じゃなー。」

 

 ゴールドシップは言うだけ言い、その場を後にした。残された三人の内一人は安堵し、二人はポカンとするしかなかった。

 最初に動いたのは暴力予告をされたコモーノーデスだった。

 

「と、とりあえず!ノイズサウンド!アンタはこれからアタシとレースに出たらアタシより下の順位になりなさい!分かったわ…」

 

 コモーノーデスがゴールドシップからノイズサウンドに向き直り、仕切り直そうとした。

 

「ダメです…!ノイズサウンドさんは、いじめさせません!」

 

 しかし、土下座をしているノイズサウンドを庇うようにライスシャワーが耳を後ろに向け、小さな身体を大きく見せるように両手を広げていた。

 勿論、体格でいうとコモーノーデスの方が有利だ。軽く押せば呆気なく倒せるだろう。だが、コモーノーデスには出来なかった。

 

(な、何よコイツ…!いっつもおどおどして、小さいくせに、なんて目をしてんの!?)

 

 ライスシャワーの我が身がどうなろうと友人を守る。そう決意したような目がコモーノーデスを食い殺さんばかりの目で睨んでいたのだ。

 

 下手に刺激すると喰われる。

 

 コモーノーデスの矮小な心はそう叫んでいた。

 

「あー、もう!きょ、今日は見逃してやるわ!運が良かったわね!?でも言っとくわよライスシャワー!!このクズの味方になるならアタシにも考えがあるからね!!それまで仲良しごっこしておくんだね!」

 

 コモーノーデスは明らかに恐怖の感情が出ている耳を垂れさせながら逃げ去るようにその場を後にした。

 脅威が去って行き、背後にいる友人を庇ったライスシャワーは振り向いた。

 

「ノイズサウンドさん!大丈夫ですか?」

 

 ライスシャワーが安否を確認すると、ノイズサウンドはポカンとした表情になっていた。

 

「ノイズサウンドさん?あわわ…どうしよう?」

 

 頭の打ち所が悪かったのだろうか?そんな不安がよぎり、ライスシャワーは慌て始める。

 

「保健室で診て貰った方がいいのかな?でも、どう説明すれば…」

「失礼、ライスシャワーさん。」

 

 そんなパニックに陥ってるライスシャワーの顎をノイズサウンドはくいっと持ち、顔を近付けて来た。それはまるで寮長フジキセキがよく違反をした寮生に注意するような仕草だ。

 

「へっ?へっ!ふぇっ!?」

 

 ライスシャワーは脳がオーバーヒートを起こしそうな状況に続き、驚くことしか出来ない。

 

(…気のせいでしょうか?さっきの、小物から私を庇った時のライスシャワーさんの威圧感…。ふむ…。)

「あ、あにょ…ノイズサウンドさん…近いです…。」

「おぉ、失敬。少し驚かせてしまいましたか。私なら大丈夫ですよ。…ライスシャワーさん?」

「ふ、ふわぁ…。」

 

 ノイズサウンドは先程のライスシャワーが何なのか考えていたが、絞り出すように出たライスシャワーの声で慌てて離れ、頭から煙が出ているライスシャワーが落ち着くまで対応するのだった。

 

「しかし、困ったことになりましたねぇ…。私はこの学園で問題児と呼ばれ、世間の評価も悪役的な面が目立つのに、貴女を巻き込むつもりは無かったのですが…。」

「う、ううん。ライス、お友達を助けたかったから、気にしないで?それに、ノイズサウンドさんはそんなに悪い人じゃないって、ライス知ってるから。」

 

 ようやく落ち着いたライスシャワーはノイズサウンドに心配ないと笑い掛ける。その姿を見たノイズサウンドはライスシャワーの評価を改めた。

 

(ライスシャワー…。これまで臆病なウマ娘だと思っておりましたが、自分よりも格上の相手を睨み怯ませる威圧、我が身よりも友人を優先する精神力…。いやはや中々素晴らしい素質をお持ちじゃないですか。)

「ノイズサウンドさん?どうしたの?」

 

 自分を見て笑みを浮かべるノイズサウンドを不思議に思ったライスシャワーは首を傾げる。

 ノイズサウンドは直ぐ様ライスシャワーの手を取った。

 

「ライスシャワーさん。」

「は、はい。」

「トレーナーは?」

「ま、まだ、いませんよ?」

「では、少し来てほしい場所があるんです、私の為と思うなら着いてきてください。」

「は、はい?」

 

 ノイズサウンドはライスシャワーの同意を強引に取ると恐山のトレーナールームへと引っ張って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 ノイズサウンドがライスシャワーを連れていく数分前、コモーノーデスは苛立ちを隠そうとせず、独り言を言いながら早歩きで歩いていた。

 

「クソ、クソっ!何なのよ、あのライスシャワーとか言うチビ!このアタシにあんな反抗的な目をするならこっちだって考えがあるのよ!」

「ほう、それはどんな考えだ?」

 

 独り言を聞かれた。コモーノーデスは慌てて猫を被って声がしたほうを見る。そのまま可愛く「じょーだんです♪テヘッ☆ミ」と言おうとしたが、声を掛けた人物を見て固まってしまった。

 

「何やら随分と不機嫌な様子で気後れするが、少しばかり生徒会室に来てくれないかな?コモーノーデス君。」

 

 何故なら、声を掛けた人物は皇帝の通り名で知られる生徒会長、シンボリルドルフだったからだ。




次回予告

 やめて!コモーノーデスが忖度をしていると見抜いたシンボリルドルフに生徒会室に連行されて、皇帝の二つ名に相応しいカリスマと威圧に呑み込まれたら精神力が持たなくなって今後のレースに支障が出ちゃう!
 お願い折れないでコモーノーデス!
 あんたがここで倒れたら、ノイズサウンドを追放してちやほやされるって目標はどうなっちゃうの!?
 これまで地方で磨いたゴマすりと猫被りのテクニックを巧く使えば、逆にノイズサウンドを追放できるかもしれない!頑張って乗り切って!

次回『小物、玉砕する。』!

一度はやってみたかったネタバレ予告
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